Tire Impression

NEOVA AD09とA052―
ADVANハイグリップスポーツタイヤの
“似て非なる性格”を試す。

2022.7.15

“ストリート最強”を謳う新世代のNEOVAとして今年初頭に登場したAD09。スポーツ走行を愛する幅広い層からの期待を一身に集めるハイグリップスポーツタイヤを、ADVANブランドが誇るモータースポーツ直系のA052と比較してみる。ステージは袖ヶ浦フォレストレースウェイ。テスターは“走り好き代表”を自認するモータージャーナリストの島下泰久である。YOKOHAMA / ADVANがラインナップするハイグリップスポーツタイヤの両極。その似て非なる性格をゼンカイで試す。

Words:島下泰久 / Yasuhisa Shimashita
Photography:小林邦寿 / Kunihisa Kobayashi
Special thanks:HKS Technical Factory

NEOVA AD09の進化には
本当に驚かされる。

サーキットを中心にスポーツ走行を楽しんでいる人にとっては、ADVANのハイグリップスポーツタイヤとしてラインナップされているNEOVA AD09とA052の違い、あるいは差というのは気になる部分ではないだろうか。もちろん、A052がそのネーミングからも分かる通りモータースポーツ直系タイヤ(アルファベットの“A”にゼロから始まる3桁の数字が続くタイヤは、レース用のタイヤを開発するモータースポーツタイヤ開発部が手掛けた製品であることの証)の、よりサーキット志向の強いモデルだということは想像できるところなのだが、2013年以来実に9年ぶりに刷新されたNEOVA AD09も“ストリート最強”と謳い、全方位で格段にポテンシャルを向上させていると聞けば、端的に言って「次はどちらを履くべきか」頭を悩ませている人も、きっと多いことだろうと思うのだ。

2022年3月より発売が開始されたNEOVA AD09(写真左)。前作AD08Rのデビューから9年の歳月を経て登場した待望の新作である。部材から見直し再設計した新構造や強さとしなやかさを追求した新プロファイルにより、最高レベルのケーシング剛性を実現。左右非対称のトレッドパターンや粘弾性のバランスを追求したコンパウンドを採用するなど、ストリートのみならずサーキット走行においても優れた性能を実現する。一方のA052(写真右)はYOKOHAMAのレース用タイヤを開発するモータースポーツ開発部の手によって生み出された超本格派。Sタイヤ並のグリップ性能に加え、欧州での販売を見据えて車外通過音の国際基準規制値(S2WR2)をクリアしている。

幸いにも今回、いずれもポテンシャルをフルに発揮できる場であるサーキットで、両者を乗り較べるという機会をいただいた筆者も、まさにそんなことを考えていたひとり。NEOVA AD09が、この袖ヶ浦フォレストレースウェイというステージで、どこまでA052の性能、そしてフィーリングに近づいたのかをじっくりと確かめてみた次第である。

車両は今回、GR86が用意された。HKSテクニカルファクトリーが手掛けたこのクルマは、エンジンはノーマルのままHKSの吸排気系を装着し、サスペンションにはやはりHKSのハイパーマックスSを採用。更にENDLESSのブレーキキットで制動力の強化を図っている。その上でレカロ製シートを装着しているのだが、エンジン内部のチューニングや極端な軽量化などはされていない、つまりは多くのユーザーにとってリアルな仕様と言っていい。

今回のテスト車はHKSテクニカルファクトリーがファインチューニングを施したGR86(6速MT)。足回りのアップグレードを中心としたより走りに振った仕様となっている。装着サイズはNEOVA AD09、A052ともにF&R : 235/40R18となる。

まず試したのは最新のNEOVA AD09。正直、心のどこかにあった「そうは言ってもストリート用スポーツタイヤだしな」という考えは、コーナーを2、3個通過する頃には完全に消え去っていた。とにかく限界が高いのだ。想像よりも一段、いや二段は先にあるんじゃないかというほどに。

改めて気合を入れ直して、じわじわとペースを上げていく。ブレーキングでの安定感は高く、そこからブレーキをリリースしながらステアリングを切り込んでいった時の手応え感もしっかりしている。限界は高いけれどピーキーな印象ではなく、むしろその絶対的なグリップ力が安心感に繋がっているという感覚である。

旋回中、そして立ち上がりについても同様だ。袖ヶ浦フォレストレースウェイで個人的に難しいと思っている複合の5、6、7コーナーのような旋回中に横Gが徐々にキツくなってくるような場面でも、リヤがいきなりすっぽ抜けるような怖さが無いから、安心して飛び込んで行くことができる。また、8コーナーのような長く横Gがかかり続けるような場面でもコントロール性が高く、ラインの自由度があって走りやすい。

そう、絶対的なグリップ力が高いのはもちろん、それをうまく走りの余裕に使っていて、懐深いコントロール性として感じられるのだ。だから、安心してどんどん踏んでいける。路面への当たりもガツガツと硬すぎる感じではなく、むしろ舗装が荒れたところ、波打った部分でもしなやかに接地し続けてくれる。これも安心感に繋がっている要因だろう。サーキットではもちろん、ストリートでも有り難い性能であることは間違いない。

総じてステージを選ばず、気持ち良くスポーツドライビングできるタイヤだというのが、NEOVA AD09の印象ということになる。クルマのポテンシャルがどんな場面でも引き出しやすいし、あるいはドライバーのスキルを引き上げてくれるタイヤと言うこともできるかもしれない。実は自分のプライベートカーに最近までNEOVA AD08を履かせていたこともあり、「NEOVA、ずいぶん進化したな」と大いに感心させられたのだった。

レーシングタイヤの血。
A052にはそれが流れている。

ピットに戻ったGR86のタイヤをメカニックチームが手際よく交換してくれた。いい具合に火照った身体と心を冷ますことなく、続いてはA052でコースに出る。

まだピットロードを走行している時点で、いかにも路面に貼り付きそうな強力なゴムが路面を掴み、そして小石などを巻き上げてフェンダーの内側にバチバチと当たるのを聞いて、ヘルメットの内側で思わずニヤけてしまった。A052に流れる“レーシングタイヤの血”みたいなものの一端を見た気がしたわけだが、実際にコースに出てみると、その予感は確信に変わった。

A052もやはりグリップ力はきわめて高い。但しフィーリングは微妙に違った感じで、NEOVA AD09がトレッド面をしなやかに路面にコンタクトさせるのに対して、より剛性感が高く骨太な印象なのだ。なので、攻めれば攻めるほどにタイヤが路面に食いついていくような感覚で、むしろ安定してくる。それなりのペースでもすぐに優れたグリップ力を発揮するのだが、本当においしいところは、実はまだその先にある。

そんな雰囲気なので、ある意味では自分の意識を切り替えることが必要と言えるかもしれない。そう、レーシングタイヤに接するかのように。

テスターの島下泰久は根っからの走り好きで知られるモータージャーナリスト。YOKOHAMA / ADVANのスポーツタイヤを自らの愛車に装着してきた経験もあることから、今回のハイグリップスポーツタイヤの両極をサーキットで存分に試せる機会はまたとない喜びとなったという。特にNEOVA AD09の進化具合にはかなり驚かされたのだとか。

そうは言っても、攻めすぎてスライドしはじめるような場面でも一気に姿勢を乱したりせず、いかにも接地面が広そうな感覚でじりじりと漸進的に滑っていくから怖くない。一気に姿勢が乱れたりはしないので滑ってもロスは少なく、安定したラップを刻み続けることができる。

要するにただ速いだけでなく、その速さをずっとキープし続けるのが容易なタイヤが、このA052なのだ。正直、これだけグリップするタイヤだとクルマにはもっとパワーがあってもいいと感じたぐらいだが、一方でドライバーにも相応の体力が求められるということも事実である。

タイムを極めるならA052。
幅と奥行きのNEOVA AD09。

NEOVA AD09もA052も、クルマを自在にコントロールして楽しむ、まさにスポーツドライビングを突き詰めていく時の相棒として、申し分無いパフォーマンスを備えていることは間違いない。その中でも、タイムをストイックに狙っていくならば、選ぶべきはやはりA052だろう。

ではNEOVA AD09はどうか? と言えば、絶対的なグリップ力の高さはこちらも申し分無いレベルにあり、しかもその持てる力をどんなステージでも、誰が乗っても、容易に目いっぱいまで引き出すことができる間口の広さ、そして高い次元でのコントロール性という奥行きの深さまで身につけたタイヤと表現できる。これなら走り慣れたサーキットでも、初めてのコースでも楽しめるに違いないし、ストリートでも走りの喜びを存分に味わえるはずだ。

袖ヶ浦フォレストレースウェイでの今回のラップタイムを参考として記すと、NEOVA AD09が1分19秒06、A052が1分18秒29というベストをそれぞれ記録した。

ADVAN NEOVA AD09と、ADVAN A052。同じようなハイグリップ志向のスポーツタイヤかと思いきや、実際に試してみると、それぞれに確固たる個性と楽しさを備えていた。正直、どちらも譲らぬ走りの歓びに当日は仕事を忘れて走りに走り、更にはこうして振り返ってみて、また走りたくなってウズウズしている次第なのである。

(了)

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