FORMULA DRIFT® JAPAN
天邪鬼な天候を味方につけて
YOKOHAMA / ADVANを
二連覇に導いた若き精鋭。
2025.6.2
FORMULA DRIFT® JAPAN(FDJ)の第2戦は鈴鹿ツインサーキットだ。ここは2022年、2024年と雨続き。今年もまた予選・単走が開催された5月24日(土)は雨模様となり、この混沌とした状況をもって「鈴鹿ツインの魔物」とも称された。そんな魔物に翻弄されながら、果敢に攻めて上を目指したYOKOHAMA / ADVANアスリートたち。見事に結果を残して総合優勝し「YOKOHAMA / ADVAN二連覇」という記録を残した若きアスリートに迫る。
Words:中三川大地 / Daichi Nakamigawa
Photography:望月勇輝 / Yuki Mochizuki(Weekend.)
日米で揉まれ急成長を遂げる
15歳のトップドライバー。
「僕の乗るGRカローラは本当に絶好調で、走る回数を重ねるごとに完成度が上がっています。この状態を維持しながら、もっといい走りができるように細かいセッティングに付き合ってくださるクスコのエンジニアやメカニックの方々。そして両親。さらにサポートしていただいているスポンサーさんやファンを含めた全員の“チーム力”による勝利だと思っています。僕だけじゃなく、ひとつのチームとして走っているので」
目の前で箕輪大也(#771 CUSCO RACING / GRカローラ)が話している。やわらかい語り口だが、自分の気持ちを正確に理解してほしいという熱心さが伝わってくる。それでも喜びを抑えきれないのは無理もない。FORMULA DRIFT® JAPAN(FDJ)第2戦・鈴鹿ツインサーキットで、箕輪は大勢の強豪ライバルを抑えて、決勝・追走トーナメントで優勝をもぎ取ったのだ。YOKOHAMA / ADVANアスリート勢にとっては、開幕戦・富士スピードウェイを制したケングシ(#21 / Team KAZAMA / レクサスIS500 F SPORT Performance / Drift)に続く二連覇達成である。
箕輪大也(#771 CUSCO RACING / GRカローラ)
5月24日(土)に開催された予選・単走から、25日(日)の決勝・追走トーナメントにいたるまで、箕輪の走りはパーフェクトだった。「ヒロはいま、ノリにノッているね」という声が、そこかしこから聞こえてきた。それでも有頂天にならずに、常に謙虚な姿勢を保つのが“ヒロらしさ”だろう。開幕戦、富士スピードウェイではケングシが「長きにわたってマシンをともに育てた有志たち“全員の勝利”だと念を押した」ように、箕輪もそのことを正確に理解し、感謝していた。それはわずか15歳という年齢を感じせない、レーシングドライバー最高のモラルが、精神のなかに硬い塊として存在しているように思えた。
冷静と情熱のあいだで
些細なボタンの掛け違い。
「勢いがあるヒロ(箕輪大也)を前にして、少しメンタルが弱かったのかもしれない」と、今回はFINAL4をかける闘いで箕輪と直接対決したケングシは悔しがった。完璧な状態にまでマシンを仕上げてくれたTeam KAZAMA(風間オートサービス)と、そして大勢のファンを前にして結果を残せなかった自責の念でもあった。
それでも傍目からみて、ケングシは常にスマートかつスムーズな所作で巧みにマシンを操り、順調に駒を進めていたように思う。何しろ予選・単走では、予想されていた厳しいウェットコンディションのなかで、針の穴を突くような動きを持って各ゾーンへマシンを放り込み、89ptというハイスコアを記録。見事、総合2位で駆け抜けていた。それでも、決勝・追走トーナメント前に設定される練習走行で、些細なミスから他者と接触し、マシンを破損させてしまったところから、微妙に歯車が狂い始めていたのかもしれない。
ケングシ(#21 / Team KAZAMA / レクサスIS500 F SPORT Performance / Drift)
「自分自身の気持ちを極限まで高めていく過程で、スイッチが完全にオンにはならなかった。それに対しての悔しさが、一番大きい。だからこそ、いくつかのミスを誘発したし、最終的に今回はヒロの走りに及ばなかったのだと思います。でも、ミスはミスとして認めて仕切り直して、次戦(第3戦・エビスサーキット)では必ず勝ちたい」
ケングシは予選・単走での好成績を含めて、今回、総合5位という結果に終わった。開幕戦では決勝・追走トーナメントで優勝しているだけに、シリーズチャンピオンの期待を背負って、次戦エビスに挑むため、あらためて兜の緒ならぬヘルメットの顎紐を締めたようだった。
薄氷を踏む思いで挑むウェットで
絶大な信頼がおけるADVAN NEOVA AD09。
難しい環境下にあった予選・単走に注目した。事前の天気予報では完全に雨であり、それは予選・単走開始前の練習走行から降り始めると予想されていた。しかし、実際に大粒の雨がコースを湿らせ始めたのは、練習走行が完全に終わった昼休みから。つまりドライバーの誰もが、その当日のウェットコンディションを経験していない。わずか1周のチェックランのみの一発勝負で「鈴鹿ツインの魔物」と称されるウェットコンディションに挑むことになった。
鈴鹿ツインサーキットの路面は少々荒れた部分があるし、ちょっとでもタイヤをコースサイドに落とそうものなら、砂利や土が容赦なくコース上にまで乗ってくる。さらに、ドライでの練習走行が続いたため、一番繊細な操作が要求される各セクションにはたっぷりとタイヤラバーが付着している。そうしたなかで、大量の雨がコースを覆い尽くしたのだ。誰もがマシンを放り込むまで、グリップ感覚を正確には把握できない。
ウェットコンディションに翻弄されず、冷静沈着に駒を進めたのは、先述した箕輪やケングシに加え、「雨が得意」と胸を張るユキオ・ファウスト(#555 / MINI GT WITH LBWK / S15シルビア)だった。予選・単走での結果は85ptで8位につけている。
「僕のホームコースはエビス。あそこはしょっちゅう雨が降るから、こんな状況には慣れています。マシンは絶好調だし、タイヤ(ADVAN NEOVA AD09)は温まりやすく、すぐにグリップを感じて、とても使いやすい。足まわりと空気圧の設定を微調整すれば、どんなコンディションであっても、気持ちに余裕を持って冷静に走ることができます」
と、ユキオはADVAN NEOVA AD09を使いこなし、より戦闘力の高いマシンとともに優勝を目指す。今回、決勝・追走トーナメントでは悔しくもGREAT8をかけた闘いで敗退してしまったが、次戦は彼が“ホームコース”だというエビスサーキットだ。FDJならではのレイアウトこそあるものの、路面の隅々まで熟知しているだろう彼の走りに期待したい。
ユキオ・ファウスト(#555 / MINI GT WITH LBWK / S15シルビア)
雨だろうがなんだろうが、まるで雄叫びのような快音を奏でながら、傍若無人に走りまわる齋藤太吾(#87 / FAT FIVE RACING / A90スープラ)は、予選・単走1本目では果敢に攻めたことが裏目に出てノースコアに。2本目だってそのプレッシャーを跳ね除けるかのように攻めたように見せつつ、本人は至って冷静にマシンを操って予選・単走を通過した。
齋藤太吾(#87 / FAT FIVE RACING/ A90スープラ)
金田義健(#770 / CUSCO RACING / GRヤリス)もまた、1本目はノースコア。しかし、2本目はどうにか持ち堪えてTOP32へと駒を進めた。彼らはともに決勝・追走トーナメントでは思うような結果を残せなかったものの、難しいウェットコンディションのなかで、競技の本質である「ドリフトを維持してつなげたまま、コースに居残り続けること」の難しさを表現し、そして実践していた。
「ネオバ(ADVAN NEOVA AD09)はドライでもウェットでも、ドライバーに訴えかけるグリップ感が変わらないのがいいところだと思います。急にガンっと食ったり、スポっと抜けたり、がない。路面状況に応じてグリップ力の絶対値が変化していくのだと思いますが、その推移がとてもわかりやすい。これは刻一刻と路面状況が変化する場では大いに役立ちます。タイヤからの情報を受けて、コントロールしながら“食わせる”ところに入っていける」
と、金田はいう。悔しくも敗退した選手を含め、この難しいウェットコンディションのなかで大きな武器となったのはタイヤ(ADVAN NEOVA AD09)だったと誰もが口を揃えた。彼ら全員が、予選・単走の状況下を「恵みの雨」としてマシンを扱いこなしてこそ、明日の勝利が見える。今回、箕輪がそれを見事に体現してくれたように──。
金田義健(#770 / CUSCO RACING / GRヤリス)
魔物が棲むFDJ鈴鹿ツインの
ファーストインプレッション。
ウェットコンディションに翻弄されたのが、SUPER GT(GT500)やスーパーフォーミュラで活躍するトップドライバーにして今年からFDJに参戦する大湯都史樹(#10 / Team KAZAMA / GR86)だった。ウェットでの本格的なドリフト競技は今回が初めてだったという。どうにかマシンを操ろうとするものの、まるで氷上かと思えるコースを前に、あえなくスピンしてしまい、予選・単走を通過することは叶わなかった。それは「百戦錬磨のトップドライバーでもFDJという競技はまるで別物」だということを示唆していた。
「鈴鹿ツインのコースは初めてだし、ウェットも初体験。練習を重ねてコースに慣れ、マシンも仕上がったところにいきなりの雨でした。ウェットならではのグリップ感とか、それに対処する操作方法とか、ドライとは全然違う。周りの方々に教えていただいて頭では理解していても、身体が体得するところまではいかない。もっと練習が必要だと思いました」
大湯都史樹(#10 / Team KAZAMA / GR86)
大湯は敗退が決まっても、他の選手の走りを観察しながら、あらゆる人たちに走りかたを相談するなど、すぐにでも練習したいという意欲に満ちていた。次回のエビスもまた、コンクリートウォールの存在など大湯にとっての初体験が目白押しとなるだろう。しかし、元来のドライバーとしての資質に加えて、彼の情熱を前に、何かやってくれそうな可能性を秘めている。
FDJ2からステップアップする格好でFDJに参戦して2年目となったサム・ルーカス(#11 / Team SAMMIT with Be Forward / S15シルビア)もまたウェットコンディションという壁を克服することができなかった。毎日、寝食を忘れるほどマシンセットアップに勤しみ、テストドライブも欠かさない。日夜、研鑽を積んでいても、このウェットコンディションで結果を出すのがいかに難しいのかを思わせる。
サム・ルーカス(#11 / Team SAMMIT with Be Forward / S15シルビア)
同様にFDJ2からステップアップした杏仁さん(#20 / Team academic with watanabe / S15)もまた、予選・単走ではスコアを記録できなかった。開幕戦・富士スピードウェイでの反省点を活かして、リアサスペンションをアップデートし、より高い車速で真横に向けるような仕様に仕立てたというだけに、今回のウェットコンディションは悔やまれた。しかし、今回の敗因を冷静に分析しつつも、「楽しんで挑みたい、オーディエンスを沸かせたい」という笑顔を前に、そのモチベーションには未曾有の可能性が宿ると思えた。
杏仁さん(#20 / Team academic with watanabe / S15)
誰よりも「擬似体験」を重ねたからこそ
かけがいのない財産だと捉える「リアルな経験」
あらためて箕輪大也を振り返る。彼はケングシとの対決のみならず、ポディウムの頂点にのぼり詰めるまでの合計5本の追走対決は、どれもパーフェクトと叫びたいくらいの完成度の高さを持っていた。彼はいつもマシンへ乗り込む直前まで、目を瞑り、両手両足を振り回してのイメージトレーニングを欠かさない。走るたびに起きうる微細なミスをしっかり認識していて、次へ向けての対策と練習、シミュレーション、そしてメンタルトレーニングを欠かさないのだ。だからこそ神々しいほどの「安定した走り」として結果を出しているのだと思う。その象徴的な事例は、やはりウェットコンディションとなった予選・単走だ。
「天気予報が雨だったので、事前にシミュレーターで雨の練習を重ねました。そのうえでマシンやタイヤの状態、そしてコースの状態をみながら、両親とも相談して走りかたを決めました」
シミュレーターではウェットこそ再現できても、ラバーがたっぷりと乗っていたり、水たまりがあるなど、刻一刻と変化する、局所的な路面状況にまでには対応していない。
「シミュレーターでの練習をベースにしながら、“ここは想定以上に滑るな、食っちゃうな”とか、リアルな感触を組み合わせて、走りを組み立てています。だから今回、走行前に1周だけ用意されたチェックランはとても大きい。チェックランではスピンしたってコースアウトしたって、マシンを壊さなければいい。だからチェックランから、どこまでコースが滑るのか滑らないのかを確かめるため、本番のつもりで、いや、本番以上に攻めて走りました」
シミュレーターの練習量が注目され、まだ免許も持たない若さも手伝って、次世代ドライバーだと捉えられる箕輪だが、だからこそ彼は実車で走る経験、その1周、1コーナー(ゾーン)で得た経験を、「自分にとっての財産だ」として誰よりも大事にしているようだった。その姿勢をさらに印象づけてくれたのは、決勝・追走トーナメントの前の練習走行だった。決勝はまず間違いなくドライになるはずだったが、練習走行時間はハーフウェット。目下の決勝・追走トーナメントの走りかたを組み立てるうえでは、あまり意味はない。それでも彼は走り込んだ。
「ウェットから次第にドライになっていく状況を体験することができたのは大きい。自分にとって大きな財産になります。これはシミュレーターでは再現できないし、天候だけは事前に準備できないので」
と、数万ラップもシミュレーションを続けて成長を続ける箕輪だからこそ、リアルな走行の1周、1コーナー(セクション)も無駄にはしない。その体験をとても大事に蓄積し、明日への糧としているようだった。この果てなき探究心のもとに、今回の優勝が成立したのだと思う。

ともあれ、YOKOHAMA / ADVANアスリートの二連勝を素直に喜びたい。そして、次なる闘い、第三戦エビスサーキットで三連覇となることにも期待が募る。それはYOKOHAMA / ADVANアスリートたちの誰にとっても「非現実的な夢」ではなく「現実的な可能性」として、あるいは「実現可能な目標」として、そこに存在している。
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