ニュースリリース

設計精度を大幅に高める新技術を開発

タイヤ材料設計技術が飛躍的に向上

2006年06月29日

  • タイヤ関連
  • 技術関連

横浜ゴム(株)(社長:南雲忠信)は、昨年発表した第三世代設計基盤技術「マルチスケール・シミュレーション」をさらに強化する新技術として、タイヤ材料設計を飛躍的に向上させる技術を開発した。従来の「マルチスケール・シミュレーション」では、ミクロスケールの材料設計を次のマクロスケールの走行シミュレーションに利用する「一方向」のみだったが、今回の新技術はマクロスケールで得た予測をミクロスケールにフィードバックして利用できる「双方向」性を実現させた。これにより、タイヤ特性とミクロな材料構造を並行して考察できるため、タイヤ設計精度を飛躍的に高めることが可能となった。

新技術の導入で解析が可能となったのは、補強材としてタイヤのコンパウンドに含まれるカーボンブラックやシリカなどの走行中の挙動。コンパウンドには、耐摩耗性や力学的特性を向上させるために補強材を配合するが、従来技術では走行中のタイヤ各部にかかる応力やひずみは予測できても、その際の補強材の挙動までは解析できなかった。しかし、新技術では走行中のタイヤの1点を顕微鏡で覗くようにして、コンパウンドに含まれる補強材の動きを調べることができる。この結果を補強材の設計にフィードバックすることで、補強材の配合・構造とタイヤ特性とのメカニズム解明が飛躍的に進み、ころがり抵抗とウェット性能など相反するタイヤ性能をより精度よくコントロールできるようになるため、今後、新商品の低燃費性やブレーキング性能向上に大きく貢献できる。

当社は、東北大学寺田賢二郎助教授(大学院工学研究科)と共同で、非線形均質化法(数学理論)※1を応用して今回の新技術を開発した。従来から同理論を応用すればコンパウンド内部の状態を予測することは可能とされてきたが、実際には非常に膨大な計算時間と専用プログラムの開発が必要だったため商品開発への適用が困難だった。横浜ゴムと東北大学は、計算時間を大幅に短縮し、さらに汎用の非線形FEM(有限要素法)※2ソフトを利用するための新技術を開発することで、双方向での解析技術をタイヤ業界で初めて実用化した。
※1ミクロ、マクロなど異なるスケールで起こっている現象を同時に計算する理論。
※2代表的なコンピューターシミュレーションによる解析方法。

今回の新技術は当社が昨年5月、「第三世代設計基盤技術」として発表した「マルチスケール・シミュレーション」をさらに強化したもの。「マルチスケール・シミュレーション」は、タイヤ単体ではなく、乗員、クルマ、路面状況、タイヤ構造、コンパウンド、ポリマーなど多様なスケールを掛け合わせてシミュレーションすることで、タイヤシステム全体の挙動を予測する。これにより、現実に限りなく近い状態での性能予測が可能となり、タイヤ設計の幅や精度が飛躍的に向上する。

双方向のマルチスケール・シミュレーションの概念図

マルチスケール・シミュレーションの流れと今回開発した新技術の関係

第三世代のタイヤ設計基盤技術について

かつてのタイヤ開発は、設計した後、実際にタイヤを試作・性能評価を行い、目標性能に達しない場合は再度同じ作業を繰り返すことで行われていた。これを第一世代とすると、第二世代はコンピュータ・シミュレーションによって設計段階で性能評価の多くの分野をカバーできるようになり、より目標性能に近い試作品が短期間で作れるようになった。しかし第二世代でも、コンピュータ・シミュレーションは設計の補助手段に留まっていた。
これに対し「第三世代のタイヤ設計基盤技術」は、構造、材料開発を一体化するとともに、飛躍的にコンピュータ・シミュレーション技術の高度化・高精度化を目指している。横浜ゴムはすでに昨年、これを実現する2つの基盤技術として「マルチスケール・シミュレーション」と「マルチパフォーマンス・マップ」を発表した。「マルチパフォーマンス・マップ」は、例えば耐摩耗性、操縦安定性、静粛性のバランスを図ったタイヤ開発において、どの要素を強調するかに応じて数千の設計案を提示させ、そこから最適案が選択できるようになっている。