FORMULA DRIFT® JAPAN

激戦極まる高速ステージ。
飲まれるか、掌握するか──
誰もが感じた苦悩と歓喜。

2025.7.18

予選・単走の直前になって霧雨がコースを覆い尽くす。FORMULA DRIFT® JAPAN(FDJ)の第4戦・スポーツランドSUGOは、前回同様、天候自体が挑戦状を叩きつけてきたようだった。難しい環境で悔しくも散った者がいれば、冷静に向き合って順調に勝ち抜いた者もいた。誰もがそこに固有の課題と反省点があり、またはドラマがあり、なにより全開で走る悦びがあった。激戦極まるスポーツランドSUGOのYOKOHAMA / ADVANアスリートたちを追う。

Words:中三川大地 / Daichi Nakamigawa

Photography:安井宏充 / Hiromitsu Yasui(Weekend.)

最初から最後まで魅せてくれた
満身創痍のトップドライバー。

この若き精鋭は、どこまでも冷静沈着に走りを組み立てていた。

「1本目は見るからにウェットでしたし、飛び込んでみるまでどういう状況かわからない、難しいコンディションでした。とにかくコースに居続けて、記録を残す走りかたをしました。でも2本目は雨も上がってきていて、他のマシンが白煙を出し始めている。マシンに乗り込まなきゃっていう直前まで、ずっと他の選手の走りを見ていました。そろそろ僕の番。これなら、ほぼドライ──、いやちょっと食わないくらいかな、って」

と、箕輪大也(#771 CUSCO RACING / GRカローラ)が、淡々と話す。7月12日(土)に開催された予選・単走は、誰の目にも波乱だと映ったことだろう。事前の天気予報は裏切られ、練習走行から予選・単走にかけて、粘りつくような霧雨がコースへと落ちてきていた。闘いに挑むまえに突如として襲うウェットコンディションは、今年の風物詩であるかのように。

箕輪大也(#771 / CUSCO RACING / GRカローラ)

そのなかで箕輪の分析は見事に実を結ぶこととなる。予選・単走での2本目。誰もが頭を抱えた突然の霧雨。それが上がりつつあり、また他者が叩きつけるトラクションが、走行ラインを乾かせるころという、微妙なコンディション。彼はそれに対して一本の筋道を立てた。各セクションごとの戦略をあげるとキリがなくなるが、それを彼は忠実になぞりながらも、時にそのセオリーを飛び越えて、オーディエンスを沸かすような走りを披露した。

「全体的には調整するようなドライビングが多かったのと、少しラインをはみ出した意識はあったので、反省点はあります。でも、それでも1位を取れて嬉しい気持ちです」

結果を述べると2本目に85ptを叩き出し、予選・単走での優勝を飾ったのである。それはライバルの誰もがウェットとドライの狭間で理想像とかけ離れていくなかで、ひたすら冷静に、自分自身が実を投じる路面状況と向き合った賜物であった。

箕輪は決勝・追走トーナメントでも順調に駒を進めることとなる。誰にとっても記憶に残る名場面となったのはGREAT8での闘いだろう。お相手は箕輪と同じく新世代のスタープレイヤーとして知られる山中真生(#61 GOODRIDE MOTORSPORTS / A90スープラ)である。箕輪がパーフェクトと呼べるような鮮やかな先行走行に対して、山中はそこにピタリとついていく。箕輪が操るGRカローラに対してミリ単位で寄せていく、まさにビタビタの走りを続けてオーディエンスを沸かせた。

しかし、勢い余ってミリ単位がゼロになってしまったのは最後だった。ゾーン4からフィニッシュラインにかけて、2台はほぼフルカウンター状態のまま、GRカローラのホイールハウスにGRスープラのタイヤが入りこんでくっついたような状態となって操縦不能の状態へ。そのまま2台ともフロントからウォールへと突っ込んでしまった。

「ステアリングが効かず、ブレーキ踏んでもお互いが横を向いていて速度を殺せない。そのまま壁に当たってしまいました。壁にぶつかるまで5分くらいの長さに感じました」

傍目からみたら重症に思えたGRカローラながら、与えられた10分の応急処置時間を使って完璧に直してみせたクスコ・レーシングの職人技には驚かされた。どうにかふたたび闘いの場に立つと、今度は箕輪の追走だ。このレースアクシデントでは、結果的に山中のプッシュという判断となり、箕輪にとっては淡々と追走するだけで勝ちが決まる。増してマシンは応急処置をしたばかりで、どんなトラブルが潜んでいるのかわからない。

しかし箕輪は冷静さを失わずに、それでもしっかりと闘志に満ちあふれていたのが印象的だった。数分前に大きなクラッシュをしたとは思えないほどのメンタルの強さだ。これで15歳なのだから驚愕でしかない。彼は攻めに攻めた。先ほどの山中の追走をなぞるかのように、ビタビタの走りで山中をプッシュし続ける。山中もまた己の技術と根性を限界まで引き出すような先行をしていたのもまた印象的だ。2台とも満身創痍のマシンながら、速く過激に、そしてどこか美しいような一体感を持ったこの追走には、誰もが魅了された。

「箕輪選手、あんなことがあっても一歩も引かない! 山中選手の挑戦を受けて、同じ走りをしたいんだと思う。すごいね、ふたりに拍手だよ! こんなバトルを僕らに見せてくれるんだから」と、FDJの副大会委員長にして審査員を務め、同時に実況コメンテーターをする今村陽一も、興奮気味に最大の賛辞を贈った。彼は立場上、いつも感情を抑えて審査コメントに徹するだけに、それほどまでにふたりのバトルに魅了されたということだろう。

こうして箕輪はFINAL(決勝)まで駒を進めることとなる。その相手は現在シリーズランキングトップにして、予選でも箕輪に次ぐ2位につけた強豪、高橋和己(#36 / TMS RACING TEAM / BMW E92)である。これもまた、異次元と呼びたいくらい互いに一歩も引かない、レベルの高いバトルを繰り広げたが、箕輪が追走した際のわずかに発生した距離と、そして微妙な脱輪が決め手となって、勝利の女神は高橋に微笑んだ。闘いを終えたふたりは、双方に納得し、握手をし、抱き合いながらお互いをリスペクトしあった。

悔しくも2位となったが、それでも箕輪大也という新世代ドライバーの、毎戦ごとの確かな成長と、まだ我々にとってもうかがい知れない未曾有のポテンシャルを感じさせた。しかも今回の結果を踏まえたシリーズポイントは87ptで、FINALの相手となった高橋和己(106pt)に次ぐ2位につけている。アメリカのFORMULA DRIFT®にも参戦する関係で今後の参戦予定が未知数な部分は残るものの、FDJのシリーズチャンピオンだって決して夢物語ではない。

華麗で過激なドリフト術の
その裏地に宿る弛まぬ努力──。

箕輪が快進撃を続けるのと歩みを揃えて、虎視眈々と駒を進めたのが齋藤太吾(#87 / FAT FIVE RACING/ A90スープラ)だった。予選・単走では1本目できっちり結果を残して19位へ。決勝・追走トーナメントでは、その甲高いエンジンサウンドを含めてオーディエンスを魅了させつつも、いままでよりもはるかに安定感のある走りを続けた。それは昨年末に実戦投入してから、着々と仕上げてきたGRスープラが完成の域にあることを示していた。

そして一歩ずつ階段を登って迎えたFINAL4(準決勝)での闘い。先に述べた高橋和己と闘いでは、齋藤節を感じさせるキレのある走りで勝利を目指す。しかし齋藤の先行時、わずかにリズムを崩して減速した状態になってしまったことが決定打となって、FINAL(決勝)への切符を譲ることになった。敗退にはなったが、同じくFINAL4で敗れたミンミン(#100 / MR.DIY Team ORANGE / GR86)よりも予選が上位だったことで、3位表彰台を獲得した。

齋藤太吾(#87 / FAT FIVE RACING/ A90スープラ)

「GRスープラでははじめて。こうやって久々に表彰台に上がることができたのは、ひとつの収穫だと思います。いままで色々な人たちに協力してもらって、セッティング変更や走りかたの研究など、いろいろとやってきました。次はもう少し上にいけるように走りたいと思う」

昨年、齋藤はスポーツランドSUGOでFINALへと進出。そこでは敗退するものの2位として表彰台に上がっている。その際、マシンは熟成極まるアルテッツァだった。意外にも斎藤は、まだこのGRスープラで満足のゆくリザルトを残していないのだ。

だからこそ「もう少し上に」と述べた発言は事実だが、より鮮明に紐解くと、彼の脳裏には「目指すべきは頂点しかない」と考えているはずだ。今回、初の表彰台として3位に入ったが、彼はそれでは決して満足しないだろう。表彰台のてっぺんこそ、居座るべき場所だとして、彼は、現在進行形でセッティングと走りかたを研究する日々を続けている。

ごくわずかなミスが命取りとなる
壮絶な生き残りバトルを制するために。

箕輪や齋藤が活躍をみせるいっぽうで、今回、思うような結果が残せなかったYOKOHAMA / ADVANアスリートたちもいた。

「完全に自分のドライビングミス。マシンはとても調子いいし、SUGOは好きなコースだっただけに、今回は悔しさだけが残ります。でも、ここで気合を入れ直して、次につなげます」

という言葉にあるように、開幕戦・富士スピードウェイで優勝するなど調子のいい走りを続けているケングシ(#21 / Team KAZAMA / レクサスIS500 F SPORT Performance / Drift)は、今回、ボタンの掛け違いが続いた。予選・単走では1本目にノースコアになったことで、2本目は守りに徹したものの、それでも8位で通過しているのは熟練職人らしい。しかし翌日の決勝・追走トーナメントでは、彼らしい流麗な走りのリズムに乗ることができず、あえなく初戦で敗退してしまった。

ケングシ(#21 / Team KAZAMA / レクサスIS500 F SPORT Performance / Drift)

ユキオ・ファウスト(#555 / MINI GT WITH LBWK / S15シルビア)もまた、自分らしい走りを披露できないままでいた。彼らは予選・単走における難しいウェットコンディションに翻弄され、決勝・追走トーナメント出走の条件であるTOP32に残ることが叶わなかった。

「今回からマシンのパワーを上げました。950psから、だいたい1130psへ。それを含めてマシンはとても調子よく、ドライでは完璧に乗れていただけに残念です。僕が予選・単走を走るころは、ドライとウェットが混在していて、フル加速できなかったり、唐突に滑り出したり、かと思えば突然引っかかるしで、結果を残せませんでした。でも、これは言い訳であって、今回はすべてドライバーである僕のミスです。次戦は絶対に勝ちにいきます!」

ユキオ・ファウスト(#555 / MINI GT WITH LBWK / S15シルビア)

同じく決勝・追走トーナメントに到達できなかった金田義健(#770 / CUSCO RACING / GRヤリス)も、淡々とマシンを熟成させながらもウェットコンディションに翻弄された。

「今回に向けて足まわりを煮詰めてきて、より前に蹴ることができるような状態になりました。これなら他のハイパワーカーに対しても、ちゃんとついていけて、狙い通りのドリフトができる。タイヤ(ADVAN NEOVA AD09)をより効率的に使えるようになったとも思います。もちろん、ウェットでの性能も上がったはずなんですが、今回は自分のミスも手伝って沈んでしまいました。ほんのわずかでもミスをすれば、32位にすら残れない。いまのFDJって尋常じゃないほどレベルが上がったんだと思います」

と、金田がいうように、確かに最近のFDJは凄まじくハイレベルで、一瞬でも気を許したり、またミスを喫すれば下位に沈んでいく。それは彼らのようなベテランであっても、決して例外ではないことを示している。

金田義健(#770 / CUSCO RACING / GRヤリス)

今年からFDJに挑戦を開始している杏仁さん(#20 / Team academic with watanabe / S15)もまた、今回、32位までの壁を乗り越えることができなかった。しかし、彼を含めたYOKOHAMA /ADVANアスリートたちは常に前を向いていた。

「モノ(マシン)は揃い、少しずつ成果が出ている自覚はありますが、まだまだ足りない。足りないものがなにかはわかっています。それを体得する作業が必要です。やはりFDJの壁は高いですね。ひと昔前とはぜんぜん違う。でも、だからこそ、やりがいがある。この壁をのぼりきったときの、その見晴らし、達成感──。本当に気持ちがいいんだと思います。それを目指してまだまだ追求しますよ!」

杏仁さん(#20 / Team academic with watanabe / S15)

激戦区となったFDJの場で
急成長を遂げる“新芽”たち。

誰もがそのレベルの高さに驚愕しながらも、着々と結果を出し始めているYOKOHAMA /ADVANアスリートもいる。サム・ルーカス(#11 / Team SAMMIT with Be Forward / S15シルビア)は、今回、難しいウェットコンディションで己の走りをキープし、74ptを獲得。22位で決勝・追走トーナメントへと駒を進めた。今シーズンの決勝・追走トーナメント出走ははじめての結果であり、そうした意味では大きな前進だといえる。

サム・ルーカス(#11 / Team SAMMIT with Be Forward / S15シルビア)

さらに今年からFDJへ参戦する大湯都史樹(#10 / Team KAZAMA / GR86)がいる。SUPER GT(GT500)やスーパーフォーミュラで活躍するトップドライバーながら、FDJはおろかドリフト競技自体が未経験だった。これまでの2戦では走ったことのなかったウェットコンディションに翻弄され、満足にスコアを残すことも叶わなかった。

大湯都史樹(#10 / Team KAZAMA / GR86)

しかし、今回は違う。難しいコンディションのなかで、いままでとは違う安定感を持って走りきり、スコアはなんと78pt。15位で決勝・追走トーナメントへと進んだのだ。そればかりではない。どこか余裕すら感じさせるマシンコントロールをもってTOP32を勝ち抜いてTOP16へ。斎藤や箕輪を下した高橋和己と闘うこととなった。

しかし、この闘いで大湯のマシンはあえなくスローダウン。ドライブシャフトにトラブルが発生したため、RUN1の追走に挑むことができなかった。しかし、わずか5分の間でそれを修理してみせた風間オートサービス(Team Kazama)の意志を受けて、諦めずに挑んだRUN2で、大湯は開花する。勝負事に“たられば”を述べても仕方ないが、もし、マシントラブルがなければ、強豪にして今回の優勝者さえ食ってしまえるかのような鮮やかな走りだった。RUN1の結果を受けて、今回、大湯の闘いはここで終わるが、未来へ向けて期待を感じさせた。

「自分のなかの限界以上で“いい走り、キマった走り”ばかり練習していたのを、思い切ってやめてみて、とにかく冷静に、場合によって少し抑えてでも点を取りにいく“安定感のある走り”を積み重ねるようにしました。いきなり100%を目指すのではなく、常に50%の力でドリフトできる走りですね。限界以上で走って飛び出して終わっていては、まるで結果が出ないので。その練習の甲斐あって、予選・単走は通ったし、まだ不完全ながらもある程度の結果はついてきたと思います。この安定感のもとで、これからもっともっと詰めていきたい。イチかバチかじゃなく、安定感を持ったうえで100%を超える走りをするために──」

大湯は早くも勝つための戦略を練り、それを実践しているほどにドリフト慣れしてきている。この順応性の高さこそ、モータースポーツ界のトップドライバーたる所以なのか。今回、リザルトには反映されずとも、彼の成長はその走りから鮮明に感じ取ることができた。

と、今回のスポーツランドSUGOにおけるYOKOHAMA / ADVANアスリートたちは、結果がついてきた者はもちろん、忸怩たる思いを胸に秘めることになった者も大勢いた。それにしても全員の戦績やそのエピソードを聞くたび、箕輪大也に象徴されるトップドライバーたちの凄さを、あらためて感じずにはいられない。

とはいえ、この高次元のドリフトバトルにおいて、選手たちの差は決して大きくはなく、誰もが頂点に立つ可能性を秘めていると思う。次なる闘いは、特設ストリートコースとして知られるグランスノー奥伊吹だ。それまでの二ヶ月弱。YOKOHAMA / ADVANアスリートは誰もが個々の課題と向き合い、セッティングを模索し、そして練習を続けている。

いいね

Photo Gallery22枚

ADVAN LINEUP