CULTURE

トヨタ2000GTの
スペシャリストも絶賛。
YOKOHAMAが支える
クラシック文化の真髄。

2023.6.30

ヒストリックカーの世界は奥が深い。特に当時の雰囲気をしっかりと保つには、その足元を支えるタイヤの選択に頭を悩ませるヒストリックカー・ユーザーも少なくないという。旧車本来のクラシカルな雰囲気を損なわず、かといって単に“旧いまま”の性能ではないタイヤとなると、その選択肢は一気に狭められてしまうのだ。今回はそんな悩めるヒストリックカー・ユーザーたちからの絶大なる支持を集めるYOKOHAMAのヒストリックカー向けクラシックタイヤの存在にスポットを当て、レポートする。

Words:藤原よしお / Yoshio Fujiwara
Photography:岩井田涼太 / Ryota Iwaida(Unripe)
Special thanks:M’s VANTEC / Auto Roman

見た目の雰囲気だけではなく
性能まで担保したクラシックタイヤ

艶やかなウッドのインパネ右下にあるイグニッションキーを捻ると、わずかにスターターモーターが回り、ブルンという軽い振動とともにノーズの直6DOHCユニットに火が入る。比較的軽いクラッチペダルを踏み、左奥の1速にギヤをエンゲージし、センターパネルから伸びるステッキ状のサイドブレーキをリリースしてクラッチをミートする。

この一連の動作には何のコツも技術も要らない。現代の普通のMT車に乗るように操作し走り出せば、そのまま交通の波に乗ることができる。

以降も良い意味で乗り手を驚かせるようなドラマはない。もちろんアクセルペダルに力を入れればトリプル・三国ソレックス・キャブレターの吸気音とともに加速していくが、直6らしくエンジンは振動も少なく上品で滑らか。またハンドリングは決してクイックなものではなく、鼻先に長く大きなエンジンを積んでいる分、コーナーではアンダーステアを感じるが、前後ダブルウィッシュボーンのサスペンションが適切に路面を捉え続けてくれるので挙動も乱れない。また良く動いて路面の凹凸も上手に吸収してくれるので、驚くほど乗り心地もいい。そしてサーボ付きの4輪ディスクブレーキはタッチも自然で制動力にも不満はない。

その希少さから、今や神格化された感すらあるトヨタ2000GTだが、実際にドライブしてみると拍子抜けするほどクセがなく普通に走る。実は現代の感覚で乗っても、何の違和感もない「普通さ」を日本の乗用車生産が本格的に立ち上がってまもない当時の日本で実現していたことが、トヨタ2000GTの「凄さ」なのだ。

トヨタ自動車とヤマハ発動機とのコラボレーションによって生み出された直列6気筒DOHCエンジン(3M型)は、150ps / 6600rpmの最高出力、18.0kgm / 5000rpmの最大トルクを発生し、当時の国産車では破格となる高性能を誇った。その扱いやすさは現代の視点で捉えても十分に一級レベルと言える見事なスムースさを備えている。美しいローズウッドの内装パネルは日本楽器製造(現・ヤマハ)によって仕上げられた。

トヨタ2000GTは名神高速道路が開通し、鈴鹿サーキットで日本グランプリが開催されるなど、モータリゼーションの「高速化」の波が押し寄せていた日本において、「レースでも勝てる高性能車」として1964年に開発が始まったものだ。その結果、DOHCエンジン、4輪ディスクブレーキ、ラック・アンド・ピニオン式ステアリング、リトラクタブル・ヘッドランプ、フルシンクロ5速ギヤボックス、マグネシウム・ホイール、4輪ダブルウィッシュボーン・サスペンションなど数多くの日本初、またはトヨタ初の技術が惜しげもなく投入された。そんな新機軸のうちの1つがラジアル・タイヤの標準装備であった。

以降、日本の自動車技術は驚くべきスピードで進化を遂げると同時に、各タイヤ・メーカーからも高速性能を謳ったスポーツ・タイヤが続々と発売されるようになる。

そこで満を持して登場したのが、1967年にYOKOHAMAから発売された「G.T. SPECIAL」だ。市販用ラジアル・タイヤの先駆となった「G.T. SPECIAL」は大反響を呼び、1970年代にかけて高性能スポーツ・タイヤの代名詞(注:2000GTの新車当時の純正装着タイヤは他メーカーのものが採用されている)となった。

雰囲気、そして性能ともに2000GTの純正ホイールに見事にマッチする「G.T. SPECIAL CLASSIC Y350」。装着サイズは165/80R15 87Hとなる。

そして2019年7月、YOKOHAMAは「ADVAN HF Type D」に続くヒストリックカー専用タイヤとして「G.T. SPECIAL CLASSIC Y350」を発売した。トレッドパターンやサイドウォールなど、当時のクラシカルなディテールはそのままに、材質、性能、製法などに最新の技術を投入した「G.T. SPECIAL CLASSIC Y350」は現在、10インチ、13インチ、14インチ、15インチで合計9種類のサイズを展開。発売以来「適切なサイズがない」とか「エコタイヤからしか選べない」などの悩みを抱えてきた多くのヒストリックカー・オーナーの足元を救う救世主となってきた。

それは日本の至宝というべきトヨタ2000GTにおいても同様だ。2000GTのスペシャリストとして世界的に知られるM’s VANTEC / Auto Romanの諸井 猛 代表も「新車時の純正装着タイヤが絶版となって久しく、これまでは近いサイズの海外のクラシック系タイヤや国産のエコタイヤを無理やり履くしか方法がなく、タイヤ選びにとても苦労していました。でもG.T. SPECIAL CLASSIC Y350のおかげで、雰囲気も性能もよく、2000GTにピッタリのサイズのタイヤが安定的に履けるようになったのは、すごく助かっています。もうこれでタイヤに困ることがなくなりました」と語る。

長い歳月をかけてトヨタ2000GTと向き合い続け、レストアや整備はもとより、本業である難作材の加工、精密プレス加工の経験を活かして絶版となったパーツのリプロダクションも積極的に手掛けるなど、2000GTの世界的なスペシャリストとして知られるM’s VANTEC / Auto Romanの諸井代表。世界に2台しか存在しない2000GTの試作車をベースとした“ボンドカー”も所有している。詳細はYOKOHAMA / ADVAN Brand siteのYouTubeチャンネル「Channel YOKOHAMA」でも公開中なので是非ご確認いただきたい。

その言葉のとおり、後期型である1969年型の2000GTに組み合わせた「G.T. SPECIAL CLASSIC Y350」は、無骨なトレッドパターン、丸みを帯びたサイドウォールともに2000GTの雰囲気にとてもマッチ(装着サイズは165/80R15 87H)している。例えばアメリカのペブルビーチ・コンクール・デレガンスや、イタリアのヴィラ・デステ・コンコルソ・デレガンツァなど、世界的な権威あるコンクール・デレガンスにおいては、年式相応タイヤを履いているか否かも審査の重要なポイントになるように、ヒストリックカーのオリジリティを保つ上で、タイヤのもつ意味は大きいのだ。

加えて「G.T. SPECIAL CLASSIC Y350」が良いのは、そのグリップ力、アタリの柔らかさ、フィードバック性、真円度など、タイヤのもつポテンシャルがヒストリックカーに絶妙にマッチしていることだ。

というのも現代のスポーツカーのような高いシャシー、サスペンション剛性をもっていないヒストリックカーの場合、グリップが強すぎたり、タイヤの剛性が高すぎたりするとクルマ本来のバランス、そして「味わい」が削がれてしまい、却って運転しづらいと感じてしまうケースもあるからだ。また当時最高の国産スポーツカーといえども1120kgの車重に対して、150psしかない2000GTの場合、タイヤ自体の真円度、クオリティが低い(海外のクラシック系タイヤは見た目の雰囲気は良くてもこの点が難点だという)と、そのままパフォーマンスのロスに繋がってしまう。その点においても「G.T. SPECIAL CLASSIC Y350」は非常に高いレベルにあり、2000GTが本来もっている運転のしやすさ、乗り心地の良さを上手く引き出してくれる。このあたりは、まさに1967年にいち早く「G.T. SPECIAL」を作った歴史に加え、その後も様々なスポーツタイヤの名作を作り出してきたYOKOHAMAの経験と技術が、見事に生きた部分であると言える。

そしてもう1つ「G.T. SPECIAL CLASSIC Y350」には重要なポイントがあると諸井代表は言う。

「日本で入手できるヒストリックカー向けのクラシックタイヤとしては圧倒的にリーズナブルなことです。ベーシックカー用のエコタイヤを買うような値段ですぐに手に入る。だから気負いなく履き替えることができる。今も現役で2000GTの走りを楽しむ層にとって、フレッシュなタイヤに勝るものはありませんからね」

時にF1マシンやADVAN Alpha 962Cといった一級のヒストリックレーサーを駆りサーキット走行を楽しむなど、「究極」を知る諸井代表の言葉には説得力がある。

そんなYOKOHAMAのヒストリックカーに対する姿勢を象徴するもう1つのタイヤが「A-008P」だ。モデル名についた「P」はポルシェの意。そう、1988年にYOKOHAMA初のポルシェの純正装着タイヤとして正式な認証(Nコード)を受けた記念すべきタイヤである。

ポルシェの認証コード「N0(エヌゼロ)」を得た「YOKOHAMA A-008P」。高出力型フラット6ターボエンジンを積むRRという911ターボ(タイプ930)特有の条件にマッチした性能が与えられている。装着サイズはフロントが205/55ZR16 91W N0、リヤが245/45ZR16 94W N0となる。

そのベースとなったのは、1981年に発売されるや否や、左右非対称のトレッドパターンと卓越したドライ&ウエット性能でヒットを飛ばしたADVAN HFタイプD(欧州名: YOKOHAMA A008)だ。まず、彼の地のポルシェ・クラブのメンバーの間でその高性能ぶりが話題になるとポルシェ本社にその噂が届き、1983年にポルシェから正式に純正装着タイヤ開発のオファーが届くこととなる。

ここでポルシェが要求したのは、卓越したドライ性能、耐ハイドロプレーニング性能を含む高いウェット性能、そして低パターンノイズ、低ロードノイズといったノイズ性能と、ZR規格を満たす高速性能であった。もちろん当時随一の高出力誇るRRレイアウトという、ポルシェ特有の条件に適合しなければいけなかったのは言うまでもない。

均一なトレッド剛性を確保するジョイントレスナイロンフルカバー、グリップ性と耐摩耗性、蓄熱問題をクリアするデュアルレイヤートレッドコンパウンド、そして左右非対称のトレッドパターンのみならず、前後タイヤのプロファイルを変更するなど、様々な技術を投入することで、ポルシェの高い要求をクリアした「A-008P」は、まず1988年に911ターボ3.3用としての認証を受けると、964、928、944などあらゆるモデルにも順次採用。

現代に蘇った「A-008P」も「G.T. SPECIAL CLASSIC Y350」と同様、当時のディテールを残しながら、最新の材料、技術、製法で製造されたものだ。

無論、取材した1986年型911ターボ“フラットノーズ”に履かせた姿は、ハイト、トレッドともにジャストフィット。取材車のフラット6ターボは500PSオーバーというハイチューン・ユニット(RUF製)だったが、パフォーマンス面においてタイヤに対する不満はまったくない。それに加え、ポルシェ技術陣から要求があったという低パターンノイズ、低ロードノイズが、現代の基準で見ても実によく抑えられた「静かなタイヤ」であることに感心した。

いくら30年以上前のモデルとはいえ、1960年代のヒストリックカーと違い、現代のスポーツカーと遜色ない性能を誇るポルシェの場合、特にタイヤ選びは慎重になるところだ。しかしながら、当時の開発ストーリーを見ても、また実際に履いたフィーリングからも「A-008P」が十分に候補リストのトップにランクインする実力と内容の持ち主であることを確信した。このタイヤの存在は日本のみならず、世界のポルシェ・ファナティックに対しても、何よりの福音となることは間違いないだろう。

「最新のスーパーフォーミュラでの、持続可能なサステナブルな素材を用いたYOKOHAMA / ADVANの未来を見据えた取り組みにも感心させられますけれど、一方で「A-008P」や「G.T. SPECIAL CLASSIC Y350」といったニッチなクラシックタイヤを提供し続けることで、数多くのヒストリックカーたちが、快適に安全に走ることができる。こうしたタイヤを作り続けるって並大抵のことじゃないのは想像に難くないですが、これも持続可能性=SDGsに貢献する尊い活動だと思うんです」

取材の最後、2000GTと911ターボを前に諸井代表が呟いた一言は、この2つのタイヤの本質を見事に突いていた。ただ貴重なクルマが生き残ればいいというものではない。それを支えるタイヤをはじめとしたエクイップメントがきちんと揃ってこそ、本来の姿を維持することができる。それはまた、この先もこの国で自動車という文化を育み、継承していく上で欠くことのできないものの1つなのだと、改めて感じさせられたのだった。

(了)

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