FORMULA DRIFT® JAPAN

灼熱の“パワーステージ”で
障壁を乗り越え頂点を目指し
その先に見えた“景色”。

2024.7.12

高速コーナーが連続するコースで、とにかく最後まで踏み抜いた者が勝つ。そう思わせるような“パワーステージ”であるスポーツランドSUGOでFORMULA DRIFT® JAPAN(FDJ)の第4戦が開催された。この過酷なステージでYOKOHAMA / ADVANアスリートたちは、あらゆる障壁と立ち向かいながら、それぞれ課題を見出して勝つための模索を続けた。この挑戦はオーディエンスを熱狂させたとともに、彼らにとっても未来へ向けての大きな収穫となった。

Words:中三川大地 / Daichi Nakamigawa

Photography:安井宏充 / Hiromitsu Yasui(Weekend.)

レベルアップが著しいFDJで
自分の走りを貫くために──

「前回のエビスから続く足まわりのトラブルが、高速ステージであるSUGOではさらに露呈してしまいました。突貫で“闘える状態”にまで直してくれたチームには本当に感謝しています。それでもほとんど練習できなかったので、探りながら走らざるを得ない。単走1本目は成績が残せず、2本目へと挑むときにはすでにボーダー(TOP32通過ライン)すれすれにまで落ちていたので、相当なプレッシャーでした。それでも、点数を上げることのできるポイントを考えて走りました。どうにか残ることができたので、素直にホッとしています」

金田義健(#770 / TEAM CUSCO RACING / GRヤリス)は、FDJ2024 第4戦・スポーツランドSUGOの予選・単走が終わったときにそう話していた。1本目は75点、2本目は79点へと塗り替えて23位となり、無事に決勝・追走トーナメントへと駒を進めた。金田自身にして完璧な走りではなかったというが、結果として1本目の75点ではTOP32には残れなかった。それはFDJのレベルが加速度的に上がっている事実を物語っているように思う。

「確かにレベルは上がっています。マシンの性能やドライバーの技量が向上しているのはもちろん、海外から挑んでくる選手たちも、コースはおろかFDJの審査方法や雰囲気に慣れてきて、魅せ方がわかってきたんだと思います。特にSUGOは点数の差がつきにくいので、ちょっとでもミスをすれば、すぐに下位に沈んでしまう」

金田義健(#770 / TEAM CUSCO RACING / GRヤリス)

というハイレベルなステージに翻弄されたのが、金田と同じYOKOHAMA / ADVANユーザーである松井有紀夫(#19 / M2evolution マツモトキヨシ / BMW 220i Mスポーツ)やサム・ルーカス(#11 / Team SAMMIT with Be Forward / S15シルビア)だった。両者ともひと昔まえなら余裕でTOP32への切符を手にできると思えるような走りを披露しながら、現在のFDJレベルを前にしてあと一歩届かず、敗退となった。もう、70点台ではTOP32すら怪しい時代である。

:松井有紀夫(#19 / M2evolution マツモトキヨシ / BMW 220i Mスポーツ)/ :サム・ルーカス(#11 / Team SAMMIT with Be Forward / S15シルビア)

レベルの高さを象徴するもうひとりがケングシ(#21 / Team Kazama with Moty’s / LEXUS IS500 F SPORT / Performance / Drift)の挑戦だった。ケングシは1本目にはわずかなミスがありつつも79点を残し、次ぐ2本目にはいかにもケングシ節の流麗な走りで89点を叩き出した。予選・単走で4位通過という立派な成績である。この“4位”というのは昨年(2023年)と同じ結果だ。しかし昨年を振り返ると、その際のスコアは84点だった。今年ならそれは10位前後にとどまることを意味している。

「今回は練習から手こずっていて、1本目は思うような走りができず。2本目にようやく自分らしい走りに近づけることができました。SUGOは点数の差がつきにくいぶん、ジャッジは細かい部分をより吟味していると思うので、そこを意識しながら、角度やライン取り、そして振り返しの速さとか、自分の走りを丁寧に分析しながら走りました。もちろん、自分なりに楽しく走ることができたし、うまく決勝・追走トーナメントへとつながってよかったと思います」

「強豪に追いつき、追い越せ」
YOKOHAMA / ADVAN勢の闘い。

そんな猛者たちが競い合う決勝・追走トーナメントは、かた時も目が離せない接戦の連続となった。冒頭に触れた金田は、トラブルに起因する熟成不足などまるで感じさせない走りでTOP16へ駒を進め、次ぐGREAT8をかけて山下広一(#37 / TMS RACING TEAM GOODRIDE / BMW E92)と闘った。最初は両者ともにミスが露呈してワン・モア・タイムへ。その次はお互いに譲らぬ接戦で、下されたジャッジはまたもワン・モア・タイム。灼熱のSUGOの中でも集中力を切らさず、ポイントリーダーである山下にどうにか食らいつき、何がなんでも勝とうとする金田の気迫を感じさせた。3度目の闘いで、しかし結果として金田はあと一歩及ばず敗退してしまう。その原因は金田の追走、ゾーン1への進入だった。

「とにかく粘りに粘った。最後は思い切って進入で勝負をかけましたけど、わずかにアングルが戻ってしまい、それが敗因となりました。足まわりのトラブルを克服するのが精いっぱいで、本当の意味で私にとって“手足のように動かせるマシン”ではなかったんでしょう。でも、闘えるところまで来ているという実感はある。今回はとてもいい経験になりました」

いっぽうでケングシの決勝・追走トーナメントは順調に駒を進めていた。もともとSUGOは得意なコースだという。1000psを超えるIS500のポテンシャルを活かし切るかのごとく、その大柄なボディをエレガントな所作を持って真横を向けながら先行し、また追走ともなれば相手を圧倒するかのようにビタビタに攻めていく。盤石の強さを持ってFINAL4まで駆け上がり、準決勝の相手はダークホース的に勝ち上がってきた張 盛鈞/チョウ・シュンジュン(#27 / TMS RACING TEAM GOODRIDE / BMW E92)となった。

張のフライングにより赤旗が出た際に、ケングシはIS500が左ハンドルだったため旗が見えずにプッシング(追突)してしまうという、波乱万丈のスタートとなった。両者とも外装の損傷は痛々しいものだったが、それでも機関に問題がないことを知って、ほっと胸を撫でおろす。

応急処置からの仕切り直しは、まさに鬼気迫るものだった。両者とも一歩も譲らずにワン・モア・タイムへ。しかし、ハイパワーに加えて軽量性能に秀でていて抜群のフットワーク性能を持つTMS RACING GOODRIDE BMW勢を前に、追走の後半でわずかに差が開いたことで、ケングシは惜しくもFINAL4での敗退となった。

「マシンの状態は問題ありませんでした。単走や先行であれば、ちゃんと自分らしい走りに仕上げることができたと思います。タイヤ(ADVAN NEOVA AD09)も、走りを支えるにあたって武器になっている。だけど、IS500の重さが致命的な要因となって、あと一歩及ばずでした。TMSさんのBMWは、IS500よりも300kg近く軽いんじゃないかな。だから追走では“自分らしい走り”で、ついていくことができませんでした。悔しさはもちろんありますけど、今は“納得”の方が大きいかな。もっと軽量化をしなきゃいけないとか、マシンにしても僕のドライビングにしても、今回のバトルでいろいろと課題が見えました」

ケングシはすっきりとした表情でそう述べた。FINAL4で闘いを終えた格好となったが、それでも予選での4位という好成績のおかげで、見事、総合3位を獲得した。

記録より記憶に残してきた男が
頂点という“記録”を残すのか──

と、YOKOHAMA / ADVANユーザーを取り上げてきたが、ほかに忘れることのできない齋藤太吾(#87 / FAT FIVE RACING / SXE10アルテッツァ)がいる。冒頭で予選・単走のレベルの高さについて述べたが、齋藤は「そんなことお構いなし」と無言で訴えるかのような迫力の走りで2位通過している。スコアにして93点という結果である。

決勝・追走トーナメントでも順調に勝ちあがっていく。先に触れた金田を制したシリーズランキングトップの山下とのGREAT8での闘いでは、先行の際にリヤを追突(プッシング)されるなどのアクシデントに見舞われたが、それも即座の応急処置を施して完調へと復帰させる。どう猛なV8サウンドを轟かしながら、軽やかな身のこなしを持ってシリーズチャンピオンへと迫る走りは圧巻だ。結果、見事に山下を下して見事にTOP4へと進出する。

決勝(FINAL)への進出をかけたTOP4での対戦相手はKANTA(♯57 / Team ORANGE with LINGLONG tire / RZ34 フェアレディZ)である。これも両者とも一歩も譲らぬ走りでワン・モア・タイムへ。その後も、永遠に決着がつかないのではないかと思えるほど完璧な走りを続ける。結果、わずかな所作に“差”を見出したジャッジによって、齋藤はKANTAを抑えて決勝進出を果たした。ジャッジ3名のうち1名は再度のワン・モア・タイム判定を下したことからも、これがいかに接戦だったのかがわかる。

齋藤はFOMULA DRIFT®を筆頭とする海外では数々の“冠”を手にしているが、意外なことFDJでは優勝未経験だ。前回のエビス戦で齋藤のことを「記録より記憶に残す男」だと括ったが、あれだけ人びとの脳裏に焼き付ける走りを、あるいは復活劇を見せてくれていても、ここFDJでは「無冠の帝王」だった。しかし今回、決勝へと進出したことで、いよいよ本格的に優勝への期待が高まる。齋藤がFDJでFINALへと進出するのは2022年の奥伊吹以来となった。

しかし齋藤のアルテッツァは、気温30℃を大きく超えるSUGOの場でNASCARのV8エンジンを10000rpm近く回し続けて闘っているだけに、悲鳴を上げ始めていた。

「ひとりで走っているぶんにはそれほど問題がない。極限まで攻め続けるといっても、ある程度は自分のペース、自分の速度で走ることができる。しかし追走は、そもそも追いつかないといけない。そこが精いっぱいになると、より角度をつけたり、よりいい位置に持っていくのがどんどん難しくなる。もちろん、マシンにかかる負担もどんどん増えていく」

という齋藤の走りにアルテッツァは応えてきたのだ。まるで恐竜の雄叫びのようなサウンドにはいつも魅了されるが、出力性能自体はNOSを噴いて850psほど。軽量ボディにしてレスポンスがいいエンジンとはいえ、1000psを超えるライバルがザラにいるなかで、しかもSUGOという“パワーステージ”では、もはや限界に近かったのかもしれない。

齋藤太吾(#87 / FAT FIVE RACING / SXE10アルテッツァ)

決勝の相手は先にケングシを下した張 盛鈞/チョウ・シュンジュン(♯27 / TMS RACING TEAM GOODRIDE / BMW E92)である。抜群のフットワーク性能を持つマシンなのは誰もが認めるものの、今まで張の戦績は決して芳しいものではなかった。海外での参戦時代を含めて予選・単走で散ったことも数知れず。2024年のランキングも49位に沈んでいる。今まで思うような結果をまったく残せず、競技をやめようと思う時期まであったという。

両者ともに初優勝を賭けて挑むからこそ、その気迫は並大抵ではない。まさに決勝戦にふさわしい闘いとなった。命知らずかのごとく果敢に飛び込んでいるようでいて、しかし冷静に、マシンの動きをミリ単位で完璧にコントロールして追走を成立させていく。相手のミス待ちではなく、どこまで己の走りを昇華させるかの闘いとなった。マシン全体から湧き出るタイヤスモークの量も尋常ではなく、それは神々しいほどの光景だった。

結果はやはりパワー差が出たのだろうか。あるいは熱による弊害か。齋藤が追走する際の後半セクションで、わずかに差がついてしまったことで、その軍配は張に上がった。

「やれるだけ、やったんで──満足です。それよりも、今まで張さんの苦闘をいつも見てきたんで、彼を讃えたい」

と、齋藤は清々しい表情を見せた。そして「アルテッツァを使い切った」とも加えた。2019年にRDS(ロシア・ドリフト・シリーズ)をともに闘ってきた愛着のあるマシンにして、今年に入ってからも何度も損傷しては修理してを繰り返してここまできた。まさに戦友と呼べる存在だが、次戦からはもともと走らせる予定だったA90スープラを復帰させる。「使い切った」という言葉は、愛機アルテッツァに対する齋藤なりの最大の賛辞なのかもしれない。

そしてスープラも同じくNASCARのV8エンジンを搭載するが、アルテッツァのそれよりもぐっと新しく、パワーにして1100ps以上は出せるという。セッティングの自由度、そして熱対策にしても、小柄なアルテッツァよりは有利な点が多いはずだ。

灼熱のパワーステージであるスポーツランドSUGOで、齋藤太吾を含めたYOKOHAMA / ADVANユーザー勢は、それぞれに課題を見つけ、常に前を向いている。次なる闘いは第5ラウンド「グランスノー奥伊吹」。彼らが目指すのはもちろん、表彰台のてっぺんである。

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