FORMULA DRIFT® JAPAN

FDJ2024開幕戦に見る
世界とのクロスポイント。

2024.4.12

世界の頂点を極めた者が、己の手足として使い切るツール。次世代を牽引する新生が、全幅の信頼を寄せる存在。世界を知り、そのすべてに挑む者をそっと支える相棒。
新境地を切り拓こうとする者が求める、その先のグリップ力。伝統と革新との狭間で頂点を目指す者たちのキーデバイス。FORMULA DRIFT JAPAN開幕戦 富士スピードウェイを、YOKOHAMA/ADVANとともに闘ったドライバーたちの物語──。

Words:中三川大地 / Daichi Nakamigawa

Words:安井宏充 / Hiromitsu Yasui(Weekend.)

世界へ羽ばたく男が
世界を制した男に挑む。

「年を追うごとに、いや、毎戦ごとにレベルがあがっているという実感があります。海外から強豪選手が押し寄せてきているし、若いドライバーの成長も著しい。そのレベルの高さには圧倒されながらも、決して怖じけてなどいません。今年は食らいついて絶対に勝ちたい」

金田義健(#770 / TEAM CUSCO RACING / GRヤリス)は、まるで自動車メーカーのワークスチームのようなクリーンなTEAM CUSCO RACINGのピットを眺めながらそう言った。FDJ2からのステップアップを経て3シーズン目を迎える彼が、FDJの進化と深化を感じるのも当然だ。なにしろ世界最高峰のスタープレイヤーがチームメイトとして隣にいる。史上最年少のWRC/世界ラリー選手権王者であるカッレ・ロバンペラが、今年もFDJの場にやってきたのだ。2024年4月6日~7日に開催されたFORMULA DRIFT JAPAN開幕戦 富士スピードウェイにおいて、ロバンペラはスポット参戦ながら昨年と同じGRカローラ(#69 / KR69 CUSCO RACING / Red Bull GR COROLLA)を以って闘いに挑んだ。

「日本は好きだし、FORMULA DRIFTという競技はとても楽しい。クルマやドライバーによって個性が千差万別なのがいいね。追走は他者のクセや動きを見据えて、調整していくという工夫が必要になるけれど、そういう闘い方自体が、僕にとっては新鮮だし勉強になるんだ」

ロバンペラの走りはいつも大胆にして、そして精密だ。後輪から白煙をもうもうと撒き散らしながら、一寸の狂いもなくゾーンに向けてマシンを放り込んでいく走りには圧巻される。今回もまたしかり。単走の1本目は、92ポイントを獲得していきなりの首位へ。その後、ライバルたちが徐々に迫りくるものの、2本目はそのプレッシャーを楽しむかのように、より深いドリフトアングルを維持してままアウトサイドゾーンをきっちりと捕える。結果は誰も到達できないと思えるような96ポイントへ。世界からやってきたスタープレイヤーは、やはり格の違う存在であることを思い知らされた。

カッレ・ロバンペラ(#69 / KR69 CUSCO RACING / Red Bull GR COROLLA)

しかし番狂せを起こしたのは身内にいた。金田やロバンペラと同じくTEAM CUSCO RACINGに在籍する箕輪大也(#771 / TEAM CUSCO RACING / GR86)だ。ドリフトをはじめてからまだ6年足らず。FDJ2からキャリアをスタートさせ、FDJへの参戦3年目という“若干14歳の中学生”である。昨年(2023年)は最年少優勝を飾ったほか、シリーズランキングで2位を獲得するなど、若いながらもFDJでは名実ともにトップドライバーとなった。今年はGRヤリスからGR86へとマシンを変えての参戦だ。スケジュールの関係で事前の練習はできておらず、練習走行を含めて今回の参戦が初乗りに近い。しかし、慣れないマシンにすっと身体を馴染ませるのは彼が得意とするところ。そのためのイメージトレーニングや、SIMでの練習を毎日欠かさず己に課してきた。

「たとえどんなマシンで、どんな路面コンディションでも、自分が思いっきり走れるように、毎日、シミュレーションをしています。今年からマシンがGR86に変わったんですが、あんまり乗りにくさは感じませんでした。乗りやすいマシンにしてくれたTEAM CUSCO RACINGの皆さまや、いつも安心感があって狙い通りに振り回せるADVAN NEOVA AD09には感謝しています」

箕輪大也(#771 / TEAM CUSCO RACING / GR86)

そんな箕輪の単走は、1本目から魅せてくれた。鮮やかな所作を持って課せられたゾーンにマシンを放り込み、結果は89ポイントへ。ロバンペラには敵わずとも、ベスト32へ向けて上位での通過はほぼ確定したかに思えた。そのうえで2本目は真の意味でプレッシャーから解き放たれたのか。1本目よりも明らかに迫力をたたえた走りでゾーンへとマシンを滑り込ませる。度胸一発ではない、緻密なマシンコントロールには惚れ惚れするほど。その刹那な時間に、箕輪のすべてが凝縮されていた。それはまるでダンスを踊るかのごとくエレガントでドラマティックで、どこか神がかった不気味な気迫をたたえて──。

もはや満点に近しい
「結果、98ポイント」

「出走が最後から2番目なので、緊張している時間が長くて辛かったけど、なんとか持ちこたえました。富士はずっとアクセルを踏んでいられるし、自分にとっては大好きなコース! ロバンペラ選手の走りに追いつけ追い越せと踏み切りました。終わってから振り返ると、自分が持っている限界の走りをすることができたと思います」

1位:箕輪大也。2位:カッレ・ロバンペラ。単走におけるこの戦績は、簡単に受け流すことができないと思えるほど、FDJの歴史に、ともすればモータースポーツ史に刻まれる記録なのかもしれない。若干14歳の中学生ドライバーが、2022年、2023年のWRC王者を抑えたのだから。箕輪はともにドリフトドライバーである両親(箕輪慎治・昌世)のもとで育ち、ドリフト競技という意味では英才教育を受けてきた。決して受け身ではなく、誰よりも本人がやりたがった。実際に上達も早く、現在進行形でステップアップを続けている。今年からはFORMULA DRIFTの本場にしてトップカテゴリーであるアメリカへ挑戦するという。史上最年少にしてフル参戦という偉業へと挑むのだ。そうした意味では、これから世界へ羽ばたく男が、世界を制して日本にやってきた男に挑んで、勝った瞬間だった。

単走は見事な逆転劇だったが、しかしFDJの醍醐味は交互で追走しあう決勝トーナメントにこそある。結果から述べると、今回、ロバンペラはベスト8を、箕輪はベスト16を争う闘いで惜しくも敗退してしまった。最高峰のドライビングスキルを有していても、コンマ1秒のなかでの状況判断の違い、あるいは運命のイタズラで敗退を喫してしまうことがFDJという競技なのだと再確認する。冒頭で金田が述べた「毎戦ごとにレベルが上がっている」というのは、こういうことを言うのだとも思う。

今回の結果は振るわずとも
可能性を感じるYOKOHAMA/ADVAN勢。

誰もが皆、敗北を喫するとその原因を冷静に分析して言葉にしてくれる。しかし、それ以上に悔しさを滲ませていたのが印象的だった。それは、ロバンペラや箕輪だけではない。アメリカと日本のFORMULA DRIFTにフル参戦するケングシ(#21 / Team Kazama with Moty’s / LEXUS IS500 F SPORT Performance/Drift)もそうだった。彼は昨年からレクサスIS500を煮詰めて挑戦し、あらゆる仕様変更を経ていい状態まできていた。しかし、結果はベスト8を争う決勝で、その走りを昇華させることができず、悔しくも敗退していた。

ケングシ(#21 / Team Kazama with Moty’s / LEXUS IS500 F SPORT Performance/Drift)

「いままで気持ちいい走りができていなかった部分があるけれど、ようやく万全な状態で挑むことができました。だからこそ本当に悔しい。そしてミスが許されない競技だからこそ、楽しく、気持ちよく走ることが何より大事なのだと思います」

極限下での闘いでこそ、まずは自分自身が楽しむこと。観客を沸かせようとすること。それこそが結果につながる。それはロバンペラや箕輪、そしてチームメイトの金田。そして同じYOKOHAMA/ADVANユーザーのケングシ。誰もが口にしていた。

松井有紀夫(#19 / M2evolution / BMW 220i Mスポーツ)

同じくYOKOHAMA/ADVANユーザーである松井有紀夫(#19 / M2evolution / BMW 220i Mスポーツ)も同じく、初戦での結果こそベスト32止まりと振るわなかったものの、今後に期待ができる選手である。

「軽量なBMW2シリーズ(F22型)にアメリカンV8(LSX)を積むというパッケージに挑んで、マシンはいい状態に仕上がっています。とはいっても現時点では、強烈なトルクを活かし切ってタイヤを完璧に使いこなすところまでいっていない。それでも、既存の常識に捉われない新しい挑戦をして、観客を沸かせたいといつも思っています」

サム・ルーカス(#11 / Team SAMMIT with Be Forward/ S15シルビア)

と、多種多様な挑戦者をYOKOHAMA/ADVANは支える。今年、FDJ2からステップアップしたサム・ルーカス(#11 / Team SAMMIT with Be Forward / S15シルビア)など、期待の新人にも注目が集まる。そして、眠れる獅子のごとく沈黙に徹した齋藤太吾(#87 / FAT FIVE RACING / A90スープラ)もいる。今回は練習走行でのマシントラブルにより出走を断念していたのだ。彼らの次戦以降には期待したい。

齋藤太吾(#87 / FAT FIVE RACING / A90スープラ)

「とにかくクルマと対話をする。めまぐるしくコンディションがうつり変わり、あるいはクルマの状態に変化が生じても、クルマとコミュニケーションが取れていれば問題ない。その時に“信頼できるタイヤ”の存在は大きい。ADVAN NEOVA AD09は、いつ何時も絶対的な軸となってくれる。性能が安定していて、かつコントロール性に優れているから、我々は思いっきり攻めることができるし、またセッティングを突き詰めることができる」

置かれた環境下やマシンは多種多様ながら、彼らYOKOHAMA/ADVAN陣営は一様にそんなことを述べていたのが印象的だった。些細なミスも許されない勝負ごとのなかで、それでもドラマティックな走りで観客を沸かせて、そして勝ちにいく。観客を魅了させて、なおかつ高得点を取るためには「自分自身が走りを楽しむべきだ」とも。

誰もが“楽しみながら”真剣勝負で頂点を目指すFDJ2024は、今回の富士スピードウェイを含めて計6ラウンドが予定されている。アメリカのFORMULA DRIFTにフル参戦する箕輪は、スケジュール次第ではFDJにもスポット参戦したいという意思を持っている。さらにロバンペラも今年は“充電期間”としてWRCはパートタイム参戦としており、かつFDJに並々ならぬ熱意を持っていることから、ふたたびFDJでその勇姿を見ることができるかもしれない。FDJに参戦するすべてのドライバーと切磋琢磨しながら競い合う、彼らトップドライバー同志の対決がふたたびFDJで実現することにも期待したい。

来るべき第2ラウンドは5月18~19日、鈴鹿ツインサーキットである。

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