GEOLANDAR渓流釣行 - 遠州、駿河の国境に分け入り、幽深のアマゴに出会う

アウトドアブームで、より熱を帯びた今季の渓流シーン。深き森の香りに癒やされ、無垢な流れに浸かるこの釣りは、都会の喧噪を忘れ、安らかな世界を体験させてくれる。漁期が終焉(3月から9月一杯。例外地区あり)となったいま、多々ある渓流釣行より、クライマックスともいえる晩夏の静岡中部山岳地帯渓流釣行の模様をチョイスしてお届けしよう。
2023.10.03

川崎北部の自宅より第三京浜、横浜新道を介して国道一号をひたすら西へ。
 
相模湾をかすめ、伊豆箱根の眺望を眺めながら駿河湾沿いに走るこの路は、所々にて街と自然が入れ替わり、退屈しない景観である。
 
平日に自由方便に移動することが多いボクは、あえてこの下道の国道を、おもしろがりながら行くことが多い。
 
愛車、96年式のフォルクスワーゲンT4ウェスティは、奇数気筒独特の小気味よいエキゾーストノートを奏で、至極ご機嫌である。

ドライブを支えるのは、快適なオンロードのスキルを主軸に、不意のオフロードも器用にこなす魔法の靴、『GEOLANDAR CV G058』である。なぜ魔法の靴なのか? という詳細は、前回の記事を是非。

GEOLANDARが誘う深淵なる釣りの世界

https://www.y-yokohama.com/helloworld/outdoor/0169.html

国道一号はやがて富士川、安部川と河川を渡り、さらに国道473号に交わり暁(あかつき)を迎える。
 
眉目よき茶畑を眺めながら、ウネウネと連なる細き山道を行き静岡中部の大河川の支流へ……。
 
ちなみにこの地域は飛び抜けた見晴らしを持つ景勝地である。

両国吊橋や八木の吊橋などの珍しき吊り橋を渡り、手に汗握る景観を堪能し、アプト式列車やSLを始めとする大井川鐵道のレトロな車両を眺めるも良し……。
  
深い旨みと香りの川根茶を堪能し、食べ応えのあるソウルフード、川根の茶栗まんじゅうを頬張ることも一考である。
 
だがしかし、そのような甘美なるひと時はこのミッションに許されないのだ。

路は更に細くなり、うねうねと曲がりくねる。
 
このような山道では魔法の靴、『GEOLANDAR CV G058』の適度な剛性がものをいう。タイヤの変形による腰砕け感は皆無で、より安定感が増すので本当に運転が愉しいのだ。

ちょっといい汗をかいた後、河川へのスロープをゆっくりと下って、山ちゃんこと山村佳人氏と、朝ぼらけの河原にて合流。
 
プロカメラマンとして長きにわたり渓魚(渓流魚)を撮影しながら、オールドリールのチューナーとしても名を馳せる氏は生粋の鱒釣り馬鹿であり、ボクとは長い付き合いの良き釣友である。

「水量はまぁまぁだよ。はい、入漁券!」
 
静岡生まれ、静岡育ちの山ちゃんは、この界隈に土地勘があり、入渓点から脱渓点の決定、そして入漁券の購入までそつなくこなしてくれた次第。
 
入渓点とは、川に入る地点で、脱渓点とは川から上がる地点を指す言葉である。
 
深い谷を釣行する高山や源流の渓流釣りでは、これらの地点を計画的に決めておかないと、川から出られない! なんてことになりかねないので、なによりも安全優先の選択が重要となるのだ。

速乾性の高機能インナーにドライのハーフパンツ、そしてヒザやスネをガードし、保温性を保つゲーターを装着し、滑り止めの機能が高いフェルトスパイクソールのウエーディングシューズを履く。
 
ゴロゴロとした石をいなし、渡渉(川を渡ること)、したり、時には泳いだり、はたまた激しい斜面の上り下りを繰り返す深山の釣りでは、足の開度が広く、自由に動けるこのスタイルが楽なのだ。
 
ウェイダーと呼ばれる、釣りの際に着用する胸までの長靴に比べ、至極快適だ。だいいち圧倒的に涼しいので疲労も少ない。

ボクと山ちゃんは、ここぞ! と思うポイントを撃ちながら交互に沢を登り、上流に向かってルアーをキャスト(投げる)する。
 
いわゆるアップストリームというスタイルで、ヘビーシンキングミノー(小魚の形をした重いルアー)を撃ち込んでいくのだ。

キラキラと薄明(はくめい)の陽に輝く沢の流れは冷たくて、灼熱の晩夏のこの時期には至極気持ち良い。
 
深き渓谷の純然な眺めに酔いしれながら、川底が伺えるほど透き通った流れに着水したミノーを偏光レンズ越しに追うと、その須臾(すゆ)キラリと水面が光り、ワラワラと煌めきを伴いながら数尾の渓魚がチェイスとアタック! そして最初の一尾が山ちゃんに来た!
 
「うぬちゃん、いいアマゴだよ! もうひといき、八寸かな……」
 
山釣り(渓流釣り)師は、尺(30㎝)越えに拘る。

尺越えの渓魚は「しゃくがみ」や「しゃっかみ」と呼ばれ、釣った人の良き思い出と素晴らしき名誉になるのだ。
 
山ちゃんは八寸に嘆いたが、未だ釣れていないボクは、そのような感傷に付き合っている場合ではなかった。
 
キャスト! キャスト! そしてまたキャスト! であるが、しかしながらこの日は何故か調子が悪く、バラシ(サカナが針から外れること)が続くボク。
 
そんなボクをよそに、幽深の流れではカワガラスのつがいがビィッ、ビィッ、ジョイ、ジョイ! と鳴いて、仲むつまじい限りだ。

カラスを丸く、ズングリムックリとさせて小さくしたようなそれは、なかなか可愛いい。しかも水生昆虫を補食するためダイブするので、見ていてとても面白いのだ。
 
しばし彼らに見とれたボクであったが、我に返り、再びトゥイッチ(小刻みにロッドを動かして不規則なアクションを加える動作)を加える。するとコン! という手応え!
 
矢庭にいなし、丁寧に巻いて自作のネットに無事ランド(サカナを取り込むこと)する。

名誉の「しゃっかみ」には届かなかったが、日盛りの陽の目に輝く幅の広い美しいアマゴにボクは酔いしれた。
 
山ちゃんがジャバジャバと飛沫をあげなからやって来て、写真を撮ってくれた。
 
さらに自分のカメラにもその絶佳(ぜっか)なる姿を納めた後、その子をそっと流れに返した……。

昼中となって腹がグゥ! と鳴ったので、コッヘルに川の水を汲み、コンパクトストーブで湯を沸かし、二人でラーメンを啜る。これがはなはだ美味でたまらない。

残り汁にレトルト飯を入れてひと煮立ちさせると、さらに素晴らしきご馳走に変貌する……。
 
「山ちゃん、まじ、うんめぇなぁ……」
 
この瞬間がアマゴとの出会いに次ぐ、本日二度目の禍福のクライマックスであった。

満腹となり少し虚ろになったが、カワガラスが相も変わらずジジ、ジュジュジュ……、と鳴いて、ボクのお脳を覚醒させた。
 
山から渡る風が少し冷たく感じる。
 
遠江国の県境はそろそろ秋の気配である……。
 
良き釣りと良き旅を。ラヴ&ピース。
  

  
  
  

この記事を書いたライター

うぬまいちろう

本業のイラスト作画の傍ら、数々のSUV、そして3台のアメリカンモーターホーム、フォルクスワーゲンT4ウェスティを2台乗り継ぎ日本中を放浪。実に100万キロ以上の釣り旅を車中泊にて謳歌する。自動車専門紙での長期連載、有料放送の釣り番組のMCなど多方面での活躍に加え、釣りはもとより他に町歩き、旅、グルメなどの著書多数。ジャパン・フィッシングイラストレーターズ・メンバー、サンヨーナイロン・ラインアンバサダー。

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