FORMULA DRIFT® JAPAN

FDJ2025開幕戦・富士で
完膚なき勝利を飾った
YOKOHAMA / ADVAN勢。

2025.5.9

2025年のFORMULA DRIFT® JAPAN(FDJ)が開幕した。初戦はパワーステージの様相を呈する富士スピードウェイ(静岡県)だ。会期中、清々しい好天に恵まれたなかで、すべての選手がオーディエンスを沸かせる走りを披露した。なにより讃えたいのはYOKOHAMA / ADVANアスリートたちが、予選・単走で優勝を飾り、決勝・追走トーナメントではワンツーフィニッシュまで達成したこと。幸先のいいスタートダッシュをキメてくれた彼らの姿を追う。

Words:中三川大地 / Daichi Nakamigawa

Photography:安井宏充 / Hiromitsu Yasui(Weekend.)

誰もが熱狂したファイナルの
YOKOHAMA / ADVAN対決

「Team KAZAMAのドライバーとして今年で4年目を迎えました。いままで、予選・単走で優勝したことはある。追走・決勝トーナメントでは、3位、そして2位で表彰台に上がりました。でも、てっぺんだけがない。今年こそ──必ずそこに立ってやるつもりです」

FORMULA DRIFT® JAPAN(FDJ)開幕戦(富士スピードウェイ)へ挑む直前に決意を表明したケングシ(#21 / Team KAZAMA / レクサスIS500 F SPORT Performance / Drift)の言葉が現実となった。

4月26日(土)に開催された予選・単走こそ、ケングシは最終的なセッティングの悩みが手伝って、19位にとどまっていた。しかし、27日(日)の決勝・追走トーナメントは、まるで精密機械のように冷静かつ確実に、アングルとラインを積みあげる走りで順調に駒を進めた。

セミファイナルでは、昨年の富士ウィナーにして、2024年のシリーズランキングではケングシについで3位につけた高橋和己(#36 / TMS RACING TEAM / BMW E92)との真っ向勝負を制した。ファイナルの相手は同じYOKOHAMA /ADVANアスリートである箕輪大也(#771 CUSCO RACING / GRカローラ)だ。“本場”アメリカと日本のFORMULA DRIFT®シリーズに、海を跨いでダブルエントリーする猛者同士でもある。キャリアでいえばケングシのほうがはるかに長いものの、そこには先輩・後輩といった過度な堅苦しさはない。ふだんはフレンドリーに接し合う仲間同士だ。とはいえ、ファイナルの時間が迫るにつれて、互いにトップドライバーの顔になっていく。

ケングシ(#21 / Team Kazama / LEXUS IS500 F SPORT Performance / Drift)

箕輪大也(#771 / CUSCO RACING/GRカローラ)

それは両者とも甲乙つけがたい、鬼気迫るような闘いとなった。ケングシの決め手は1本目の追走だったと思う。大胆かつ正確無比なコントロールで各ゾーンへマシンを放り込んでいく箕輪に対して、ケングシはピタリと喰らいついた。それはパーフェクトと呼べるような走りであり、実況席の谷口信輝も「ケングシ、キメたね」と声を張り上げた。

2本目。ケングシの鮮やかな職人芸のような先行走行に対して、箕輪もそこに全身全霊をかけて同調していった。しかし、ゾーン1から振り返した先のゾーン2、そしてインクリップにかけて、わずかにラインが浅くなってしまったことが致命傷となった。

闘いを終えたふたりは、ともにいつもの朗らかな先輩・後輩同士となり、「とても楽しかった」と口を揃えた。悔しくも決勝で敗れた箕輪は、些細なミスがなければ充分に勝ちうるだけの実力を持っていた。いや、観戦する大勢にとっては些細なミスに思えるものの、それでも彼は「大きなミス」と断言した。彼がまだ15歳であることを忘れてしまうほどに、日米で揉まれ、数万ラップもシミュレーションを続ける最中での“成長”を感じ取ることができた。

「決勝が終わった瞬間、完全に負けたと思いました。ゾーン2への切り返しでラインが小さくなってしまって、ケングシ選手に対して距離も届かなくて。富士は去年までの経験から、とてもタイヤ(ADVAN NEOVA AD09)の相性がいいと思っていただけに悔しいです。昨年から乗っているGRカローラのフィーリングも抜群にいい。でも、左ハンドルの絶対的経験値がまだ足りていないのと、特に富士ではゾーン2を出て行く時にタイヤスモークに巻かれやすいので、もっとシミュレーターで勉強しなきゃいけないと思っています」

と、箕輪は自身の走りを、そして流れを冷静に分析した。そこには、まだ果てしない“伸び代”が宿っていると思えるような、若手トップドライバーらしい一面を感じた。対してケングシは、実際に誰よりも喜んでいた。それはもう涙腺が崩壊するほどに。そのうえで彼は、その喜びを噛み締めながら、努めて冷静にこう述べた。

「やっとチームの皆さまにお返しができて、ホッとしました。実は予選・単走が終わった際には、うまいこと乗れてなくて、あまり自信がなかったんです。だからこそ、己を鼓舞する意味で、かならず勝つと誓いました。今年、マシンを約40kg軽量化したように、針の穴をつつくようなアップグレードと、そして幾度とないセッティング変更に付き合ってくれたエンジニアやメカニック、そしてスタッフに皆さまには頭が下がります。もちろん、応援してくださっているファンの皆さまにも──ただ、感謝しかありません」

ケングシはあくまで謙虚に感謝の意を表現したのが印象的だった。「自分だけが勝った」のではない。長きにわたってマシンをともに育てた有志たち「全員の勝利」だと念を押すようだった。それは、勝ちうる腕前をもった選手でも、勝たせてもらえなければ、勝てないということを示していた。今回、参戦4年目のケングシを、チームが勝たせてくれたのである。

FDJに限らず、競技というものはフィニッシュしたとたんに敗北者だらけになる。今日、勝ったものでも、明日は負けるかもしれない。勝利者など最終的にたったひとりだ。そのひとりは孤独である。孤独であるものは、わかちあう人を失ったとき自滅する。勝たせてもらったということを忘れたら、思考が停止する。負けているときはチャレンジしかないから、遮二無二やればいいだけだが、勝ったときこそすべてが問われる。ケングシはそれを理解していた。その自戒の念をこめて彼は次なる表彰台の頂点を、さらにはシリーズチャンピオンを目指す。

今回、YOKOHAMA / ADVANにとっては、快挙といっていいワンツーフィニッシュの達成と相成った。各選手はもちろん、チームやサポーターに対して、最大の賛辞を贈りたい。

若き日の憧れと手を取り合い
頂点を目指すダークホース。

決勝・追走トーナメントの「YOKOHAMA / ADVANワンツーフィニッシュ」に加えて、今年から同じくYOKOHAMA / ADVANアスリートとなった男が、予選・単走優勝という別の栄冠を掴んでいた。リバティーウォーク(LBWK)のワイドボディキット(LBスーパーシルエット)を装着したS15シルビアを駆るユキオ・ファウスト(#555 / MINI GT WITH LBWK / S15シルビア)である。

ユキオ・ファウスト(#555 / MINI GT WITH LBWK / S15シルビア)

「子供のころから日本のドリフトとチューニングカルチャーに憧れて育ち、ドライバーになるのが夢でした。だからこそリバティーウォークさんをはじめ、数多くのジャパニーズ・ブランドにご協力していただいてマシンをつくり、そしてFDJをはじめドリフト競技をしてきました。そして、若かりし日の憧れのなかで、いつもそこに中心として存在していた“ADVAN”と一緒に走ることができるなんて、本当に嬉しい!」

もちろん、ただ憧れだけで感傷に浸ることはない。ユキオはADVAN NEOVA AD09の性能を高く評価し、そして誰よりも性能を引き出したいとセッティングを模索した。

「ADVAN NEOVA AD09になったことで、今までとはセッティングが大きく変えざるを得ませんでした。もちろん、いい意味で。とてもタイヤの懐が深く、いかような味付けにもマシンを設定できることがわかりました。パワーユニットは3.1ℓ化した2JZで、今年はいよいよ1000ps超へ。それを手懐けるため、あらゆるアプローチを模索しました。ファイナルギアだけで5回も変更しましたから。そのうえでADVAN NEOVA AD09。自分のスタイルとタイヤの性格がとても合っていると感じていて、より戦闘力の高いマシンへと仕立てることができたと思っています。今回は富士に合わせたセッティングをしましたが、まだまだこのマシンとタイヤには、大いなる可能性がある」

早速、ユキオはADVAN NEOVA AD09をうまく自分のものとして扱いこなし、予選・単走での優勝を果たしたのである。決勝・追走トーナメントではGREAT8をかけた闘いで悔しくも敗退してしまったが、それでも予選・単走で95ポイントという高得点をもって優勝したことは大きな一歩だった。今年、彼はFDJにおいてダークホースとなる可能性を秘めている。

ドリフトとグリップの架け橋的存在へ──
日本のトップドライバーが挑む意味と意義。

今年から同じくYOKOHAMA / ADVANアスリートとなった選手はほかにもいる。FDJの場を超えて、日本のモータースポーツ界全体から注目されるのは大湯都史樹(#10 / Team KAZAMA / GR86)だ。SUPER GT(GT500)やスーパーフォーミュラで活躍するトップドライバーが、FDJの場にやってきたのだ。風間オートサービス(Team KAZAMA)が仕上げたフルカーボンGR86を相棒として勝利を目指す。

大湯都史樹(#10 / Team KAZAMA / GR86)

好きが高じてドリフトを嗜んだ経験こそあっても、過度な緊張感を強いられるドリフトの公式戦は未経験だ。なのにこのトップドライバーはとても順応性が高く、そして勝負師の一面をみせる。自分では「メンタルがヤバい」といいながらも、予選・単走では79ポイントを記録して、24位で決勝・追走トーナメントへと駒を進めたのだ。

「追走なんて、チームメイトのケングシさんに付き合っていただいて一度走っただけ。決勝当日の練習走行では、もう少しだけ走れるかな。とにかく、すべてが未経験です!」

それでも決勝・追走トーナメントでは、昨年のシリーズランキング7位と強豪にして同じGR86に乗る草場佑介(#77 / CUSCO RACING / GR86)と闘い、ワン・モア・タイムを経て、勝ってみせたのだから恐れ入る。その後のGREAT8をかけた闘いで敗戦を喫するものの、現在進行形で急成長を続けるこのトップドライバーには期待せずにはいられない。

「タイムを争う、グリップ型のレースは何年もやってきた経験があるし、自分の腕にも自信があります。それとはまるで違う、採点方式によるドリフト競技は、まだ手探りの状態っていうのが正直なところ。でも、両方とも好きだからこそ挑戦する気持ちになったし、僕は僕なりの立ち位置で、グリップ界とドリフト界の架け橋的な存在となって、広義な意味でモータースポーツを盛り上げることができたらいいな、なんて思っています。そのためにも僕自身の戦績は重要。中途半端な気持ちを捨てて、必ず結果を残すこと。そうすれば“大湯を見てレースやドリフトに興味を持つ方々”が増えてくれるんじゃないかな、なんて思っています」

FDJ2からステップアップ、
同じ目線に立って見えた景色。

先述したユキオ・ファウストと同じくYOKOHAMA / ADVANに憧れながら、今年、FDJ2からFDJへとステップアップしたのは杏仁さん(#20 / Team academic with watanabe / S15)だ。予選・単走では惜しくもベスト32に入ることができなかったが、それでも彼の未来には期待が募る。

杏仁さん(#20 / Team academic with watanabe / S15)

「ケングシさんや、ヒロ(箕輪大也)さん、そして斎藤大吾さん。YOKOHAMA / ADVANを使って闘うトップドライバーたちが、なんであんなに凄いのか。一緒のステージで走ったことで、あらためて理解できた気がします。同じコースで、同じタイヤ。マシンの出力性能だって決して負けてはいない。私だってそれなりに自信があったのに、実際には“差がある”から負けたんでしょう。それはセッティングと経験値の“差”です。けれども悲観しているわけではありません。今回は悔しいけれど、必ず次回に繋げたい。この275/40R19サイズのADVAN NEOVA AD09は、トップドライバーたちが使うものと同じ。ドライバーとして挑戦する以上は、誰よりも使いこなしたいし、もっと攻略したくなります」

金田義健(#770 / CUSCO RACING / GRヤリス)

逆にYOKOHAMA / ADVANアスリートとしての経験を積みながら、信頼耐久性やセッティングを含めて、昨年は伸び悩んだ金田義健(#770 / CUSCO RACING / GRヤリス)もまた、予選・単走で33位と、あと一歩届かず敗退を喫していた。昨年よりFDJへステップアップして闘うサム・ルーカス(#11 / Team SAMMIT with Be Forward / S15シルビア)も同じく決勝・追走トーナメントに駒を進めることは叶わなかった。しかし、彼らのポテンシャルには、そして未来へのモチベーションには、大きな可能性が宿る。ふたりとも、結果に対してその闘いかたを反省することはあっても、クヨクヨ悩んだりせずにすぐに前を見て、すぐにでも次戦へと挑みたくてウズウズしているようだった。

サム・ルーカス(#11 / Team SAMMIT with Be Forward / S15シルビア)

齋藤太吾イズムで魅了させながら
志半ばで散ったモンスタースープラ。

記録はおろか、誰の脳裏にもその“記憶”を鮮烈に焼き付ける齋藤太吾(#87 / FAT FIVE RACING/ A90スープラ)を忘れてはならない。昨年の最終戦(岡山国際サーキット)で、ようやくA90スープラが復活を遂げ、今年は初戦から全開で闘いに挑む姿が見受けられた。予選・単走では93ポイントを獲得して堂々の3位である。NASCARのトップカテゴリーで使われるパワーユニットを移植したというV8自然吸気エンジンは、他のどのマシンよりも凶暴で、まるで雄叫びのような快音を奏でる。それは直接的なスコアには関係がなかったとしても、大勢の観客を魅了させるというのは紛れもない事実だ。

齋藤太吾(#87 / FAT FIVE RACING/ A90スープラ)

決勝・追走トーナメントで齋藤は、先述したケングシに花道を譲ることになる。GREAT8をかけた闘いで、より観客を沸かせようと思ったのか。ゾーン1への飛び込みでラインを変えたことが裏目に出て、ドリフトアングルを維持しつつも失速し、そのままケングシと接触してしまう。打ちどころが悪くてサスペンションを破損して自走不能の状態へ。結局、復活は叶わなかったものの、応急処置を許されるわずか5分の時間で、何がなんでも走らせようとする気概は、いつもの齋藤太吾節を感じさせた。

そして齋藤太吾をはじめ、誰もがわかっている。もっとも観客を沸かせるエピソードは、劇的な復活劇でもなければ、参加に至るまでの苦労話でもない。誰よりも研ぎ澄まされた走りをもってスコアを叩き出し、そして勝つことだと。今回、ケングシがそれを見事に体現してくれたが、YOKOHAMA / ADVANアスリートの誰にとっても、決して夢物語ではないだろう。それは「もっと練習して、クルマを仕上げて出直してきます」と、誰もが口にした言葉に集約されている。勝つまで、やってやろうじゃないか。

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