FORMULA DRIFT® JAPAN

YOKOHAMA / ADVAN戦隊、覚醒す──
皆が確かな進化を見せた第3戦・FSW。

2023.6.14

“ロバンペラ旋風”が巻き起こった第2戦・エビス。その衝撃波がまだ体に残る中での開催となった第3戦・富士スピードウェイでは、さらなる衝撃的なドラマが生まれたのだろうか? “世界最強の走り”を目の当たりにし、確かな進化と共に覚醒したYOKOHAMA / ADVAN戦隊。その勝負の行方をレポートする。

Words:髙田興平 / Ko-hey Takada(Takapro Inc.)
Photography:望月勇輝 / Yuki Mochizuki(Weekend.)

箕輪大也が単走優勝
その進化は止まることがない

「予選・単走を14番手で通過。自分にとってこれは本当に上出来。ただ、チームメイトのヒロ(箕輪大也 / #771 / CUSCO Racing / GRヤリス)をはじめ、若手がさらにものすごいことになっていてオレはあまり褒めてはもらえない(笑)。でもそれでいいんです。今シーズンも第3戦まできて自分も含めた皆が確実に進化していると実感できている。これはもう、ある種の覚醒と言っていいのかもしれない」

世界屈指の高速サーキット、富士スピードウェイを舞台に行われたFORMULA DRIFT® JAPANの第3戦。金曜日の予選・単走を終えると、金田義健(#770 / CUSCO Racing / GR86)はいつになく上機嫌でそうコメントした。WRC(世界ラリー選手権)最年少王者のカッレ・ロバンペラが電撃参戦し、その圧倒的なまでの走りで“完勝”を遂げた前戦・エビス西コースを経て、FDJにレギュラー参戦する日本のトップドリフターたちの多くは戦意を失うどころか、“世界最強”を目の当たりにしたことで、これまで以上にそれぞれの闘志に火がついたのだと金田は言う。

「ボクの場合は決勝トーナメントでアンディ(#100 / アンドリュー・グレイ / Team Kazama with Powervehicles.com / JZX100 マークⅡ)と当たって敗退しましたけれど、あの悔しさの先に掴んだのが『絶対引かない』という強い気持ちでした。あともうひとつ、NEOVA AD09の美味しいところをここにきてしっかり掴むことができたのも大きい。今回の富士での単走1発目は雨上がりの微妙なコンディションでリズムを取るのが難しかったけれど、それでも集中力を切らすことなく2回目の走りできっちりと冷静にまとめることができた。自分の頭に描いたイメージと実際の走りが噛み合ってきたことが何よりの進化だし、この先のさらなる自信にも繋がっていくと思います」

金田義健(#770 / CUSCO Racing / GR86)

「やっと仕上がりました。シェイクダウンをしたのは今週の月曜日とギリギリでしたが感触は悪くないです。エンジンは6.2ℓのLSXですからトルクもあってタイヤのグリップがフルに使える。正直、ここまでの2戦を戦ったS13シルビアでは、FDJの環境だとすべてにおいて力が足りていませんでした。今年はFDJ2からFDJへと上がって、第3戦でやっと理想的なニューマシンを手にできた。ここからさらに上を目指せると思っています」

その言葉通り、松井有紀夫(#9 / オセアン with M2evolution / F22 BMW 220i Mスポーツ)はアメリカンV8らしく迫力ある野太いエキゾーストサウンドを轟かせながら、雨の中ではあったものの練習走行でも快調な走りを見せた。予選・単走においてもその状態は変わらず、下ろし立てのマシンながらも1走目 / 2走目共に82ポイントを獲る安定した走りで翌日のTOP32 / 決勝追走トーナメントへと駒を進めている。

松井有紀夫(#9 / オセアン with M2evolution / F22 BMW 220i Mスポーツ)

“本場”アメリカとここ日本のFORMULA DRIFT®︎シリーズに海を跨いでダブルエントリーするケングシ(#21 / Team Kazama with powervehicles / LEXUS 500 F sports Performance / Drift)は1走目で89ポイント、2走目も87ポイントと“世界”を知る男の確かな走りを見せてくれた。

「今シーズンは完全な新車でのFDJとなりました。ここまでマシンのセッティングに少し手こずってしまった面は否めませんが、このラウンドを前にチームが富士のコースを借り切ってくれて十分な練習走行もできました。こうした素晴らしい環境で戦えることが何より嬉しいし、それが少しずつ結果にも繋がってきている。明日のトップ32でもしっかりと上を目指して走りたいと思います」

ケングシ(#21 / Team Kazama with powervehicles / LEXUS 500 F sports Performance / Drift)

今回、“覚醒”という意味で明らかな存在感を放ってくれたのは蕎麦切広大(#31 / SHIBATA Racing YOKOHAMA / GR86)だった。単走2本目で96ポイントと高得点を叩き出し、もしや「単走優勝か?!」と会場を沸かす。

FDJには昨シーズンより参戦。他団体ではしっかり実績も残している若手のホープだが、何より気迫のこもった走りという意味ではFDJ随一と言えるものを見せてくれる。ほぼ“ゼンカイ”と思えるその思い切りのよい走りは、「これぞドリフト!」と観る者の胸を熱く沸かせる迫力に満ちているのだ。

「よかったと思います。でもまだ上がある。なので、もっと上を目指します」

最終的に4番手での予選通過となった蕎麦切は闘志漲る目でそう短くコメントした。

蕎麦切広大(#31 / SHIBATA Racing YOKOHAMA / GR86)

「素晴らしい走り」と誰もが文句なく評す走りをしてなお、「まだまだ」と蕎麦切に言わしめる存在は第3戦の時点でのポイントリーダー、箕輪大也だった。

単走1走目は左足ブレーキを巧みに駆使したテクニカルな走りで95ポイントをマーク。箕輪自身が憧れの存在だと公言する本場FORMULA DRIFT®︎のスーパースター、ジェームス・ディーンを彷彿させる走り。何より、一切の破綻を感じさせないその精度の高さに目を見張らされる。

「実は単走1発目の走行前に大也は『今回は攻めたい、魅せる走りがしたい』と言っていました。しかし、路面のコンディションは雨上がりで悪く、その後の天候も不安定だったことから単走は1回だけで終わってしまう可能性もありました。だからチームとしては『無理せずに抑えて、確実に決勝トーナメントへ進もう』と指示するほかなかった」

箕輪の父であり、母の昌世と共に息子の活動を支え、チームではメカニック兼スポッターも務める箕輪慎治が言う。

「魅せる走りがしたい」という想いは、箕輪のプロドリフターとしての成長を何より如実に表すものなのだと思う。ポイントを確実に獲るために“置き”に行くだけではなく、リスクを恐れずきちんと“攻めて”行くことで、オーディエンスの心をがっちりと掴み取りたい。技術や精度だけではなく、盛り上げ魅せるというプロドリフターとしての使命を果たしたい──そんな想いがその根底には宿っているのだろう。

「今回、大也がさらに進化したなと思ったのは、たとえ置きに行ったとしても、その先の幅がさらに広がっているということ。昨年までは置きに行って70ポイント後半だったものが、今では90ポイントを超える走りができている。ただ単にすべてを抑えて(置いて)走るのではなくて、攻めるべきところはきちんと攻めて行ける。攻守のバランスというか、そういう面での精度がどんどん高まっていることに驚かされます」

単走1本目は95ポイント。これで決勝ラウンド進出は確定的であったが、単走2本目で先に走った蕎麦切が叩き出した96ポイントという自身を上回る高得点を前に箕輪の目が変わる。

「同じタイヤ(NEOVA AD09)を履いている相手には負けたくない」

箕輪大也(#771 / CUSCO Racing / GRヤリス)

箕輪大也の単走2本目の走りはまさに目が覚めるほど鮮やかだった。1本目を抑えた分だけ思い切りよく走った結果、叩き出したポイントは98ポイント。FDJ参戦2年目、13歳の最年少エントリーながら昨年の岡山国際に続き自身2度目の単走優勝を、文句なしの“攻めた走り”で果たしたのである。

そのあまりに突き抜けた“攻守のバランス”を観ていたら、箕輪大也という逸材の“覚醒”にはもはや、ある種の慄きすら覚えたのだった。

“頂”に届かないからこそ進化する
蕎麦切のさらなる覚醒に期待

TOP32 / 追走トーナメントは雨模様からの曇天(時々小雨)という前日と打って変わって、晴れ間も覗くドライコンディションで行われた。

追走トーナメントの1組目は箕輪大也と平岡英郎(#620 / HRK Rapid / ZN6 86)の対決。それはまさに“横綱相撲”と呼ぶべき圧倒的な走りで、箕輪は先行 / 後追いを通してポイントリーダーの風格を存分に見せつけた。前戦でロバンペラと戦い、後追いでも置いていかれることなく互角に近い走りをしたことは記憶に新しいが、今回の箕輪の走りはそのロバンペラの走りをも彷彿させる、まさに“ジャッジいらず”の完璧なものとして映った。

松井、金田のベテラン勢は共に惜しくもTOP32で敗退。ケングシ、蕎麦切はTOP16へと順当に駒を進めた。

TOP16ではチームメイトの草場祐介(#77 / Team CUSCO Racing / GR86)との対戦となった箕輪は先行では変わらずの王道の走りを見せた。しかし、後追いに回るとゾーン1のラインが小さくそのままゾーン2で流されインクリップに付けないという痛恨のミス。誰もが今季2勝目に期待した最年少ポイントリーダーはここで敗退となってしまった。

前日の単走からここまでほぼ完璧と言える精度の高い走りだっただけにこのミスは驚きでもあったが、それだけドリフトという競技が一瞬のミスで即命取りになるという、それは厳しい現実を改めて突きつけられるものでもあった。

YOKOHAMA / ADVAN勢でTOP8(GREAT8)まで勝ち進んだケングシと蕎麦切。先行・蕎麦切りの1本目ではケングシがインクリップ立ち上がりで流されその先は出遅れてしまう。そして2本目の後追い・蕎麦切。実況席から「これはカッコイイィィ!!!!」との声が迫力あるビタビタの走りを見せた蕎麦切へと上がる。

迎えたTOP4 / セミファイナル。前の組でコース上にオイルが撒かれ処理されたばかりのコンディションの中、昨年の最終戦でここ富士スピードウェイを制した高橋和巳(#36 / TMS RACING TEAM SAILUN TIRE / BMW E92)との対決となった蕎麦切。

FDJでは自身初となるセミファイナル、勝ち進めば初優勝に手が届く中にあって、先行の蕎麦切は決して守ることなく相変わらずの攻めた走りで会場を沸かせる。そして運命の後追い、先行の高橋独特のゾーン1飛び出しのイン締めをモノともせずビタっと合わせて行くもののゾーン2からインクリップにかけて僅かに離されてしまい、結果としてTOP4敗退となってしまった。

最後まで攻めた走りで魅せてくれた蕎麦切広大は自身初となるFDJでの3位表彰台を獲得するも、最後に残したコメントに彼のさらなる“覚醒”の種が見えた気がした。

「嬉しくも悔しい。それが本音です。今回はとにかく守らない走りを第一に考えて挑みました。とにかくベストを出し切る。キャパシティ限界まで攻めてみる。その想いはしっかり貫けた走りだったのでその点は良かったですが、絶対にまだ上に行けるという手応えしか感じていないので、次は必ずさらに上に行きたいと思います。そこはボク自身、何より楽しみでしかありません」

次戦、FORMULA DRIFT® JAPAN 第4戦は7月22日(土)23日(日)に宮城県のスポーツランドSUGOで開催。絶え間なく進化を続けるYOKOHAMA / ADVAN戦隊の面々がさらに覚醒した走りで魅せてくれることに期待したい。

(了)

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