Life with NEOVA

Grip the Soul―
“魂”を掴みとるタイヤ。
NEOVA AD09開発の舞台裏 / 前編

2021.12.25

2021年12月9日に発表された「ADVAN NEOVA AD09」。ADVANが誇る高性能ストリートスポーツタイヤの代名詞「NEOVA」の最新作である。世の“走り好き”たちが長らく心待ちにしてきた“新時代のNEOVA”として、2022年2月より順次発売が開始される「AD09」――その開発最終評価テストの裏側をレポートする。

Words:高田興平 / Ko-hey Takada(Takapro Inc.)
Photography:ディノ・ダッレ・カルボナーレ / Dino Dalle Carbonale 小林邦寿 / Kunihisa Kobayashi

NEOVA AD09開発の舞台裏 / 前編

後編を読む

闇夜の最終評価テスト――
それはまさに“ADVAN”な世界観。

漆黒の闇の中をゼンカイで駆け抜けていく真っ黒なGRスープラ。

YOKOHAMAのタイヤ開発ドライバーである谷口信輝による連続したハードなブレーキングでローターは発熱し、闇夜に映える真っ赤な光の輪を描いている。その姿には、どこか見る者の心を真っ直ぐに掴みとるような、“気迫”が感じられた。

「照明設備の整っていないエビスのコースで、こうして夜間にタイヤの評価テストを実施することはほとんどありません。今日はイレギュラーながら、夏場で日中の路温がかなり高くなることを想定して、敢えて夕方からのスケジュールを組みました。ただ…、ここまで真っ暗闇になるとは……。生憎の曇り空で月明かりすら頼れない状況ですからね。GRスープラのLEDヘッドライトが強力なもので、本当に良かった……」

横浜ゴム株式会社 消費財製品企画部 製品企画1グループに所属する佐々木浩長は、心底安心したという表情でこの状況を説明してくれた。気候や天候、さらには開発そのものに関わる複雑な時間軸や多忙を極める開発ドライバーたちとの調整なども含めて、タイヤ開発のテストをスケジューリングし、それを実際にまとめていくことの難しさが、佐々木のその表情からは伺い知ることができた。

エビスサーキットの東コースで実施されたNEOVA AD09の最終評価テスト。夏場で日中は路温が上がることから夕方以降での走行となったが、夜に入るとコースはすっかりと漆黒の闇に包まれ、GRスープラの強力なLEDヘッドライトを頼っての走行となった。その雰囲気はどこか“峠”に似たものがあった。

2021年の8月31日と9月1日の2日間に渡って、まだ厳しい残暑の続く福島県のエビスサーキット・東コースを舞台に実施された「ADVAN NEOVA AD09」の最終評価テスト。初日は15時30分のスタートから3台のテスト車両(SUBARU BRZ、SUBARU WRX STi、GRスープラ)を用いて、NEOVA従来品のAD08R、そして競合他社の同カテゴリー製品との対比も交えながら、前回テストの評価をもとに「A」と「B」の2タイプの仕様に絞り込んだAD09の最終評価が行われたのである。

「暗くなってきてから最初にBRZで走ると、ヘッドライトの光量が心許なくてコーナーの先が見えない。だから『この時間帯でのゼンカイ走行はやっぱり無理がある』ってドライバーの立場としてはっきり伝えたら、YOKOHAMA側のスタッフでモータースポーツ経験も豊富な人間が『スープラのライトは強力だし、光軸が自動で進行方向に動くから』って自分で数周走って確認してから『大丈夫、いけますよ』と。そしたらもう、谷口が『じゃあ、行ったろか』って、飛び出していった(笑)
なんだかこの雰囲気、昔の峠を思い出すよ。エビスのコース自体が峠に近い雰囲気というのもあるんだけれど、こういう負けず嫌いの集まりみたいなところにさ、昔のように自分自身も『行ったろか』という熱い気持ちにさせられる。これはある意味、とてもADVANらしい雰囲気だと思うよ。『どんな逆境でもやってやる』っていう、ある種の気迫が感じられる」

ADVAN NEOVA AD09のチーフ開発ドライバーを務める織戸 学はそうどこか嬉しそうに話す。ともあれその表情は、とても充実したものとして映った。そう、ここまで長い時間を費やして開発テストを重ねてきたYOKOHAMAが誇るストリートスポーツタイヤの代名詞、「ADVAN NEOVA」の最新作が、何より自分自身が満足のいくものに仕上がりつつあるという手応えを、この日の最終評価テストを通して、織戸はしっかりと感じ取ることができていたのである。

「ADVAN NEOVA AD09」のチーフ開発ドライバーを務める織戸 学(写真左)、製品企画担当の横浜ゴム 消費財製品企画部 佐々木浩長(写真中)、開発ドライバーの谷口信輝(写真右)。最終評価でのAD09の上々の手応えにその表情は皆、明るい。

“ストリートスポーツタイヤ”として最強であること。
それが“ADVAN NEOVA”の使命。

ADVAN NEOVAは“ADVAN最強のストリートスポーツタイヤ”をコンセプトに、1995年の初代AD05/AD06のデビュー以来、AD07(2003年)、AD08(2009年)、AD08R(2013年)と着実な進化を遂げ、ストリートを主体とした走り好きのユーザーの心を真っ直ぐに掴みとり続けてきた。そう、世の熱き“走り屋”にとっては、「ADVAN NEOVA」はいつの時代も特別な存在なのである。 だからこそ、現行AD08Rのデビューからすでに9年が経った今、多くの「ADVANファン」たちはNEOVAの新作の登場を心待ちにしている――その期待値が大きなものであればあるほどに、新作の企画・開発に関わる者たちの前に立ちはだかる「超えなければならい壁」もまた、次第に大きなものになっていったのだという。

「“一番速く”“一番楽しい”というNEOVA本来の特長はしっかりと継承しながら、“最強のストリートスポーツタイヤ”の名に恥じないドライグリップ、コントロール性、そして耐摩耗性能などを確実に進化させる必要がありました。さらにはカスタムチューニング需要に向けた“見た目”の格好よさ、すなわち独自性の高いトレッドパターンデザインや、コントラストをより鮮明にしたブランドロゴなども考案し、それを形として投入していく必要もあった。それがNEOVAだからこそ、求められる要件は多岐に及びます。そうした要件を1つひとつ満足いくレベルにまで高めていく作業が大変だったことは、事実ですね」

漆黒の闇の中をゼンカイで駆け抜けるGRスープラ。連続するハードなブレーキングによりローターは発熱し、真っ赤に光っている。

ここまで、NEOVA AD09の製品企画担当という大役を若くして背負ってきた佐々木は、改めて、その道のりはけっして平坦なものではなかったと振り返る。

「現代のクルマ、特にNEOVAが主なターゲットとするようなスポーツカーの多くは、よりシャープな乗り味を手に入れて、それを前面に押し出してきています。いわば、どこかデジタルな、数値的な優劣でその良し悪しが測られやすい傾向にある。そうした中でタイヤに求められる要素も、サーキットのラップタイムに象徴される数値的なものをより研ぎ澄まさせるべきなのか、または、フィーリング寄りのもの、例えばドライバーに対する“楽しい”や“気持いい”といったより感覚的なものを高めるべきなのか――そこにはデジタルとアナログという、相反する要素が重なり合ってくるのです。さらには、耐摩耗性など環境にも配慮した側面とも、きちんと向き合わなければならないわけですからね。
企画・開発チームの中でも製品として目指すべき方向性を整えていく過程の中で、正直、どこかに迷いのようなものが生じたタイミングもありました。でも、そんなときに、開発ドライバーの織戸さんがドカン! と雷を落としてくれたんです。
『アレコレ迷うよりもまず、“ADVAN本来の魂”と改めて向き合おう』って」

その日の出来事をまとめた佐々木の日報には、タイトルとしてこう記されているのだという。

「岳温泉の乱」――。

エビスサーキットでの開発テスト期間中に滞在する福島県・岳(だけ)温泉の宿で行われたミーティングで、開発チームに向けて織戸から落とされた“雷”には、それほど心を揺さぶられる“何か”があったのだそうだ。

「ADVAN NEOVAは何より、“ストリート最強”であることが使命――その意味を、チーム全体でもう一度深く考えてみるきかっけとなりましたね。織戸さんはそのあと自らトレッドパターンのイメージまで描いてくれたりもして――AD09に対してまるで自分の大切な子供のような愛情をもって、YOKOHAMAの企画・開発チームと一緒に常に真剣に育てあげていってくれたんです」

“ストリート最強”という至上命題を背負って製品の企画・開発が進められたNEOVA AD09。その開発に関わった全員が何より“ADVANらしさ”というものを見つめながら、チーム一丸となっての魂のこもったテストがこれまで続けられてきたという。

“新しいADVAN”のフィーリング――
NEOVA AD09はそれを手にできている。

百戦錬磨の大ベテランであり、チーフドライバーを務める織戸 学。
安定した速さに定評のある現役トップドライバーの谷口信輝。
ジムカーナの名手としてもその名を轟かせる柴田優作。

GRスープラによるこの日最後の評価テストを終えて、さまざまなレースカテゴリーやフィールドで活躍するYOKOHAMAが誇るタイヤ開発ドライバー陣が、揃って満足そうな表情を浮かべていたのが印象的だった。

彼らは真のプロフェッショナルであるからこそ、少しでも足りない部分を感じたらそれを厳しく評価することを常に自らに課している。そう、生半可な仕上がり具合では絶対に満足しないことが、タイヤ開発ドライバーの使命であり、プライドなのである。

だからこそ、経験豊富な3名のプロが見せたその満足げな表情には、嘘偽りのない、AD09の最終的な“真価”のほどが如実に示されているのだと感じた。

織戸 学、谷口信輝、柴田優作がGRスープラで評価したAD09に対するコメントを、以下にそれぞれ記しておきたいと思う。なお、テスト車両への装着サイズはフロントが255/35R19 96W、リヤが275/35R19 100Wで、初期空気圧は180kPaとなる。

柴田優作の評価

「ねじれとたわみのバランスが非常によい。今日評価した3台の中ではスープラとの相性が間違いなくベスト。乗っていて気持ちがいい。そこが最も重要なポイントですね。あと、ひとまわり太いサイズを履いたような安心感もある。転がるくせにベタっと路面に貼りつく感じがあって、登りからの1コーナーなんて気持ちよすぎてついつい突っ込み過ぎちゃうほど(笑)。それでも、明確なグリップがあるからその先のコントロールがしやすくて、不安感がない。これはもう、素直にメチャメチャ良いと感じました」

谷口信輝の評価

「走り出してすぐにタイムが出るってわかった。転がった瞬間にイケそうだなっていう手応えがある。タイムの出るタイヤって、ときに気持ちよさとは連動しない部分もあるけれど、AD09はフィーリングもいい。従来のAD08Rもパワースライドのコントロールがしやすくて僕は好きなタイヤだけれど、AD09は接地面がさらに増しているし、剛性も明らかに高い。ただ、だからといってポンポン跳ねるような印象はなくて、あくまでしなやかに路面を捉える感じがいい。ストリートで本当に気持ちよく走れるタイヤになっていると思う。そして、ときにはサーキットも楽しみたいという使い方にも合っているから、走り好きが求める総合的なバランスという意味でも高く評価できるね」

織戸 学の評価

「根本の強さが出せたと思う。それは、何かひとつが突出するのではなく、総合的なバランス力で誰もが気持ちよく楽しめるタイヤになったということ。マイルドなのに芯はあって、これまでのNEOVAにはなかった、ねじれてからスパッと戻る感じがAD09では表現できている。センターの初期のレスポンスもきちんとあって、タイヤが転がり出した瞬間から安心感がある。これは新しいADVANのフィーリングだと言ってもよい部分だね。スピードを上げずとも、例えば交差点をちょっと曲がるだけでも感じることのできるナチュラルなグリップ感。それでいて高荷重時のフィーリングも安定している。4輪からのインフォーメションに優れていてまさしくタイヤと対話ができる感覚。ハンドルの奥があってグウーっとグリップを粘らせながら切り込んでいける。ワンサイズ上のタイヤを履いている感覚は確かにあるね。
いずれにしても、どの領域でも“気持ちよい”と感じてもらうことのできる、本当にバランスのいいストリートスポーツラジアルに仕上がったと思う。現代的なシャープさと、人の五感に訴えかける生きた感触――その両面をきちんとバランスさせることができた。もちろん、今後はより高荷重なサーキットでも評価してみたいけれど、まずはNEOVA本来の“ADVAN最強のストリートスポーツタイヤ”というコンセプトに対しては、AD09は間違いなく、従来以上の理想的な回答が出せていると感じたね。この結果はもう嬉しくて嬉しくて、目にワイパーが必要だよ(笑)」

そう言って満面の笑みを浮かべる織戸 学の目の奥には、本当にキラリと光る熱い何かが見えたような気がした。

NEOVA AD09開発の舞台裏 / 前編

後編を読む

いいね

NEOVA AD09

「ADVAN NEOVA AD09」は従来品の「ADVAN NEOVA AD08R」の後継モデルとして9年ぶりとなる新商品。部材から見直し再設計した新構造や強さとしなやかさを追求した新プロファイルにより、YOKOHAMA史上最高レベルのケーシング剛性を実現。また、緻密に最適化した専用の非対称トレッドパターンと粘弾性のバランスを追求した新コンパウンドを採用することで、ラップタイムの短縮が期待できるドライグリップに加え、アマチュアドライバーを助ける優れたコントロール性、サーキット走行でも長く使用できる耐摩耗性能が実現されている。さらに、カスタムチューニングにおける外観も妥協なく追求し斬新かつ洗練された独自性の高いパターンデザインに加え、コントラストを鮮明にしたブランドロゴなどがカスタムチューニングカーに見合う“カッコよさ”をも提供する。発売は2022年2月より日本を皮切りにアジア、北米地域で順次スタート。発売サイズは世界的なプレステージカーまで対応する275/30R20 97W XL〜165/55R15 75Vの20サイズで、2022年末までに21インチまでを含む計60サイズを追加する予定だ。なお価格はオープンプライスとなる。