Grip the Soul

NEOVA AD09の産みの親、
織戸 学がその完成度を再考する。

2024.4.26

“最強のストリートスポーツタイヤ”ことADVAN NEOVA AD09の発売がはじまってから早2年の月日が経過した。サイズラインナップの拡充を図りながらより多くの“走り好き”のユーザーからの支持を集めているAD09。その“産みの親”とも言える織戸 学が、改めてNEOVA AD09と向き合った。

Words:髙田興平 / Ko-hey Takada(Takapro Inc.)

Photography:安井宏充 / Hiromitsu Yasui(Weekend.)

突出し過ぎることのない
バランスの良さがある。

ストリートスポーツタイヤとして最強であること──

これはADVAN NEOVA AD09に与えられた使命であり、揺るぎない誇りでもある。

2022年2月にNEOVA AD09の発売が開始されてからすでに丸2年の月日が経過した。その間にサイズラインナップの拡充を順次図りながら、今では世の多くのスポーツドライビング愛好家たちからのNEOVA AD09への支持が集まっている。

「今回はサーキット、しかも世界屈指の高速コースである富士スピードウェイでAD09を履かせた91スープラ(6速MT)をドライブしてみました。マニュアルトランスミッションのFRスポーツカーとAD09との相性はやっぱりいい。何より運転していて楽しい気持ちになれる。開発テストの最終評価(エビスサーキット東コースで実施)も90スープラ(8速AT)だったけれど、さらにスピードレンジが高くてその分だけ荷重もかかる富士でもタイヤから伝わってくるインフォメーションの良さは変わらない。何かひとつだけが突出し過ぎていないバランスの良さを感じる。それがNEOVA AD09のコンセプトであり魅力。サーキットでタイムアタックをするためだけではなくて、タイヤを通じてクルマとしっかり対話をしながら、誰にも気持ち良くスポーツドライビングを楽しんでほしい、という想いを込めて開発したタイヤがこのAD09です。改めて、その狙いが間違っていなかったことを実感できましたね」

NEOVA AD09の製品開発の牽引役としてチーフ開発ドライバーを務め、同じく開発ドライバーの谷口信輝や柴田優作、そしてYOKOHAMA / ADVANの開発チームとともに多くの時間を費やしながら新時代のNEOVAを育て上げ、世に送り出した織戸 学の言葉である。

「何よりナチュラルであることを意識しました。タイヤが転がり出した瞬間から安心感があって、センターの初期レスポンスもしっかりある。マイルドなのに芯があって、例えば今日のシチュエーションならピットからちょっと曲がってレーンに出るだけでもナチュラルなグリップが感じ取れる。もちろんコースインしてペースを上げて行ってもフィーリングは変わらず安定している。高い速度からのブレーキングやコーナーで強く荷重が掛かってもその感覚が大きく崩れることはないし、常に4輪からの明確なインフォメーションがあるから余計な不安や怖さを感じずにクルマをコントロールすることに集中できる。ステアリングを切り込んで行った先にしっかりと芯(手応え)があるから、グリップを粘らせながらさらにグウーっとコーナーの奥まで切り込んでも行ける」

コースサイドから見る織戸の走りはかなりハイペースなものだった。それはもちろん“攻める”という域とまでは行かなくとも、富士のレーシングコースのラインを美しく滑らかにトレースしていく様を眺めていると、こちらにも自然とその気持ちよさが伝わってくるほどだった。

「現代的なシャープさと人の五感に訴えかける生(ナマ)の感触──ある意味で相反するその両面がAD09には良くバランスされています。現代のクルマは日を追うごとに驚くほどの高性能化を遂げているし、それを制御するためのデジタルデバイスの進化スピードも早い。より明確な数値の向上だけを追い求めるのなら、そういう進化のさせ方も否定はしないけれど、やっぱりそこに人間の生(ナマ)の感覚が介入できないのではつまらない。タイヤだってそこは同じじゃないかな。ラップタイムのような明確な目標を追い求めるならよりハイグリップを突き詰めた選択肢もある。でも、それを真に使いこなすにはそれ相応の腕とスキルが求められるし、純粋にクルマとの対話を楽しみたいという一般ユーザーが、そこに気持ち良さを感じ取ることは難しくもある」

何かひとつだけが突出し過ぎていないバランスの良さ──富士での走行を終えてクルマから降りた織戸が、どこか満足気に評価した言葉の意味を改めて考えてみる。例えば腕利きのプロが扱えば途方もないラップタイムを叩き出せるレーシングカーは、確かにパフォーマンスそのものは圧倒的だが、その芯の部分を誰もが簡単に掴み取ることはできない。逆にコンフォート性や環境性能に特化したタイヤであればスポーツドライビングの芯を支える強い粘り(グリップ)はどこかでトレードオフされもする。NEOVA AD09はそういう視点で捉えたときに、純粋に運転を楽しむ層に対して日常域も含めたより幅のある部分での高い満足感をもたらす、まさにバランスに優れた性能が備わっていると映る。

RZマットホワイトエディションをベースに「AKEa MAX ORIDO」のエアロパーツを装着したA91スープラ。ADVAN Racing R6(F:20×9.5J / R:20×10.5J)にNEOVA AD09(F:265/30R20 / R:295/30R20)を組み合わす。(写真右)富士スピードウェイのレーシングコースを30分ほど周回してもトレッド面のフェイスが崩れない耐摩耗性の高さが光る。AD09は緻密に最適化した専用の非対称トレッドパターンと粘弾性のバランスを追求した新コンパウンドを採用することで、ラップタイムの短縮が期待できるドライグリップに加え、アマチュアドライバーを助ける優れたコントロール性、サーキット走行でも長く使用できる耐摩耗性能が実現されている。

「ほら、トレッド面を見てみて。結構なペースで富士を30分くらい走ってもフェイスがほとんど崩れていないでしょ? これはAD09が耐摩耗性にも優れている証拠。開発ではケース剛性を高めブロックも強く、何よりしなやかに鍛えることにこだわりましたからね。サーキットでのスポーツドライビングを楽しんで、そのままタイヤを履き換えることなく家まで気持ち良く帰ることができる。ストリート主体の使い方をする人にとって、これは嬉しい性能だと思うな」

現行モデルのA91スープラの傍には織戸 学の代名詞でもある真紅の80スープラが佇んでいた。戦闘的ながらエレガントさも秘めるRIDOXのエアロを身に纏ったその姿は、ともあれ今の時代のクルマがどこかで失ってしまった有機的な美しさ、言わばロマンの息吹を見るものに感じさせてくれる。

600ps級のハイチューンが施されたRIDOX JZA80スープラ。前後19×10.5JのADVAN Racing RZ-DF2に前後275/35R19のNEOVA AD09を組み合わしている。極限までツライチを追求したそのスタンスが目を惹く。織戸自らがデザイン案を描いたAD09のトレッドパターンと張りのあるショルダーがさらなる凄みを演出する。

「この世代のスポーツカーはボディの剛性も現代のクルマと比べたらけっして高くはないし、ブッシュ類だって時代相応なところもある。でも逆にそうした部分こそが、操る側には生きた感触として伝わってもくる。ボクのスープラのようにしっかりチューニングを施せばパワーが増す分、そのパワーを御する楽しみも増す。誤解を恐れずに言えば御する歓びは現代のスポーツカーより遥かに高い。そして、AD09はこの世代に履かせてもすごくいい。少し暴力的とも言える生(ナマ)のパワーをタイヤがグウっと全力で受け止めてくれる感覚が堪らない。ねじれとたわみのバランスが適切で、ねじれてからスパッと戻る感触はまさしくタイヤが生きているかのようにすら感じられる」

「本当にオールラウンドなんだよ、NEOVA AD09は──」

織戸はどこか噛み締めるようにそう言った。

現代のスポーツモデルはもちろん、旧世代のマシンであってもカバーする性能。敢えて何かひとつを突出させることなく、あくまでストリートを主体にタイヤと対話するための性能を追い求めた結果、そこに導き出されたのは幅も奥行きもある、まさにオールマイティな仕上がりのストリートスポーツタイヤの姿だった。

一方で、スポーツカーマーケットにおける時代の流れがさらなるハイグリップ志向に入っていることも確かである。現代のスポーツカーの性能は天井知らずに進化を遂げ、誰もが享受できる安全かつ快適な大パワーが台頭し、それに比例して車重も増し、純正装着の時点で20インチや21インチといった大径サイズのホイール&タイヤが採用されてもいる。

「NEOVA AD09の完成度に不満はありません。走ることを純粋に楽しむ人たちに愛してもらえるタイヤに仕上がったと思っています。ただ、また別の側面では時代は常に進化をしているとも感じています。これはあくまでボク個人の想いだけれど、NEOVA AD09は幅のある層に受け入れてもらえるタイヤだからこそ、この先へと進化し続けるスポーツカーマーケットに呼応したスポーツタイヤとしての進化を遂げられたら、理想ですね。ストリート最強を謳うスポーツタイヤだからこそ、この先もNEOVAがさらなる高みへと進化し続けることを願っています」

※横浜ゴムのタイヤ商品内における位置付け

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