YOKOHAMA LOVERS

人呼んで“BATTLE LEXUS”
レクサスGSで高みを目指す──
“スタイル”を貫く若き熱血漢の肖像。

2024.3.4

「Attack筑波2024」が開催される筑波サーキットのパドックに、1台の4ドアセダンが佇んでいた。そのレクサスGS350(S19型)はタイムアタック車両としては不向きなイメージがあるものの、その実、どこか不思議なオーラも放つ。好きモノの間で“BATTLE LEXUS”と呼ばれるこのマシン。唯一無二とも言えるそのスタイルを貫く、若き熱血漢の姿に迫ってみた。

Words:髙田興平 / Ko-hey Takada

Photography:岩井田涼太 / Ryota Iwaida(Unripe)
村田宏 / Hiro Murata(TOKYONÜR)

自分自身の大切な趣味の領域。
だからこそ、人任せにはしたくない。

「設定していた目標タイムには届かなかったですけど、これまでの筑波での自己ベストから1秒近くは縮められたのでまずは“よし”としたいかなと。奮発して履かせた新品のA052も自分が狙ったラインをきちんと通れるから楽しかったですしね。まあ、午後のフリー枠がキャンセルにならなければもう少しタイムを縮められたことは間違いないです……。ツルツルのユーズドばかり履いていた自分にとっては、新品のA052のフィーリングはそれくらい良いものだったので。タイヤ自体、縦も横もまだ全然使い切れてはいないので、正直、そこはフラストレーションもありますね(笑)」

(Photo: TOKYONÜR)

はじめて挑んだ「Attack筑波」でのスーパーラップ(アタック出来たのは午前枠のみ、午後枠は前のクラスの赤旗中断などの影響で惜しくもキャンセル)を終え、松山真輝(まつやま・まさき)は悔しさと楽しさとが絶妙に入り混じった表情でそう話してくれた。この日に彼が記録したベストタイムは1分3秒991(以前のベストは1分4秒7)。マシンはレクサスGS350。S19(GRS191)型は、2005年から2012年まで生産されたモデル(松山のGS350は2008年式)ですでに16年落ちの4ドアセダンである。

「はっきり言ってサーキットでのタイムアタックには絶対的に不利なクルマです。それは誰よりも自分がいちばんわかってる(笑)。車重は1500kg以上あるし、おまけにエンジンも基本はノーマルでミッションだってトルコンのオートマですからね。でも、ボクは何より好きでこのクルマで走っています。本当はJZX100系のクレスタかチェイサーが欲しかったんですよ。D1GP(ドリフト)を観ていた子供の頃からの憧れでしたから。フツウの4枚ドアなのに速い、ってところが好きだった」

(Photo: Ryota Iwaida)

現在30歳の松山が19歳で免許を取って最初に手に入れた愛車はAE86(ハチロク)。このクルマはドリフトにハマって「2年くらいでグチャグチャ(笑)」にしてしまったという。結果、必然的に乗り換えに迫られ、憧れだったJZX100系を物色するもすでに中古車価格が高騰をしはじめていて断念。すると彼は「1600ccのハチロクでも自分の腕には十分速かった」と思考を切り替え、「ならば」とより排気量の小さい660ccのスズキ・アルト(HA23型)を手に入れた。

(Photo: Ryota Iwaida)

「まず運転をきちんと覚えたいというのが頭にありましたね。だからこそ、小さいクルマでフルにエンジン回してクルマ自体の限界を感じ取ろう、って発想になった。アルトではドリフトよりもっぱらグリップでした。タイヤはネオバのAD07。軽でもサイズがしっかり用意されているのが良かった。ハチロクのときからネオバは履いていましたね。ADVANのタイヤは路面からのインフォメーションに優れているのが今も昔も好きなポイントです。ボクはタイヤから伝わってくる路面の情報にどれだけ正確に反応してコントロール出来るかが、自分が求める優れた運転技術のキモだってずっと思っています。それはドリフトでもグリップでも同じです」

GS350は今から6年ほど前に手に入れている。ちなみにアルトはナンバーこそ切ったものの今も手元に残しているというから増車である。このときもJZX100系が頭をよぎったと松山は言うが、あり得ないほど高騰した中古車価格はもはや「純粋に欲しい」という気持ちには繋がらなかった。それでも「オトナになったから4枚ドアがいい」というブレない想いの中で浮上したGS350は価格的にも納得出来るものだったことに加え、「他とカブらない」という点も魅力的に映ったのだという。

(Photo: Ryota Iwaida)

松山が選んだGS350に搭載される2GRエンジンは3.5ℓのV6で最高出力は315psである。ハチロクからアルトと乗り継いだ20代半ばの青年にとって、「300馬力」は十分以上に興奮できるものだった。

「2GRは交機の覆面(パトカー)と一緒。だから丈夫で速い。吸排気には手を入れていますけどその他はコンピューターも含めて余計なことはしていません。サーキット走行のためにデフ(LSD)とアシはしっかりやっています。ダンパーはダートラのプロの人に好みを伝えてオリジナルで組んでもらっていますけど、モディファイは基本自分の手でやることにコダワっていますね。ボディの補強やマフラーの製作、それこそ塗装だって出来ることはすべて自分でやるスタンス。そこはあくまでボク自身にとっての大切な趣味の領域なので、だからこそ、人任せにはしたくないんです」

(Photo: Ryota Iwaida)

自分自身の限界と
等身大で向き合っている。

松山のレクサスGS350のキャラクターを決定付けているのはボディの横っ腹にドカンっと1枚で貼り込まれた「PETRONAS / ペトロナス」のグラフィックである。

「これはS耐(スーパー耐久)でかつてペトロナスカラーの19 GSが走っていたことも影響しています。縁もゆかりもないカラーリングにすることには抵抗があったので、S耐マシンの存在は大きかった。とはいえ、丸パクリのレプリカにもしたくなかった。グラフィック自体は痛車をやっている子にお願いして、ボクの中にあるイメージを伝えながら仕上げてもらいました。地元が神奈川県の相模原なので昔の神奈川のドリ車風の“斜め貼り”にコダワリましたね(笑)。ボクはこのGSでドリフトもやるし、置きのイベント(カーショー)にだって出たりもします。そうしたすべてを含めての趣味なので。だから見た目も大事。
もちろん、ドリフトもタイムアタックも、やる以上は真剣に取り組みはしますけど、勝つことを目的にやってはいないというか、何より自分が楽しめることがいちばん。ドリフトに関しては自分としてはエンタメ的な要素もあるし、アタックだって敢えてこのGSで挑むことで面白がってくれる人もいる。そうやって自分のスタイルを貫きながら見る人にも喜んでもらえる、というエンタメ寄りの精神もまた、このクルマを仕上げていく上での大切な軸となるものだと思っていますね」

(Photo: Ryota Iwaida)

実際、松山のGSは横っ腹のド派手なグラフィックがなければ至ってフツウのシャコタンセダンに映りもする。しかし、それでも改めて細部にまで目を凝らせば彼ならではのセンスとコダワリがそこに浮かび上がってもくる。さりげなくUSパーツを盛り込みUSDMスタイルとしながら、エイムゲインのバンパーに自作のスプリッターを合わせ、ボンネットも自らの手でエアダクトを加工。サイドステップはフロントからのラインを合わすために嵩上げして、リヤウイングはD1GPで4ドアを駆って勝ち星を挙げる姿に憧れた高橋邦明選手の“Kunny'z JZX100CHASER”をオマージュしてDo-Luckを奢る。そうやって随所に細やかなコダワリを落とし込みながらも、その実、これ見よがしに肩肘を張らないスタイル──より深い言葉に置き換えると松山のクルマ弄りに対する美学のようなものまでが、そのスタイルからは不思議と伝わってくるのだから面白い。

(Photo: TOKYONÜR / Ryota Iwaida)

面白いと言えばもうひとつ、「Attack筑波」でのスーパーラップに向かう松山をパドックから送り出す際の出来事がある。リヤトリムが完全に取り払われロールケージ(IS-F用)が組まれたスパルタンな室内で、彼はRacetech製のフルバケにフルフェイスにハンスまで装着した完全レーシングな装いで静かに身を沈めていた。そんな、どこまでもストイックかつ緊張感ある光景の中にあって、なぜか車内のスピーカーからは威勢のいい和製ヒップホップがズンチャカと流れてくる。もしやオーディオの消し忘れ? かとも思ったが、後から聞けば「いや、サーキットを走る前は必ず普段のドライブと同じように好きな音を鳴らしておくんです。やっぱ、走る前は平常心を保ちたいじゃないですか」と、真顔で返してくる辺りがこの男らしくて面白かったのである。

「レクサスといえばマークレビンソン(レクサス専用の高級カーオーディオ)です。ボクの場合、GSを買った決め手はマークレビンソンが付いている、というのが大きかったくらいですから。だからリヤの内装をすべて引っ剥がしても、コレ(マークレビンソンのアンプ)だけは外せなかった(笑)。あと世代的にはワイスピ(初期の頃の映画ワイルドスピード)の影響もありますよね。ガンガンに走り終えてドアが開くとこれまたガンガンに音が鳴っているというあの世界観。速く走るために必要に応じてレーシングな装いにだってしてはいますけど、ボクの軸足はあくまでストリート。だからボディサイドに派手なグラフィックを貼っても顔とお尻は敢えて真っ白なままにしてある。そこも自分にとっての絶対的なコダワリ。レースマシンではなく、あくまでストリートマシンなんです」

(Photo: Ryota Iwaida)

なるほど、この男はそうやってどこまでも己のスタイル(コダワリ)を真っ直ぐに貫き通しながら、その先にある自分自身の限界と日々等身大で向き合っているのだと理解した。さらには、そうした“個のスタイル”を何より重要視するカスタムフリークの界隈で松山のGSが“BATTLE LEXUS / 戦うレクサス”と、ある種の敬意の念を込めて呼ばれているという事実を知れば、彼の貫くスタイルが他にはない唯一無二の存在として、ストリートに生きる“好きモノ”たちの間で認知されていることまでが伺えた。

でもやっぱりまだ
その先だってあると思う。

「Attack筑波」が終了すると松山は自らの手で黙々とホイール&タイヤを交換する。彼のGS350がサーキット走行用のホイール&A052の組み合わせから履き替えたのは、ADVAN RacingのTC-4&NEOVA AD09だった。

(Photo: Ryota Iwaida)

「このTC-4はオートサロンのYOKOHAMA WHEELのブースで見て一目惚れでした。インディゴブルーのカラーがとにかくかっこ良くて、コロナの影響もあって納期は掛かると言われたけれどアレコレ手を尽くしていち早く手に入れました。ハブの部分の切削とか、いちいちコダワリがあってホント堪んないっス。このブルーをイメージしてボディサイドのグラフィックにも青を入れています。ADVAN RacingのイメージはやっぱりOptionの見開き広告。雑誌を開いてバン!って目に飛び込んでくるあのインパクトは、小中学生にはとにかく鮮烈なものがありましたね」

すっかりと夜の帷のおりたストリートで改めて松山のGS350を眺めてみると、そこには昼間の筑波で見た姿とはひと味もふた味も違う、色気のようなものを感じた。なるほど、これは確かにストリートマシンであり、ADVAN Racing TC-4の放つ存在感にもまた、得も言えぬ“オトナの艶”を感じる。

(Photo: Ryota Iwaida)

「中学生くらいまでは割と本気でレーサーになりたかったんです。でも、高校に上がるといろいろ現実も見えはじめて、レーサーになる夢は自然となくなりました。ボクは剣道を小一からハタチまで続けて4段まで昇段しました。何かを突き詰めること自体はだから昔から自然と身に付いてもいましたね。仕事は工作機械のサービスエンジニアです。そういう意味では機械弄りも苦にならないどころか好き。で、地元は相模原。周りには昔からクルマ好きがいる環境ですから、そこはある意味恵まれてもいたのかな(笑)。仕事で独立した理由は『クルマ趣味を極めたい』と思ったからです。タイヤだって新品を買いたいし、趣味だからこそ自分自身とは真剣に向き合いたい。そこは割と本気ですね」

(Photo: Ryota Iwaida)

松山真輝という男は、当たりは柔らかではあるものの、その奥には一本の芯をも感じさせてくれる。そしてその人柄はそのまま、彼の愛機であるGS350にも現れている気がした。

「引き続き筑波のタイム更新も狙いますけど、富士(FSW)の本コースも俄然走りたくなってきました。やっぱり常にその先や上を目指したいし、富士を走るとなったらいよいよエンジンにだって手を入れることになるのかもしれない。今の状態は自分にとってはひとつの理想に近づけたとも言えるけど、でもやっぱりまだその先だってあると思う。だからまだまだ乗り続けます。ボク、そこは一途なんで(笑)」

そう言って笑う松山の表情にはものごとを真っ直ぐに極めた男だけが放つことの出来る、何とも熱のこもったプライドが見て取れた。

(Photo: Ryota Iwaida)

(了)

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