EVENT

FUELFEST JAPAN TOKYO
ストリートの匂いがする
サーキットでの夏祭り。

2023.8.16

真夏の富士スピードウェイ(FSW)を舞台に開催された「2023 FUELFEST JAPAN TOKYO」の模様をレポートする。映画「FAST & FURIOUS / 邦題:ワイルド・スピード」の世界をリアルに再現したこのお祭りには、クルマを軸とした“フェス”の未来に向けた可能性が多く秘められていた。

Words:髙田興平 / Ko-hey Takada(Takapro Inc.)
Photography:安井宏充 / Hiromitsu Yasui(Weekend.)

“ワイスピ”の世界観で魅せる
不思議な一体感がある

連日の茹だるような暑さに加え、台風までが連続して発生する状況の中、誰もが驚く晴天に恵まれた8月11日(祝)に静岡県の富士スピードウェイ(FSW)で開催された「2023 FUELFEST JAPAN TOKYO」(以下、FUELFEST)は、従来のカーイベントとはまた一味違った意味での、見事にヒートアップした勢いある空気感に朝から包まれていた。

正直、ここまでの盛り上がりは想像していなかった。否、第1回目の“日本上陸”となった昨年のFUELFESTは「さらに凄まじかった」と、そこに実際に参加した人から聞かされて、「これ以上に盛り上がっていたの?!」と驚かされたというのが率直なところである。2つの台風の影響による荒天も予想されたことから、実際に今年の人の入りは昨年よりは少ないそうだが、それでもゴールデンウィークに開催されるSUPER GT級かそれ以上の人の入りに感じられたのは本当である。

日本でも“ワイスピ”の略称で幅広い層に親しまれているハリウッド映画「FAST & FURIOUS / 邦題:ワイルド・スピード」シリーズ。違法なストリートレースを軸に描かれたストーリーが展開されるこのカー・アクション作品は、2001年公開の1作目以降、世界各地を舞台にこれまで10作(スピンオフ1作)が製作・公開(最新作のワイルド・スピード/ファイヤーブーストが公開中)され、さらにはビデオゲームやテーマパークのアトラクション、テレビシリーズやグッズなど幅広い分野にまで発展しながら世界中に多くのファンを生み出してきた。

朝からオーディエンスで埋め尽くされたグランドスタンドを前にハリウッドスターたちがイベントの安全を願って祈祷する。こんな光景こそが“ワイスピ・ワールド”の真骨頂。向かって右からコディ・ウォーカー、サン・カン、タイリース・ギブソン、そして日本版FUELFESTを主催する一樂智也。

FUELFESTとはそんな“ワイルド・スピードの世界観”をリアルなイベント(カーフェス)として体現したものである。ワイルド・スピードの1作目から7作目(除く3作目)までに出演し、“ワイスピ”の顔として圧倒的な人気を誇ったポール・ウォーカー。2013年に不慮の自動車事故でこの世を去ってしまった彼が生前に設立した非営利災害支援団体「Reach Out World Wide / ROWW」の慈善事業(チャリティ)を継続(イベント収益金の一部を寄附)させるために、ポールの実弟であるコディ・ウォーカー、そしてワイルド・スピード・シリーズに長年出演しているハリウッド俳優、タイリース・ギブソンがタッグを組んでこのイベントを仕掛け、今では全米各地はもとよりヨーロッパでも開催される人気のイベントへと成長させている。

「クルマと音楽の融合」という単純明快なコンセプトはまさに映画の世界そのものであり、FUELFESTの会場に一歩足を踏み入れると、そこでは映画のワンシーンのような、華やかでどこか“ワルっぽさ”までが楽しめる独特の雰囲気を味わうことができる。

朝9時半から始まったオープニングセレモニーではイベントの安全を祈願した本格的なお祓いの儀式がFSWのホームストレート上で行われ、朝早くからグランドスタンドを埋め尽くしたオーディエンスたちがそれを見守る。FSWで開催される通常のレースではなかなか見られない不思議(かつ異様)な光景に、FUELFESTというイベントの独自性をいきなり見せつけられた気がした。

祈祷の儀式が終わりに近づき、コディ・ウォーカー、タイリース・ギブソン、そして日本を舞台とした「TOKYO DRIFT」(シリーズ3作目)に出演したことでここ日本でも絶大な人気を誇るサン・カンの3人が劇中車さながらのド派手な国産チューンドマシンを駆り登場すると、会場のボルテージは一気に高まり、最近のサーキットでは耳にする機会がめっきり減ってしまった“生の大歓声”に包まれたのである。それは“ハリウッドスター”の人気の凄まじさを直に思い知らされた瞬間でもあった。実際、この日のFSWを訪れたオーディエンスたちの多くは、通常のレースイベントではあまり見かけないような若い女性層、学生と思しき若者のグループ、そして小さな子供たち(家族連れ)といった具合に、“視点”を変えればまだまだ“クルマ”を軸としたコンテンツでもサーキットにこれほど多くの人を呼び込めるという事実が、そこに如実に現されていたように思う。

クルマと人との距離が近い
それがFUELFESTの魅力

パドックは色とりどりのカスタムマシンやチューニングカーで埋め尽くされ、ピットにはスーパースポーツやレースカーをはじめとしたスペシャルなマシンが並べられている。SUPER GT / GT500クラスで活躍するRACING PROJECT BANDOHの旧マシン、WedsSport ADVAN LC500の姿や、往年の名車A80スープラのADVANカラーを纏ったGT500マシンの姿もそこにはあった。その光景はまさに「なんでもアリ」と呼ぶべきある種のカオスにも似たものではあったが、それが不思議な一体感となってオーディエンスの目を楽しませてしまう辺りが“ワイスピ”の威力なのだろう。

YOKOHAMA / ADVANは本格的なレースマシンを展示。TGR TEAM WedsSport BANDOHの坂東正敬監督は「多くの子供さんたちに直にコクピットに座ってもらい、GTマシンの凄さを体感してもらえたのが良かった」とFUELFESTへ参加したことに対して満足げにコメントした。ADVANカラーのA80スープラの注目度も非常に高いものがあった。

“きゃりーぱみゅぱみゅ”がホームストレート上の特設ステージでパフォーマンスを繰り広げ、マルチパーパス・ドライビングコースではFORMULA DRIFT® JAPANのエキシビション・トーナメントも実施。さらにグランドスタンド裏のイベント広場ではお馴染みの“MAX☆ORIDO”こと織戸学がプロデュースする「オリドパラダイス」の催しで盛り上がるなど、まさにFSW全体を活用してFUELFESTは“真夏のお祭り”にふさわしい熱量をそこかしこで存分に発散させていた。

FUELFESTに強く感じたこと。それは「クルマと人との距離の近さ」だったように思う。実際、レース主体の走行イベントとして押すのではなく、あくまでオーディエンスが可能な限りクルマに近づける環境を創り出しているのが、FUELFESTの魅力だと思えた。

FORMULA DRIFT® JAPANのエキシビションではYOKOHAMA Presentsとして「最年長vs最年少 / ドリフト車庫入れバトル」を実施。52歳の谷口信輝と13歳の箕輪大也がそれぞれ華麗なドリフトテクニックで“車庫入れ”を披露し、コースサイドに鈴なりとなったオーディエンスたちからの拍手喝采を集めた。勝敗は引き分けとなったが、その後のトーナメントも含めて現役中学生ドライバーの圧巻の走りに「凄い!」と目を輝かせる人が多かったことが印象的である。

サーキットが舞台であっても、スピードだけを追い求めずに、そこにより身近な“クルマとの一体感”を生み出す。だからこそ、多くの人が様々な表情のクルマたちの姿や匂い、さらには音や振動を感じ取り(コース上ではレースではなく、様々な車両のパレードランが行われる)、そこに自然と魅せられていく──確かに、これは今までにあるようでなかった、サーキットを舞台にストリートの匂いを演出することに成功した新しい形のクルマの祭典なのかもしれない。

イベント広場で開催された「オリドパラダイス」では“前止め選手権”を実施。車止めを模したブロックを置き、その前でどれだけ距離を縮めて止まれるか?を競う単純明快な競技だが、「こういう単純な面白さこそが本来のクルマ遊びには必要」と、考案者の織戸学は言う。実際、スピード感や迫力はなくとも微妙なコントロールで競われることで観ている側も興奮できる、実に面白いイベントに映った。何よりそこにいる皆が笑顔になれるのが素晴らしい!

ストリートの匂いがするサーキットのお祭り。FUELFESTがこの先に日本でどのような形に進化していくのかがとても興味深い。

(了)

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