FORMULA DRIFT® JAPAN

“追われる側”から“追う側”へ──
ファイナルラウンドへ向けた
天王山の奥伊吹。

2023.8.23

248ポイントとランキング1位のポイントリーダーとして迎えたFORMULA DRIFT® JAPAN第5戦・グランスノー奥伊吹。14歳になったばかりの箕輪大也(#771 / CUSCO Racing / GRヤリス)は果たして最終戦・岡山国際サーキットを待たずしてシリーズチャンピオンを決めることができるのか? 多くの期待が集まるまさに天王山と呼ぶべき“真夏の奥伊吹”だったが、その雌雄の行方は秋の岡山まで持ち越されることになった。

Words:髙田興平 / Ko-hey Takada(Takapro Inc.)
Photography:望月勇輝 / Yuki Mochizuki(Weekend.)

簡単には手に入らない
“頂点”からの景色

「基本はまだ子供ですから感情表現が大人のように豊かではないところもあるんですよ。よく『ヒロはポーカーフェイスだね』と言われることがありますけど、本当は緊張しているのにそれをどう表してよいのかが分からないだけ。ボク(スポッター兼メカニックを務める箕輪慎治)は親ですからそれでも微妙な表情の変化で判断することができる。だから引き続きポイントリーダーとして迎え、しかも状況次第ではシリーズチャンピオンの座すら見えて来たこの奥伊吹では、皆さんの想像以上に、大也がかなり緊張した気持ちでレースに臨んでいることが分かるんです」

箕輪大也(#771 / CUSCO Racing / GRヤリス)

8月15日に14歳の誕生日を迎えたばかりの箕輪大也(#771 / CUSCO Racing / GRヤリス)はしかし、土曜日に行われた予選・単走でいきなり周囲の度肝を抜くまさに“芸術的なドリフト”で魅せてくれた。そこに“緊張”という文字を見出すことなど到底できないほど完璧な、何よりポイントリーダーとしての風格をしかと見せつける堂々たる走り。ポイントも「94」と誰もが頷く文句なしの審査となったことは言うまでもない。

「実は練習のときからステアリングの切れ角に問題が生じていました。逆関節という症状(ステアリングがフルカウンターから戻らなくなる症状)ですが単走の1走目は多少の違和感はあってもマシンに合わせて走ってくれた。こうした大也の適応能力の進化には本当に日々驚かされます。しかし、1走目から戻ってきたときにその症状を抑えようとボクが調整してしまった。結果として、2走目は逆に切れ角が足りずにスピンをしてしまってポイントを得ることができず、単走2位に留まったのです」

モータースポーツの世界はセッティングが命である。それはグリップ(サーキットレース等)でもドリフトでも変わらない。時にミリ単位での調整の幅が命取りにもなる。

「マシンのセッティングには当然、コースとの相性がありますよね。だから無理にマシン側で合わそうとせず、乗れていた(ドライバーが合わせていけた)ままにするべきだったと、そこはボク自身が反省しています。コンクリートウォールが近くタイトでテクニカルな奥伊吹のコースに合わせたセッティングを今回はうまく見つけ出せなかったからこそ、決勝・追走トーナメントでは再び元に戻して、大也もまたそれにうまく合わせてTOP8まで勝ち進んでくれました」

もはや箕輪大也がTOP32で敗退するイメージを頭に思い浮かべることができない。それほどまでに彼の走りはクレバーで安定したものに映る。ちょっとしたミスこそあれども、それでも最後はきっちり合わせ込み全体をまとめ上げる力がこの14歳の少年には備わっている。その姿は本当に、この道ウン十年のベテランとすら映るのだ。

実際、TOP8では大ベテランの山下広一(#37 / TMS RACING TEAM SAILUN TIRE / BMW E92)との対決となったが、その中身は両者ともにクリーンで安定感のあるものだった。箕輪の先行では後追いの山下がZone3でボックスに入れず箕輪が少し有利な展開に。続く箕輪の後追いでは前戦SUGOラウンドでも今後の課題として挙げていたスタート時のタイミングを見事に克服した印象の華麗なダッシュを決め、加速力で勝る山下のBMWに後ろからビタビタに寄せるも、審査では飛び込み角のアングル不足、続くZone2とZone3でもボックスに入れずと、後追いとしての距離感は見事だったもののここで敗退となってしまった。優勝すればシリーズチャンピオンを決める可能性もあっただけに残念な結果とも取れるが、シリーズ全体を最後まで盛り上げる意味では、これもまた必要な価値ある敗退だとも思えた。

残念──と言う意味では前戦SUGOで総合2位に入り、解説の谷口信輝に「もっとも乗れてる男」と評される蕎麦切広大(#31 / SHIBATA Racing YOKOHAMA / GR86)もまた、実力よりもどこかで“運”に左右される奥伊吹ラウンドとなってしまった。

蕎麦切広大(#31 / SHIBATA Racing YOKOHAMA / GR86)

「朝の追走の練習でマシンをヒットさせてしまい、ステアリングラックにトラブルを抱えてしまって。結局、それを直すことができずTOP32より上に進むことができませんでした。単走の順位(4番手 / 91ポイント)に現れているようにマシンの調子も相変わらず良かっただけに悔しさも増しますが、完全にドライバーであるボク自身のミスですからそこはしっかり受け止めて次に向かうしかありません。岡山では、勝ちます」

前戦SUGOで総合3位、今季初の表彰台を獲得したケングシ(#21 / Team Kazama with powervehicles / LEXUS IS500 F sport Performance / Drift)もまた、その好調ぶりを存分に感じさせる走りを予選・単走から披露してくれていた。1走目で87ポイント、2走目では91ポイントを叩き出し、全体の5番手で決勝・追走トーナメント(TOP32)へと駒を進めたのである。最新の4ドアモデルであり、その分サイズも重量もあるマシンだけに、このタイトな奥伊吹で迫り来るコンクリートウォールへの恐怖心に打ち勝ちながらの壁際スレスレのドリフトコントロールは、観る側が想像する以上の難しさがあるのだとも思う。

TOP32の後追いでは先行の高嶋健市(#86 / Team Kazama with Powervehicles / JZX100マークⅡ)がウォールの餌食となると、後追いのケングシは目の前のマシンを冷静にかわしてそのままTOP16へと駒を進めた。こと“冷静さ”という意味で、ケングシは世界を股にかける経験豊かな選手らしく抜群の安定感を見せてくれる。しかし、そんなケングシであってもミスを犯してしまうのがドリフトという競技の難しさであり、面白さでもある。TOP16では2度の“One more time”を経て最後の後追いで痛恨のスピン。サイズ感のあるマシンで壁際まで攻め込みながら、常に集中力を維持させることの限界点を、名手ケングシのミスから見て取ることができた気がする。

ケングシ(#21 / Team Kazama with powervehicles / LEXUS IS500 F sport Performance / Drift)

FDJ2023第5戦・グランスノー奥伊吹でのYOKOHAMA / ADVAN勢の結果は、金田義健(#770 / CUSCO Racing / GR86)、松井有紀夫(#9 / オセアン with M2evolution / F22 BMW 220i Mスポーツ)の二人にとってもTOP32敗退という、どこかで“出し切れない想い”ばかりが募るものとなってしまった。

蕎麦切広大(#31 / SHIBATA Racing YOKOHAMA / GR86)

「もうシーズンも終盤戦、残すは岡山ラウンドだけになってしまいましたが、ここに来てやっとマシンに乗れてきたという感触はある。そういえば、ボクも最近SIM(シミュレーター)での練習を取り入れることにしたんです。バリバリのアナログ世代ですから最初はどこか抵抗もあったけれど、いざやってみたら反復練習という意味でもコレはかなりの効果があるな、って。チームメイトのヒロの影響も多大にありますが、なかなかリアルな練習ができないドリフト競技だからこそ、こうした新しい時代の道具に頼って腕と感覚を磨くことも大切なんだと、そこは素直に感じましたね。岡山までにはさらにSIMで走り込んで、実際の走りでも今季最高のものを見せたいと思います!」

金田が悔しさの先に笑顔を見せて次戦、岡山ファイナルでの最後の飛躍を誓ってくれた。そう、もはや待ったなしである。泣いても笑っても次戦ですべてが決まる。

金田義健(#770 / CUSCO Racing / GR86)

長らくポイントリーダーを走ってきた箕輪大也は、今回のグランスノー奥伊吹でその座を優勝した小橋正典(#4 / LINGLONG TIRE DRIFT Team ORANGE / A90スープラ)へと明け渡している。第5戦終了時点でのポイント差は小橋 / 311に対して箕輪 / 302の9ポイント差。まさに僅差であり、どちらかが最終戦で優勝すれば確実に王者の座に就くことができる差でもある。

“追われる側”から“追う側”へと転じた箕輪大也は、自身が「もっとも好きだ」と公言する岡山のコースでその“頂”に登り詰めることができるのか?

大注目のFDJ2023第6戦・岡山国際サーキットは、10月7日(土)8日(日)の日程で開催される。大いに期待して、王冠の行方を見守りたい。

(了)

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