ニュースリリース

ゴム材料の電子顕微鏡画像を明瞭化する新たな画像処理手法を開発

2024年11月20日

  • 経営関連
  • 技術関連

【国立大学法人筑波大学、横浜ゴム株式会社、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)】

ゴム材料の内部におけるナノスケール構造を鮮明に可視化する、新たな画像処理手法を開発しました。従来の電子顕微鏡画像ではノイズが多くゴム内部の輪郭が不明瞭でしたが、本手法により、網目状の分子ネットワーク構造を明瞭に捉え、さらに内部構造に関わる因子を数値化することに成功しました。

ゴムは柔らかく伸びやすいという特徴的な物性を持つため、タイヤから医用材料に至るまで幅広く使用されています。ゴムの内部には、分子同士の結合による複雑な構造が形成されており、これがゴム材料の物性に大きな影響を与えることが知られています。しかし、従来の電子顕微鏡画像は輪郭が不明瞭なため、ゴムの内部構造を精度良く分析することが困難でした。

本研究では、ゴムの内部構造を撮影した電子顕微鏡画像に対して、ゴム分子がネットワーク状に凝集する領域のみを強調する画像処理手法を開発しました。ゴム材料に関する知見と数理的手法を組み合わせた新たな画像処理技術により、ノイズが多く輪郭が不明瞭な電子顕微鏡画像からでも、ゴム内部のネットワーク構造をナノスケールで明瞭に捉えることができます。従来、電子顕微鏡画像からゴムの内部構造を解析するには、解析対象のネットワーク領域を手動で設定する必要がありましたが、本手法では自動で算出できるため、恣意性を排除しつつ、多数のサンプルを同時に解析することが可能となりました。本手法を用いて各サンプルにデータ処理を施し、ゴムの物性に関わる因子となるネットワークの長さを算出したところ、実験値と高い相関を示し、本手法の妥当性が確認できました。

本手法の活用により、安全性や経済性に優れ、さらに省資源や省エネルギーなど社会課題の解決に貢献する高性能なゴム材料の開発が期待できます。

■研究代表者

筑波大学システム情報系
五十嵐 康彦 准教授

横浜ゴム株式会社 研究先行開発本部
鈴木 聖人 課長補佐

■研究の背景

ゴムは柔らかく伸びやすいという特徴的な物性を持つため、タイヤから医用材料に至るまで幅広く使用されています。ゴムの内部には、ゴム分子同士の結合による複雑な構造が形成されており、これがゴム材料の物性に大きな影響を与えることが知られています。しかし、従来の電子顕微鏡画像による局所構造観察では、ノイズが多く輪郭が不明瞭という問題があり、内部構造と物性との関係を精度良く、また定量的に解析することは困難でした。

■研究内容と成果

本研究では、ゴムの内部構造を撮影した電子顕微鏡画像に対して、ネットワーク状のゴム分子領域のみを強調する画像処理手法を開発しました。ゴム材料に関する知見を基に内部構造モデルを構築し、数理的手法の一つであるヘッセ行列注1)による解析技術を組み合わせて、ゴム内部のネットワーク構造をナノスケールで明瞭に捉えることができます(参考図)。また従来、電子顕微鏡画像からゴム内部のネットワーク構造を解析するには、画像解析を行うネットワークの領域を手動で設定する必要がありましたが、本手法では自動で領域を算出できるため、恣意性を排除しつつ、多数のサンプルを同時に解析し、統計的なデータ処理を行うことも可能です。さらに、処理後の画像から、ネットワーク構造における網目の接続点、網目の面積、網の長さといった、ゴムの物性に関わる局所的なパラメータを導出する手法も開発しました。これらの手法を用いて、多数のゴムサンプルの電子顕微鏡画像からネットワークの長さを求めたところ、ネットワークのパラメータと、実験により得られた値が高い相関を示し、本手法の妥当性が確認されました。

■今後の展開

近年、計測データ解析にデータサイエンスや数理的手法を応用する「計測インフォマティクス注2)」の分野が発展しており、その社会実装や、産業界への応用可能性が検討されています。本研究では、ゴム材料に関する知見と計測インフォマティクスを活用し、その内部構造と物性に対する新たな情報を抽出することに成功しました。本手法の活用により、安全性や経済性に優れ、さらに省資源や省エネルギーなど社会課題の解決に資する高性能なゴム材料の開発などにつながることが期待できます。

■参考図

図 本研究で開発した手法による電子顕微鏡画像の強調処理結果。ノイズがあり、輪郭が不明瞭な電子顕微鏡画像(上図)に対して、開発手法を適用することでゴム分子のネットワーク構造が鮮明に可視化されている(下図)。拡大図(右下図)では、ナノスケールの微細なネットワーク構造が確認できる。

■用語解説

注1)ヘッセ行列
多変数関数の感度解析に用いられる手法。画像処理においては、周囲のピクセルと比較したときの輝度の変化を算出することで、球状や棒状といった構造的な特徴を捉えることができる。医療分野では、画像内の血管を強調するなどの応用例がある。

注2)計測インフォマティクス
先端的な計測技術と画像処理・機械学習・AIによるデータ処理技術を融合し、不完全な大量データから高精度な推定を実現するための学際的な研究分野。

■研究資金

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST 課題名「反応リマスターによるエコ材料開発のフロンティア共創(JPMJCR2235)」の一環として実施されました。また本研究は、筑波大学と横浜ゴム株式会社との共同研究契約に基づいて行われました。

■掲載論文

【題 名】Application of a Hessian-Based Image-Processing Method for Enhanced Visualization of Nanoscale Rubber Cross-Linked Network Structures from Electron Microscopy Images
(電子顕微鏡画像からナノスケールゴム架橋ネットワーク構造を強調し可視化するためのヘッセ行列ベース画像処理手法の応用)
【著者名】Masato Suzuki, and Yasuhiko Igarashi
【掲載誌】ACS Applied Nano Materials
【掲載日】2024年11月18日
【DOI】10.1021/acsanm.4c04855