FORMULA DRIFT® JAPAN

進化する“最強中学生”——
箕輪大也、FDJ2023開幕戦を制す!

2023.4.24

FORMULA DRIFT® JAPANの2023年シーズンが開幕した。開幕戦・鈴鹿ツインサーキットを制したのは若干13歳、中学2年生の箕輪大也(#771 / CUSCO Racing / GRヤリス)だった。ドリフト界のみならず、モータースポーツ界全体に衝撃を与えたこの歴史的瞬間に迫る。

Words:髙田興平 / Ko-hey Takada(Takapro Inc.)
Photography:望月勇輝 / Yuki Mochizuki(Weekend.)

参戦2年目の開幕戦で
見事、初優勝を果たした。

もはや年齢なんて関係ない──

FORMULA DRIFT® JAPAN (FDJ)の2022年シーズン最終戦。富士スピードウェイでの決勝・追走トーナメントでYOKOHAMA / ADVAN勢の最上位となるTOP8に勝ち進んだ箕輪大也の堂々たる姿を目の当たりにして、多くの人がそんな想いを抱いたものだった。第5戦・岡山では単走優勝も果たしており、その実力が確かなものであることは誰の目にも明らかだった。そう、もはや“年齢云々”で語るべき存在ではない、真にプロフェッショナルなドライバーへと成長したのだと、箕輪は自らの走りをもって周囲に示したのである。

しかし、こうして新たなシーズンを迎え、サーキットでのより進化した走り、さらにはそのスッと芯の通った人間としての立ち振る舞い(身長もさらに伸びた!)に改めて触れてしまうと、やはりこう言わざるを得なくなる。

恐るべき13歳、これで中学生だなんて信じられない──と。

10周年という節目を迎えたFDJの 2023年シーズン。その開幕戦(三重県・鈴鹿ツインサーキット)を制したのは、最年少でのエントリーとなる箕輪大也(#771 / CUSCO Racing / GRヤリス)だった。

実車でのドリフトをはじめてからまだ5年足らず、FDJ参戦2年目(小学6年でチャンピオンに輝いたMSCチャレンジ、およびスポット参戦で最高位2位を獲得したFDJ2から数えると3年目)にして40名を超す並居る猛者たちを抑え、若干13歳のプロドリフターは見事、開幕戦で表彰台の頂点に立ってみせたのである。

“感覚”を磨き進化する
“仕事人”としての急成長。

「本当に13歳? 実は40歳くらいのおじさんが乗ってるんじゃないの?」

解説の谷口信輝の本気とも冗談ともつかないコメントが実況席から飛ぶ。それは実際、その場に居合わせたオーディエンスたちの多くの心の声を代弁するものだったと思う。

箕輪の走りは予選・単走から際立っていた。決して派手なパフォーマンスという意味ではなく、他より明らかに安定感のある、より正しく言えば安心感に満ちた走りだった。

審査で80ポイントを超えるドライバーが少なく、「守りに入らずもっと攻めたドリフトを!」と思わず実況席が煽るような状況にあって、箕輪の走りは攻守のバランスの取れた、まるで熟練の“仕事人”が操っているかの如き落ち着きあるものとして映った。

結果、単走1本目で88ポイントを叩き出し、その時点でのトップスコアをマーク。1本目の最終走で今シーズンからチームメイトとなったディフェンディングチャンピオンの松山北斗(#774 / CUSCO Racing / A90スープラ)に91ポイントでトップの座を奪われるも2本目も動じず、アウトサイドゾーンをきっちり捕える安定したアングルと正確なライン取りを見せ、1本目から1ポイント増の89ポイントで単走2位につけた。

「着実にポイントを取って決勝の追走トーナメントに勝ち進むというチームの戦略を理解して、しっかりと仕事をしてくれました」

箕輪の父であり、メカニックやスポッターとして、母の昌世と共に息子の進化を支える箕輪慎治が言う。

「大也は本来緊張しやすい性格です。外にはあまりそう映らないのかもしれませんが、(スポッターの)無線を通じてレース前に話せばそれがわかります。ただ、単走のときは実況席からの谷口さんの煽りの声も本人の耳に届いていましたがそれには乗らず、あくまでオーディエンスの盛り上がりとポイント(点数)とのバランスを意識した走りに終始してくれた。マシンのセッティングやコンディションも含めて、彼は与えられたものや状況に対し、しっかり感覚で合わせていくことができているんです。その成長には両親の僕らですら驚かされています」

圧倒的な若さゆえ、まだまだ経験を積み上げられる余白がある。引き出しにも空きがたくさんあるからこそ、大人には想像できないほどの吸収力を見せる。だからといって、単に天才的なナチュラルドライバーだということではなく、日々の努力だって怠らない。自宅にあるシミュレーターで毎日さまざまな想定を立てながら練習することでも知られているが、それ以外にも自身の憧れであり目標でもあるジェームス・ディーン選手の動画を繰り返し観ては、世界のトップドライバーの走り方、攻め方、さらには駆け引きやスタイルそのものまでを自分の中で反復させながら理解し、それを感覚として落とし込んでいく。

「実車のアジャストでも、何が違うのか? という部分をまず感覚で捉えてくれる。メカニカルなことに詳しい大人は感覚よりむしろ理論や数値でまとめ上げようとしますけど、大也は知識や経験がまだ浅い分、頭よりまず感覚の中に落とし込んでいく。今後は、そうやって感覚を磨いたところにさらに知識や経験が上乗せされていったらどう進化するのか、とても楽しみでもあります。でも、ひとつ確実に言えるのは、大也はドリフトという競技が本当に大好きだということです。好きだからこそ、とことんハマることができる」

父・慎治のその言葉の奥に、箕輪大也という“驚異の中学生”の強さの本質が見て取れた気がする。

驚異的な落ち着き。
冷静な走りが“初優勝”をもたらした。

日曜の決勝・追走トーナメントにおいても、TOP32、TOP16、そして自己ベストタイとなるTOP8へと箕輪は勝ち上がっていった。一瞬の危うい場面や対戦相手のミスなど運が味方するような場面もあったが、やはりここでも光りを放ったのはどんな状況でも焦って大きくリズムを崩すことのない、その落ち着いた走りだったように思う。

TOP8でのKANTA(#57 / LINGLONG TIRE DRIFT Team ORANGE / JZX100チェイサー)との対決でそれは顕著だった。先行では後追いのKANTA(現在23歳の彼も中学生でドリフトデビューした元祖中学生ドリフターである)から“ビタビタ”のプレッシャーが掛かるも終始安定してまとめ上げ、後追いに回ると先行のKANTAがアウトゾーン1の進入の振り出しで後輪をコースサイドの穴にヒットさせコントロールを失いイレギュラーな動きを見せるとこれを冷静に回避し、自己ベスト更新となるTOP4セミファイナルへと勝ち進んだのである。

「この冷静さ、落ち着きは本当にすごいな……」と、普段は愛ある毒舌混じりの辛辣な解説が売りの谷口信輝をして、思わず唸るほどの手練れの走りを、まだ13歳の中学生2年生は見せつけてくれたのだった。

セミファイナルでは昨シーズンの開幕戦の勝者、小橋正典(#57 / LINGLONG TIRE DRIFT Team ORANGE / A90スープラ)を相手に甲乙つけ難いレベルの高いバトルを繰り広げ、「ワンモアタイム(再審査)」を経てD1GPのチャンピオン経験者を下すと、ついに自身初となるファイナルへと進んだ。これは今シーズンから新設されたFDJ登竜門のFDJ3での話ではなく、その頂点にあるカテゴリーの話なのだから恐ろしくすらある。

迎えた決勝ファイナル。相手は昨シーズンの富士最終戦を制した高橋和巳(#36 / TMS RACING TEAM SAILUN TIRE / BMW E92)。箕輪は最終戦のTOP8で高橋と当たり敗退を喫している。

箕輪の先行。後追いの高橋が背後から激しく迫りプレッシャーをかけるも動じることなく“ファイナル”というかつて経験したことのない重圧すら撥ね除ける安定した走りを披露する。そして迎えた運命のファイナル後追い──先行高橋のBMWは手負いの状態でエンジンは本調子の吹け上がりを見せない。しかし、それでもリタイアすることなく走り切り、箕輪大也の“初優勝”を不戦勝で飾らせないプロの魂ある走りを見せてくれた。

「とても多くの皆さんに協力をしていただいて、万全の体制で優勝することができたことに感謝しています。何より、CUSCOの色に塗られたマシンが2台表彰台に上がったというのがメチャメチャ嬉しいです」

13歳の中学2年生とは到底思えない堂々たる優勝者スピーチ。CUSCO Racingという名門チームで戦うトップドライバーに相応しい、凛としたスピーチ姿に思わず惹き込まれる。そして最後に実況席から投げかけられた「今シーズンはさらに勝ち進んでくださいね」という言葉に、「はい、今シーズンはチャンピオンを目指します」と答えた箕輪の表情には、これまで以上の確たる自信が満ちていた。

父・慎治、母・昌世ともにプロドリフターであり、現在は息子・大也の進化を全力でサポートしている。このドリフトファミリーの強固な一体感こそが、誰もが驚く“最強の中学生ドリフター”をこれからもさらなる高みへと進化させることだろう。

今回の箕輪大也の初優勝は、同時にYOKOHAMA / ADVANにとってもFDJでの記念すべき初優勝となった。今シーズンはFDJに投入しているNEOVA AD09にとっても参戦2年目としてさらなる飛躍が期待される年だけに箕輪だけではなく、ケングシ(#21 / Team Kazama with powervehicles / LEXUS IS500 F SPORT Performance / Drift)、蕎麦切広大(#31 / SHIBATA Racing YOKOHAMA / GR86)、金田義健(#770 / CUSCO Racing / GR86)、松井有紀夫(#9 / オセアン with M2evolution / PS13シルビア)という強力な布陣でYOKOHAMA / ADVAN勢としてさらなる高みを目指していく。

Rd.1 TOP32 / ケングシ(#21 / Team Kazama with powervehicles / LEXUS IS500 F SPORT Performance / Drift)

Rd.1 TOP8 / 蕎麦切広大(#31 / SHIBATA Racing YOKOHAMA / GR86)

Rd.1 TOP32 / 金田義健(#770 / CUSCO Racing / GR86)

Rd.1 − / 松井有紀夫(#9 / オセアン with M2evolution / PS13シルビア)

次戦は5月20日– 21日開催されるRd.2 エビスサーキット西コース。ここでもまた熱いドリフトバトルが繰り広げられるとともに、YOKOHAMA / ADVAN勢のさらなる躍進に期待したい。

(了)

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