FORMULA DRIFT® JAPAN
未来へ向かってまっすぐに
ただひたすら“横を向けていく”
YOKOHAMA/ADVAN勢の挑戦。
2024.10.11
2024年のFORMULA DRIFT® JAPAN(FDJ)は、最終戦(第6戦)岡山国際サーキットの開催を待たずして、シリーズチャンピオンが山下広一(#37 / TMS RACING TEAM GOODRIDE / BMW E92)に決まった。大差をつけて獲得した彼の勝利を、まずは心から讃えたい。しかし、彼に追いつけ追い越せと挑戦を続けてきたYOKOHAMA/ADVANアスリートたちは、誰一人として最終戦を単なる消化試合とは考えてはいなかった。そんな彼らのファイナルランを追う。
Words:中三川大地 / Daichi Nakamigawa
Photography:安井宏充 / Hiromitsu Yasui(Weekend.)
「表彰台に上がる感覚は最高──
だからこそ頂点の景色を見たい」
シリーズランキング2位をかけたケングシ(#21 / Team Kazama with Moty’s / LEXUS IS500 F SPORT / Performance / Drift)は、チームメイトと真剣な眼差しで勝利へのアプローチを議論していた。今シーズン、幾度となく立ちはだかった障壁を乗り越えながら、マシンはほぼ完成の域にあり、彼自身もまるで身体の一部のごとく操っているように思えた。土曜日の予選・単走では、2本とも安定感のある走りを持って9位で通過している。
「岡山はコースが広くて、ハイスピードな飛び込みがあり、後半に連れてテクニカルに、そしてウォールをクリアする必要もある。ハイパワーなIS500には合っているし、何より大好きなコース。今年は回数を重ねるごとに調子よくなり、追い風も吹いてきたように感じています。エビス(第3戦 エビスサーキット)では、FDJで初の単走優勝を手にできたし、決勝・追走トーナメントでも2回ほど表彰台に上がれました。でも──、頂点だけがない。3年目のFDJへの挑戦で、目標はシリーズチャンピオンを獲得することでしたが、それが潰えたいま、きっちりと2位でシーズンを終えたい。もちろん、表彰台のてっぺんに立つことで成し遂げたい」
ケングシ(#21 / Team Kazama with Moty’s / LEXUS IS500 F SPORT / Performance / Drift)
トップドライバーとして認知され、常に上位にいるケングシは、意外にもFDJでは優勝経験がない。いつも2位以下に甘んじてしまっていた。本人はそれを冗談として笑い飛ばすが、内心は忸怩たる思いを持っていることは間違いない。だからこそ最終戦にはそのすべてをぶつけて挑んだ。
果たして、決勝・追走トーナメントでは順調に駒を進めているかに思えた。TOP32そしてTOP16は、安定感を感じさせながら、それでもオーディエンスを魅了させる走りを持って勝利を収めた。続くのはFINAL4をかけた箕輪大也(#771 TEAM CUSCO RACING/GRカローラ)との闘いである。箕輪については後述するが、ともにアメリカで開催されるFomula Driftの現役ドライバーにして、FDJではYOKOHAMA/ADVANアスリート同士でもある。期待の新星である箕輪に対して、ケングシは一歩も引かず、両者とも甲乙つけ難い走りを披露する。勝利を手にしたのはケングシだ。この勢いなら、いよいよ“優勝”が見えてくる。
しかし、次に挑んだ中村直樹(#999 / TEAM VALINO×N-STYLE / Silk Blaze Sports N-STYLE GR86)との闘いでは、僅差で決勝戦への切符を得られなかった。両者に共通する気迫に満ちあふれた走りには圧倒されたが、勝利の女神は微笑んでくれなかったようだ。とはいえ、予選・単走のリザルトを含めて、ケングシは最終戦岡山で3位となり、またシリーズランキング2位も確定した。それは俯瞰すれば立派な成績だ。だが、ケングシは1ミリもそこに甘んじてはいない。彼のキャリアにおいて、成し遂げなければならない大きな課題である“頂点”は、来年の課題として残った。しかし闘いが終わったその次の瞬間から、未来へ向けてモチベーションを高めていたのが印象的だった。
悔しい結果に垣間見える
大いなる未来への可能性。
今年、FDJ2からステップアップする形で挑戦を続けてきたサム・ルーカス(#11 / Team SAMMIT with Be Forward / S15シルビア)は、寝食を忘れるほどテストドライブとマシンセットアップに没頭し、前戦のグランスノー奥伊吹で初めてTOP32に残った。最終戦の岡山に挑む前にも自信がみなぎっていたが、練習走行でクランクシャフトが破損し、やむなくリタイヤとなった。高速ステージである岡山国際サーキットを見据えて、ブーストを2.2barまで高めて1200psを常用したからか。いや、サムのスキルが上がり、マシンの性能を限界まで引き出している証でもあるのだろう。過去よりもステージが上がったからこそ、起こり得る通過儀礼なのかもしれない。
サム・ルーカス(#11 / Team SAMMIT with Be Forward / S15シルビア)
そんなことを感じたのは金田義健(#770 / TEAM CUSCO RACING / GRヤリス)の言葉を聞いたからかもしれない。今年はCUSCOが仕上げたGRヤリスのステアリングを握るも、トラブルに悩まされたシーズンとなった。
「乗れてくるようになれば、いい意味でマシンにより負荷をかけることができるようになる。今まで出なかったトラブルも出るでしょう。今年はリアサスペンションのトラブルに悩まされました。だけど、その試行錯誤こそが、成長している証だと自分に言い聞かせています。今回、サスペンションは完治しましたが、動きかたが変わったりして、なかなかセッティングが思い通りにいかなかった。練習では乗れていたけど、本番でセッティングを失敗して。トップ32に残りたかったけれど、仕方ありませんね。でも、このGRヤリスにはまだ未知なるポテンシャルを秘めているということを再確認できた、いい経験でもありました。もし、この先も突き詰めていけるのなら、来年はもっとイケると思います」
金田義健(#770 / TEAM CUSCO RACING / GRヤリス)
と、金田もまた予選・単走で悔しくも散った最終戦となった。さらにはFDJのスタープレイヤーながら、FDJでは無冠の帝王であった齋藤太吾(#87 / FAT FIVE RACING / A90スープラ)もまた不完全燃焼で終わった。エントリー名にあるように、今回からようやくマシンをスープラにスイッチした。初戦でエンジンが壊れて以来、今年はアルテッツァで参戦を続けていたが、最終戦に来てようやく本来の参戦体制が整った格好となる。しかし予選・単走における2本の走行では、いずれもドリフトアングルを維持できずスコアは無得点に。2本目はウォールへの接触もしてしまうなど、結果を出すことができなかった。
「アルテッツァはフィーリングが良かったけれど、どうも思うように結果が出なくて。ようやくスープラを持ち込めたのは素直に嬉しい。でも、満足な練習はできず、ぶっつけ本番でセッティングをあれこれ変えながら走らざるを得なかった。予選・単走に挑む直前のセッティング変更が裏目に出たのが敗因。1本目に結果が出なかったから、2本目はマインド的にも警戒しすぎて、リズムが崩れてしまった。今回は悔しいけれど、いろいろと試すことができたので、来年にはつながると思う。やっぱり“本番を走ってこそ、一番勉強になる”ので」
NASCARのトップカテゴリーで使われるものを移植したというV8自然吸気エンジンは、他のどのマシンよりも凶暴な雰囲気を持っていて、まるで雄叫びのような快音を奏でる。それが決勝・追走トーナメントで聴こえなかったのは、少々、寂しさが残るものの、それでも来年へ向けての助走期間にして、大きなステップだと思える挑戦だった。
齋藤太吾(#87 / FAT FIVE RACING / SXE10アルテッツァ)
松井有紀夫(#19 / M2evolution マツモトキヨシ / BMW 220i Mスポーツ)は、予選・単走を11位で通過するなど、確かな手応えを感じさせた。スコア云々よりもむしろ、その大胆かつ緻密な走りを見るだけでも、調子よく乗れていることがわかる。持ち味の角度の大きさ、そして旋回の速さを持って、ライバルを凌駕する走りを前に未来への大きな期待を感じさせた。しかし、決勝・追走トーナメントではその勢いが過ぎたのか。追走の際にコンクリートウォールにヒットし、あえなく敗退となってしまった。
「先行の際のミスをリカバリーしようと焦る気持ちと、あとは立ち上がりで離されたリカバリーをしようと攻めていったのが裏目に出てしまいました。クルマは損傷してしまいましたが、身体はもちろん、これからのモチベーションもなにも問題ありません。数多といるライバルに対して、アメリカンV8を積んだBMW 2シリーズがどこまでできるのか、追求していきたい」
松井有紀夫(#19 / M2evolution マツモトキヨシ / BMW 220i Mスポーツ)
日米を魅了させる15歳がみせた
あくなき向上心と、その素顔。
もうひとり、スポット参戦ながら前回のグランスノー奥伊吹に続いて挑戦した箕輪大也(#771 TEAM CUSCO RACING/GRカローラ)がいる。アメリカのFORMULA DRIFT®にフル参戦している関係で、3度目のスポット参戦となった。なお、彼の地ではシリーズランキング4位につけていて、最終戦での現実的な目標としてランキング3位を狙っている最中である。
「ランキングがかかっていると、変に緊張しすぎたり萎縮してしますことがあるんですが、今年のFDJはスポット参戦なので思いっきり走ろうと思います。でも、それは気が楽というのとは違う。スポット参戦にも関わらず、チームの皆さまが、ロバンペラ選手が乗ったGRカローラを完璧な状態で用意していただいたことには感謝しかありません。チームメンバーを含めて応援してくださる方々の期待に応えたい。そのためにも、思いっきり楽しんで走りたい!」
誰もが「日を追うごとに“HIRO”は成長している」という。小学校低学年の頃から実車を使ってドリフトを始め、はじめて競技に出たのは11歳のとき。その後もレーシング・シミュレーターでの練習に没頭するなどして腕を磨いてきた新人類だ。「だんだん走れるようになってきたら、ものすごく楽しくなった」と本人はいうが、まさに好きこそものの上手なれだ。15歳のいまアメリカのFORMULA DRIFT®にフル参戦するだけでなく、シリーズランキング3位が射程圏内に入るほどにまでになるとは。その成長過程においてFDJは欠かせない存在であり、なによりも本人は機会があればいつも走りたがっている。
予選・単走の直前に箕輪は「TOP32に残ることがなによりも大事。上位を狙いつつも、空回りしないように、ミスなく確実に走りたい」といっていた。しかし、フタを開けてみれば、結果は95ptで堂々の単走優勝へ。1回目の走行で88ptを出せたことでプレッシャーから解放されて、2回目は「思いっきり楽しんだ」結果だという。15歳ながら整然と自分の気持ちをコントロールしていて、そしてなにより想定以上の結果を出してくるところに、器の大きさとその成長を感じる。
箕輪大也(#771 / TEAM CUSCO RACING/GRカローラ)
決勝・追走トーナメントでは順調に駒を進めていく。そしてTOP4をかけた闘いで当たったのは、冒頭で触れた同じYOKOHAMA/ADVANアスリートのケングシだった。
箕輪の先行、後追いともに、両者とも大胆かつ鮮やかな走りが脳裏に焼き付いて離れない。ふたりともごく滑らかに、深いアングルを持って際どいところまで攻めていく。ふたりはお互いに上を目指して必死に闘うライバル同士なのにもかかわらず、その走りを俯瞰すると両者が一緒になってひとつの作品を紡ぎ上げているような、不思議な連帯感を感じた。
しかし、箕輪の後追いの際、ビタビタに攻めた後半ゾーンでほんの一瞬、走りのテンポがケングシとズレたのか。箕輪が操るGRカローラのノーズを、ケングシのIS500に接触させてしまう。それはゼロコンマ1秒に満たないごく一瞬の判断、操作ミスなのだろう。この接触が直接的な要因となって、箕輪はここで敗退を喫することになった。

その後、箕輪はフロントエンドに負ってしまった損傷を、エンジニアやメカニックと一緒になってつぶさに観察していた。その表情はとても深妙で、心配そうで、まるで自分の愛車をいたわるような眼差しにも思えた。箕輪が育つにあたって必要不可欠な存在であるレーシング・シミュレーターでは、リアルな損傷を感じ取ることはできないが、だからといって彼に「乗って終わり」という意識はまるでない。皆で一丸となって闘うひとりであることを自分自身が熟知していて、なにより箕輪は「大勢の人間が天塩にかけて育てたリアルマシンを用意してくれて、FDJに出させてもらっている」という重みをよく理解していた。だからこそ、箕輪は速く、そして強いのだと思う。そしてこの15歳のトップドライバーは、TOP4をかける闘いで負けた経験をきっちりと糧にして、前を向いているようだった。
2024年のFDJでの、YOKOHAMA/ADVANアスリートたちの闘いは終わった。結果だけを見れば、忸怩たる思いをしたことがあったし、不完全燃焼で終わった場面もあるだろう。しかし、彼らに共通しているのは、前向きなモチベーションを常に持ち続けていること。レーシングドライバーはもちろん、誰にとっても欠かせない大切な気持ちだ。「勝つための秘訣。そして失敗しない要因──。それはいつも自分に自信を持つこと。弱気になった途端、何かよからぬことが起こる。ヒロはそれを知っているよね」と、チームメイトの金田義健は、最後にそんなことをつぶやいた。それは箕輪大也だけの話ではないのだと思う。
そんな挑戦する心をいつも胸に秘めて闘うYOKOHAMA/ADVANアスリートたちの、2024年の闘いは終わった。しかし、それは単なる通過点だ。FDJに象徴されるドリフト界への挑戦を、そしてモータースポーツ、モーターカルチャーへの挑戦をこれからも続けていく。
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