Grip the Soul

より軽快に、より身近に
“グリップ”を感じ取る──
織戸茉彩、APEX V601を試す。

2023.9.6

YOKOHAMA / ADVANのスポーツ・ラジアルタイヤのエントリーレベルとしてラインナップされるAPEX V601を、織戸茉彩が試す。さまざまな活動を通して“走ること”そして“運転を楽しむこと”に真剣に向き合う彼女は、果たしてAPEX V601にどのような魅力を見出すのだろうか?

Words:髙田興平 / Ko-hey Takada(Takapro Inc.)
Photography:安井宏充 / Hiromitsu Yasui(Weekend.)

より軽快にグリップを感じる
まさにスニーカー的な存在

「自分の中でタイヤの存在をはっきりと意識しはじめたのは、愛車のGR86 にNEOVA AD09を履かせてもらってからですね。父が主催する富士スピードウェイの駐車場(P2やP7)を利用したパークトレーニングで走らせたとき、それまで履いていた純正装着タイヤとの違いを感じることができました。明らかに安心感が違うな、って思いましたね」

織戸茉彩のトレードマークと言えばその屈託のない天真爛漫な笑顔だ。しかし、この日の彼女の表情にはいつもと違う緊張感のようなものが見て取れた。そう、茉彩はこの日、人生で初となる“タイヤインプレッション”に挑むことになっていたのである。「ブライトブルー」と名付けられた眩い青が若く健康的なイメージを放つ彼女の愛車・GR86カップカー(ZN8)に、YOKOHAMA / ADVANのスポーツ・ラジアルタイヤのエントリーレベルとしてラインナップされたAPEX V601(装着サイズは前後共に245/35R18)を履かせ、普段から履いているNEOVA AD09(今回装着するV601と同サイズ)との違いを感じ取る──というミッションに挑むのだ。

「正直、まったく自信がありません。もちろん違いそのものは分かると思います。ただ、それを正しく伝える能力が私にはまだ備わっていないと思うんです。だから、今日は本当に緊張しています」

記憶にも記録にも残る熱い走りで今もファンを魅了し続ける名レーサーであり、YOKOHAMA / ADVANのタイヤ開発に長年携わる職人的なドライバーとしても知られる“MAX ORIDO”こと織戸学の愛娘である茉彩は、そのDNAを正当に受け継ぐかのように20代前半にしてサーキットでのワンメイクレースや、最近ではラリーにも挑戦している。“走ること”にかけては常に真剣。そんな、真っ直ぐに走りの世界と向き合っている彼女をしても、“タイヤを感じ、伝える”という任務はやはりハードルが高いものなのだろう。

「パークトレーニングを通してインストラクターである父からは常に『タイヤを感じろ』と言われ続けてきました。スポーツドライビングにとってグリップというものが如何に大事で、それを感じ取ってコントロールすることが、クルマを速く、何より楽しく走らせることにつながるかを、日々、意識させられています。でも、私はまだまだ運転技術が未熟なのでクルマを動かすことに精一杯で、そうしたタイヤの使い方みたいなものまでを理解することはできていません。だからこそ、NEOVA AD09に関しては腕の未熟な私でも安心して運転操作に集中させてくれる──そういう性能が魅力なんだと感じています」

では、今回APEX V601を履いて富士スピードウェイのマルチパーパスコースを走ってみて、茉彩はそこにどのような魅力を感じ取ったのだろうか?

「まず、V601はAD09と比べるとタイヤ自体の感触が少し柔らかいかな、って感じました。ステアリングを切ったときに感じるタイヤの強さというかベタっとした粘りのようなものは、AD09の方がよりはっきりしていると思います。ただ、AD09だと私の腕ではタイヤの性能の方が明らかに勝っているので、正直、自分で操っているというよりも常にタイヤが支えてくれている、って感覚の方が強い。でも今回試させてもらったV601の場合は、『あ、タイヤが動いてる』って感覚をはじめて持てた気がします」

よりハイグリップで本格的なモータースポーツユースまでを想定した「A052」を彷彿させるIN/OUTで形状が異なる非対称のトレッドパータンを採用して、“見た目のやる気”も満点なAPEX V601。OUT側のトレッド面とスポーツタイヤらしく角の立ったショルダー部に「ADVAN」のロゴを配すなど遊び心も満点。機能面においては非貫通のセンターリブが優れた直進安定性とファンなハンドリングの両立を実現。さらには4ピッチバリエーションと最適化された角度の横溝の効果で高い静粛性までを誇る。

タイヤの動きを掴む──これはスポーツドライビングの腕を上達させる上でとても大切な要素である。ここで茉彩の父である織戸学が以前に教えてくれた言葉を思い出す。

「タイヤの性能(ここでは主にグリップを指す)を捉えるとき、運動靴(スポーツシューズ)に置き換えると分かりやすい。例えば陸上競技用のスパイクはタイヤで言うとスリックに置き換えることができる。スパイクシューズは競技場での一発のグリップ力は確かに圧倒的だけれど、性能が一点に特化している分、さまざまな要因が複雑に絡むストリートでは尖りすぎていて履きづらいし、むしろ危険ですらある。だからより間口を広げたランニングシューズもあれば、見た目や快適性を重視したスポーツシューズやスニーカーもある。足元を支えてくれるという基本性能は同じでも、それぞれが目指す場所が違う。タイヤも同じ。スリックはもちろん、例えばA052のようなサーキットでしっかり機能するハイグリップタイヤは、その分だけ乗り手が捕えるべき芯はより狭くなるから、相応に経験を積んで鋭いセンサーを養わないと真の特性を掴み取ることは難しい」

織戸自身が開発の最前線を走って生み出したNEOVA AD09は、そうした意味では玄人と入門者の双方にとってよりバランスのよい、“優れたグリップ”を感じ取りやすいタイヤとして仕上げたのだという。とは言え、望めばサーキット走行でも確かなグリップ力とコントロール性、それらを支える剛性感までを存分に感じさせるタイヤだけに、その“芯”までを使い切るには一定以上の“腕”を要することは事実だ。

「今回、タイヤのインプレッションというチャンスをいただいて私がいちばん強く感じたこと。それは、タイヤにもシチュエーションに合わせていろいろな履きこなし方がある、ということでした。それは本当にシューズ(靴)と同じ。サーキットはもちろん、パークトレーニングも含めて真剣にスポーツドライビングと向き合うような場所ではAD09の方が安心感という面でも私には合っている。でも、夜のストリートで気ままにクルージングするようなシチュエーションだと、V601はとても快適で履き心地がいいな、って思える。日常の街中でこのタイヤを履いてみて改めて感じたのは、タイヤの音(ロードノイズ)が静かだな、ってことと、あとは路面から体に伝わる感触もよりマイルドだな、ってことでした。私は見た目も重視するのでよりレーシーな雰囲気のホイールを履かせたい。そういうどこか尖った選択をしたときでも、街中ではタイヤが優れたグリップ力だけではなく、乗り心地までカバーしてくれる。尖り過ぎずにあくまで軽快で、しかも快適で何よりカッコいい。そんな、スポーツシューズで例えるとまさにバランスのよいスニーカー的な存在が、このAPEX V601なのかなって、感じました」

茉彩の愛車であるGR86カップカー(ZN8)の足元にはADVAN Racing RGⅢ(装着サイズ:18×9.5J/UMBER BRONZE METALLIC)が奢られている。“吊るし”ではなく好みの色やカタチに履き替えて楽しめることも、「スニーカーに似ていて楽しいし、こうしたレーシーな雰囲気のホイールに似合うタイヤであることも大事」と、茉彩は言う。

「これからもっとたくさんの経験を積んで、いろんなタイプのタイヤを履きこなして、それぞれの性能の意味、何よりクルマを操ることの面白さを、もっと多くの皆さんに伝えて行けるようになれたら嬉しいですね。頑張ります!」

そう言って、いつも通りの天真爛漫な笑顔と共に走り去る織戸茉彩とブライトブルーのGR86カップカーの、そのどこまでも若々しく軽やかな姿が眩しく映った。そして、まさにスニーカーをサラッと履きこなすかのように、より身近にタイヤのグリップを感じ取ろうとしている若い世代がいる事実を感じて、なんだかとても嬉しくなった。

(了)

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