FORMULA DRIFT® JAPAN
エビスの洗礼を受けて
YOKOHAMA/ADVAN勢が得た
“映えある未来”への感触。
2024.6.24
FORMULA DRIFT® JAPAN(FDJ)は、いよいよ中盤戦へ。第3戦の舞台はエビスサーキットだ。6月15日(土)の予選・単走、次いで16日(日)に追走・決勝トーナメントが開催された。伝統的なドリフトコースながらも、今年からコースレイアウトが変更されたことで新しい表情をみせるようになった。真新しい舞台においてYOKOHAMA / ADVANアスリートたちはあと一歩伸び悩んだが、それでも未来へ向けての“勝利への筋道”を確実に掴んでいた。
Words:中三川大地 / Daichi Nakamigawa
Photography:安井宏充 / Hiromitsu Yasui(Weekend.)
芸術的なほどに完成の域にある
「ケングシ×IS500」の走り。
「チームがマシンをきっちり仕上げてくれたおかげで、本当に調子がいい。チームのみんなに感謝しながら楽しく走って、今度こそ本当に表彰台のてっぺんに立ちたい」
闘いを前にしたケングシ(#21 / Team Kazama with Moty’s / LEXUS IS500 F SPORT Performance / Drift)はそういって笑みを浮かべた。FDJ2024の第2戦・鈴鹿ツインサーキットの追走・決勝トーナメントでは、盤石の走りをもって決勝にまでのぼり詰めたが、ライバルにあと一歩敵わず2位に甘んじていた。その悔しさを胸に秘めて挑んだFDJ2024の第3戦・エビスサーキットである。今年からコースレイアウトが変わり、8の字を描くようなタイトなステージとなった。速度域が低いもののそのぶんテクニカルで、なおかつセカンドアウトゾーン(ゾーン2)にはコンクリートウォールが設けられている。誰もが経験のない新コースとなるが、ケングシは「クルマに乗れている」自負があるのだろう。終始、落ち着いていた。
ケングシ(#21 / Team Kazama with Moty’s / LEXUS IS500 F SPORT Performance/Drift)
「レクサスIS500は大柄かつ大パワーのマシンなので、こういう低速コースよりも、大きな国際サーキットでの高速ステージこそが真骨頂かと思っていました。でも、前回の鈴鹿ツインでは窮屈になる感覚はまるでなく、まるで手足にように扱いこなすことができています。コンクリートウォールがあることを含めて、アメリカ(FORMULA DRIFT®)ではよくあるレイアウトなので、初めてのコースであってもすぐに馴染むことができました」
今回のコースレイアウト、事前の練習を経て誰もが難しいと表現していた。「最初に飛び込むゾーン1が90度近くあって、すごくタイトな印象を受ける。そこに飛び込んでいくアプローチをどうすべきか。じっくりと攻略することが必要だと思います」「コンクリートウォールは好きだけど、このコースはいびつな形をしているというか、曲率が一定じゃない。最初から最後までウォールにケツすれすれで走るのはけっこう難しいと思う」「風が吹かないとタイヤスモークが滞留しやすく、特に8の字で同じ場所へ帰ってくるとき、残ったタイヤスモークに太陽光が重なると前が見えなくなることがある」と、ドライバーの多くがその難しさを指摘した。
それをモノともせず走ったのがケングシの予選・単走だった。1本目から鮮やかな所作でコースを駆け抜け、そのラインにしてもアングルにしても、まるで非の打ち所がない走りでオーディエンスを魅了させた。結果はトップとなる93ポイント。予選の序盤で叩き出したこのスコアは、結局、最後まで誰にも塗り替えられることなく優勝した。初の単走優勝にファンは湧き立ったが、しかしチームと、そしてケングシ本人はいたって冷静だった。
「もちろん、嬉しいですよ! Team Kazamaと一緒に闘うようになって今年で3年目。今まで表彰台には何度か登りましたが、単走での優勝は今回が初めて。挑戦し続けたがゆえの、ひとつの収穫であることに間違いありません。だけどあくまで本番は、追走・決勝トーナメントという意識がある。明日も絶対に優勝して、オーバーオール・ウィンを獲りたい」
予選・単走後にケングシはそう話していた。どうやら優勝の決め手となった1本目は「安全マージンを取って探りながら走った」という。それでも93ポイントを獲得するような走りができていたことに驚愕する。さらに1本目の反省点を踏まえて、2本目はさらに攻めていたのが印象的だった。1本目で盤石のポイントを取れているがゆえ、2本目はマシンをいたわる意識が働くかと思ったからだ。それでも、コンクリートウォールすれすれにまで寄せていく様は、まるで妥協を感じさせないものだった。結果はごく微細なミスで89ポイントになったが、2位が90ポイントだとを考えると、いかに2本とも優れた走りだったかということがわかる。
続く日曜日の決勝・追走トーナメント。誰もが経験値の乏しい新しいコースレイアウトに、コンクリートウォールによる心理的圧迫、そして8の字であるがゆえの障壁。そうしたフィールドで、それぞれ走りかたの違うドライバーに寄せていく後追いには固有の難しさがある。
ケングシはそれでも揺らぎなく攻める。まずは盤石の走りでTOP16へと駒を進めると、次なる相手は、運命のイタズラか山下広一(#37 / TMS RACING TEAM GOODRIDE / BMW E92)となった。それは前戦の鈴鹿ツインでの決勝戦の再来にして、彼は初戦の富士スピードウェイでも3位表彰台を獲得している。いきなり決勝戦に相当するバトルである。
ケングシの先行は、早い振り出しからいかにもパワーマシンであることを感じさせる飛距離で、ゾーンにマシンを放り込ませる。単走という意味では予選を上回るほど完璧の走りで、この新しいコースレイアウトを完全に掌握したように思えた。
続くケングシの後追い。ゾーン1では、先行する山下へ極限まで寄せようと飛び込んでいく。ここで勝負をかけたのだ。しかし、山下の飛び込みと些細なタイミングが合わず、ケングシのほうからプッシング(接触)してしまう。これが痛恨のミスとなり敗退を喫してしまった。
「大ベテランにして、何度もチャンピオンを獲っている山下さんの力量は知っているし、だからこそ最初から勝負をかけないと絶対に勝てない。思いっきり飛び込んでいきました。でも横に向けたとき、相手の速さを読む際に一瞬の計算ミスがあって、待ちきれずに接触してしまいました。いかに自分が乗れていても、他者に合わせ込んで走るという追走の一番難しいところですね。もちろん悔しいですよ。だけど、思いっきり挑んで負けたので、不思議と悔いは残っていない」
闘いを終えたケングシは、悔しさを滲ませながらも意外なほど清々しい表情だった。接触したことをすべての人に詫び、自らのミスを認めるケングシは「思いっきり闘って負けた」というスポーツマンの顔をしていた。
「次はいよいよ菅生(スポーツランドSUGO)。ここは昨年も表彰台に乗っていて、自分にとって得意なコースです。コース幅が広く高速ステージなので、IS500の性格にも合っている。次こそは必ず勝ちたい」と、ケングシはそう言いながら、ヘルメットを置いた。
記録より記憶に残す
齋藤太吾イズムを見た。
齋藤太吾(#87 / FAT FIVE RACING / SXE10アルテッツァ)は、今回もオーディエンスを魅了させる圧巻の走りを見せつけていた。ハイライトは追走・決勝トーナメントのTOP16をかけた松山北斗(#774 / TEAM CUSCO RACING/ GR86)との闘いだ。先行、後追いともに両者一歩も譲らない接戦で、一度では判定が出ずにワン・モア・タイムへ。
しかし再戦での追走で、先行する松山のGR86が放出する大量のタイヤスモークが齋藤の視界を遮り、その先に齋藤を待っていたのはタイヤバリアだった。先述した「煙と太陽で前が見えなくなる」というコース固有の難しさが、齋藤を襲ったようだった。左フロントをタイヤバリアに激しくヒットさせ、足まわりを含めてボディを激しく損傷させてしまう。「コースに慣れていなくても、煙でまったく前が見えなくなっても、とにかく踏み抜く」という、いつもの齋藤スタイルにはオーディエンスが盛大な拍手を贈った。
齋藤太吾(#87 / FAT FIVE RACING / SXE10アルテッツァ)
誰の目にもリタイヤかと思われるほどの状態だったが、それでもレギュレーション上で規定される5分間の応急処置時間を使って、ふたたびコースへ戻ろうとする姿勢にふたたびオーディエンスが湧く。そこに0.01%でも可能性があれば闘いに挑もうとする齋藤の漢気を感じた。そして5分間のうち残り1秒(!)というところでものの見事に応急処置が完了し、ふたたびコースへ。マシンの状態は芳しくなかったが、それでもまた全開で飛び込んでいく。やはりこれぞ齋藤スタイルである。結果はコースアウトして敗退となったものの、齋藤は前回の修復劇と同じく、そこに居たすべての人に対して「記録より、記憶に残した」男だった。
進化と深化を重ね、勝利を目指す
YOKOHAMA / ADVAN勢。
同じくYOKOHAMA / ADVANユーザーである金田義健(#770 / TEAM CUSCO RACING / GRヤリス)は、虎視眈々と上位を狙っていた。事前の練習走行はままならず、規定された12本の公式練習のみで走りを仕上げてきたという。それでもデフのファイナルを調整し、足まわりを整え、ベストな空気圧を探る。コースの攻略方法は完全に見出していたかのようだった。
「ヤリスはオーバーハングが短いので、特にゾーン2ではコンクリートウォールが身体のすぐそばに迫るように感じますよ。でも、怖さはありません。感覚的にはすごく乗れている。予選・単走は攻めきれず20位に終わってしまいましたが、それでも余裕を持って冷静に走れている自負があります。今年から乗っているGRヤリスをようやく掌握した感じでしょうか」
と、いつも分析を欠かさない金田だが、実は決勝では不安材料があった。足まわりにトラブルを抱え、本人もちょっとした挙動の違和感を感じていた。それは決勝・追走トーナメントで露呈する。TOP16をかけた闘いで、リヤサスペンションが完全に折れたことで敗退してしまった。調子がよかっただけに悔しそうな表情を浮かべるものの、しかし金田はこのトラブルさえも前向きに捉えていた。
金田義健(#770 / TEAM CUSCO RACING / GRヤリス)
「このGRヤリスは昨年までは箕輪大也(#771 TEAM CUSCO RACING/GR86)が乗っていたマシンです。乗り手が変われば、扱いかたも変わる。ドライバーそれぞれの個性が出てこそドリフト競技です。だからこそ各部にかかる負荷だってまた違ったものになる。今回、サスペンションが破損してしまったものの、これは本当の意味で“自分が乗れてきた”証拠なんじゃないかと思う。乗れてきたからこそ、いい意味でマシンにより負荷をかけることができるようになった。当然、今回のように今までには出なかったトラブルだって出てくるでしょう。そうした意味では、マシンもドライビングもより熟成が進んだ証拠だと捉えています。もう、次のステージ(スポーツランドSUGO)が今から待ち遠しくて仕方ありません」
松井有紀夫(#19 / M2evolution マツモトキヨシ/ BMW 220i Mスポーツ)
と、彼らYOKOHAMA / ADVANユーザーたちは、今回のエビスでは誰もが志半ばで潰えて、残念ながら表彰台圏内まで入ることはなかった。しかし、誰もがとにかく前向きで、次なる闘いを今か今かと待ち望んでいるのが印象的だった。悔しくもTOP32に残ることができなかった松井有紀夫(#19 / M2evolution マツモトキヨシ/ BMW 220i Mスポーツ)やサム・ルーカス(#11 / Team SAMMIT with Be Forward / S15シルビア)も、未来へ向けて取り組む姿勢は同じだ。
サム・ルーカス(#11 / Team SAMMIT with Be Forward / S15シルビア)
次のステージである第4ラウンド「スポーツランドSUGO」が、7月6~7日と迫っている。夏場に差し掛かる厳しいコンディションにして、このタイトなスケジュールを乗り切って、YOKOHAMA / ADVANユーザーが「記憶とともに、記録を残す」ことに期待したい。
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