SHOW REPORT

継続は進化なり。
TAS2024に見た
カスタム文化の熱度。

2024.1.30

開催からすでに2週間以上が経過した今なお、会場全体を覆っていたあの熱気が体から離れない。ニッポンのカスタム文化の最高峰にして、世界に肩を並べる一大モーターショーでもある東京オートサロン(TAS2024)にはそれほどまで、人の心を熱くさせる前向きな可能性が秘められていたように思う。カスタム文化の未来はまだまだ明るい──そう確信させてくれた、TAS2024の中でも特別な輝きを放っていた熱き出展者たちの姿に触れる。

Words:髙田興平 / Ko-hey Takada
Photography:河野マルオ / Maruo Kono

トレンドには流されない
“基本のライン”を持っている。

「定番としての基本ラインを崩すことなく、そこに時代ごとの進化を通して生まれるアイデアを落とし込む。言うまでもなく、その作業にはブレないバランス感覚が必要です。ボクがホイールをデザインするときにもっとも大切にしている信念は、無闇にトレンドという概念に流されないこと。いつだって、そのときの自分自身の目や感覚を通して感じたカッコよさを真っ直ぐに描き出す。『ADVAN Racing』にはトレンドに流されることのない基本のラインがしっかりと備わっているからこそ、それができるんです」

YOKOHAMA WHEELの企画 / デザインCMPを務める萩原修の言葉である。「トレンドに流されない」という信念は、これまで萩原をインタビューするたびに繰り返し発せられてきたものだ。東京オートサロン(TAS2024)の舞台で発表された「ADVAN Racing RZⅢ」は、まさにその信念が明確に現されたものとして映った。「RZⅢ」はADVAN Racingの主力ホイールとして2015年のデビューからロングセラー(初代RZから数えればさらに長い歴史)を誇ってきた「RZⅡ」がモデルチェンジを果たしたものだが、その「RZⅡ」の普遍的なフォルムやラインをいたずらに崩すことなく、そこに確かな新しさをバランスよく落とし込むあたりに、萩原一流のワザを感じ取ることができる。

根本に芯があるだけではなく、萩原が描き出すホイールのデザインはいつだってその先の幅と奥行きまでも感じさせる。そこにあるのは単に表層的なカッコよさではなく、ミリ単位でのこだわりを突き詰めたからこそ宿る有機的なフォルム。ディティールごとに確かな表情があって、それが組み合わされることでホイールという存在そのものの深みが増していく。何よりその芯が普遍的なものであるからこそ、その先の時代へと受け継がせていくための進化(または深化)を諦めないという、作り手の中にある強固にして柔軟な意志までが伝わってくる。

「ADVAN Racing GT BEYOND」の17インチ、「ADVAN Racing GT HEAVY DUTY」、そして「ADVAN Racing RZⅢ」といった新たな顔ぶれが並んだTAS2024のYOKOHAMA WHEELブース。中写真右側に写る「GT HEAVY DUTY」(海外向けサイズの8.5J×17 / INSET:-10)は新色の「Racing Turquoise Blue / レーシングターコイズブルー」が新鮮である。

萩原曰くの「ゴツいけど繊細」な佇まいが印象的な「ADVAN Racing GT HEAVY DUTY」(日本向けは8J×17インチ / INSET 20)もまた、定番の先にある幅と奥行きを感じさせる新作だ。北米のトラック&SUVのマーケットですでに高い人気を誇る「RG-D2 for Truck / SUV」のコンケイブした6スポークとは対照的な、フラットな5スポークのフェイスを採用。基本は「GT」のラインを正統に受け継ぐものだが、タフなオフロード走行も想定した骨太さをこちらもミリ単位の調整を重ねて落とし込むことで、「ゴツいけど繊細」という新たな、そして唯一無二な表情がそこに浮かび上がってくるのだから面白い。その他にもファン待望の「GT BEYOND」の17インチ、「RZ-DF2」の20インチ(同時にfor PORSCHEも20インチから発表)などがラインナップされたことで、「ADVAN Racing」はそのバリエーションの幅と奥行きをまたひとつ上のステージへと着実に進化させている。

「この色、いいでしょ? 自分の白い991GT3に履かせるセンターロック(for PORSCHEの21インチ)もこの色にしようかと思っているんですよ」

参考出品でディスプレイされた海外向けサイズの『GT HEAVY DUTY』(8.5J×17 / INSET:-10)を指差しながら、萩原はまるで少年のように無邪気な顔をして笑う。「Racing Turquoise Blue / レーシングターコイズブルー」と名付けられたそのカラーは、確かにこれまでとはまた一味違った新鮮な煌めきを放っていた。トレンドに流されることなく信念を貫き通してきたからこそ、こうした新鮮な余白、いわば遊び心までを表現できる。時間をかけてしっかりと基本を守りながらも、必要に応じてその先の時代へと着実に、そしてときに大胆に進化させる──まさに「継続は進化なり」を体現した、TAS2024のYOKOHAMA WHEELブースだった。

42年間休まず皆勤賞!
好きだからこそできること。

「継続は進化なり」の象徴と言えば、チューニング業界きってのこのレジェンドを置いて他にはいないだろう。東京オートサロン(その前身である東京エキサイティングカーショーも含めて)の42年間にも及ぶ歴史、そのすべてに出展をし続けてきたRE雨宮の雨宮勇美代表である。

「好きですからね。それだけですよ、結局のところは。ファンの人が喜んでくれて、ボクもそれが嬉しくて。そういうことをね、ずっと続けてきただけなんですよ。YOKOHAMAさんとの付き合いもそうです。ロータリーは馬力がないですから、そこは軽さも含めたトータルバランスで勝負するしかない。その昔、SUPER GTで勝てたのも、YOKOHAMAさんがウチのマシンの性能に見合ったバランスの良いタイヤを供給してくれたから。ありがたいことですよ。YOKOHAMAのタイヤはね、本当にオールマイティなんです。晴れでも雨降りでも、あとはデートなんかで使うときの快適性だってね、本当にバランスがいい。それでいて常に時代ごとの最前線の舞台で戦えるんだから凄いですよ。きっとボクと同じで良いものを作ろうって、陰ではすっごく努力をしているんだと思いますよ(笑)。だからボクは、YOKOHAMAが好きなんです」

東京エキサイティングカーショーの時代から40年以上も皆勤賞の“アマさん”ことRE雨宮の雨宮勇美代表。東京国際カスタムカーコンテストのチューニング部門ではマツモトキヨシ・ロータリーロードスター by RE雨宮が優秀賞を授賞した。

ハイエンド層にも支持される
YOKOHAMA / ADVANの幅と奥行き。

YOKOHAMA / ADVANの幅と奥行きを感じさせるという意味で、TAS2024で目に止まったのが欧州のウルトラハイエンドなパフォーマンスカーやSUVへのADVAN Sport V107の装着率の高さだった。ロールスロイス初のBEV(フル電動の超高級エレクトリッククーぺ)として話題のスペクターや、流麗かつ迫力に満ちたマンソリーのフルボディキットを纏ったレンジローバーSV、さらにはブラバスG800ワイドスターなどが、こぞって23インチや24インチという大径サイズのV107を履かせていたのが印象に残った。

ロールスロイス初のフルEVモデルとなるスペクターに早くも24インチのホイール履かせてしまうところがボンドグループ / 株式会社ホソカワコーポレーションの凄さ。MV FORGED WHEELSの「PS0-RR(3-Piece)」に組み合わされるのはADVAN Sport V107の24インチサイズ(295/30ZR24)である。性能の担保はもちろん、見た目の質感でも十分なマッチングを見せる。

「YOKOHAMA / ADVANそのものの歴史とブランド力、BMW Mやポルシェなど欧州メーカーへの認証タイヤとしての採用実績、そして、かなり重量のあるこのクラスのモデルに対しても次元の高い性能を担保した23インチや24インチのサイズラインナップが他のメーカーさんにはほとんどないことが、この層のユーザーからV107が支持されている大きな理由です」

ボンドグループ / 株式会社ホソカワコーポレーションの飯村洋平氏。欧州系のハイエンドモデルのカスタムに精通したエキスパート。マンソリーのフルボディキットを纏ったレンジローバーSV(右写真)も24インチサイズのADVAN Sport V107を履く。

ハイエンドな輸入車の販売&カスタムのオーソリティとして知られるボンドグループ / 株式会社ホソカワコーポレーションの飯村洋平氏はそう説明する。さらにもう一点、ヨーロピアン・チューンドの世界においてはブラバスなどのトップランカーがYOKOHAMA / ADVANを古くから指名していたこともまた、現代のハイエンドカー向けアフターマーケットにまで受け継がれる強いブランドイメージに繋がっているのではないかと分析してくれた。日本車のアフターマーケットでのYOKOHAMA / ADVANのイメージとはまた一味違う華麗で煌びやかなウルトラハイエンドな世界観。YOKOHAMA / ADVAN支持層の想像以上の厚みまでを、そこには感じ取ることができた。

TWSのブースに出展されていたブラバスG800ワイドスター(その名の通り800psの出力を誇るモンスターSUV)の足元もADVAN Sport V107 (305/35R23)が支える。

質の高いフルカーボンボディを
より身近に提供することを目指す。

国産勢のカスタム&チューニングの領域においてもYOKOHAMA / ADVANの支持率は言うまでもなく高い。TAS2024の会場でも多くのカスタム&チューンドマシンたちの足下をYOKOHAMA / ADVANのタイヤが支えていたのだが、中でも「東京国際カスタムカーコンテスト2024」のドレスアップ・スポーツカー部門で最優秀賞を獲得した風間オートの「STEALTH GR86 CARBON SPEC / Drift」はインパクトある出で立ちで注目を浴びていた。

「東京国際カスタムカーコンテスト2024」のドレスアップ・スポーツカー部門で最優秀賞を授賞した風間オートの「STEALTH GR86 CARBON SPEC / Drift」。今後もさらに開発を続けフルパネルで1200kg台前半を目指すと風間代表は言う。

「ドリフトマシンとして2JZエンジンを搭載する前提で開発してきました。2JZはパワーを出しやすくて丈夫なことに定評がありますが、その見返りとしてエンジン自体の重さがある。なので、パワーも軽さも両方を兼ね備えたマシンを目指してこのフルカーボンのボディを開発したわけです。市販車のボディパネルからきちんと型を取って仕上げていますので、例えばボンネットフードやスポイラー類だけといった個々のパーツでの販売も可能です。フルパネルだった場合は450万円ほどのプライスを考えています」

風間オートサービスの風間俊治代表がそう説明する。開発は今後も続け、フルパネルで1200kg台前半を目指す(現在は1200kg代後半)という。FORMULA DRIFT® JAPANのレギュレーションにも合致しているというだけに、今後はプロドリフト競技に参戦する可能性もあるというから楽しみである。こうしたとことん突き詰めた、そしてクオリティ自体までが高いカスタムが日本でも定着していることを実感できて、何だか嬉しくなった。

29歳の男がフルスクラッチで仕上げた
伝説のマシン「935」の現代版。

千葉・幕張メッセの展示ホールの全館を使用して出展される色とりどりのカスタム&チューニングカーたちの中でも、一際の異彩を放つ1台があった。

岡山県・真庭市のビルダー、大橋和生率いる「MADLANE」の手による「935ML」がそれだ。ベースとなったのはポルシェ911カレラ2(タイプ964)。そのほぼすべてを作り替えて(残ったのはA、B、Cピラーくらいだとか!)、往年のポルシェのグループ5マシンである「935」の姿をより現代的な感性のレースマシンとして仕立て上げたのである。

TAS2024の出展車両の中でも一際の異彩を放っていたMADLANE 935ML。タイプ964の911カレラ2をベースとしてはいるが、その9割以上を作り替えてしまった言わばフルスクラッチ。パイプフレームシャシーはビルダーの大橋和生自身が独学で組み上げ、ボディやエンジンにも本物のレーシングパーツを盛り込みながらさらに独創を重ねていった。海外の来場者からの注目度が異常に高かったことが印象的である。まさにワールドクラスの1台である。

「これは単なるカスタムやモディファイではありません。シャシーもパイプフレームで一から組み上げ、もちろんエンジンも完全なレーシングスペックです。ボディパネルに関してはリヤのフードは実際に当時海外のレースを走っていた『K4』(935の最終進化モデル)のものを使用して、そこに自分のアイデアを落とし込んで今の形に仕上げました。そのほかも偽物を使うことは嫌だったので、DPレーシングなどのポルシェのレースマシンの製作に長けた海外の老舗とのコンタクトを密にして、本物のレーシングパーツを手に入れては、そこからさらに自分の目指す形に作り替えながら完成させました。各部の削り出しのパーツなどは地元・真庭の腕利きの同級生の仲間が作っています」

この935MLのプロジェクトを立ち上げたときは20代半ば。形にした現在でもまだ29歳と、若さが光るMADLANEの大橋和生。この世代にこれだけの熱度と技術があれば、日本のカスタム界の未来はまだまだ明るいと思えた。今後はレースフィールドへの本格進出も考えているというから、その勢いはさらに加速しそうである。

無論、ストリートを走ることはできない。このマシンはまさしく本物のレーシングスペックを有している。そんな、1970年代後半から80年代初頭のグループ5カテゴリーを席巻した究極のレンシュポルト(ドイツ語でレーシングスポーツの意)を現代に甦らせた男が、実はまだ若干29歳だという事実を知ったら、その驚きはさらに増すことだろう。

「いつの時代であっても凄いものは凄いですし、昔のクルマが今よりさらに光り輝いていたのであれば、ボクらの世代が、それをさらにこの先の時代に繋いでいくための術を考えるべきだと思っています。この935MLもこの先しっかりとセッティングして、実際にモータースポーツにも参加していきます。ボクは中途半端が嫌いです。やるからには世界の頂点を目指しているので」

当時モノのBBSレーシングのホイール(本物の935が履いていた)をリメイクしたMADLANE 935MLが履くタイヤは、YOKOHAMA / ADVANのレーシングスリックであるA005である。その理由を大橋は熱く述べてくれた。

「この935MLが自分にとって本物である以上、パーツやタイヤだって本物しか使いたくない。YOKOHAMAさんはSUPER GTやSUPER FORMULAと言ったトップカテゴリーからTSサニーのようなクラシックレースまで幅広く取り組んでいる。ボクにとっての憧れでしたし、まさに本物だと思っています。あと、日本のタイヤメーカーで最もポルシェに似合うのはYOKOHAMA / ADVANだとずっと思っていた、というのもありますね。そこはやっぱり、ADVANカラーの962Cの影響が大きいのかもしれませんね!」

本物はそれが本物であるからこそ、時代や世代を超えて受け継がれていく。何より前へ向かって常に走り続けることによって、時代ごとのファンが熱い想いで支持をしてくれる。YOKOHAMA / ADVANの進化はまだまだこの先も継続されていく──そのことを強く実感できたTAS2024であった。

(了)

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