Life with ADVAN

互いに認め合い高め合う―
スポーツカーとタイヤの理想の関係。
GRMNヤリスとADVAN A052 /後編

2022.3.31

東京オートサロン2022でその姿を現すやいなや、世の好きものたちの心を即座に鷲掴みにしたGRMNヤリス。極限域で壊して鍛えるという「モータースポーツを起点としたクルマづくり」をモットーとするこの特別なモデルの足元に選ばれたのが、Sタイヤ級のグリップ性能を誇るADVAN A052であった。もはや聞くだけで魂を昂らせるかのごとき熱き何かを秘めた両者の組み合わせによって、その走りの世界観はどれほどの高みにまで到達したのだろうか? “走ること”を真っ直ぐに愛するモータージャーナリスト、島下泰久がその本質を探る。(後編)

Words:島下泰久 / Yasuhisa Shimashita
Photography:安井宏充 / Hiromitsu Yasui

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GRMN YARIS Circuit Package / 後編

タイヤのポテンシャルをフルに引き出す。
それがGRMNヤリスの開発目標。

TOYOTA GAZOO Racingより、わずか500台が限定販売されるGRヤリスのフルチューンド版とも言うべきGRMNヤリスには、サーキットパッケージとラリーパッケージのふたつのパッケージオプションが設定されている。いずれも、その走る舞台まで自走で赴き、思い切り走りモータースポーツを楽しみ、そして自走して帰って来られるよう徹底的に作り込まれた存在だ。

そのうちのサーキットパッケージの足元にはADVAN A052が装着されている。GRヤリスに続いて開発に携わったエンジニアたち、レーシングドライバーらに話を聞くと、様々なテストの結果としてこのタイヤが選ばれ、そしてクルマはこのタイヤのポテンシャルをフルに引き出すことを目標に開発されたという。サスペンションは当然として、徹底的に強化されて剛性アップが図られたボディや、耐久性向上が図られた駆動系なども、すべてはその結果というわけである。

では実際にステアリングを握った印象はどうかと言えば、まず感心させられるのが途方もなく高いグリップ力だ。当たり前の話なのだが、ほぼSタイヤ並みと言っていいコーナリング性能は、やはり刺激に満ちている。

しかも、それでいて怖さがないのがいい。速さが怖さと感じられるのは、限界特性がピーキーで、グリップがどこから落ち込むのか読みにくかったり、そのカーブが急だったりというのが要因になるわけだが、ADVAN A052を履いたGRMNヤリスはそういう不安感を一切抱かせない。

印象としてはグリップのピークが狭い範囲に留まるのではなく、平均台の幅が広いという印象である。ピークが明確でそのレンジに入ればめっぽう速いタイヤもあるが、当然それは操るのが難しく、いいレンジを外せばガクッとタイムが落ちる。そして往々にしてドライビングスタイルの許容度も狭い。

ADVAN A052はその辺りがいい意味で丸く、懐が深い。おいしいところを引き出すのが容易で、しかもそれが長く持続する。実は最初にGRMNヤリスを試した時には、ほぼ1日テストで走り回っていたクルマに最後の最後で乗ったのだが、それでもタイヤがしっかりとしたグリップ力とコントロール性を発揮していて、実際にタイムも悪くないことに大いに感心させられたのだ。

実はこのファーストコンタクトの時に思い出していたのは、過去に何度か経験したADVANのレーシングタイヤの感触だった。ADVANはレーシングスリックでも同じような扱いやすさを実現している。すぐに「あ、これは同じ血統にあるタイヤだな」と思えたのである。

YOKOHAMAのレース用タイヤを開発するモータースポーツタイヤ開発部の手によって生み出されたADVAN A052。Sタイヤ並みのグリップ性能を持ちながら欧州での販売を見据え、車外通過音の国際基準の規制値(S2WR2)をクリアしている。

それも当然だった。実はこのADVAN A052は通常ロードカー用タイヤの開発をするタイヤ設計部ではなく、レース用タイヤを開発するモータースポーツタイヤ開発部が手掛けていたのである。アルファベットの“A”にゼロから始まる3桁の数字が続く名前は、まさにレース用タイヤの系統にあることを示しているのだ。

開発に際しては、実際に体感できた通り、まず安定して速いラップタイムを刻め、タイムの落ち込みが少ないことが重視されたという。実際、コンパウンドはレース用とほぼ同様のものだという。ドライバーの意のままに操れるコントロール性も、やはり重要なポイントだ。

そして実は、同じくらい力が入れられたのが静粛性だという。ADVAN A052は元々はヨーロッパ市場での販売を念頭に、彼の地で求められる車外通過音の国際基準の規制値をクリアしており、サイドウォールにはその証である“S2WR2”刻印が施されている。GRMNヤリスにとっては、それも採用の大きな理由だったことは想像に難くない。GRブランドのモデルとは言え、トヨタの市販車なのだから。

前編でGRMNヤリスのことを、要するにポルシェ911GT3のようなクルマだと書いた。本気で走りを突き詰める人に極上のスポーツドライビング体験を提供しようという存在であり、それでいてロードリーガルで、高い耐久性、信頼性をも備わるという意味で。

そのあり方と、ADVAN A052というタイヤの目指したところは、まさにぴったりと合致していると言っていい。GRMNヤリスはADVAN A052なしには生まれ得なかったと言っても決して言い過ぎではないだろうし、一方でADVAN A052にとっても、GRMNヤリスは自らの実力、個性を余すことなく引き出してくれる理想のパートナーに違いない。

クルマにとって、特にスポーツカーにとってタイヤが非常に重要な存在であることは言うまでもないが、ここまで互いが、まさに不可分の存在にまでなることは、そうあることではないだろう。GRMNヤリスとADVAN A052。ここには認め合い高め合う、スポーツカーとタイヤの理想の関係がある。そう感じられたのだ。

(了)

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GRMN YARIS Circuit Package / 後編

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GRMN YARIS
Circuit Package

全長×全幅×全高:4030×1815×1475mm
ホイールベース:2560mm
トレッド:前1535/後1570mm
車両重量:1260kg
エンジン:直噴直列3気筒DOHCターボ
排気量:1618cc
最高出力:272ps/6500rpm
最大トルク:390Nm/3000-4000rpm
駆動方式:エンジン・フロント横置き4WD
トランスミッション:6速MT
サスペンション(前):マクファーソン式ストラット/コイル
サスペンション(後):ダブルウィッシュボーン/コイル
ブレーキ:ベンチレーテッドディスク
タイヤ:ADVAN A052(235/40R18)
車両本体価格(税込):846万7000円
限定販売数:500台
※抽選申し込みは既に終了しています。
※撮影車両は開発プロトタイプです。市販モデルとは一部仕様が異なる場合があります。

TOYOTA GAZOO Racing

島下泰久

AE86、BNR32、993 Carrera RSなど、とことん走りに特化したスポーツカーを愛機とし、奥深い走りの世界をこよなく愛するモータージャーナリスト。かつてポルシェGT3カップチャレンジに参戦した経験ももつ本格派である。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。2011年より「間違いだらけのクルマ選び」(草思社)を毎年刊行。YouTubeチャンネル“RIDE NOW”を主宰するなど、自動車専門メディアや一般誌・経済誌/Webなどへの寄稿にとどまらず幅広く活躍する。

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