Life with ADVAN

互いに認め合い高め合う―
スポーツカーとタイヤの理想の関係。
GRMNヤリスとADVAN A052 /前編

2022.3.25

東京オートサロン2022でその姿を現すやいなや、世の好きものたちの心を即座に鷲掴みにしたGRMNヤリス。極限域で壊して鍛えるという「モータースポーツを起点としたクルマづくり」をモットーとするこの特別なモデルの足元に選ばれたのが、Sタイヤ級のグリップ性能を誇るADVAN A052であった。もはや聞くだけで魂を昂らせるかのごとき熱き何かを秘めた両者の組み合わせによって、その走りの世界観はどれほどの高みにまで到達したのだろうか? “走ること”を真っ直ぐに愛するモータージャーナリスト、島下泰久がその本質を探る。(前編)

Words:島下泰久 / Yasuhisa Shimashita
Photography:安井宏充 / Hiromitsu Yasui

GRMN YARIS Circuit Package / 前編

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モータースポーツで培われたノウハウ。
それが存分に注入されたパッケージ。

今年1月に開催された東京オートサロン2022で、初めて姿を現したGRMNヤリス。展示されていたサーキットパッケージ仕様をじっくり眺めていて思わず「あっ!」と声が出たのは、足元に履くタイヤを見た時だった。そこには「ADVAN A052」が装着されていたのだ。

TOYOTA GAZOO Racingのブランドでとは言えトヨタ自動車が一般向けに市販するモデルが、このSタイヤにも匹敵するようなサーキット志向のハイグリップタイヤを標準装着してくるの? 本気で? 思わず知己のスタッフに聞いて回ってしまった。それぐらい、このチョイスは驚きだったのである。

GRMNヤリスは、クルマ自体もまさに目を瞠るような内容を誇る。一番の特徴は、やはりボディの強化だろう。何しろGRヤリスに対して545箇所のスポット溶接追加、12mの構造用接着剤採用で剛性を高めているというのである。通常のラインを流れている車両では、これは不可能に近いこと。手作りに近い工程を含むフレキシブルな生産を可能にする専用工場、GRファクトリーで生産されているからこそ、こんな手の込んだことが可能になったのだ。

GRヤリスに対して545箇所のスポット溶接追加、12mの構造用接着剤採用で剛性を高めたGRMNヤリス。そのサーキットバージョンに標準で組み合わされるタイヤは、YOKOHAMA / ADVANが誇るハイグリップ・スポーツタイヤの雄、A052である。

しかも、振り返ってみればベースとなったGRヤリスのボディは、ヤリスに対してスポット溶接が約200箇所増やされ、構造用接着剤の使用箇所は11m延長されていると謳われていた。そう、GRMNヤリスのボディは、ヤリスからGRヤリスへの進化以上の幅で剛性アップが図られたのである。

狙いはその数字を誇ることではない。まさにサーキットパッケージに標準装着されるADVAN A052というタイヤを履きこなすために、それだけの剛性が求められたという話だ。ボディ剛性アップありきではなく、まずタイヤありき。そうして開発を進めた結果として、これだけのボディ剛性向上に繋がったのだと、開発担当者は教えてくれた。

一方で直列3気筒1.6ℓターボエンジンの最高出力は272psでGRヤリスと変わらない。最大トルクが20Nm増の390Nmに太らされただけだ。しかしながら、そのパワーとトルクを伝達する駆動系は、6速MTの1〜4速のクロスレシオ化、ファイナルギア比のローギアード化を施した上で、1、3、4、5速とファイナルギヤへのSNCM(ニッケルクロムモリブデン鋼鋼材)の採用、クラッチの強化により耐久性を向上させている。

ここにはモータースポーツで培われたノウハウが注ぎ込まれている。GRヤリスはスーパー耐久などのレースに投入され、ここではモリゾウ選手こと豊田章男社長もそのステアリングを握っている。駆動系の強化は、実はここで発生したトラブルへの対処なのだが、GRヤリスが競技に参加する理由は、まさにソレ。壊して、弱点をあらわにしたら、そこを強化する。そうやってクルマを鍛えて、最終的にユーザーにフィードバックするという、まさに「モータースポーツを起点としたクルマづくり」が、彼らのモットーであり、GRMNヤリスはその結晶なのだ。

その他には軽量な綾織CFRPをフードやルーフ、リヤスポイラーに採用し、後席や遮音材を省くなどして車両重量を20kg軽量化。シートはレカロ製のサイドエアバッグ付きフルバケットとなる。また、サーキットパッケージではBILSTEIN製減衰力調整式ショックアブソーバーを使ったサスペンションも装備される。前後のLSDは機械式だ。

しかしながら全体的に見れば、決して派手さでアピールするような仕立てになっているわけではない。GRMNヤリス、むしろ見えないところにこそ魂が込められたクルマと言うことができる。

見た目よりも中身を鍛え上げたGRMNヤリス。その特別装備もだからこその凄みを放つ。圧倒的なコーナリング性能を文字通り支えてくれるレカロ製のサイドエアバッグ付きフルバケットシート。軽量な綾織CFRPをフードやルーフ、リヤスポイラーに採用し、後席や遮音材を省くなどして車両重量を20kg軽量化するなど、とにかく“走ること”を極めるための研ぎ澄まされた装備と策が、そこに惜しみなく投入されている。

そうした地味な、しかし本質的な改良によって目指したのはサーキットパッケージもラリーパッケージも、その舞台となるステージまで走っていって、モータースポーツを思い切り楽しみ、そして安全に帰ってくることができるクルマだという。そのためには高い走行性能はもちろん、耐久性だって求められるし、更に言えばロードリーガルであることも重要になる。何しろ、トヨタ自動車の商品なのだから、当然である。

手が入れられたボディやパワートレイン、そして新たに装備されたアイテムのいずれもが、数値自体を誇るため、あるいはカタログを賑やかすためなどではなく、その開発目標を実現するために必要不可欠な要素として、徹底的なテストを経て採用されている。もちろん、ADVAN A052もそう。こけおどしのためなどではないのだ。

凄まじいコーナリング性能。
コントロール性、コンスタント性にも優れる。

実際のその走りは、まさしくレーシングカーに近い感覚と言える。凄まじい剛性感を誇るボディがもたらす、クルマ全体から醸し出されるガチッと頼れる雰囲気は、まさにその世界。ロードノイズ含め騒音は明らかにレベルが大きく、強化されたサスペンションとタイヤのおかげで乗り心地も決して優しくはないが、強靭なボディが入力を徹底的に抑え込んでくれるので、決して不快ではない。クルマ好き、走り好きなら、むしろニヤニヤしてしまうに違いない。

その一番の果実が、凄まじいまでのコーナリング性能である。絶対的に速いのはもちろんなのだが、それと同じくらい感心させられるのが、実は高いコントロール性、そしてコンスタント性だ。

改めて言うまでもなく、ADVAN A052というタイヤは強力無比なグリップ力を誇り、コーナーにとんでもない速度で飛び込んで行くことを可能にしてくれる。大げさに見えたフルバケットシート、本当に付いていてよかったと思わせるほどの横Gを味わわせてくれる。

あるいは速さだけなら、ADVAN A052を履けばどんなクルマでも味わうことはできるだろう。しかしながらGRMNヤリスが決定的に異なるのは、それをしっかり履きこなしていると感じられることだ。大きな入力に対しても車体はびくともせず、大胆に縁石をまたぐのも許容される。何よりクルマとの対話感がソリッドで無駄が一切ないから、タイヤの高い限界に安心して到達できるのだ。しかも、何ラップしたってまるでへこたれることがない。

駆動系の強化も、同じようなメリットをもたらしている。エンジンパワーはGRヤリスと変わらないが、それをずっと文字通り全開で引き出せる。変速フィーリングは剛性感が高まっていて、シフトダウンも小気味よく決まる。何の不安もなく思い切ってアクセルを踏んでいけるのだ。

とにかく、ずっと走っていたくなるクルマである。ブレーキも、そしてタイヤも何周したって性能低下は緩やかで、可能なら本当にずっと走り続けていられそう。ピットインする時には、すなわちクルマではなくドライバーが疲れた時に違いない。

GRヤリス自体が、それまでのトヨタ自動車からは想像もできないほど、徹底的に突き詰めて作られたスポーツカーだっただけに、GRMNヤリスの位置付けは、乗る前にはよく分からないところも実はあった。しかしながら、ステアリングを握ったらすぐに理解できた。他社の例で恐縮だが、GRヤリスはポルシェで言えば911カレラであり、GRMNヤリスは911GT3なのだと考えれば、ストンと腑に落ちる。

GRヤリスはロードカーとして求められる快適性、オールラウンド性などにも目配せして、非常に高い総合力を持つクルマに仕立てられている。一方のGRMNヤリスはそうしたアレコレを潔く割り切り、走ることだけにフォーカスを当てたマシンである。実際、乗り心地は硬いし室内は騒々しいから普段使いには向かないが、でもそれでいい。ともあれ、GRヤリスがなければGRMNヤリスはなく、GRMNヤリスの登場でGRヤリスの価値が一層、際立ったという見方は間違っていないはずだ。

そういうクルマをメーカーが、しかもトヨタのような大メーカーが世に送り出してきたことには、とにかく驚いたとしか言いようがない。いや、徹底的なボディ剛性アップなどGRMNの進化したポイントは、まさにメーカーの仕事だからこそ実現できたことだとも言える。そして、そんな中で厳選され採用に至った様々なアイテムには、それにふさわしいクオリティがあるということも、明らかだ。

そんなわけで話はタイヤに戻る。言うまでもなくこのADVAN A052というタイヤも、GRMNの開発陣が徹底的なテスト、評価を経て厳選したものであり、GRMNヤリス サーキットパッケージにとってはなくてはならない存在だったと言ってもいい。そのマッチング、そして出会いの意味については、後編で更にディープにお伝えすることとしたい。

GRMN YARIS Circuit Package / 前編

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GRMN YARIS
Circuit Package

全長×全幅×全高:4030×1815×1475mm
ホイールベース:2560mm
トレッド:前1535/後1570mm
車両重量:1260kg
エンジン:直噴直列3気筒DOHCターボ
排気量:1618cc
最高出力:272ps/6500rpm
最大トルク:390Nm/3000-4000rpm
駆動方式:エンジン・フロント横置き4WD
トランスミッション:6速MT
サスペンション(前):マクファーソン式ストラット/コイル
サスペンション(後):ダブルウィッシュボーン/コイル
ブレーキ:ベンチレーテッドディスク
タイヤ:ADVAN A052(235/40R18)
車両本体価格(税込):846万7000円
限定販売数:500台
※抽選申し込みは既に終了しています。
※撮影車両は開発プロトタイプです。市販モデルとは一部仕様が異なる場合があります。

TOYOTA GAZOO Racing

島下泰久

AE86、BNR32、993 Carrera RSなど、とことん走りに特化したスポーツカーを愛機とし、奥深い走りの世界をこよなく愛するモータージャーナリスト。かつてポルシェGT3カップチャレンジに参戦した経験ももつ本格派である。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。2011年より「間違いだらけのクルマ選び」(草思社)を毎年刊行。YouTubeチャンネル“RIDE NOW”を主宰するなど、自動車専門メディアや一般誌・経済誌/Webなどへの寄稿にとどまらず幅広く活躍する。

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