CULTURE

好きこそモノの上手なれ──
CGクリエイター“AKIO”の信念。

2023.7.27

“CGクリエイター”と聞いて読者の皆さんはどのようなイメージを頭に思い浮かべるのだろうか? “デジタルエイジ”特有のスマートでクールな世界をまずは思い描くという向きも多いのかもしれないが、今回フィーチャーする“AKIO”はYOKOHAMA / ADVANの魂にもどこかで通じる、デジタル寄りのクールさよりもむしろアナログ的な熱き信念を秘めた男であった。その独創性溢れる世界観の中身に触れてみる。

Words:髙田興平 / Ko-hey Takada(Takapro Inc.)
Photography:安井宏充 / Hiromitsu Yasui(Weekend.)

グイッと惹き込まれてしまう
唯一無二の独創性

「あくまで趣味の世界です。プロではありません。プロの世界ではしっかりとした下積み経験が必要ですからね。まず、自分にはそれがない。もちろんプロの世界に生きる人は尊敬します。ただ、自分の場合はそこにあまり興味がないだけです。なんと言えば正しいのか少し迷いもしますが、一言で表すと、好きでいたい。仕事ではなく好きな事(コト)。子供がプラモデルを作るのに夢中になるのと同じ。誰かに指図されるわけでもなく、ただ自分の好きなように仕上げたい。プロの人から見たら『甘い!』と叱られるかもしれませんけれど、それが自分の本心です」

“AKIO”はどこか印象的な目を真っ直ぐこちらに向けながら、ゆっくりと静かなトーンでそう話す。

CG(コンピューター・グラフィックス/2Dイラスト)のクリエイターとしてとても優れた才能をもった青年がいる──同業の友人からそう教えられはじめてAKIOの描いた2Dイラストを見た瞬間、「すげえな…」と、真っ直ぐなため息が自然と漏れたことを思い出す。

それは何よりリアルであって、それでいて思わずその一種異様な世界観にグイッと惹き込まれてしまうような唯一無二の独創性にも満ちていた。

AKIOの手がけたCGイラスト。それはどこまでも独創的ではあるが、一方で実際に存在したとしても違和感のない“リアルな仕上がり”であることが特徴となる。この作品は往年のGroup B(Gr. B)ラリーカーをモチーフに現在WRC(世界ラリー選手権)で活躍するGRヤリスを素材としてCGカスタムしたもの。GRヤリスの“GR”とGroupの略称である“Gr”を掛けたというネーミングセンスが秀逸。細かなコダワリの奥に遊び心を落とし込むこともAKIOの作風の特徴だ。©︎AKIO WATANABE

「作るのは2次元(2D)の領域です。より複雑で立体的な3次元(3D/※注:海外ではCGと言えば3Dを指すことも多い)ではない。自分の言葉なりに括るならコラージュ・グラフィックスでしょうか。レイヤーを幾重にも重ね合わせながら思い描いた姿や形をあくまで平面で仕上げていくやり方です。子供の頃から絵を描くのは好きでカレンダーやチラシの裏紙に好きなクルマの絵をひたすら描いていました。でも自分は途中で絵を描くのをやめてしまったから、今となっては自らの手でイチから絵を描き起こすことの出来るイラストレーターの人の技術はスゴイなって思います」

AKIOがCGの世界に足を踏み入れたきっかけは中学生の頃に触れた親のパソコン。何気なくイジっていたらそこにフォトショップ(画像編集ソフト)のアイコンを見つけ、見様見真似でWebサイトの中から適当なクルマの元ネタ(画像)を拾い出しては、独学でソフトをマスターしながら自分の思い描くカタチに“カスタム”していくことにハマったのだという。

「感覚としてはもろにプラモデル。その頃はプラモ作りにもハマっていて、CGと並行してそちらでも好きなように遊んでいました。ともに素材はクルマ──という点は今も昔も変わりません。クルマが好きなのは父親譲りですね。自分が生まれた頃にはすでに手放していましたが、小学生くらいになって父親の昔の写真を見たらシャコタンのジャパン(C210型 / 日産スカイライン)が写っていた。素直に格好いいな、って思いましたね」

AKIOは筋金入りの“シャコタン好き”である。いわゆる“吊るし”のクルマに興味はなく、カスタムありきでクルマという素材とこれまで向き合ってきた。

「ベースをイジる美学だと思っています。格好つけた偉そうな言い方ですけれども、そこは所詮、ゼロからイチでモノを作り出せないからこその強がりでもあって(笑)。でも、すでにイチがあるからこそ、その先を自由に広げていけるカスタムの世界が本当に好きですね。なので自分のCGイラストは2Dカスタムの領域を突き詰めているつもりです」

AKIOの守備範囲は広く日本が誇る名車中の名車も独自の世界観で丁寧に調理する。こちらは2000GTにドリ車の定番“2JZ”を載せてオーバーフェンダー化した1台。敢えてフードを外して“肝腎要”のエンジンを見せる演出がニクイ。細かなディティールはもちろん、映り込みまで注意深く再現してリアリティを高めていることが理解できる。 ©︎AKIO WATANABE

“気鋭のCGクリエイター”という先入観をもって取材に訪れたAKIOの自宅。そこは今も長閑さが残る西東京の郊外にあるマンションの一室だった。作業用のデスクにディスプレイモニターが並び、ハイスペックのPCでサクサクとCGイラストを描き上げていくデジタルエイジの涼しげなクリエイターの姿を勝手に頭の中で思い描いていた。しかし、玄関を上り居間の先にある彼の作業スペースが目に入ると、そうした“誰にも分かりやすいデジタルクリエイター”なイメージは一瞬で吹き飛んだ。

申し訳程度の小さな作業台(学習机の移動式抽出を流用)の上に置かれているのはNECの白いノートパソコンのみ。しかも旧式のシロモノで、失礼ながら「コレで大丈夫なの?!」と心底思った。

「ヤフオクで中古のモノを3万円くらいで買いました。もちろんスペック的には最新のモノと比べたらかなり劣ると思います。でも、自分はあくまで仕事ではなく趣味でやっているので、コレでも用は足りていますね。2DとはいえCGイラストを描く場合は100を超えるレイヤーを重ね合わすので、たまに容量を超えて固まってしまったり、それこそせっかくのデータがすべて消えてしまったこともありますけれど、だからといって最新スペックのモノを揃えようという気持ちはないですね。正直、趣味である以上はあまり道具に頼りたくはないのです」

作業する時間は長くても3時間までと決めているという。曰く、「飽きないように」というのがなんともこの男らしいと思えた。

“プライベーター”という立ち位置
その価値をもっと伸ばしたい

AKIOの本職はアルミ鋳造の職人である。縁あって現在勤める会社のモノづくりの現場を見学させてもらった際に、手作業で丁寧にモノが作られていく様に惹かれ就職を決めたのだという。勤務形態は週5日。本職がある以上、“趣味のCGカスタム”に没頭できる時間は自ずと限られてもくる。

「大好きだったプラモ作りはだから最近ほとんど出来ていませんね。その代わりに実車のカスタムにはハマっています。6年前に手に入れたカリーナ(1984年式のAA63型)をコツコツと自分の感覚でイジっていますね」

AKIOのカスタムの原点とも言えるプラモデル。作業机の抽斗にはかつての“作品”が収められ、年季の入った生活感のある箪笥の前にはまだ手をつけていないプラモの箱が堆く積み上げられていた。

彼の自宅の作業場にはプラモデルの箱が堆く積み上げられている。中にはまだ手をつけていないモノも多いらしい。プラモデル、CGイラスト、そして実車──さすがに週末だけの趣味の時間では賄えきれないというのが本音だとか。

「実車のカリーナは自分にとって理想の1台です。子供の頃からハチロク(AE86)が好きで4-AG型のエンジンを積んだクルマが憧れでした。なのでハチロクかGX81のマークⅡ辺りが欲しいと思っていましたが、ある日カーショーで見たシャコタンのカリーナ・バンがあまりに格好良くって。そんなときに縁あって4ドア・セダンで4-AGを積んだこのカリーナに巡り合ったというわけです」

自宅マンションの地下にあるシャッター付きガレージに愛機を保管。しかし庫内の幅が狭く(他にパーツやタイヤ、小型バイクなどを置いているため)ドアが開かないので出し入れは人力で引っ張り出すという直球のアナログさがAKIOらしい。

自宅マンションの地下にあるシャッター付き(理想的な環境!)のガレージに大切に仕舞われたAKIOのカリーナと対面する。見事にシャコタンではあるもののそこに妙な派手さや行き過ぎたヤンチャさはなく、ほどよく昭和の匂いがする白くて角張ったボディも相まってか不思議とクリーンで大人びた印象を与えてくれる。

AKIOの愛機である1984年式のAA63型カリーナ。見ての通り“The シャコタン”ではあるがそこにこれ見よがしなヤンチャさはなく、ほどよく大人なレーシーさを醸し出している。

「シートは運転席のみフルバケット。あとはノーマルのシートに純正のレースカバーを被せています。“レーシー”な雰囲気に“レース(レーシー)”のカバー。自分はそういった駄洒落のセンスをカスタムに落とし込むことが好きですね。CGイラストで仕上げた“GR”.B YARISも“GR”と“Group B / Gr.B”(のラリーマシンをモチーフ)の略称である“Gr”を掛けています。まあ、その辺りは単なる自己満でしかないのですけれど(笑)」

“遊び心”こそカスタムの醍醐味であり、真面目に遊びを突き詰めるからこそカスタムは面白いという真理に、AKIOと彼のシャコタン・カリーナの姿を眺めていると改めて気付かされる。一見すればやり過ぎることもなく、しかしつぶさに眺めれば奥の方から深いこだわりが炙り出されてくる。「こんな小ワザまで?!」と見ていて思わず楽しくなる。

「自分は実車のカスタムにおいてもあくまで素人です。それを仕事に出来るようなプロではない。CGイラストと同じようにただ自分の好きなように仕上げるだけですが、だからと言って中途半端なことはしたくない。そこは素人の趣味だからこそ、何より好きだからこそ、時間を掛けて丁寧に深いところまで突き詰めようと常に考えています」

あくまで控えめではあるものの、時折、カスタムを語るAKIOの目には何かしらの闘志のようなモノが宿ることがある。プロではないからこそのプライド。カスタム大国アメリカでは時にプロビルダーを超えるような腕とセンスをもつ“プライベーター”の存在が注目される。AKIOもまた、そんなプライベーターとしての熱い魂を感じさせるところがある。

「CGの世界にはかなり細かなカテゴライズがあります。当然ながらクルマを素材としたCGも同じです。3Dモデリングのような領域になればスター級の人も海外には存在します。さらには、メーカーの仕事を請け負うような職人的なプロもたくさんいる。そう、その気になればしっかり稼げる仕事でもあるわけです。そうした中で自分はどの領域にいるんだろう? と改めて考えると、そこは確かにプライベーターという立ち位置がしっくりくる気はしますね。正直に言えば、自分自身もっと上を目指したいと考えることもある。ただ、それでもなぜかCGを仕事にしようとは思えない。仕事として、プロとして、好きを前面に置いてCGでやるカスタムを割り切れるほど、自分は器用ではないんです」

しかし、そんなAKIOの腕とセンスは実際、“プロの領域”でもすでに一定の評価を得ていたりもする。

例えば、数年ほど前にはAKIOのCG作品を見たD1GPの関係者からSNSを通じてとあるニューモデルを素材としたD1マシンのCG製作の依頼があった。当の本人は「せいぜいプレゼン資料用か何かだろう」と考えたが、実際には公式パンフレットの表紙を飾ることになって驚いたのだという。

「ドリフトは以前から好きな競技だったので素直に嬉しかったし、自分が楽しんで作ったモノが世の中に認められたことに対する不思議な感覚もありました。その後も時たま製作の依頼はありますが、受けた以上は自分としてはもちろん真剣に取り組ませてはもらうけれど、あくまで仕事としては請け負わないないことを貫きました。好きな内容であれば協力をする。何よりそれは自分が楽しいからであって、仕事ではない。これまた格好つけた言い方をすると、それが自分自身にとっての信念のようなモノでもあるので」

先日のFORMULA DRIFT®︎ JAPAN 第2戦に電撃参戦し圧勝を飾ったWRC最年少/現役王者、カッレ・ロバンペラが乗ったGRカローラの勇姿を覚えている方も多いことだろう。参戦決定から1ヶ月足らずで仕上げられたマシンだったが、そのカラースキームをCGで描き出したのがAKIOだったことは一般的に誰も知ることのない事実でもある。

「自分のCGイラストを前からずっと評価してくれて、いろんなチャンスを与えてくれていた人からの依頼でしたからね。時間は確かに限られていたけれど、とにかく全力で取り組みました。カラースキームはもちろん、ボディキットや細かなパーツ類に至るまで実車さながらにイメージ出来るように可能な限り細かく仕上げました」

CI(コーポレート・アイデンティティ)には特に厳しい海外ブランドも含めた数社が絡むプロジェクトであり、通常ならば幾度も修正という名のダメ出しを喰らいながら最終形に仕上げていくような話であるものの、AKIOのCGイラストはほぼ一発で「Go!」となったというのだから驚かされる。

「エビス・サーキットのレースにご褒美で招いてもらって、実車が走る姿を目の当たりにしたときはさすがに感動しましたね。自分の世界はあくまで平面、2次元ですけれど、実車となると究極の3次元、もはやリアルさがあまりに違って。ただひとつ、自分の描いたCGでは車高はより低かったのですが、実車はさまざまな条件もあって車高が高かった。そこはやはり、低い方が格好良かったな、と(笑)」

AKIOはそう言って少し悪戯な笑顔を見せた。

まさに実際のマシンそのものと呼べるクオリティの高い仕上がり。ボディキットや細かなパーツ類に至るまで、ドリフトマシンとしてしっかり再現している。“好き”だから出来るこのコダワリの深さこそが、AKIOというCGクリエイターの真骨頂なのである。

「自分にとってCGでのイラストも実車のカスタムも、この先もずっと趣味のままで良いと思っています。ただ、ここ最近にアレコレ価値ある経験させてもらえたことで、さらに一歩先へと進むための自信がついたとも感じています。だから自分としては、立位置はプライベーターのままでも、必要とされて求められたならば、そこはワークス級の仕上がりで応えられる存在でもありたい。
そう言えば、自分のカリーナにはYOKOHAMA / ADVAN(NEOVA AD07)を履かせています。昔っからファンなんですよ、YOKOHAMAの。なんと言うか、YOKOHAMAってレースの世界でも昔っからプライベーターに対してだって分け隔てなく熱くサポートしてきたイメージが強くって。ご縁があって、そんなYOKOHAMAさんとのプロジェクトをご一緒させてもらえたこと自体、自分にとってはこの上なく光栄な出来事でした。だからこれからも、求められたら自分の100%で熱く応えたいと思っています」

AKIO WATANABE / 29歳。彼の世界観はInstagram / @akid_0831をチェックされたし。

CGクリエイター、AKIO。この先もきっとまた、彼の手がける“作品”が我々の目を楽しませ、何よりその独創性をもって驚かせてくれることだろう。“好きな想い”で手がけた作品には、そうやって人の心を自然と熱くさせる、真っ直ぐな何かが宿る気がするのである。

(了)

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