Race Report

FORMULA DRIFT® JAPAN
ROUND.4
峠コースでの快進撃。

2022.9.7

2022年9月3日、4日、グランスノー奥伊吹 ストリートコースにて、「 FORMULA DRIFT® JAPAN ROUND.4」が開催された。D1GP「OKUIBUKI DRIFT」に引き続き、今年、この地でプロドリフトが開催されるのは二回目となる。しかし、会場に訪れるとD1GPとは全く違う光景が広がっていた。その名の通り“ストリートコース”を舞台に、今回も「ADVAN NEOVA AD09」を使用する5人のドライバー達がそれぞれの熱い物語をアスファルトに刻みつけた。

Words/ Photography:真壁敦史 Atsushi Makabe

些細なミスでマシンが大破する
失敗が許されない峠コース

6月に行われたD1GP「OKUIBUKI DRIFT」に続き、今年2回目となったグランスノー奥伊吹でのプロドリフトの開催。

D1GPでは、広大なキャパシティを誇る駐車場を目一杯使い、平面的なレイアウトで行われたが、FDJでのコースレイアウトは一転し、全く別のエリアで、より“ストリート”を意識したコースレイアウトによって行われた。

コース内には、グランススノー奥伊吹・駐車場内を移動するための道路や、狭く小さな橋なども含まれ、道幅が狭い部分や、曲率の大きなコーナー等を、比較的低速で繊細なテクニックを駆使する必要がある。そして、コースアウトをしたら即、“壁”が待ち受ける。

それは、まさに「峠」である。

これまでサーキットでの開催とは少し雰囲気の違う、些細なミスが許されない、よりスリリングでリアリティのある環境でのレースとなった。

マシンのセッティングは上々。TOP32を突破し、TOP16に歩を進めた齋藤太吾とケングシ。

低速テクニカルコース
「ADVAN NEOVA AD09」の強みが光る

FDJ ROUND.4では、前戦に引き続き、5人の「ADVAN NEOVA AD09」を使用するドライバー達が健闘した。

「Team kazama with powervehicles」から出場する#21ケングシは「Moty’s LEXUS RC VR4.3」で参戦。彼が普段活躍するのは本場アメリカのFORMULA DRIFT®︎だが、オーバルが主流となるアメリカのダイナミックなコースレイアウトとの違いに戸惑いながらも、スタントドライバーとしての活動を通して培われた圧倒的な度胸と、「ADVAN NEOVA AD09」の抜群のコントロール性能も相まって、コンクリートウォールに掠らんばかりのテクニカルなドリフトを繰り広げた。

難なく予選を突破したケングシは、7月末に行われたROUND.3にてTOP4進出を争い敗れた「TMS RACING TEAM SAILUN TIRE」BMW-E92 を操る #36高橋 和己 との因縁の対決となった。ハイレベルな追走の末、ケングシの完璧な走行ラインが高橋を上回り、見事勝利を獲得した。

しかし、TOP16での「SIDEX JAPAN WITH LIBERTY WALK」からS15シルビアで出場する #555 ユキオ ファウストとの追走では、ケングシの至近距離での攻めた後追いにより接触してしまいファウストがスピン。審査では原因を作ったことも加味されて無念にも敗退。

接触はタイヤ同士によるものだったようでボディにはほとんどダメージはない点から、どれほどの至近距離をテクニカルな技で維持していたかを窺い知ることができる。

常に物事を冷静に俯瞰しているように見えるクールなケングシだが、実は情熱的な心の持ち主でもある。レース後には「少し熱くなり過ぎてしまいましたね」と振り返った。

そしてケングシを起用した「Team kazama with powervehicles」代表でもある#55風間 俊治は、前回のスポット初参戦に続き、今回もS15シルビアで出場することとなった。

「起伏の激しいコースは苦手なんですよ……」と、老舗チューニングショップを率いる敏腕経営者でありながらも、親しみやすく明るい口調でチームメイトと談笑していた。

練習走行時にはエキゾーストマニホールドに亀裂が生じており、パワーロスした状態で走行していたという。しかし風間曰く、「穴空いてる状態のパワーが僕にはちょうどよかったんです。予選直前に溶接して治しちゃったから、パワーが上がって突っ込んじゃった」と笑う。

予選ではスタート直後のストレートで練習走行よりもパワーが上がったマシンでスピードが出過ぎてしまい、第1コーナーを曲がりきれず、リヤからコースサイドの崖に激突した。ボディはひしゃげたが、不幸中の幸いにもリヤに主要な機関はなく、大事には至らずに済んだ。

今回は苦手なコースに翻弄されてしまったそうだが、「富士は得意です!」と生き生きとした表情で2戦後の最終戦に向け早くも意気込んでいた。

これまでGR スープラで戦ってきた「Team Cusco Racing」の#771箕輪大也は、今回新たにチームからGR ヤリス の提供を受けて参戦した。

コンパクトなイメージのあるヤリスだが、「意外にもスープラよりもホイールベースが長いんですよ、あとは重心も高いので、扱い方はスープラとは全然違いますね」と父であり自身もドリフトドライバーである箕輪慎治は言う。

箕輪は初めてのGRヤリスを持ち前の抜群の吸収力とセンスで操り、予選突破。

TOP32では、同じチームの先輩、GR86を操る#77 草場佑介とのTeam Cusco対決となった。真っ白に輝くCuscoカラーの2台のマシンは、姑息な駆け引き等の無い、チームメイトならではの息のあったツインドリフトを決めて会場を魅了した。

しかし箕輪は経験豊富なベテラン、草場を相手に惜しくも敗れることに。

「初めてのGRヤリスでしたが、調整するべきところは少しだけ見つかりました。でも得意な次戦の岡山に向けて、今回見つかった点を改善して万全の体制で挑めるのでよかったかなと思います。次はもう少し勝ち進んだところでCusco対決になればいいなと思います」と話した。

そして同じく「Team Cusco Racing」からGR86で出場する#770金田義健。

「 6年以上に渡り、Team Cusco Racingのチームメイトである草場のスポッターなどを通してこのコースの走行は今まで何度も見てきたので、攻略法はかなり研究してきています。だから単走に関しては結構自信がありましたね 」と言う金田。

その言葉の通り、予選では見事に全てのポイントを的確に捉えた走りで予選突破。

赤城山の麓で生まれ育ち、現在も群馬県渋川市で自動車整備工場を営む金田にとって、峠コースはお手のものだ。

しかし、TOP32では、180SXを操る「T’s square with GOODRIDE TUCK-IN」 #46 高木 康祐に勝利の座を譲ってしまうことに。

「あれは完全に操作ミスですね」

先行の金田は第1コーナーで曲がりきれず、橋のガードレール付近に激突。マシンの側方と後部に損傷を食らってしまった。

しかし、ここで驚くべきことは「Team Cusco Racing」のメカニック達の対応力だ。FDJでは競技中にアクシデントが起こった場合、コンペティションタイムアウトが許可されると、5分間の制限時間の中で応急処置を行う事ができる。金田の激しいクラッシュを考慮すると、会場の誰もが、もうコースに戻ることはできないと思ったであろう。しかし、クラッシュが付き物である全日本ラリー等でも手腕を振るう「Team Cusco Racing」は、迅速かつ的確な応急処置で見事に制限時間内に金田をスタートラインに立たせることに成功したのだ。

ただ、それでも1本目のコースアウトという減点を挽回することは難しく、惜しくも敗退となった。

「コースは得意ですが、追走となると話は違ってきます。単走はコースや自分との戦いですが、追走は相手との戦いなんですよね。後追いで相手に合わせることはもちろんですが、先行の場合でも、自分のベストの走りをすればいいだけなのに、相手の動向が気になってしまっていつもの走りができないことが多々ありますね。もう少しメンタル面を鍛えて、相手に影響されない先行を決められるようになりたいと思います」と今後の目標を語った。

その男の脳裏に
安牌という選択肢はなかった

マシンは好調、順調にトーナメントを勝ち進んだ「TRAIL MOTOR APEX RACING -TMAR-」#87 齋藤太吾がまたしても魅せたのは、TOP4での同チーム #10 松山北斗との追走の時だった。

TMARオレンジのカラーリングが眩しい2台のGR86がスタートラインに並んだ。

ドリフト界の次の時代を担う存在として誰もが認める松山は、トップスターである齋藤にも引けを取らない走行で圧巻の追走を繰り広げるが、ラジエーターの故障により走行不能となってしまう。

松山が走行を断念したことで必然的に“単走”となった齋藤。

相手はもういない。どんな走りをしても勝利が決まっている。

しかし、そんな状況の中でも齋藤の走りはとてつもないものだった。

人々はこう言うかもしれない。「なんで勝ちが決まっているのにそんなクラッシュのリスクのある攻めた走りをするんだ、余計なことをするな――」と。

観客席には、満員の観衆が目を輝かせて待ち望んでいる。

齋藤の脳裏に「安牌」という2文字はなかった。

追走相手の #10松山北斗が故障によりリタイヤし出走を断念した後、たった1人で爆走する齋藤太吾。会場は沸き立ち、解説の谷口信輝は「こりゃファンがいっぱいいるのが納得するわ……」と感嘆した。

しかし、齋藤はその後の決勝戦で対峙した「GOODRIDE MOTORSPORTS 」GR YARISを操る #530益山 航に敗れ、準優勝という結果に終わった。

前日の単走でも、齋藤は2位であったが、ライバル勢の暫定最高得点は突出して高いものではなく、齋藤が持つ技術で冒険をせずに走れば単走優勝を果たしていたかもしれない。

追走の決勝戦でも同じく、勝算は十分にあったと思われた。

しかし、齋藤にはリスクを計算し、必要最低限の走りをするという選択肢は微塵もなかった。

必要なレベルを遥かに超えた勢いで、危険を顧みずに第1コーナーに突っ込んだのだ。

結果として、1位の座を逃そうとも、その必要以上とも思われる綱渡りは決して無駄ではないだろう。齋藤が、選手・観客問わず絶大な支持を集めている所以はそこにあるのではないだろうか。

彼は一体、誰と戦っているのか。

ステアリングを握りスタートラインに立った時、彼は何を思うのか。

その男の口から、美辞麗句が並べ立てられることはない。

ただ、内に秘めたたったひとつの信念に従って走っていることだけは間違いないだろう。

国境をも超える熱狂的なファンの存在がそれを物語っている。

次戦「FORMULA DRIFT®️ JAPAN ROUND.5」は2022年10月8日、9日岡山国際サーキットにて行われる。

(了)

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