FORMULA DRIFT® JAPAN
エビスの洗礼を乗り越え
未来へ向けて“希望”をつなぐ
YOKOHAMA / ADVAN勢。
2025.6.20
FORMULA DRIFT® JAPAN(FDJ)の第3戦・エビスサーキットは雨の予選・単走に始まり、決勝・追走トーナメントではすっきりと晴れ渡る、という難しいコンディションとなった。そんな難しい環境下を立派に戦い抜いたYOKOHAMA / ADVANアスリートたち。トラブルに悩まされたり、悔いの残る闘いは少なくなかったが、それでも誰もがそこに固有の課題と反省点を見出し、明日を向いていた。闘いで揉まれながら成長する、彼らの姿を振り返る。
Words:中三川大地 / Daichi Nakamigawa
Photography:安井宏充 / Hiromitsu Yasui(Weekend.)
難しいウェットコンディションで
百戦錬磨のベテランが魅せた走り。
「マシンは最高に調子がいい。ここまで仕上げてくれたチームには本当に感謝しています。ドライでのセッティングは完璧に整っていると思うので、いまは雨待ちです。午後は絶対に雨が降ると思うので、ウェットを少しでも練習できたらいいな、と」
6月14日(土)に開催された予選・単走の前に設定される練習走行の時間に、ケングシ(#21 / Team KAZAMA / レクサスIS500 F SPORT Performance / Drift)はそうやって空を見上げた。今にも雨粒が落ちてきそうな曇天が朝から続いていたが、しかしケングシを始め闘いに挑む誰もに、お天道様はウェットの練習をさせてはくれなかった。それは、前回(第2戦・鈴鹿ツインサーキット)のコンディションをなぞるようでいて、誰にとっても大きな障壁となった。
ケングシ(#21 / Team KAZAMA / レクサスIS500 F SPORT Performance / Drift)
結局、雨が降り始めコースを黒く落とし込んだのは、練習時間と予選・単走の間に設けられた昼休みから。今回もまた誰もが1周のチェックランのみのほぼ一発勝負で、この難しいウェットコンディションに挑まざるを得ない。しかもエビスのコースレイアウトは8の字を描くようなタイトなステージ。国際サーキット系と比べれば速度域こそ低いものの、そのぶんテクニカルだ。ファーストアウトゾーンは奥へいくごとにRがキツくなって90度近くになり、振り替えしたその先にはタイヤバリアまで存在する。なおかつセカンドゾーンにはエビスの名物となったコンクリートウォールが設けられる。そんな難しいコースであっても、ケングシを始めYOKOHAMA / ADVANアスリート勢は、タイヤに対して絶大な信頼感が手伝い、終始、落ち着きながら、勝利を目指してスロットルを踏み込む。
予選・単走の1本目。局所的にたっぷりとラバーが乗った状態ゆえに、一寸先にどんな路面が待っているかわからない難しいウェットコンディションを前に、誰もがハーフスピンやコースアウトを喫して点数を残せない選手が続出した。決勝・追走トーナメントに進む条件は予選・単走での32位以内だが、高得点を記録して点数を争うというよりも、とにかくミスなく走って点数を獲得することに集中するステージとなった。
誰もがそんな安全策を採るなかで、それでも攻めたのがケングシだ。マシン自体の速さを保ちながらも深いアングルを維持し、なにより各ゾーンにぴったりと合わせ切った。その結果として獲得した1本目の82ptを、誰もが最後まで塗り替えられずに、見事、予選・単走で優勝を獲得した。エビスでの予選・単走優勝は昨年に引き続いての二連勝である。
「2本目の方が攻めたんだけど、路面コンディションが変わってバランスを崩してしまいました。でも、1本目できっちり結果を残せたことを嬉しく思います。明日(決勝・追走トーナメント)こそが本番だという気持ちで、あらためて気合いを入れ直します」
と、ケングシは喜びを噛み締めながらも、それでも決勝・追走トーナメントに向けての決意表明を示した。しかし、そう簡単に勝たせてはくれないのが、FDJを含むモータースポーツの世界だ。翌日の決勝・追走トーナメントでのGREAT8をかけた闘いで、彼のマシンは突如として失速し、先行では他車と接触。応急処置もままならず、続く追走ではドリフトを維持したままフィニッシュすることが叶わず、ここで敗退を喫してしまう。
「オルタネーターに至る配線の故障で、電気が落ちて急に失速してしまいました。完全にマシントラブルです。調子が良かっただけにすごく悔しい。だけど、この経験を糧にして、次こそは必ず勝ちたい」
と、ケングシは落ち着いた語り口で原因を説明した。そこには刹那な感情論を超えた「勝利への想いと、その方法論」を明確に理解し、実践しようとする冷静さが宿っていた。
どんなトラブルをも乗り越え
みずからの“走り”で語る男。
ケングシと同じく、予選・単走をたった1本でキメてくれたのは齋藤太吾(#87 / FAT FIVE RACING/ A90スープラ)だった。NASCARのV8エンジンが雄叫びをあげる走りを見る限り、薄氷を踏むようなウェットコンディションで操るのがいかにも難しそうなマシンであるにも関わらず、黒光りするコースに大胆にマシンを滑り込ませていく。結果は79ptで4位へ。いつも魅せる走りをして観客を沸かせつつも、それは針の穴をつつくようなマシンコントロールの賜物であるという、トップドライバーらしさを感じさせた。
結果を俯瞰すると、最終ゾーン(サードアウトゾーン)を抜けフィニッシュラインを通過するあたりでエンジンがブローしていたという。そのため齋藤は2本目をキャンセルしてその日を終え、夜通しかけてエンジンを載せ替えてきたというから凄まじい。そんなこと、彼はそしらぬ顔で、当たりまえのように決勝・追走トーナメントに姿を現す。いつもクールに振る舞って、あれこれと言葉ではなく走りで語ろうとする彼らしいふるまいだ。
齋藤太吾(#87 / FAT FIVE RACING/ A90スープラ)
決勝・追走トーナメントでは、順調に駒を進めた。GREAT8をかけた闘いでは、強豪にして昨年のシリーズチャンピオンである山下広一(#37 / TMS RACING TEAM 5FIVEX / BMW E92)と当たるものの、スモークに視界を遮られてウォールに接触した山下を横目に、オーディエンスを沸かせる圧巻の走りを持って勝利を収める。
その後に待っていたのは張 盛鈞/チョウ・シュンジュン(#27 / Team TMS Racing with Goodride Tire / BMW E92)である。昨年の第4戦(スポーツランドSUGO)での決勝・追走トーナメント、決勝戦を闘ったライバルだ。その時は僅差で負けてしまっただけに、今回は何がなんでも勝利を掴み取ろうとした。
すっかり空が晴れ渡り、完全にドライとなった路面の上で、タイヤからもうもうと白煙が巻き上がる。両者とも先行、後追いともに一歩も引かず。ギャラリースタンドから盛大な拍手が湧き起こるほどの高次元のバトルとなった。角度はもちろんスタイルではオーディエンスを沸かせた齋藤ながら、しかし、追走の際に張に比べてわずかにラインが小さくなってしまったことが決定打となり、敗北を喫してしまった。
それでも齋藤はすぐ前を向いた。自分の走りを振り返り、何度も録画を見て反省点を洗い出そうとしていた。いつも度胸一発で走っているように思わせて、その裏地では研究に研究を重ねるのもまた齋藤流だ。もちろん、未来へ向けて栄冠を掴み取るために──。
神々しいほど美しく闘った
「CUSCO RACING」同門対決。
「毎年、レベルが上がっている実感がありながら、今年はその上昇スピードが尋常じゃない。だからこそ私たちのチーム(CUSCO RACING)の存在意義があると思います。GRスープラにGR86、GRカローラ、そして私が乗るGRヤリスなど。それぞれパッケージングが異なる現行スポーツモデルでの闘いかたを、チームメイトとして間近で見られるのはこのうえない財産です。もちろん、やるからには勝ちたいし、勝つべきだと思っています」
金田義健(#770 / CUSCO RACING / GRヤリス)が、今回の闘いに挑むまえにそんなことを話していた。名門、CUSCO RACINGは今シーズンは4台(4名)体制で闘うが、YOKOHAMA / ADVANアスリートはそのうち2名だ。金田のほかには、若干15歳の若きトップドライバー、箕輪大也(#771 / CUSCO RACING / GRカローラ)がいる。
この言葉を思い出したのは、決勝・追走トーナメントの一幕があったから。数奇な運命とでも言うべきか、決勝・追走トーナメントの初戦で、CUSCO RACINGが同士討ちをせざるを得ない状況となったからだ。
金田義健(#770 / CUSCO RACING / GRヤリス)
金田が相手となったのはチームメイトの松山北斗(#774 / CUSCO RACING / A90 SUPRA)だ。まずは金田が教科書通りの、まるで破綻のない先行走行を決め、松山もそれにピタリとついていく。次ぐ金田の後追いでは、互いに少々のミスをしたことで最初のジャッジはワン・モア・タイム。再戦でもお互いがミスなく綺麗なラインとアングルで先行を走り切ったが、後追いに距離や角度が足りなかったのは金田のほうで、今回は松山に花道を譲ることとなった。
同じく同門対決を繰り広げたのが箕輪大也だった。相手は意外にもいままで公式戦では勝ったことがないという宿敵、草場佑介(#77 / CUSCO RACING / GR86)である。互いに一緒になって練習し、語り合う仲間であり、またこのGR86は過去に箕輪自身が乗って闘った経験もある。ドライビングの特徴やマシンの個性を、互いに熟知している者同士の真剣勝負である。
箕輪大也(#771 / CUSCO RACING / GRカローラ)
それはまるで、決勝と呼びたくなるような接戦だった。両者とも一寸の狂いもなく、各ゾーンへマシンを放り込んでいく先行に、そこに食らいつくかのように後追いしていく。その甲乙つけがたい両者に対して、最初は金田の闘いと同じくワン・モア・タイム。その後も互いに譲らなかったが、わずかなアングルの差によって、勝利は草場のもとへ。なお、草場はこの後も順調に勝ち進み、今回の追走・決勝トーナメントで優勝を獲得した。草場の功績を最大限に讃えるとともに、これを「決勝と呼びたい」というのだって決して誇張表現ではないはずだ。
この結果には清々しいスポーツマンシップの心得を持って「納得の結果」と述べた箕輪にして、彼にとっては、今回、別の課題にも取り組んでいた。予選・単走ではドライブシャフトが折れたことでかろうじてTOP32に残れる状態だったし、決勝・追走トーナメントではデフにトラブルを抱えたこともあった。疲弊していくマシンと向き合わざるを得なかったのだ。

「出場を重ねるにつれて、また自分が乗りこなせるようになるほど、マシンを酷使しているのは事実です。でも、トラブルが発生しても、すぐに解決してくれるチームの皆さまには本当に感謝しています。簡単にエアロを破損させないとかを含めて、マシンを労わりながら、次戦につなげたい」
いかにシミュレーターでドライビングを練習しても、突然のマシントラブルと向き合ったり、さらには「マシンを労わりながらチーム戦として闘う」という行為はリアルでしか体験できないこと。そうした経験をひとつずつ積み重ねて、この若きトップドライバーはさらなる高みへと昇華していく。そんなステップアップを感じさせるような一面だった。
一瞬たりとも無駄にせず課題に取り組む
YOKOHAMA / ADVANアスリート勢
2日間を通して安定した走りをキープしていたのがユキオ・ファウスト(#555 / MINI GT WITH LBWK / S15シルビア)だ。エビスをホームコースとして育っただけに、いかにFDJならではの特設コースだといっても、天候変化への対応を含めて、とても落ち着いた様子で闘った。結果はTOP16にて惜しくも敗退し、総合15位に終わった。しかし、今年から使い始めたタイヤ(ADVAN NEOVA AD09)をもっと活かそうと、セッティングを続ける様子には未曾有の可能性を感じさせる。
「とにかく角度をつけてスピードを殺すような走りかたをしていると思うのでサイドウォールへの負担は大きいはず。だからハイトを稼ぐため、285/35ではなく、275/40の19インチを使っていますが、これが抜群にいい。空気圧の感覚もわかってきて、とても乗りやすく仕上がっています。それに意外なほど長持ちするのにも驚きました」
ユキオ・ファウスト(#555 / MINI GT WITH LBWK / S15シルビア)
同じくタイヤを含めたセッティングを模索しながら上を目指したのは杏仁さん(#20 / Team academic with watanabe / S15)だ。今回は初めてベスト32に入り、FDJの決勝・追走トーナメント初経験となった。
「今回から車高調を変えて、全体的に良くなりました。本当は次戦(スポーツランドSUGO)までセッティング変更は見送ろうと考えたんですが、そんな悠長なことはいっていられない。自分に与えられる限られた走行時間はすべて練習時間です。練習を続ける最中で、たまに本番があるだけ、という意識。エビスのようなテクニカルコースで、ドライに加えてウェットまで経験できるなんて最高ですよ。練習時間を一瞬たりとも無駄にはできません」
杏仁さん(#20 / Team academic with watanabe / S15)
という前向きな気持ちは、上位を目指すほかのYOKOHAMA / ADVANアスリートたち誰もが持っていた。今回、惜しくもベスト32入りが叶わなかったサム・ルーカス(#11 / Team SAMMIT with Be Forward / S15シルビア)。そして大湯都史樹(#10 / Team KAZAMA / GR86)もまた、常に研究と練習を忘れない。
サム・ルーカス(#11 / Team SAMMIT with Be Forward / S15シルビア)
彼らはたとえノースコア、または敗退が決まっても、ピットへ戻るまでの間、とにかく全開でドリフトをし続けた。コースにいる刹那な時間こそが、上を目指すべき貴重な練習であることを知っていた。大湯はプロフェッショナルのレーシングドライバーとして、杏仁さんやサム・ルーカスはYouTuberとして、「常にオーディエンスを沸かしてイベントを盛り上げたい」という伝道者としての役割を理解し、それをまっとうしていたのかもしれない。彼らのピットには常にファンが押しかけていたことが、それを証明するようでもある。
大湯都史樹(#10 / Team KAZAMA / GR86)
今回、YOKOHAMA / ADVANアスリートたちにとっては、悔しさの残る闘いとなったのは事実だ。しかし、誰もがそれぞれの課題を見出し、克服への筋道を立て、そしてひたすら練習に励もうとする意欲を感じさせた。その努力が実を結ぶことに期待したい。来るべき第4戦は、7月12~13日、灼熱の高速ステージとなるだろうスポーツランドSUGOである。
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