ニュースレター

それはポルシェから始まった ~欧州カーメーカーへの新車装着~

2017年12月12日

タイヤメーカーにとって、自社のタイヤが世界のプレミアムカーに新車装着されることは、その商品企画、生産、品質保証、物流など全ての面でトップレベルにあることの証明となる。ヨコハマタイヤが欧州カーメーカーから技術承認を得たのは1988年のポルシェが最初で、その後アストンマーチン、ベントレー、アウディ、メルセデス・ベンツなどから相次いで技術承認を獲得してきた。当時、欧州では無名のヨコハマタイヤがポルシェに新車装着されるに至った経緯、またその後、世界的カーメーカーからの新車装着獲得に向けて行った事業活動を紹介する(技術認証取得年は横浜ゴムの対外公表年による。以下同じ)。

*横浜ゴムは2017年10月13日に創立100周年を迎えました。この機会を捉え、本年のニュースレターでは当社の歴史的エポックとなった事業、製品などを紹介しています。

YOKOHAMA A008を欧州に投入

1980年代はじめ、横浜ゴムは欧州でのタイヤ販売強化に乗り出した。しかし欧州はミシュラン、コンチネンタル、ピレリなど世界的タイヤメーカーが競争する厳しい市場。ヨコハマタイヤは全くの無名であり、その中で知名度向上を図るには明確な個性が必要とされた。当時日本では「究極の走り」をアピールした乗用車用タイヤADVANが好評だった。そこで欧州でもADVANに代表されるHPT(ハイパフォーマンスタイヤ)に焦点を当てた個性作りを目指すことにした。その一環として1982年から欧州F3選手権、1984年にはル・マン24時間レースにもタイヤを提供し、モータースポーツ活動を活発化した。同時に「HPTのヨコハマ」を体感できる商品として、1983年からスイスでYOKOHAMA A008の試行販売を開始した。同商品は日本で1981年にADVAN-HF Type Dの名称で発売したタイヤで、当時では珍しい非対称パターンとグリップ力を高めたコンパウンドを採用し、高速走行時の操縦安定性、ドライ・ウェットグリップ性能を徹底して追求した商品だった。当時、商標の関係から欧州ではYOKOHAMA A008の名称での発売となった。

日本で1981年に発売したADVAN-HF Type D。欧州で1983年からYOKOHAMA A008の商品名で発売

ポルシェクラブで人気が高まり正式評価へ

YOKOHAMA A008はスイスのポルシェクラブで人気が高まった。ポルシェクラブはポルシェの愛好家で組織されたクラブで、会員らが自らハンドルを握りサーキット走行を楽しんでいた。新車装着タイヤをYOKOHAMA A008に替えるとラップタイム(周回時間)が縮まることから、タイヤを交換する会員が増え、この動きはその後ドイツなど各国のポルシェクラブに広がった。こうした事態に、ポルシェは新車装着以外のタイヤを使用しないようポルシェクラブに伝えた。しかし会員から不満の声が寄せられたため、ポルシェはにわかにYOKOHAMA A008に関心を持つようになった。1984年、ポルシェは横浜ゴムにYOKOHAMA A008の提出と本社を訪問するよう要請してきた。1985年、ポルシェによる正式な評価が始まり、横浜ゴムはポルシェ向け新車装着タイヤの開発をスタートさせた。

ドイツ・ニュルブルクリンクでテスト走行

ポルシェの要求はドライグリップ性能だけでなく、ウェットグリップ性能、静粛性など、高い次元でバランスを図ったトータル性能の向上であり、タイヤ評価は厳しいものだった。雨天を問わずアウトバーンを時速200km以上で連続走行することを想定し、テスト走行はドイツ北西部にあるニュルブルクリンクで行われた。高低差がありコーナーが連続する過酷な高速サーキットで、欧州を中心に世界のカーメーカーがスポーツカー開発のために利用していた。横浜ゴムはコース近くに自社独自のガレージを設営し、試作タイヤの走行テストを繰り返した(2006年、規模を拡大しヨコハマ・テストセンター・ニュルブルクリンクを設置)。このほか、低摩擦係数試験路でのハイドロプレーニング現象(タイヤと路面の間に水が入り込みハンドルやブレーキが利かなくなる現象)試験、時速300km以上での室内高速耐久試験など、それまで横浜ゴムが経験してこなかった数多くの評価項目をクリアしていった。

ニュルブルクリンクはアップダウンの激しい高速サーキット

2006年に設置したヨコハマ・テストセンター・ニュルブルクリンク

ポルシェ89年モデルの技術承認を取得

ポルシェによる評価が開始されてから3年後の1988年、YOKOHAMA A008をベースとして開発したYOKOHAMA A008Pの15インチサイズが、ポルシェ89年モデル924S、944、944Sの3車種について技術承認を取得。横浜ゴムにとって、欧州カーメーカーに対する初の新車装着となった。以来、ポルシェへの新車装着は今日に至るまで四半世紀以上に渡り続いている。この間の主な新車装着車種としては、911ターボ(1990年)、ポルシェボクスター(1997年)、911カレラ4(2005年)、カイエン(2010年)、パナメーラ(2014年)、911、718ボクスター、718ケイマン(2016年)などがあげられる。

ポルシェの技術承認を取得したYOKOHAMA A008P

YOKOHAMA A008Pがポルシェ技術承認を取得したことを訴求した広告(1991年)

映画007のアストンマーチンに新車装着

ポルシェへの新車装着の実績を踏まえ、横浜ゴムは1990年代後半から2000年代前半にかけ、欧州カーメーカーへの新車装着活動をさらに強化していった。欧州製プレミアムカーへの新車装着は、ヨコハマタイヤの信頼感を最も分かりやすく伝える手段であり、世界中でヨコハマタイヤを販売するための強力なセールスポイントになると考えた。この結果、1998年にプレミアムカー向け高性能タイヤA.V.S S/T type-1がメルセデス・ベンツ専用のチューニングメーカーであるブラバスのMV12、1999年にADVAN A038LTSがロータスのエリーゼ340Rとエリーゼ190、2001年にAVS SportがアストンマーチンのV12ヴァンキッシュ、SUV用タイヤGEOLANDAR H/T G038がダイムラー・クライスラーのメルセデス・ベンツG500、2002年にA.V.S S/T type-1がメルセデス・ベンツのチューニングメーカーであるAMGのG55 AMGにそれぞれ新車装着された。なかでもAVS Sportを装着したアストンマーチンは、2002年公開の映画007シリーズ第20作「ダイ・アナザー・デイ」でボンドカーとして使用された。

ADVANをグローバル・フラッグシップ・ブランドへ

2005年、横浜ゴムはそれまでの国内でADVAN、海外でA.V.Sというブランドの使い分けを止め、ADVANを横浜ゴムの最高技術を投入した高性能・高品質の単一グローバル・フラッグシップ・ブランドに位置づけ、世界トップレベルのスポーツカー、ラグジュアリーカー、SUV向けタイヤとして、新車用、市販用を問わず販売を強化することにした。特に新車用販売については、2005年に「世界OE(新車装着)プロジェクト」を立ち上げ、商品企画、生産、品質保証、物流など総合力の強化を目指した。すでにプロジェクト立ち上げ前から準備を進めており、2004年にはADVAN Sport V103がベントレーのコンチネンタルGTの技術認証を取得した。コンチネンタルGTは最高速度時速318kmに達する4シーター・クーペで英国を代表するグランドツーリングカー。世界戦略ブランドとして再出発するADVANの商品イメージを強烈に印象付ける新車装着となった。

新車用、市販用を問わずADVANを横浜ゴムのグローバル・フラッグシップ・ブランドにすることを訴求した広告(2005年)

2013年、市販用向けに発売したADVAN Sport V105。国内外のプレミアムカーに数多く新車装着されている

2016年から展開中のADVANのイメージ広告

メルセデス・ベンツ、AからSクラスまで新車装着

ADVANを前面に押し出した新車装着活動で、2006年にADVAN Sport (V103S)がアウディS8、2007年にAMGのCL63AMG、CL65AMG、ML63AMG、ADVAN WINTERがアウディのS6、S8、2009年にADVAN SportがアウディのQ7、2011年にもADVAN SportがアウディのA7スポーツバックの技術承認を取得した。中でも最も成果を上げたのがメルセデス・ベンツだった。同社からの技術承認取得は、2009年にADVAN SportがCクラス、2011年に同じくADVAN SportがCLS/SLKクラス、2012年にもADVAN Sport V105 MOがSLクラス、2013年にADVAN Sport V105 MOがA/Bクラス、Sクラス、2014年にGLAクラスと続いた。この結果、メルセデス・ベンツに標準装着された車種は、コンパクトカーからラグジュアリーカー、SUVまで広がることとなった。

*次号では、1998年から販売開始した日本初の本格的環境タイヤ「DNA」をご紹介する予定です。