FORMULA DRIFT® JAPAN

一歩ずつ、頂点へ──
“僅差”で見えた価値ある課題。

2023.7.26

まさに“僅差”ではあった。しかし、その“僅か”な“差”の中にこそ、この先のさらなる躍進へ向けた成長と進化の“鍵”が隠されているようにも感じた。国際レーシングコース・スポーツランドSUGOで開催されたFORMULA DRIFT® JAPAN 2023の第4戦。それぞれの課題を常に見出し、克服を重ねながら、そのさらに上を目指すYOKOHAMA / ADVANアスリートたちの姿を追う。

Words:髙田興平 / Ko-hey Takada(Takapro Inc.)
Photography:望月勇輝 / Yuki Mochizuki(Weekend.)

長いトンネルを抜け出して
その先に見えてきた景色

「もちろん悔しいです。勝ち上がって表彰台の頂点に立つために戦っていますからね」

FORMULA DRIFT® JAPANの第4戦・SUGO。総合3位という素晴らしい成績で今季初となる表彰台に立ったケングシ(#21 / Team Kazama with powervehicles / LEXUS IS500 F sport Performance / Drift)は、4戦目にしてようやく表彰台に立てた喜びよりも、むしろ悔しさを前面に出しながらそう言った。

今季はここまで苦しい戦いが続いていた。完全な新車としてチームが投入したLEXUS IS500 F sport Performance / Driftをなかなか手の内に収めることが出来ずにいた。苦悩の表情は回を増すごとに色濃くなり、傍目にもその内なる辛さが伝わってくるほどだった。

「前戦の富士ではエンジンがイマイチでした。でも、チームがそこにしっかりと対応してくれてここSUGOではパフォーマンスが明らかに上がった。それはもちろんボク自身が本来のパフォーマンスを発揮できるという意味でもある。自分らしく思い切った走りが出来るというのはやはり何より気持ちがいいし、だからこそ土曜日の予選・単走でも良い結果(84ポイント/4番手通過)へと繋がったのだと思います」

“自分らしいパフォーマンス”は日曜日の決勝・追走トーナメントでも続く。TOP32では先行するマシンのトリッキーな走りにも動じず上手く合わせていく“熟練の腕”を見せつけ、その先のTOP16では昨年のSUGOで当たって敗退した高橋和巳(#36 / TMS RACING TEAM SAILUN TIRE / BMW E92)へのリベンジのチャンスを手繰り寄せたのである。

重量差が響いてか“速さ”では高橋のBMWの方が上だった。さらには互いに1000馬力超級での戦い。リヤタイヤが巻き起こすスモークの量も馬力に比例してハンパではない。そんな、まさしく“ケムに撒かれる”かのような後追いでもケングシは冷静だった。速さに勝る高橋に対しても焦ることなく、“己のパフォーマンス”をミスなくしっかりと発揮することに徹したのである。2度もの“One more time”を経てもブレることなく安定感ある走りを貫き、TOP8(GREAT8)へと駒を進めた。

TOP8でもケングシはさらに上へと勝ち上がり、迎えたセミファイナル(TOP4)では最終的にこの第4戦・SUGOを制することになる末永直登(#311 / ATLAS TIRE DRIFT Team Fukushima / RZ34 フェアレディZ)との対戦。実況席から解説の谷口信輝が放った「コレぞ大人の戦い」という言葉の通り、互いに甲乙付け難い安定した走りを見せながら“One more time”を経て僅差で末永がファイナルへと勝ち上がることになった。

ケングシ(#21 / Team Kazama with powervehicles / LEXUS IS500 F sport Performance / Drift)

「もっと思い切ることが必要でしたね。その点で、僅かではあっても相手の方が勝っていたということです。それこそが、今回の戦いで何よりも悔しいと思えるポイントです。ただ今回の1戦を通してマシンと自分とのフィーリングはしっかりと合わさるようになりましたので、次の奥伊吹ではさらに思い切れるはずです。勝ちますよ!」

常に引き出しを増やしながら
さらなる高みを目指し続ける

「クルマを前に進めるのか? 横に進めるのか? その瞬時の判断が大切だって改めて気づきました。次への明確な課題ですね。そこを克服して、必ず勝ちます」

セミファイナルで誰もが息を呑むような素晴らしい走りを見せたものの、こちらも“僅差”で敗れ、準優勝に甘んじることになった蕎麦切広大(#31 / SHIBATA Racing YOKOHAMA / GR86)は、土曜日の予選・単走を3番手(86ポイント)で通過。そして日曜日の決勝・追走トーナメントでは2位表彰台と、前戦の富士から共に一段ずつ表彰台での立ち位置を上げる結果となった。

「タイヤ(ADVAN NEOVA AD09)には本当に助けられていますね。マシンとの相性もいいし、何よりコントロールの幅がある。ボク自身、ミスのない走りをすることは当たり前ですけれど、やはりドリフトである以上は魅せる走りをきっちりとしたい。そういう意味でも(対戦する相手の走り方も含めて)特に後追いではどうやってクルマを動かすかの判断が本当に大切です。そうした瞬時のコントロール感覚をさらに高めて、次は表彰台のもう一段上に必ず立ちたいと思います」

蕎麦切広大(#31 / SHIBATA Racing YOKOHAMA / GR86)

第4戦の時点でのポイントリーダーである箕輪大也(#771 / CUSCO Racing / GRヤリス)もまた、この先のさらなる高みへ向けた新たな課題を見出したという。

決勝・追走トーナメント / TOP16の対戦相手はチームメイトの草場祐介(#77 / Team CUSCO Racing / GR86)。前戦の富士でも同じくTOP16で当たり敗退した相手であるだけに今回は負けるわけにはいかない。1本目、箕輪の先行では草場が見事な距離感での後追いを見せ審査でのアドバンテージを一気に築いたかに見えた。しかし、箕輪は後追いに回ると「やられたらやり返す」とばかりに目の覚めるような“ビッタビタ”の攻めた走りを披露。スポーツランドSUGOの会場を大いに沸かせてくれたのである。

草場、箕輪共にその走りは常にギリギリを攻めてはいてもその中身は至ってクリーンなものであり、互いに信頼し合い、かつ技術にも優れるからこその見応えある攻防となった。ともあれこの質の高いバトルを見せつけられると、今シーズンのFDJ全体のレベルがグッと押し上げられていることの表れなのだと感じる。

「残念ながらOne more timeの後追いでスタートのタイミングが僅かに合わせられずに草場選手に敗れてしまいました。富士の敗退でも同じくスタートのタイミングが合わなかったので、次戦に向けて明らかにそこが克服すべきポイントだと理解できました。大也は常にこちらが驚くほどの進化を見せてくれますが、まだまだ経験値としてクリアすべき点もあります。そうやって引き出しの数を一つずつ着実に増やしていくことで、この先にあるさらに高い位置へと到達できるのだと思います」

箕輪大也(#771 / CUSCO Racing / GRヤリス)

父の慎治が言う通り、箕輪はまだ参戦2年目の成長過程にある。問答無用とばかりに誰をも一発で魅了してしまう驚異的なパフォーマンスを見せながらも、その裏側ではコツコツとひたむきに腕を磨き続けている。もちろん、腕だけではなく精神力の面でもその修練を怠らない。セッティングに対する理解の幅も回を追うごとに増しているのだという。そう考えると、若干13歳にしてここまでのセンスと実力、そして努力する姿勢までも備える箕輪大也のこの先の進化が心底楽しみでならない。チャンピオンシップの行方は残り2戦に向けていよいよ混沌としてきたが、第4戦終了後も引き続きポイントリーダーを務める“中学生ドリフター”が、今もその中心にいることは間違いないのである。

“悔しさ”と“手応え”が同義となる
ハイレベルで前向きな戦いが続く

FDJ2023第4戦・SUGOでの結果は、金田義健(#770 / CUSCO Racing / GR86)、松井有紀夫(#9 / オセアン with M2evolution / F22 BMW 220i Mスポーツ)の二人にとってもこの先に越えるべきさらなる課題を見せるものだったという。

金田義健(#770 / CUSCO Racing / GR86)

「セッティングの部分で今回は特に自分のイメージが上手く噛み合わなかったですね。前戦の富士でクルマの乗り方を大幅に変えた(長らく悩まされたドライブシャフトのトラブルに対する策)ことが全体のセッティングにも当然大きく影響して、少なくともアップダウンがあって最後の方はコース幅の狭まるこのSUGOのコースではそれが裏目に出てしまった。予選での敗退は正直残念でしかないけれど、そこから得るものもあったと思います。NEOVA AD09というタイヤの特性の活かし方についても改めて考えさせられました。YOKOHAMAさんがストリートラジアルの最高峰としてFDJにこのタイヤを投入している意味って、コントロールの幅はもちろん、セッティングの幅までを我々に対して持たせることにあるんだって、個人的には捉えています。よりハイグリップでタイヤ頼りだけで行けるモノも確かにあるけれど、AD09はセッティング次第でより懐の深さが引き出せてタイヤとの対話、つまりはより幅のあるコントロール性までが生まれる。その意味をもう一度きちんと理解し直して、次はしっかり上を目指したいと思います」

前戦より投入したニューマシンで予選を通過しTOP32に進出した松井もまた、次戦に向けたさらなる手応えを得るSUGO戦になったという。

松井有紀夫(#9 / オセアン with M2evolution / F22 BMW 220i Mスポーツ)

「マシン自体は本当に良い状態に仕上がってきています。トラブルも出ないですし、富士に続いてSUGOのようなスピード域の高い国際コースでも十分なパフォーマンスを見せてくれている。あとはセッティングをどう煮詰めて行くか。LSXのアメリカンV8サウンドは乗っている自分自身でもその迫力に思わず興奮します(笑)。いつかは世界に進出したいという思いでこのエンジンを選んだので、自分自身の腕、そしてセッティングの能力も、チームと一緒にここからまた一歩ずつ高めていきたいと思っています」

第4戦・SUGOでは2位・3位表彰台をYOKOHAMA / ADVAN勢が得ることになった。しかし、その表彰台に立つ二人からは喜びよりも、むしろ「さらに上を獲りたい」という真っ直ぐな闘志の方がより強く伝わってきたことが印象的だった。

FORMURA DRIFT® JAPANの2023年シーズンも残すところあと2戦。それぞれが着実に成長と進化を遂げるYOKOHAMA / ADVAN勢のさらなる躍進に期待したい。

(了)

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