Race Report

2022 GRAN TURISMO
D1 GRAND PRIX SERIES RD.4&5
シーズン折り返し地点のエビス。
ライバル勢が上げた猛攻の狼煙。

2022.8.26

2022年8月20日/21日、エビスサーキット西コースを舞台に「2022 GRAN TURISMO D1 GRAND PRIX SERIES RD.4&5」が開催された。新型コロナウイルスによる行動制限も徐々に緩和に向かい、エビスサーキット西コースには大勢のD1GPファンが訪れ、客席もかつての賑わいを取り戻しつつある。そして折り返し地点となった今回、コース上においてもライバル勢が“ドリフト競技専用タイヤ”を投入し、シリーズ後半に向け新たな猛攻の狼煙を上げてきたのだった。

Words/ Photography:真壁敦史 Atsushi Makabe

期待の新星がスポット参戦
ベスト4まで駆け上がった

8月20日(土)21日(日)の連戦で開催されたD1GP 2022 RD.4 / RD.5 EBISUにおいて、ADVAN NEOVA AD09を装着して闘うドライバーはTRAIL MOTOR APEX RACING齋藤 太吾、TMAR x TEAM VERTEX上野高広に加えて、スポット参戦となるTeam ORANGE柳杭田 貫太の計3名。

D1GP発足時から参戦し数々の伝説を残してきた「Team ORANGE」は、その名の示す通りオレンジ色のマシンがトレードマーク。エビスサーキットの支配人としても知られる熊久保信重がリーダーを務めるチームで、柳杭田も普段はエビスサーキットの社員として勤務している。D1GPは今回が初の参戦となるが、FORMULA DRIFT JAPAN®️(FDJ)では22歳ながらに驚異的な走りを披露して優勝経験もある新星への期待は、だからいやが上にも高まるばかりである。

土曜日に行われたRD.4では繊細かつテクニカルな美しいラインで無事予選突破。しかし、ベスト16では、見事RD.4優勝を飾った#79 目桑宏次郎を前に敗退している。

そして翌日のRD.5、ここでも無事予選を突破した柳杭田は、FDJで鍛えられたアウト側を攻めた走行ラインで会場を沸かせた。

ベスト16では、開始早々に#70 横井昌志に圧倒的なドリフトスピードで引き離され、ベテランの威厳を見せつけられるも、2本目で横井のミスにより大逆転勝利を果たす。続くベスト8での#66 藤野秀之との対戦では、こちらも藤野のフライングによる大幅な減点で勝利を手に入れている。

こうして幸運も重なってスポット参戦にしてベスト4という大舞台に立つことになった柳杭田。迎えたベスト4での相手は、自身が最も尊敬しているドライバーの1人だと公言する#99中村直樹だ。

1本目は柳杭田の完璧なリードに対し、まるでサイドカーのようにピッタリと追従する中村。その見事な追走に客席から歓声が湧き上がる。しかし2本目では惜しくも、今季絶好調のドリフト界のエース相手に敗北を喫した。

柳杭田は、今回のスポット参戦にあたりチームからS15シルビアの車両提供を受けたが、マシン自体には数日前に初めて乗り、まだ数回しかテストランをしていない状況でのレースとなった。そんな不利な状況の中でもプレッシャーに挫けることなくベスト4まで登り詰めることができたことは、やはり持って生まれた才能以外の何ものでもないだろう。

ピットに戻ると熊久保(右写真右側)をはじめ、チームメンバーからの満面の笑みと拍手で出迎えられ、「あの追走はカンタのリードがあまりにも綺麗すぎたから直樹もあれだけ接近できたんだよ、良い経験したな」と師である熊久保に絶賛されていた。柳杭田は「初出場にして、とても貴重な経験ができて感謝しています。勉強にもなりました。でもまだまだこれが実力、これからもがんばります」と生き生きとした様子で語った。

マシンのセットも決まりだし
“あと一歩”の先も見えてきた

昨年起きた大きなクラッシュの影響でステアリング周りの不調に見舞われ続けてきた上野高広。毎戦、一通りの部品を新品に変えて挑んでいたが、根本的にボディの歪みが生じていたため、その歪みに合わせたアライメントが定まらなかったそうだ。しかし、キャスター角をはじめ、あらゆる調整の効果でようやくステアリング系のトラブルは治ってきたという。

自身が経営するエアロメーカー「VERTEX」エアロを纏ったLEXUS RC-Vがスタートラインにスタンバイすると、参加マシンの中で一段と美しいボディラインが輝いていた。かつては「ソアラ」を9台所持していたこともある、自他共に認める“ソアラコレクター”だった上野。そのイメージを受け継ぐと感じたのがこのLEXUS RCだったそうだ。

単走ではレクサスというハイエンドな重量モデルならではの唯一無二の大迫力なドリフトを繰り広げたが、残念ながらRD.4、RD.5共にベスト16に進むことは叶わず。

タイヤも含めたセッティングもようやく定まってきたと言うが、しかし、セッティングが決まり、フルパワーで走れるようになってきたからこそ発生した問題もあった。

「インタークーラーの破損がありました。マシンのトータルでのセッティングが決まってこそ勝ちにいける。点数は取れるようになってきたから、こういう小さなトラブルが防げるようになればもっといい線にまでいけていたかも」と、レース後の上野は悔しげにそう言葉を漏らした。

何があろうとも平凡には終わらせない
稀代のエンターテイナーの走り

エビスの山並みに機関銃掃射のようなアンチラグの乾いた炸裂音が反響した。会場のどこにいても走り出したことがわかる――そう、齋藤太吾の出走だ。

RD.1はFDJと日程が重なり出場することが叶わず、RD.2では魅せる走りをしたがDOSSの辛辣な判定により惜しくも敗退。RD.3では練習走行でのエンジンブローにより無念のリタイアとなってしまった齋藤。

そして迎えたRD.4。D1GPの2022年シーズンも折り返し地点となり、マシントラブルは克服し、セッティングも満足いくレベルにまで仕上がってきたという。

「マシンは100点、あとは、腕ですね」と、グリッドウォークでのインタビューでも齋藤は冗談まじりにコメントして会場を沸かせた。

単走では観客を興奮に導く圧倒的な音と共に凄まじい角度で走りきり、追走に進んだ。

難なく予選(単走)を通過して臨んだRD.4のベスト16では#46末永正雄との対戦。1本目の齋藤のリードでは高速かつ深い角度で振り出し、差をつけるとその後も着実に自身のラインを抑えることに成功した。しかしチェイスではヘアピンでインをつき、行き詰まってしまったことから失速、立ち上がりで引き離されてしまい、敢えなく敗退となった。

RD.5は、単走ではRD.4と同様、安定した走りで難なくベスト16に進出。

ベスト16では#52北岡裕輔との対戦となったが2本目でリードの北岡がスピン。齋藤は見事に北岡のマシンを回避してその後もミス無く完走し、高得点を獲得し勝利した。

続くベスト8ではTMARの僚友である松山北斗との対戦。共に齋藤が組み上げたブルーとオレンジのGRスープラがスタートラインに並んだ。

1本目、齋藤のチェイスではヘアピンで行き詰まり、ドリフト状態を維持することが不可能となり大きな減点となった。しかし、もう後がない極限の状態でこそ本領発揮するのがこの男の真骨頂。

2本目のリードではクラッシュ寸前で果敢にアウト側ギリギリのラインを攻め、砂埃を撒き散らしながらコーナーを抜ける。チェイスの松山も巧みな技術でドリフト状態を維持したまま待ち、息を呑む程のGRスープラのツインドリフトを繰り広げた。

齋藤はコースアウトとゾーン2の不通過でベスト8敗退という結果に終わったが、そんなことは問題にならないほど見る者の興奮を誘う“魅せる”走りであった。

それがどんな条件下であっても“普通の走り”では終わらないのが齋藤太吾の齋藤太吾たる所以。モータースポーツでありエンターテインメントでもあるドリフトという世界において、この男の存在はやはり絶対に不可欠だろう――改めてそう思わせるほど、今回のレースでも点数では表現できない記憶に残る走りで魅了してくれたのである。

ライバル勢が仕掛けてきた
ギリギリのラインでの攻防

齋藤太吾と松山北斗の駆る2台のGRスープラは同じ人間の手で組み上げられ、同じパーツで構成されている。言うまでもなく、違うのはドライバーとタイヤだけだ。

TMARのチームメイトでもありよきライバルでもある松山をサポートするタイヤメーカーは、ここにきてより強力なドリフトパフォーマンスを発揮する“ドリフト専用タイヤ”を実戦投入してきたのである。

「ライバル勢が自分たちよりもパフォーマンスの高いタイヤを投入してきた以上は、そこに対抗できるものを使わない限り勝負権をもつことができなくなってしまう」

普段から余計なことはほとんど口にしない齋藤ではあるが、その言葉はいつになく熱を帯びたものに感じられた。

プロフェッショナルなレースとは“勝つ”ために挑むものである。そう、それはまさしくコンペティションであり、他のライバルたちがギリギリのラインを攻めながら“より強力な道具”を用意して挑んでくる以上、それを正面から受けて立つのが当然の選択であることは確かだ。

次戦「2022 GRAN TURISMO D1 GRAND PRIX SERIES Rd.6&7」は10月21日/22日の日程で大分県の「オートポリス」で行われる。

いよいよ後半戦へと突入する最高峰のドリフトの舞台で、YOKOHAMA / ADVANがさらなる高みへと駆け上がっていくことに期待したい。

(了)

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