FORMULA DRIFT® JAPAN
特設ストリートコースでの
過激なバトルが鮮明にする
スタープレイヤーたちの実像。
2025.9.12
長らくウェットコンディションに振り回されたFORMULA DRIFT® JAPAN(FDJ)2025年シーズンながら、特設ストリートコースとなる「第5戦・グランスノー奥伊吹」はすっきりと晴れ渡った二日間となった。それでも四方八方を岩場に囲まれた峠道のようなコースで、コンクリートウォールも存在するこの難所を攻略するのは相当に難しい。果敢に攻めて勝利を目指し、オーディエンスを沸かせたYOKOHAMA / ADVANアスリートたちの模様を追った。
Words:中三川大地 / Daichi Nakamigawa
Photography:安井宏充 / Hiromitsu Yasui(Weekend.)
名門、Team KAZAMAが魅せた
ベテランとルーキーの同門対決。
容赦なく降り注ぐ日差しによって赤いテントが熱を帯びながら、スポットクーラーの風でゆらゆらと揺れている。そのなかにいるチームメイトの誰もが身体を熱らせ汗を滲ませているのは、グランスノー奥伊吹に照りつける強い日差しのせいだけではない。誰もが目下に迫った闘いの行方を見守っているからだ。風間オートサービス(Team KAZAMA)のピットは、闘いを目前に控えた興奮と緊張感から、異様なほどの熱気に包まれていた。
9月7日(日)の決勝・追走トーナメント、FINAL(決勝戦)をかけたFINAL4(準決勝戦)がまもなく始まる。チーム代表を務める風間俊治を中心にドライバーやスタッフたちは、勝利への道筋を見出すかのごとく走りかたを確認し合っている。極度の緊張感のなかで真剣勝負に挑む者たち独特の高揚感を、まるで楽しむかのごとく笑顔が絶えない。

いつにも増して、興奮を抑えきれないのも無理はない。チームメイト同士が闘う稀有なFINAL4だからだ。ひとりは日米のFORMULA DRIFT®シリーズで活躍するトップドライバーであるケングシ(#21 / Team KAZAMA / レクサスIS500 F SPORT Performance / Drift)。対峙するのは日本を代表するレーシングドライバーながら、FDJではルーキーイヤーどころか、ドリフト競技自体を初心者と公言する大湯都史樹(#10 / Team KAZAMA / GR86)である。

ケングシ(#21 / Team KAZAMA / レクサスIS500 F SPORT Performance / Drift)
組み合わせ次第では、たとえチームメイトとはいっても真剣にぶつかり合うのがFDJにおける決勝・追走トーナメントの常だ。しかしTeam KAZAMAのピットは、ピリピリとした雰囲気など皆無で、とにかくフレンドリーなのが印象的だった。かねてより大湯に寄り添ってレクチャーを続ける山中真生(#61 / GOODRIDE MOTORSPORTS / A90スープラ)もピットに駆けつけ、ふたりで走りかたを相談している。山中はすでにGREAT8を懸けた闘いで敗退していて、そうした意味で大湯はあっさりと師匠を飛び越えた。そして、今まさにチームメイトにいる、あまりにも大きな師匠を直接対決で越えようとしている。「もう、素人風情で気軽に教えてもらえなくなっちゃうな」と苦笑いしながら、大湯はヘルメットを被った。

大湯都史樹(#10 / Team KAZAMA / GR86)
思えば大湯は、9月6日(土)の予選・単走から勢いがあった。1本目の走りではいきなり84ptを叩き出し、その時点でのトップへと躍り出たときには、FDJにおける真の開花っぷりを感じさせた。後続する上位陣も負けじと高得点を叩き出した結果として、公式リザルトでは予選・単走を4位で終えたが、ルーキーイヤーで4位というのは、昨今のFDJにおけるレベルの高さを踏まえるとすさまじい戦績だと断言できる。4位を記録した84ptもさることながら、2本目に記録した80ptにこそ大湯の成長があると思う。2本連続で高得点を記録することは、その走りに安定感が宿ることを意味する。今回、2本続けて80ptを超えたのはたったの4選手だけ。4名のなかにはケングシも含まれていて、彼は2本連続で80ptを記録して9位につけていた。
シーズンが始まるころに「この前の練習走行で、はじめてケングシさんの後ろについて“追走”を経験しました」といっていた大湯が、たった数ヶ月間で公式な場の、しかもFINAL4でケングシと闘うとはいったい誰が予想しただろうか。もっとも思考が追いついていないのは当の本人だったのかもしれない。大湯は何度も胸に手を当てて、気持ちを落ち着かせようとしていた。
大湯は先輩たちからの教えを、その教え以上に全開でやってのけた。


まずは大湯の先行。それは84ptを記録した予選・単走から続く、速い振り出しから角度を深くつけて、高い速度を保って各ゾーンへとピタリとマシンを放り込んでいく鮮やかなものだった。ゾーン3ではウォールぎりぎりまでテールを寄せながら、どこにも危なっかしいところのない完成した走り。大湯にそのすべてを叩き込んできた山中はモニターを凝視しながら「これはもう、予選・単走だったら優勝レベルの走りだよね」とつぶやいた。
日米のFORMULA DRIFT®シリーズともにフル参戦を続けるトップドライバーの意地か、ケングシもそれにピタリと呼応してついていった。GR86よりも若干重いIS500ながらも、長年かけてじっくりと仕込んだマシンを手足のごとく操り、機敏かつ精緻な動きをする大湯に食らいつく。ケングシの先行でも同じく、甲乙つけがたい闘いを披露する。しかし、結果的に全体的なアングルの深さに加え、ケングシがゾーン3でわずかにウォールにマシンをヒットさせてしまったことが決定打となって、FINALへの切符を手に入れたのは大湯であった。ルーキーイヤーにしてFINALへ進出という快挙である。
練習に練習を重ねた“理性”が
大湯を有終の美へと誘った。
大湯のFINAL、相手はFDJ屈指の実力者、小橋正典(#4 / Team ORANGE / A90 スープラ)である。大湯の先行は、ケングシとの対戦と同じように、どこにもアラなど見つけることができないほど完成されたもの。この安定感にこそ確固たる成長を感じさせる。
「今年はウェットの洗礼を浴び続けて、とにかく安定した走りをしようと練習を重ねました。いきなり100%を目指して飛び出してしまってはもう終わり。何がなんでも結果(スコア)を残す走りを体得して、そのうえで100%を超える走りへと挑戦したい」

大湯は大会前にそう述べていた。それを見事に体現してみせたのがグランスノー奥伊吹での走りだったのは間違いない。しかし、安定感を極めたうえで頂点を獲得しようと最後の闘いへと挑んだ、そのRUN2での追走でわずかなミスが出てしまった。スタートで出遅れた大湯は、その差を挽回しようと焦りながらゾーン1へとマシンを放り込んだことで、オーバーランして軽くウォールへと接触。マシンは体勢を崩し、その影響によって小橋に栄冠を譲ることになった。聞けばNOSのスイッチを入れ忘れたために、スタート後で慌ててスイッチを入れながら1コーナーに飛び込んだのが原因だという。最後のミスは悔やまれるものの、それでも猛者が集うFDJにおいて、ルーキーイヤーで準優勝という結果には最大の賛辞を送りたい。

大湯は他のレーススケジュールの関係で、最終戦(第6戦・岡山国際サーキット)を欠場する予定だ。つまり今シーズンのラストランということであり、FINALこそ負けたとはいっても、準優勝として有終の美を飾ったと思える。最後の最後で結果を出してくるところに、あらゆるカテゴリーで活躍するトップドライバーの矜持を感じさせる。
大湯自身もこの結果には満足しているようだったが、心の奥底では優勝を手にできなかったことの悔しさを秘めているに違いない。それがトップドライバーにとって最大の原動力になることも知っているはずだ。「来年も同じ体制での挑戦が叶うのなら、絶対に頂点に立ちたい」と締めくくる言葉に未曾有の可能性を感じさせながら、大湯は今年の闘いに幕を下ろした。
問答無用の力感あふれる走りで
オーディエンスを沸かせた。
ユキオ・ファウスト(#555 / MINI GT WITH LBWK / S15シルビア)は、今回の大会に向けて並々ならぬ意気込みをみせた。毎回、マシンのアップデートを重ねてモンスターカーへと導きながらも、これまではウェットコンディションに翻弄されて思うような結果を残せていなかった。しかし、今回こそは予選、決勝ともに見違えるような青空だ。それでも絶対的な速度域が低く、ウォールの存在が手伝ってコースの熱が逃げにくい、というグランスノー奥伊吹の環境を前に、愛機シルビアに対して入念な熱対策を施して闘いに挑む。
予選・単走での結果は79ptで10位につけた。ユキオ・ファウストならではの大胆な走りは、勝利への期待を感じさせるものだった。決勝・追走トーナメントの初戦では、他者のプッシングによるバーストというトラブルを乗り越えて無事に勝利を収める。続くTOP16では、今回優勝を飾った小橋との対決となり、結果的には敗退してしまう。それでも、ユキオ・ファウストの思い切った振り出しに、スピーディーな動きなど、彼の駆るS15シルビアが完成の域にあることを示していた。常にギャラリースタンドから拍手が湧き起こるほどの激しいバトルを続けていたのがその証拠だろう。


ユキオ・ファウスト(#555 / MINI GT WITH LBWK / S15シルビア)
常に前を向き勝利を目指す
若きトップドライバーの心構え。
箕輪大也(#771 / CUSCO RACING / GRカローラ)の、本戦が始まる前の時点でのシリーズランキングは総合2位(293pt)。トップを走る高橋和己(#36 / TMS RACING TEAM BMW E92)との差はわずか24ptで、シリーズチャンピオンも充分に射程圏内だ。箕輪はアメリカのFORMULA DRIFT®シリーズにフル参戦する関係から、当初、ジャパンでは複数の欠場も危ぶまれていた。しかし結果的には最終戦(第6戦・岡山国際サーキット)を含めてのフル参戦が叶ったようだ。スケジュールの面でも運命を手繰り寄せている箕輪なだけに、がむしゃらに勝ちを目指すしかない。

箕輪大也(#771 / CUSCO RACING / GRカローラ)
予選・単走は安定した走りを披露して81ptを記録。8位で決勝・追走トーナメントへと挑む。しかし、最初に当たった中村マイキ(#13 / MIKE RACING / GRS204 クラウン)とのバトルで波乱が起きる。箕輪が追走する際、中村とのリズムが合わずにゾーン3で接触し、あえなく敗退してしまう。
「結果は悔しいけれど、相手のマシンに合わせながらベストを尽くすのが追走という競技なので、これを受け入れて気持ちを切り替えたいと思います。高橋選手の結果次第では今回でシリーズチャンピオンが決まってしまうけれど、可能性はまだあると信じて次に挑みます」
と、闘いの直後に話していた箕輪だったが、やはり運命は彼に味方したのだと思いたい。結果を俯瞰すると、先に触れた大湯の総合2位という快挙と、優勝した小橋に抑えられる格好で、高橋は総合3位にとどまった。ポイント差は開いたものの、それでも箕輪にシリーズチャンピオンの可能性はまだ残されている。


印象深かったのは、箕輪本人を含むクスコ・レーシングは闘いが終わるやいなや、すぐさま最終戦へ向けての準備を始めていたこと。トラブルを抱えていないか、セッティングに間違いはないか。マシンを入念に点検して、今すぐにでも岡山を全開で走れる状態にまで仕立て直す。それは1分1秒たりとも無駄にはできないトップチームらしさを感じさせた。日米を飛び回りそれぞれのFORMULA DRIFT®シリーズを闘いながら、8月に16歳になったばかりの高校生だという箕輪自身もまた、1分1秒の大切さを噛み締めながら、さらなる成長を、そして飛躍を目指す。
多くの愛情で育つGRヤリスで
今度こそ、本当に勝ちにいく。
箕輪のチームメイトである金田義健(#770 / CUSCO RACING / GRヤリス)は、そんなクスコ・レーシングと一緒になってマシンを熟成させてきた。長きにわたってマシントラブルや、セッティングに悩む日々が続いたものの、今回はまた足まわりを大幅にアップデート。ステアリングの切れ角アップ、トラクションの見直しなどを図り、より速くコントローラブルに、深いドリフトをすることが可能となったという。
予選・単走は71ptを獲得して24位で通過するにとどまるものの、金田の未来を感じさせる闘いは決勝・追走トーナメントの初戦にあった。結果から述べると、先に触れた大湯とのバトルを経て総合4位に落ち着いたケングシと対峙して敗退を喫する。RUN1における金田の追走の際、上り坂のあとに待っているゾーン1でドリフトアングルが戻ってしまったことが決定打となった。しかし、RUN2での先行は実に鮮やかで、キマった走りだった。モンスターカーがひしめくFDJの場で、小さなヤリスがひと回り大きくなったかのような不気味な迫力をたたえながら、まるでミズスマシのような機敏な動きを持って各ゾーンをクリアした。


金田義健(#770 / CUSCO RACING / GRヤリス)
「もう、このGRヤリスに不満はありません。常に協力を惜しまず、マシンづくりに付き合ってくれたチームの皆さんには本当に感謝しています。今回、走り込み不足に起因するミスがあったのは事実です。それでも、GRヤリスには勝ち得るだけのポテンシャルがあることが再確認できました。トップランカーのひとりであるケングシ選手に対して、理想的なアングルをキープしながら充分についていける。次の岡山国際サーキットでは絶対に結果を残したい」
失敗を反省し、学ぶことこそ
映えある未来への糧となる。
「eスポーツとラジコン制御を構築する20代のプロフェッショナルが、データ上の知見を活かして僕のマシンをセッティングしてくれました。今まで根性論でつくってきた僕のマシンは劇的に乗りやすくなり、いよいよ“道具が揃った”のだと思います。他者に比べてパワーは負けていないし、タイヤ(ADVAN NEOVA AD09)も大きなアドバンテージだと実感しています。もうマシンを言い訳になんてできない、トコトン自分と向き合う腕っぷしの勝負です」
そういって闘いに出たのは、FDJ2からステップアップした杏仁さん(#20 / Team academic with watanabe / S15)だ。予選・単走では「ゾーン1に喧嘩を仕掛けるつもりで思いっきり飛び込んだ」という度胸が功を奏し、20位で決勝・追走トーナメントの切符を得た。決勝・追走トーナメントでは初戦であえなく敗退してしまうものの、それでも杏仁さんが得たものは非常に大きかったようだ。


杏仁さん(#20 / Team academic with watanabe / S15)
「今まではできなかったことが、どんどんできるようになる。決勝・追走トーナメントの直前に実施される追走の練習走行だけで、ものすごく勉強になることがわかりました。結果は負けたけれど、楽しかったですね! 何かに挑戦することは、このうえなく楽しい。失敗を恐れずに挑戦して、たとえ失敗してもひとつずつ乗り越えたら、それは経験という財産になる。僕の挑戦はまだ始まったばかり。今は上を目指して成長できることにワクワクしています」
と、FDJへの参戦で得るかけがえのない経験を噛み締めながら、杏仁さんは己を成長させるかのごとく、挑戦を続ける。あらゆるトップユーチューバーや芸能人がひしめくYouTubeというプラットフォームで動画配信者として奮闘する杏仁さんは、今度はFDJというコンテンツにおいてトップドライバーたちに追いつき追い越す挑戦を続けているのだった。
今回、悔しくも予選・単走で33位となり、決勝・追走トーナメントへの参戦が叶わなかったサム・ルーカス(#11 / Team SAMMIT with Be Forward / S15シルビア)もまた、敗退を引きずらず、気持ちを切り替え勝利を目指したいと述べた。さらには予選・単走前にエンジンブローという悲劇が襲い、やむなくリタイアとなった齋藤太吾(#87 / FAT FIVE RACING / A90スープラ)も、今すぐにでも走りたいとウズウズしているようだ。


サム・ルーカス(#11 / Team SAMMIT with Be Forward / S15シルビア)
今回、結果が出た者、忸怩たる想いを抱えて幕を下ろした者。FDJ第5戦グランスノー奥伊吹には、数多くのドラマがあった。次戦は、2025年シーズンの最終戦となる岡山国際サーキットだ。来るべき千秋楽に向けて、YOKOHAMA / ADVANアスリートの誰もがあらためて「技と心」を鍛え直している。

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