FORMULA DRIFT® JAPAN

未来を照らす涙の雨──
無情と感動が交錯したFDJ最終戦。

2023.10.11

熾烈なシリーズチャンピオン争いが最終戦にまで縺れ込んだFORMULA DRIFT® JAPANの2023年シリーズ。すっかり秋の空気感となった岡山国際サーキットは多くのドリフトファンで賑わっていた。この最終戦にはWRC(世界ラリー選手権)の現役最年少王者にしてFDJ Rd.2 エビス西コースで圧倒的な強さを見せつけたカッレ・ロバンペラが再び参戦。シリーズチャンピオンを争う日本のトップランカーたちの闘志をさらにヒートアップさせたのだった。

Words:髙田興平 / Ko-hey Takada(Takapro Inc.)
Photography:安井宏充 / Hiromitsu Yasui(Weekend.)
        望月勇輝 / Yuki Mochizuki(Weekend.)

「強者」として成長を遂げた1年。
「経験」を積んで未知なる高みを目指す。

「1年間壊れないマシンで走らせてくれたチームに感謝します。勝てなかったことはだから……本当に申し訳ない……KANTA選手、おめでとう!」

箕輪大也(#771 / CUSCO Racing / GRヤリス)がそれまで堪えていた涙で声を詰まらせながら3位獲得のインタビューに答える。その姿はただ、真っ直ぐな感動を見る者に与えてくれた。彼は「まだ14歳の中学生」である。しかし、その姿はこの1年間シリーズを引っ張り続け、最終戦の決勝・追走トーナメントでもTOP3まで残った「強者」としての風格を湛えていた。「王者」にはなれずとも、箕輪大也は誰もが認める「強者」であった。彼の流した涙は誰にしもそう思わせるほど、確かな重みを感じさせるものだった。

FORMULA DRIFT® JAPANの最終戦は箕輪自身が「好きなコース」と公言する岡山国際サーキットで開催された。昨年は自身初の単走優勝を果たしている岡山国際だけに、予選単走を危なげなく勝ち上がり91ポイントという高得点を得て4番手で通過。シリーズランキングではトップの小橋正典(#4 / LINGLONG TIRE DRIFT Team ORANGE / A90スープラ)から9ポイントのビハインドという僅差で迎えた最終戦だけに、「中学生シリーズチャンピオン」の誕生に誰もが大いに期待していたことは確かだった。

緊張しないわけがない。プレッシャーを感じぬはずもない。しかし、箕輪大也の走りはそうした迷いやブレのようなものを一切、周囲には感じさせないものだったように思う。そのメンタルの強さはもはや、超一級レベルにあると言って過言ではない。

しかし、勝負とは運の世界でもある。いやむしろ、最後は運、すなわちタイミングという「勝機」を掴んだ者だけがその頂点に立つことが許される非情な世界だと言ってもよい。その意味では、この最終戦の決勝・追走トーナメント / TOP16後半になって降り出した雨は、箕輪にとっては決して「恵みの雨」とはならなかった。

ラバーの乗った路面に雨が降ったことで、そのコンディションはまさに「最悪」なものとなった。その程(ほど)は、「WRC王者」であるあのカッレ・ロバンペラ(#69 / KR69 CUSCO Racing / KR69 Red Bull GR COROLLA)ですらマシンをコントロールしきれずスピンを喫するほどの状況であったことが如実に表している。

そんな、クラッシュやトラブルが続発する最終戦の決勝トーナメントであっただけにマシンやコースの修復作業に運営は時間を取られ、ドライバーたちは「待ち」を強いられることも多かった。シリーズチャンピオンを賭けての戦い、問答無用のプレッシャーに晒され続けながら「勝ち」への集中力を保ち続けることなど、もはや万人には想像すらできないほどの苦行なのだろう。箕輪もTOP8の戦いでは度重なる「One more time」の末にようやくTOP4へと勝ち進むといった具合に、「一発勝負」で勝ち上がることのできないタイミングの悪さに対して、どこかもがき苦しんでいるようにすら映った。

そして迎えたTOP4。対戦相手となったのは「元祖10代プロドリフター」(競技デビューは13歳)であるKANTA(LINGLONG TIRE DRIFT Team Orange / JZX100チェイサー)だった。前戦の奥伊吹で勝利してポイントランキング4位に浮上。さらにこの最終戦では単走優勝も果たしているノリに乗っている男との対戦。さらに箕輪とは「ドリフト新世代」同士であり、共にチャンピオンの可能性を残すまさに注目の戦いである。

夕闇の迫る岡山国際のホームストレート。雨に濡れた路面にマシンのヘッドライトを鈍く反射させながらKANTA先行で決戦がはじまる。ZONE2のコンクリートウォールにマシンのテールを絶妙にタッチさせながらの攻めに攻めた走りで沸かすKANTA。追う箕輪もそこにビタビタに合わせて両者互角の戦いを見せる。

続く箕輪の先行。名門「CUSCO Racing」のGRヤリスと老舗「Team Orange」のJZX100チェイサーが互いの闘志を全身に漲らせながら濡れた路面を駆け出していく。

「KANTA近っ!!!!」──思わずそう叫んでしまうような走りだった。明らかにKANTAの後追いが勝っていた。箕輪はTOP4で敗退。自力優勝(シリーズチャンピオン獲得)の目はここで消え、残すはチームメイトである世界王者、カッレ・ロバンペラの走りに託すのみとなった。

しかし、KANTAの「勝ち」への執念はそのまま世界王者をも退けてしまう。この最終戦でも神がかり的なまでの正確無比なマシンコントロールを見せつけて他を圧倒してきたWRC王者ではあったが、初めてのコースでしかもかなりトリッキーなハーフウェットのコンディションともなれば、さすがに攻め切ることは叶わなかった。

「今回も良い時間を過ごすことができたね。この場所(FDJ)に戻ることができて嬉しくもあったし、何より走りを楽しむこともできたよ。ファンの皆には本当に感謝している。でも、勝てなかったことは残念。そしてさらに残念なことはヒロヤ(箕輪)のチャンピオン獲得を手伝えなかったことだね」

最終戦、総合2位獲得のカッレ・ロバンペラのコメントである。

「チャンピオンを獲れなかったことはやはり悔しいです。でも、これで良かったのだとも思っています。大也もボクたちチームも、何より望んでいたのは自力でのチャンピオンです。他力本願でのチャンピオン獲得ではありませんでした。KANTA選手は自力で、勝ちへの執念でチャンピオンをもぎ取った。まだ若い世代とはいえ彼もこれまで多くの悔しさを経験してきたのだと思います。そして、その経験こそが、前戦での優勝、今回の単走優勝へときちんと生かされて、そして最後にはあの困難なコンディションの中でロバンペラ選手を破ってのチャンピオン獲得へとつながった。
大也の成長は親であるボクらですら驚くほどの早さです。でも、まだ経験が足りないことも今回の最終戦で改めて理解することができました。だから悔しいけれど、得るものだって多かったと思います。経験が大也をもっと強くする。未来に向かって、さらに強くなると信じています」

箕輪の父親でありスポッター兼メカニックとして母親の昌世と共に彼の「進化」を支え続けてきた箕輪慎治の言葉である。確かに「中学生チャンピオン」が今回誕生しなかったことは残念でもある。しかし、箕輪大也は若干14歳にして、日本最高峰のプロドリフト競技で堂々の年間シリーズランキング2位を獲得したこともまた、事実である。

勝負の世界特有の無情とも言える「悔しさ」を経験した箕輪大也が、この先の時代に向かってさらにどれだけ大きく飛躍するのか? それが楽しみでならない。そう、そうした未来を向いた輝ける期待値こそが、この14歳の天才ドリフターが我々ファンに対して与えてくれる最大の価値であり、魅力なのだ。

YOKOHAMA / ADVAN勢も
大きく飛躍を遂げた2023年シーズン。

FORMULA DRIFT® JAPANの2023年シーズンをYOKOHAMA / ADVANアスリートとして共に戦い抜いたドライバーたちもまた、「次」へ向けたさらなる飛躍を誓う最終戦となった。それぞれの「想い」を最後に記したい。

蕎麦切広大
#31 / SHIBATA Racing YOKOHAMA / GR86

「自己ベストは毎年更新できています。前戦から少し調子を崩してしまった点は否めませんが、自分の中では毎戦常に手応えを感じることができている。チャンピオン争いにも絡むことができたシーズンでした。次のシーズンもさらに上を目指すだけです。必ずチャンピオンを獲る。それだけです」

ケングシ
#21 / Team Kazama with powervehicles / LEXUS IS500 F sport Performance / Drift

「New Carのデビューイヤーでしたから色々と思い通りに行かないことも多かったのは確かです。それでも、最終的にはシリーズのTOP10に入ることができた。これはきちんと評価すべき点だと思っています。今シーズンを通して見えたものは多かったので、次のシーズンはそれを生かした走りができる。2024年もまた海を渡ってFDJに来ます。マシンはもちろんISです。期待していてください」

金田義健
#770 / CUSCO Racing / GR86

「最後の最後で掴めた気がする。リザルトも初めてTOP16です。気持ちの作り方って言うのかな、そういうものが掴めた。ロバンペラと練習で走れたことも大きな経験になった。反射神経がハンパないというか、とにかく状況に合わせ込む能力が異次元にある。若い世代に倣ってシミュレーターの練習も取り入れたりと、今シーズンは自分自身、しっかり進化することもできた。FDJそのもののレベルも驚くほど上がった1年だったと思います。まさに覚醒ですよね。付いていくだけで精一杯でしたけど、得るものも多かったです」

松井有紀夫
#9 / オセアン with M2evolution / F22 BMW 220i Mスポーツ

「予選・単走では良いパフォーマンス(89ポイント / 5番手)が出せました。今年は新しいマシンを投入しましたがシーズン開幕には間に合わず、3戦目からとなりました。正直、セットアップを試行錯誤しながらの戦いでした。目標は結果、すなわち優勝だったのでそこは残念ですけれど、来シーズンはさらに上を目指せる手応えがある。ボクはいつか世界に出たいと真剣に考えて走っています。まだまだ進化するだけです」

YOKOHAMA / ADVANとしてのFORMULA DRIFT® JAPAN 2023年シーズンもまた、得るものが非常に多いシーズンとなった。FDJ2(NEOVA AD09ワンメイク)、FDJ3(APEX V601ワンメイク)も盛況となり、日本におけるドリフト競技のこの先の未来に向けた可能性を大いに期待させてくれるシーズンであったことも印象深い。

シーズンを通してYOKOHAMA / ADVANアスリートを応援してくださった皆さんへの感謝とともに、来シーズンはYOKOHAMA / ADVAN勢がさらに飛躍することを信じます。皆さん、1年間ありがとうございました。

(了)

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