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クルマ好きの期待に応える「ホビータイヤ戦略」

2018年12月25日

横浜ゴム(株)が掲げる新中期経営計画「グランドデザイン2020(GD2020)」。消費財タイヤ戦略における4つの柱の中で「ホビータイヤ戦略」は最も横浜ゴムらしい戦略である。ホビータイヤとは、車を単に移動手段としてではなく、車を楽しむために使用するタイヤを意味する。

ユーザーと強くダイレクトにつながるホビータイヤ

「ホビータイヤ戦略」について説明するタイヤ企画本部の大前貴睦

ホビータイヤと聞くと、見方によってはマーケット的に極めて小さく、ごく一部のユーザーに限られた分野だと思われがちだ。だから、なぜそれを戦略とするのか疑問をもたれることもあるが、見方を変えれば違う側面がはっきりと現れてくる。

ホビータイヤとは即ち、モノの価値がちゃんと評価されるタイヤであり、言わばユーザーとのつながりが強いタイヤである。ユーザーがタイヤに期待するもの―スポーツ性、ファッション性、安全性―こうしたユーザーの要望を形にして提供していくことでユーザーと強くダイレクトにつながっていく。ホビータイヤは横浜ゴムにとって、ユーザーとダイレクトにつながり商品の価値をしっかりと評価し購入頂けるからこそ事業として重要な役割を担っているのである。

古く、新しいカテゴリー、ヒストリックカータイヤ

その最もわかりやすい好例が、昨年復刻された「ADVAN HF Type D」だろう。ご存じの通り「ADVAN HF Type D」(以下、当時の愛称の「Type D」と表記)は、1981年に登場したハイパフォーマンスラジアルタイヤである。当時はまだ珍しかった左右非対称パターンを採用し、スリックタイヤのごとく大型化されたアウト側ブロックの大きさに、多くのユーザーが驚き、その性能を求めて大きなムーブメントを作り出した「ADVAN」ブランドの伝説的存在である。その「Type D」がおよそ36年の歳月を経て、2017年に国産ヒストリックカー用タイヤとして復活を果たした。そしてこれこそが正に、国産ヒストリックカーオーナーたちの熱き要望に応えた結果だった。

「愛車のタイヤを選ぶときに、履きたいタイヤがない」

「愛車のタイヤを選ぶときに、履きたいタイヤがない」これはヒストリックカーオーナーたちの、切実な悩みだ。195/70R14、185/70R13、185/60R13。こうした現代では入手や選択が難しいマイナーなサイズを履くヒストリックカーにとって、愛車のステイタスに相応しくなおかつ性能を担保できるタイヤはなかなか存在しない、というのが現状である。
ヨコハマタイヤで言えば、現代の「ADVAN」のようなスポーツタイヤではグリップが高すぎ、ボディを傷めてしまう。かといってリッターカーやミニバンたちが履くエコタイヤは、たとえ十分な性能が担保されているとはわかっていても、イメージに相応しくない。

こうしたヒストリックカーオーナーたちの声を聞きながら、横浜ゴムが100周年を迎えるにあたりその歩んできた歴史を振り返ることで、これからの100年にどのような価値を提供していくべきか考えていたところ、「Type D」をヒストリックカー用スポーツラジアルとして復刻し期待に応えることにつながったのだ。ヒストリックカー向け、しかも主に日本車をターゲットにしたタイヤはあまり前例がなく、新しいカテゴリーへの挑戦といえる。

トヨタ スプリンタートレノAE86 × ADVAN HF Type D

ニッサン スカイラインGT-R(通称:ケンメリ)×ADVAN HF Type D

「Type D」復刻ではヒストリックカーオーナーの声を元に、当時のパターンを最大限忠実に再現しなおかつ現代基準の性能を持たせることを目指した。そのため開発スタッフは、当時の設計図をもとに当時の開発を知るメンバーをたよりヒアリングを繰り返し、新たに設計図を起こした。対して構造部材はヒストリックカーのボディ剛性とバランスを取るべく入念に設計し、コンパウンドは高いウェット性能を確保したまま、やはりそのグリップレベルをヒストリックカーのボディにバランスさせた。

ヒストリックカーには、これからも気持ち良くたくさん走ってもらいたい、そして車を駐めたときはタイヤを眺めて誇らしい気持ちになってほしい、というヒストリックカーオーナーたちへの思いがこのタイヤには込められている。

スポーツラジアルタイヤ

スポーツラジアルタイヤというマーケットは、横浜ゴムが創り出したといっても過言ではない。奇しくもその代表作である「Type D」が、日本車のヒストリックカーに向けたタイヤという、また新しいマーケットを創り出したといえる。そして、その魂を現代に受け継ぐスポーツラジアルタイヤがある。「ADVAN NEOVA AD08R」や「ADVAN A052」だ。スポーツラジアルタイヤは横浜ゴムにおけるホビータイヤの原点ともいえる。

こうしたスポーツラジアルタイヤたちは、サーキットでのラップタイムやコントロール性、そして耐久性を重視するユーザーたちに長年受け入れられてきた。本格的なレースに参戦するわけではないけれど愛車を安全に思い切り限界まで走らせたい、チューニングした愛車の性能を最高レベルで発揮させたい、普段から履いているタイヤでそのままサーキットにおもむき走りを楽しみたい、こうしたピュアな気持ちに横浜ゴムは応えてきた。例えばチューニングカーショーなどで「ADVAN NEOVA」を見ないイベントはないほど、ユーザーからの厚い信頼を得ているのはご存知のとおりだ。

現またこれは日本だけに限ったことではない。例えばヨーロッパでは元来スポーツラジアルタイヤというマーケットが明確には無かったが、「ADVAN NEOVA」シリーズにおける初の欧州展開モデル(※Lotus 向け新車装着品「ADVAN Neova AD07」を除く)となった「ADVAN NEOVA AD08(2009年)」の販売開始により、ストリート向けタイヤながらより高いサーキット性能を楽しめる価値が高く評価され、ヨーロッパのユーザーたちの心をつかんだ。日本と同じように、ドイツにあるスポーツカーの聖地ニュルブルクリンクオールドコースでも、一般走行に並ぶ数多くのスポーツカーに「ADVAN NEOVA」が装着されている様子をみることができるだろう。

ニュルブルクリンク ノルドシュライフェ

また、近年ヨーロッパでは環境への配慮によりタイヤに対しても厳しい技術規制が科せられ、スポーツラジアルタイヤの継続は難しいと思われていた中、それら技術規格をクリアしつつより高いサーキット性能を可能とした「ADVAN A052(2016年)」を世界的に導入し、これからも走りたいというユーザーたちの強い要望に応えた。「ADVAN A052」はより多くのユーザー要望に応えるため、現在もサイズの拡充が進められている。

ホビータイヤ巨大市場、アメリカ

アメリカは2億6千万台を超える車が保有される、世界一の自動車大国だ。広い国土を持ち、移動といえば車が必須だからといえる。そうした背景に加え車を楽しむ文化も発達しており、例えばモータースポーツをはじめクラシックカーやカスタマイズ(時には修理も楽しみだ)などのテレビ番組やローカルイベントに日常的に触れる機会も多い。つまりアメリカは、世界有数の巨大なホビータイヤ市場なのだ。

ヨコハマタイヤ・コーポレーション(1971年当時)

横浜ゴムは1969年に現地タイヤ販売会社「ヨコハマタイヤ・コーポレーション」を設立し、早くからアメリカでの事業拡大を目指した。実はそのとき、ホビータイヤが重要な役割を担っていたのである。例えばアメリカではグラスルーツのモータースポーツが盛んだが、当時のスポーツタイヤである「A001-R」(日本名ADVAN HF-R)をサーキットに持ち込み販売し始めたところ注目を集め、結果的にハイパフォーマンスブランドと評価される現在の土台を築いた。
オフロードでは「SUPER DIGGER」(現GEOLANDARの前身)ブランドによる商品ラインアップの拡充を進め、Bajaで使われる様になるなどオフロードエンスージアストの心をつかんだ。つまり横浜ゴムは、ホビータイヤが評価されることで今のアメリカでのブランドロイヤリティを築いてきたのである。

アメリカでは週末にオフロードコースや岩場でクロスカントリー4WD車やピックアップトラックでの走りを楽しむユーザーがいる。こうしたオフローダーたちの需要は全米の人口比率的には小さいが、販売規模に当てはめれば巨大なマーケットである。横浜ゴムは、近年「GEOLANDAR MT G003(2017年)」「GEOLANDAR X-MT(2018年)」といった商品性の高いマッドテレーンタイヤを相次いで投入するなど、アメリカでのホビータイヤの強化を現在も加速させているのだ。

カジュアル/ドレスアップタイヤ

タイヤの性能をあますところなく発揮して、サーキットやオフロードを思う存分走ることもクルマの愉しみ方のひとつなら、思い思いのカスタマイズでドレスアップを楽しむことも、カーライフの愉しみ方だ。こうした感度の高い人々にとって、タイヤも有効なファッションアイテムである。彼らはよりファッショナブルにカスタマイズするため、いつも新しくユニークなタイヤサイズやデザイン性を求める。横浜ゴムもそのトレンドに応える、またはトレンドを創り出すユニークなサイズやデザインの開発にも取り組んでいる。

例えば、デザイン性に優れたトレッドパターンやユニークなハイインチサイズを持つSUV向けドレスアップタイヤ「PARADA Spec-X」や、ホワイトレターを施した1BOX・バン向けドレスアップタイヤ「PARADA PA03」などがその代表だ。スポーツカー向けでは「ADVAN FLEVA V701」がいい例だろう。

なお、ドレスアップカスタマイズにおいてはファッション性を重視するあまり、時には安価なことを好まれ走行性能や安全性能が軽視されてしまう危険もある。そこで横浜ゴムは、例え大内径のインチアップサイズやデザイン性を重視したパターン、価格を考慮したタイヤであっても、培ってきた技術力を元に十分な安全性能を確保した商品を開発し届けるポリシーを貫いている。例えばスポーティーカー向けタイヤである「ADVAN FLEVA V701」は多くのカスタマイズ向けサイズをラインアップしているが、その多くが国内の低燃費タイヤ等ラベリング制度におけるグレーディングA/aを達成するなど、高い安全性能と環境性能を確保している。この安心感も世界中のカスタマイズチューナーやユーザーたちから支持されている所以であろう。

カジュアル/ドレスアップタイヤの装着例「PARADA Spec-X」

カジュアル/ドレスアップタイヤの装着例「ADVAN FLEVA V701」

ホビータイヤ戦略

世界のタイヤ市場は、その規模の拡大とともに製品のコモディティ化も進んでいる。規模に優れる巨大メーカーやコスト競争力に優れる新興メーカーなどで競争が繰り広げられ、市場はより厳しさを増しているのだ。また自動車業界という観点でも、自動運転やシェアリングなど100年に一度の変革といわれており、これらは今後のタイヤ市場にも少なからず影響があるだろう。

そのような状況の中で、横浜ゴムは付加価値の高い商品を提供することによってユーザーの期待に応えていく戦略をとった。理由は、一般的にタイヤのコモディティ化がより進んだとしても、車を楽しむユーザーがいる。横浜ゴムの得意とする価値を評価して頂ける、横浜ゴムを必要としているユーザーが世界中に多くいるからだ。つまり、ホビータイヤを提供していくことが、横浜ゴムの存在意義であるからこそ、ホビータイヤ戦略が中期経営計画の戦略のひとつの柱として掲げられたのである。