Tire Impression

GRカローラRZの足もとを支える―
ADVAN APEX V601の真価。

2022.11.9

TOYOTA GAZOO Racingが魂を込めて生み出した新しいスポーツカーの足もとをYOKOHAMA/ADVANが支えることになった。GRカローラRZの純正装着タイヤとしてADVAN APEX(エイペックス) V601が選ばれたのだ。かつて数十年にわたってタッグを組んできた「カローラ×ADVAN」が再びタッグを組み、この先の未来へ向けての新たな一歩を刻むのである。GRカローラRZを通してADVAN APEX V601の性能と世界観を、トップレーサーである谷口信輝選手の印象を交えながら紐解く。

Words:中三川大地 / Daichi Nakamigawa
Photography:安井宏充 / Hiromitsu Yasui

トヨタの本気
GRカローラの使命

「最初はまったく話になりませんでした」

試乗会場となった袖ヶ浦フォレストレースウェイで行われたブリーフィングの席で、TOYOTA GAZOO Racingの開発担当者は上記の通り実に開けっぴろげに説明した。モータースポーツで鍛えたクルマを市販すると公言したものの、開発前夜においては、その土壌が整っていなかったことを真っ直ぐな言葉で打ち明けてくれたのである。しかしだからこそ、トヨタは幾度となくサーキットやダートコースで過酷なテストを繰り返し、その過程で厳しい評価を下す開発ドライバーたちの言葉を真摯に受け止めてきた。そうした開発ムービーや、あるいはその過程で壊れた部品たちの姿を包み隠さず公開するあたりに、TOYOTA GAZOO Racingの熱く真剣な想いを感じずにはいられなかった。

1966年の発売以降、絶やすことなくトヨタの屋台骨を支えてきた看板モデルであるカローラに、いよいよ“トヨタの本気”が漲るGRモデルが加わったのである。

「ドライバーと対話のできるクルマ」「お客様を魅了できる野性味」を追求して鍛え直されたTOYOTA GAZOO Racingの手によるカローラのデビューは、日本の自動車関連業界のみならず、世界的規模のニュースである。何しろベースとなるカローラは世界150カ国以上で販売されるモデルであり、累計販売台数は5000万台を超える世界一の実績を誇る。そのスポーツモデルの、しかも一切の妥協のない徹底した作り込みがされたGRモデルの登場となれば、否が応にも世界での注目度が増すのは間違いのないところだ。

我々の日常風景にすっかり溶け込んでいるカローラは、同時にトヨタのモータースポーツ黎明期からレース史に爪痕を残してきたモデルという側面をも持つ。WRCのトヨタ初優勝はTE25カローラがもたらしたものだし、そのほかサーキットなどでも数々の輝かしい戦績を残してきた。その立ち位置を真摯に受け止めたGRカローラは、冒頭に象徴されるように「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」を実践して生み出されている。

GRカローラは先にデビューを果たし高い評価を得ているGRヤリスと同様にエンジンはもとより、シャシーからボディに至るまで徹底した強化が図られていることが特徴。1.6ℓの直列3気筒インタークーラーターボエンジンは304psの最高出力を発生し、GRカローラ用に最適化されたスポーツ4WDシステム「GR-FOUR」を搭載。さらに元町工場GR Factoryにおいて入念に作り込まれる高剛性ボディ、そして軽量化に寄与するCFRP素材のルーフパネルなど、まさにトヨタの本気が隅々まで惜しみなく注入されているのだ。

エンジン、シャシー、ボディに至るまでトヨタの本気、GRの魂が込められている。ルーフにはCFRP素材が用いられ背高なハッチバックスタイルでも十分な低重心化が図られている。ワイドフェンダーと組み合わさるとスポーツカーとしての野性味が溢れ視覚的な効果も高まる。

カローラとYOKOHAMA/ADVAN
いつの時代も特別な“絆”がある

そんなGRカローラのなかで、主軸を担うグレード「GRカローラRZ」の足もとをYOKOHAMA/ADVANが支えることになった。GRカローラRZにはADVAN APEX(エイペックス) V601(前後:235/40R18)が純正装着されたのだ。この銘柄に対して、まだ聞き覚えがないという方も多いことだろう。2022年11月現在は、北米を中心に一部の国のみで展開される銘柄であり、まだ日本には本格的に導入されていない。

ADVAN Sportで培ったウルトラハイパフォーマンスタイヤテクノロジーを投入し、ハンドリング性能やウェット性能を追い求めながら、優れた静粛性を両立させた銘柄だという。無骨なショルダーや、最低限の溝で構成されるトレッドパターンを見る限り、いかにもスポーツタイヤといった風情だ。ADVAN APEX V601開発当時の製品企画部長を務め、現在は横浜ゴムのタイヤ海外営業部 本部長代理として、このタイヤを世界中へ普及させようと東奔西走する政友 毅は、ADVAN Sportとの比較を交えながらAPEX V601の開発過程をこう振り返る。

APEX V601開発当時の製品企画部長を務めた政友 毅。現在は横浜ゴムの海外営業本部長代理として、A052、Neova AD09といったハイグリップ・スポーツタイヤに続く“第三のADVAN”として登場したAPEX V601の実力を世界に向けてアピールする役割を担っている。

「ADVAN Sportは欧州車勢を中心としたハイパフォーマンスカーへ純正装着することを前提にしたタイヤだったのに対して、ADVAN APEX V601はリプレイスメント市場を見据えた開発を行ないました。だからこそ枠に捕らわれず、我々、YOKOHAMA/ADVANのやりたいことを思いっきり表現しようとイチから開発しました。ウルトラハイパフォーマンスサマータイヤとしての性能をバランスよく詰め込みながら、YOKOHAMA/ADVANらしい“カッコよさ”にこだわったタイヤでもあります」

その象徴こそが、ブランドの歴史的ヒット商品となったADVAN HF Type D(ADVAN A008)を彷彿とさせる非対称トレッドパターンだ。これは決して、単なる懐古主義ではない。性能を追求するうえで生み出したひとつの理想像だと思える。実際、2020年には権威のあるデザイン団体であるiFインターナショナル・フォーラム・デザインによるiFデザインアワード2020においてプロダクト部門賞を受賞している。

名作ADVAN HF Type D(ADVAN A008)を彷彿とさせる非対称トレッドパターンが特徴のAPEX V601。スタイルの良さもスポーツタイヤに必須の性能と言わんばかりの潔く凛とした姿を示す。GRカローラRZへの純正採用サイズは前後共に235/40R18となる。

ADVAN APEX V601のGRカローラRZへの純正採用は、ADVAN Sportとはまったく真逆のストーリーだった。リプレイスメントタイヤとして追い求めたADVAN/YOKOHAMAの理想像が、逆に純正装着タイヤとしてTOYOTA GAZOO Racingに認められたのだ。GRカローラに限らずGR全体の思想として、現在、彼らはリプレイスメント市場にある高性能タイヤを積極的に採用しているという。先にデビューしたGRMNヤリスにはADVAN A052が採用された経緯もある。

「“ADVAN”という称号には特別な想いがあった」と、GRカローラのエンジニアや開発ドライバーは誰もがそう口を揃えていた。何しろADVANカラーのカローラ(AE86)を始め、過去、数多くのレースやラリーなどで互いにタッグを組んできた両雄である。それはYOKOHAMA/ADVAN側もまた同様だ。政友は「カローラのスポーツモデルの側にはいつもYOKOHAMA/ADVANがいた。だから今回、GRカローラに採用していただけたことはこの上なく嬉しかった」とその興奮を隠しきれない。

ユーザーフレンドリーな両雄で
高め合うファン・トゥ・ドライブ

では、肝心なるタイヤの性能は、そしてクルマとのマッチングはいかなるものか。GRカローラRZの性能をきっちりと受け止める“パフォーマンス”が、さらには世界観をきっちりと引き上げる“味”が宿るのか。今回、言わずと知れたトップレーサーにして、YOKOHAMA/ADVANの開発ドライバーも務める谷口信輝選手が、袖ヶ浦フォレストレースウェイでGRカローラRZのステアリングを握った。

レーシングドライバーとしてだけではなく、メディアを通してクルマの魅力を伝える活動にも力を注ぐ谷口信輝。スーパースポーツから旧車、チューニングカーまで、日々走ることの楽しさに直に触れ、その可能性を啓蒙している。

「気持ちよく走れるスポーツタイヤ、というのが第一印象だった。ステアリングの切り始めの操舵感から、タイヤが倒れ込んでいくときの潰れかた、そして切り増したところのリニアなグリップ感まで、とても自然な感触で、グリップ力も安定している。タイヤの限界を超えたときの滑り出しも唐突なものではなくて、だからこそ限界域付近での操作がしやすい。タイヤの性格に加えて、GRカローラRZが持つ固有のキャラクターでもあると思う」

と、谷口選手はとにかく自然なフィーリングに好印象を抱いたようだ。絶対的なドライグリップ力ならADVAN A052やNEOVAに分がある。しかし、スポーツドライビングを楽しむという面において、この扱いやすさは大きな武器となる。

「この素直な感触とコントロール性の高さ、限界を超えた先にある穏やかなフィーリングを一度味わってしまったら、誰にだって勧めたくなるよね。タイヤの限界を超えた先には、常に恐怖が待っている。その極限の部分を巧くコントロールするのがスポーツドライビングの醍醐味だとすれば、走り好きな方々にとっては特に楽しめるタイヤだと思う」

こうした人馬一体感に起因するファン・トゥ・ドライブは、特にGRカローラRZのような性格のスポーツカーにとっては必要不可欠だ。いかに出力性能やドライグリップに優れていても、凄腕のトップレーサーでなければ扱いこなせないようなピーキーな特性であれば、とても万人に勧められるクルマではない。カローラはいつの時代も大衆のための実用車という絶対的な軸があって、だからこそ、派生した一連のモデルだってユーザーフレンドリーでなければならない。だとすれば、それはYOKOHAMA/ADVANがAPEX V601に詰め込んだ「この楽しさと、カッコよさを、より多くの人に履いてもらいたい」という想いと共通する。トヨタ・カローラとYOKOHAMA/ADVANとのコラボレーション。長きにわたって手を取り合い成長を続けてきた両者にとってのひとつの集大成であり、同時に未来へ向けての新たな第一歩だと思えた。

さらにADVAN APEX V601は、決してGRカローラRZだけで完結することはない。その本筋であるリプレイスメントタイヤとして、今後、日本市場に導入される。17〜21インチまでという幅広い範囲で、インチアップなど世のカスタムカーを見越した豊富なサイズ設定を敷く予定だという。もしかしたらYOKOHAMA / ADVANが力を注ぐドリフト競技やサーキットなど、モータースポーツの世界でも花開くかもしれない。ADVAN APEX V601の性能が、そしてその世界観が、GRカローラRZを支えながら、アフターマーケットの世界で活躍する光景が、今から目に浮かぶようだった。

(了)

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