FORMULA DRIFT® JAPAN

特設ストリートコースで
それぞれの課題を乗り越え
ポディウムの頂点を目指す。

2024.8.30

後半になればなるほど多くのマシンが損傷し、疲弊していく。身体に傷を負いながらも、誰もがなんとか走り出そうとグリッドにつく。スコアを判定する4つのゾーン、そのアウトサイドの先にコンクリートウォールが存在する“特設ストリートコース”だからだ。四方八方を岩場に囲まれた峠道のような場所で、ドライバーは全開でオーディエンスを沸かせていく。国際サーキットとはひと味違うストリートっぽい“距離感”を感じるFORMULA DRIFT® JAPAN(FDJ)の第5戦 グランスノー奥伊吹の模様を追った。

Words:中三川大地 / Daichi Nakamigawa

Photography:安井宏充 / Hiromitsu Yasui(Weekend.)

シリーズチャンピオンを目指し
アップデートを続けてきた。

「スタートから1コーナー(ゾーン1)にかけてが登り坂で目測しにくいという課題があったり、マシンが大柄なのでタイトコーナーが窮屈だったりと、今までは苦手なコースでした。でも、今年からゾーン3にまでウォールが設置されて、むしろ好きなコースになりましたね。アメリカ(FORMULA DRIFT®)ではウォールのあるコースばかりだから慣れているんです。ウォールが目印になるので走りやすいし、必ずオーディエンスを沸かせてみせますよ」

ケングシ(#21 / Team Kazama with Moty’s / LEXUS IS500 F SPORT / Performance / Drift)は、土曜日の予選・単走の前にそう話して、悠然と立ちはだかるウォールコースに向かった。これまで4戦が終わった時点でのシリーズランキングは3位(224pt)。1位の山下広一(#37 / TMS RACING TEAM GOODRIDE / BMW E92)は305ptであり、81ptの差がついているものの、決して挽回できない範囲ではない。ケングシはもちろん、Team Kazama(風間オートサービス)のメンバー全員が一丸となった。

「今までの戦況を振り返ると、TMS RACING TEAM GOODRIDEのBMW勢に離される場面がありました。このIS500は多少重いマシンですが、エンジンパワーは問題ない。それを受け止めるタイヤ(ADVAN NEOVA AD09)にも絶大な信頼を置いています。だから、その出力性能をより効率良くトラクションに変えるために、ダンパーの交換をはじめサスペンション自体を見直しました。特に奥伊吹はスタートしてからの加速区間が登り坂になっている。トラクションは、あればあるだけいい。相手を引き離してアドバンテージとなります」

と、チームの代表を務める風間俊治は言う。このセッティング変更は確かに効果てきめんだった。しかし、練習走行および予選・単走は、それが裏目に出てしまう。強烈なトラクションで登り坂を駆け上がり、縦横無尽に振り回すことで、ドライブシャフトが折れるというトラブルが多発したのだ。練習から予選・単走にかけて、使ったドライブシャフトの数はなんと6本(!)。それでも、予選・単走は、87ptを獲得して8位で通過。その後、寝る間も惜しんでセッティング変更を繰り返したことでトラブルを見事に克服したように思えた。

実際、ケングシは決勝・追走トーナメントでは、華麗な走りの連続で順調に駒を進める。中村直樹(#999 / TEAM VALINO × N-STYLE / Silk Blaze Sports N-STYLE GR86)とは、一度のワン・モア・タイムを含め、永遠に終わらないと思えるほどの接戦を繰り広げながらGREAT8へと進出する。しかし、続いてTOP4をかけてのユキオ・ファウスト(#555 / SIDEX JAPAN WITH FIVEX BRASIL AND LBWK / S15シルビア)との闘いでは、ちょっとした目測違いからコースアウト&クラッシュを巻き起こしてしまい、悔しくも敗退となった。

ケングシ(#21 / Team Kazama with Moty’s / LEXUS IS500 F SPORT / Performance / Drift)

予選・単走で感じさせた、
YOKOHAMA /ADVAN勢の可能性。

ケングシばかりではなくYOKOHAMA / ADVANユーザーの誰もが、それぞれの課題を克服しながら堂々と闘った。なによりもサム・ルーカス(#11 / Team SAMMIT with Be Forward / S15シルビア)は、今年、FDJ2からステップアップする形で挑戦を続けてきたが、ここで初めて決勝・追走トーナメントへと駒を進めた。順位は25位だったものの、これまでTOP32にさえ残れなかったことを考えると驚くべき進化だ。

サム・ルーカス(#11 / Team SAMMIT with Be Forward / S15シルビア)

「初めての決勝進出。もちろん嬉しい! 今まで、最初にクルマを横に向けて放り込んだあとに、どうコントロールすればいいかわからない部分があって、自分の中で模索していました。でも、最近は毎日シミュレーターで練習しているので、クルマの動きをより正しく理解し、そして身体を反応させることができるようになりました。どんなコースでも、クルマがどんな動きをしていても、もう怖くはないし、扱いこなしているという自信がある」

と、サム・ルーカスは言う。彼はTOP16を賭けた闘いで、先に触れたケングシとの直接対決となり、彼の安定した走りを前にサム・ルーカスは後塵を拝したが、それでも未来へ向けて大きな可能性を感じさせる闘いとなった。

松井有紀夫(#19 / M2evolution マツモトキヨシ / BMW 220i Mスポーツ)は、今までの鬱憤を晴らすかのごとく鮮やかな走りが印象的だった。各ゾーンへの大胆な飛び込みでオーディエンスを沸かせながら予選・単走を10位で通過。しかし、決勝・追走トーナメントでは悔しくもTOP16で敗退した。

「ようやく真の意味で“クルマを操れる”と言えるくらいのセッティングが完成して、今回は結果こそ残せなかったものの、先へ向けて実のある闘いとなりました。FDJでは珍しいF型のBMW 2シリーズを使い、その上でエンジンもアメリカンV8(LSX)。この新しいパッケージをFDJに限らずドリフト界で流行らせようと思ってやってきました。でも定着させるためには、これで実際に闘う僕がいい走りをして、勝つしかない。絶対に実現させたいと思います」

松井有紀夫(#19 / M2evolution マツモトキヨシ / BMW 220i Mスポーツ)

松井は未来に向けて期待が持てる言葉を残した。今後への期待という意味では金田義健(#770 / TEAM CUSCO RACING / GRヤリス)も同じだ。今年、悩まされた足まわりのトラブルは、今回も解消することができず。サスペンションの付け根(アップライト)が破損する懸念があり、今回は練習なしの予選・単走2本目のみの一発勝負をした。TOP32にあと一歩届かず敗退となったが、この持病さえ解消させれば充分に勝てる可能性を感じさせた。

「練習はいっさいできずに、ぶっつけ本番で走って70ptでした。TOP32までわずか3pt届かずに敗退でしたね。“諦めずに自分を信じてやってみよう”と思って挑みましたが、甘くなかったようです。でも、ぶっつけ本番でもここまで走れる自信はついたし、次までにクルマ側の根本的な対策をして挑みたいと思っています」

金田義健(#770 / TEAM CUSCO RACING / GRヤリス)

そして予選・単走のハイライトとも言えるのが齋藤太吾(#87 / FAT FIVE RACING / SXE10アルテッツァ)だった。本来なら今回からスープラにスイッチする予定だったが、今回もまたアルテッツァで挑むことに。何度もトラブルに見舞われ、他車やウォールとも接触し、それでも諦めることなくドラマティックな復活劇を遂げてきた。そんな不死身のようなアルテッツァの、いよいよファイナル・ランとなった。

2019年にRDS(ロシア・ドリフト・シリーズ)で走らせたアルテッツァが、2024年にここまでの戦闘力を発揮するとはいったい誰が予想しただろう。特に今回の予選・単走は感動的だ。1本目にいきなり満点と思えるほどの迫力ある走りで95ptへ。これは問答無用のトップスコアで、予選・単走を1位で通過している。いつ何時もピカイチの存在感を持ち、いつも優勝候補と捉えられている齋藤だが、実はFDJにおける予選・単走の優勝は初めてとなった。

「単走は自分が思う通りに走れて、それが結果となって本当に嬉しい。2本目のほうがより攻めたんだけど、ちょっとミスがあって得点にはつながらなかった。とても調子がいい状態で、このまま決勝を突き抜けようと思っただけに、決勝は悔しいですね。ウォームアップのときから急にギアが抜け出して、だからなるべく変速しないような走りをしたけどダメでした」

という言葉にあるように、決勝・追走トーナメントでのTOP16を賭けた最初の闘いでは、ギア抜けによりクルマが急に失速し、そのまま敗退してしまった。残念な結果だが、次戦からはよりハイパワーかつパッケージングも有利というスープラが復活することに期待したい。ともあれ「予選・単走優勝」というのは、アルテッツァがひとつの有終の美を飾った瞬間だった。

齋藤太吾(#87 / FAT FIVE RACING / SXE10アルテッツァ)

渡米してより“強く”なった
15歳のトップドライバー。

今回のグランスノー奥伊吹にはもうひとつ、見過ごすことのできないエントリーがあった。昨年(2023年)には最年少優勝を飾ったほか、シリーズランキングで2位を獲得するなど、今年8月で15歳になったばかりという若さを感じさせないトップドライバー、箕輪大也(#771 / TEAM CUSCO RACING/GRカローラ)の参戦である。今年からFORMULA DRIFT®にフル参戦している関係で、初戦の富士スピードウェイ以来、2度目のスポット参戦となった。なお、箕輪はFORMULA DRIFT®でも何度か表彰台に上がった史上最年少のポディウムホルダーであるほか、第6戦シアトルが終わった時点でシリーズランキング3位につけている。

箕輪大也(#771 / TEAM CUSCO RACING/GRカローラ)

「アメリカはプロ意識が高くて、なによりも結果がすべて。言葉の壁と闘いながら、かといってそれを言い訳にもできない。常に与えられた条件でやらざるを得ない状況で、なおかつ結果を出さないといけない。そんな厳しい環境で揉まれて、ヒロは強くなったと思います」

と、箕輪大也の父であり、彼の挑戦に帯同する箕輪慎治は言う。その言葉を前にせずとも、箕輪はより大きくたくましく成長したかにみえる。顔つきも明らかにより凛々しくなった。質問を投げかけると、瞬時に自分の考えを脳内でまとめ、そして明快な回答を返してくれる。

「アメリカでは僕はまだルーキーだし、誰にも知られていない存在。だけど、いい走りをして結果を残したら、ファンはちゃんと盛り上がってくれるし、サインが欲しいとピットを訪れてくれるようにまでなります。逆に結果を出さなければ、誰にも見向きもされない。そんなダイレクト感はプレッシャーだけど、とても刺激的ですね。アメリカで闘うことによって、自分の走りの精度はより増していると思います。今回の奥伊吹だって、観客を沸かせる走りをして、もちろん優勝を狙います。でも、今回は初めての左ハンドルなので、そこには少し戸惑っています」

今回、箕輪は今年の開幕戦でカッレ・ロバンペラが乗った左ハンドルのGRカローラで闘うことになった。アメリカでも右ハンドルのGR86で走っているので、左ハンドルでの参戦は今回が初めて。サイドブレーキを使う際の手が逆になるし、左側に座ることになるので、今まで身体に染み込んだ瞬時の視線移動や、または空間把握に違和感が生じるという。増してFORMULA DRIFT®での渡米に加え、学業までが重なる忙しない日々を送るゆえに練習時間も取れない。前日の練習走行で初めてステアリングを握るような状態だった。

それでも箕輪の走りは練習から冴え渡った。チームメイトの金田は「左ハンドルに慣れないって言いながら乗り込んでいって、一発目からあんなにキレイな姿勢で壁沿いに飛び込むんだから、もう驚きでしかない。メンタル面、フィジカル面含めて、信じられないほど強くなったことが、練習走行の1本目から伝わってきた」と驚きを隠せないようだった。なおかつ予選・単走では91ptを記録して4位にとどまるも、箕輪の兄貴分である齋藤は「ヒロの走りは完璧だった」と口にした。予選・単走での優勝者が、箕輪の走りに驚きを隠さず立派だと認めたことが、とても印象的だった。

決勝・追走トーナメントもまた、箕輪の走りは大勢を魅了させた。TOP32、そしてTOP16では、先行では白煙を巻き上げてマシンを真横に向けながらも、まるで地面にへばりついているかのようにピタリと安定したラインを取り、追走車を寄せ付けない。追走になると今度は先行者固有のクセに合わせ、同じ角度でスレスレにまで寄せていく器用な走りへ。

そしてハイライトはGREAT8での闘いだった。相手は盟友であり先輩でもあるKANTA(#57 / TeamORANGE with LINGLONG tire / RZ34フェアレディZ)である。KANTAはもともと奥伊吹ラウンドを欠場する予定だったが、箕輪が参加すると聞いて居ても立っても居られずに参戦を決意したという。そんなふたりのバトルは、どこをとってもパーフェクトに近く、そしてオーディエンスを熱狂させる迫力に満ちていた。まるで永遠に決着がつかないかと思えたほどの接戦である。一度目のワン・モア・タイムを経ての再戦も、最後の最後まで決着がつかず。しかし、箕輪がゾーン3で軽くウォールに接触してごくわずか挙動が乱れたこと、そして追走での角度が浅かったことによって、箕輪は敗北を喫してしまった。

「KANTA選手に対しては安心して飛び込めるようなところがあって、だからビタビタに攻めて走ることができたので、とても楽しかったです。やっぱりKANTA選手のほうが、先行にしても追走にしてもよかったと思うので、悔しさというよりヤラれたな、という気持ちです。今回の立ち回りを振り返って次につなげたいですね。今年はアメリカのFORMULA DRIFT®をシリーズ3位で終えること。そしてFDJ最終戦の岡山にも出る予定なので、もっと左ハンドルの練習をして咄嗟に対応できるようにして、もちろん優勝を狙います!」

箕輪は最後、心の底からKANTAを讃えるように話していた。今回のグランスノー奥伊吹が終わった翌々日から、FORMULA DRIFT®第7戦グランツビルへの参戦のため渡米するという。忙しない日々を送る中でもそのすべてを糧として急成長する箕輪大也を含め、誰もが確かな手応えを感じていたYOKOHAMA / ADVANユーザーたちの、さらなる躍進に期待したい。

次戦はいよいよ最終戦。10月5~6日、岡山国際サーキットで開催される。勝っても負けても、2024年シーズンはこれが最後である。

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