Groover’s Voice vol.8 溝口肇(チェロ奏者/作曲家)クルマのウィンドウを流れる景色と音楽で、 ひとつのロードムービーになるんです。

クルマを愛し、音楽を愛する人に話を伺う「Groover’s Voice」。
今回はテレビ番組『世界の車窓から』のテーマ曲でもおなじみのチェロ奏者、溝口肇さん。

大のクルマ好きながら“自動車は道具”と考える溝口さん流のクルマとの付き合い方は?

文/河西啓介 写真/阿部昌也
2021.06.30

Gクラスを6台乗り継ぎました

―― 溝口さんは大のクルマ好きだと伺っています。

「とにかく運転するのが好きなんです。クルマは自分の愛車としては10数台所有しましたが、運転しただけなら100台以上だと思います。海外に行くと必ずレンタカーを借りて運転するので」

すごい!クルマが趣味?ということですか?

「運転は好きですが、クルマ自体は趣味というより“道具”ですね。チェロを運ぶための。じっさいオープンカーに憧れて何台か所有したこともあるのですが、ほとんど乗らないので結局1年ぐらいで手放してしまいます。だから僕にとってクルマは実用の道具なんだなと」

今日乗ってきていただいたメルセデス・ベンツGクラス、なんとこれまで6台乗り継いでらっしゃるそうですね。つまり溝口さんにとって最高の実用車、ということでしょうか。

「最初にゲレンデ(Gクラス)を買ったのは30年近く前。それから他のクルマに乗り換えたりもしたんですけど、結局Gに戻っちゃうんですよね。今のは8年前に買った5リッターV8モデル。環境には悪いかもしれないけど、こんなクラシックなガソリン車はそのうち乗れなくなるので、今のうちにのっておこう、と」

運転に“旧い作法”があるのがいい

8年前というと、現行モデルのひとつ前の世代になりますね。Gクラスのどこがそれほど気に入ってらっしゃるんですか?

「いちばんいいのは運転席から見晴らしですね。もうひとつは旧いクルマの“運転作法”があること。僕、運転に介入してくるような電子制御が嫌いなんです。このGクラスはABSや横滑り防止ぐらいは付いてますけど、とにかく基本設計が旧いですから、カーブの前ではアクセルを戻したりして、前輪に荷重をかけてハンドルを切る、ということをやらないと曲がってくれない。そういうのが好きなんですよね」

そういう意味では、現行のGクラスは見た目は変わりませんが、中身は以前と比べかなり現代的になっていますね。

「現行モデルも気になるんですけどね。前のモデルの方がいいのは“小さい”ことなんです。車幅は1820mmに収まっていて、これぐらいだとコインパーキングに止めたときにチェロの出し入れがしやすい。なんと言ってもこれがいちばんのメリットですね(笑)」

超実用的な理由ですね(笑)。その堅牢さから“走る金庫”と呼ばれるぐらいですから、チェロの運搬車としてこれ以上安心なクルマはないですね。

「確かに頑丈ですが、その重さゆえ燃費は悪いです。燃料タンク容量が100リッターもあるわりに航続距離が短いので、こまめに給油して常に満タン近くを保つようにしています。すると車重も重くなるから、燃費も伸びないという悪循環で(笑)」

カーオーディオの音のよさに驚きました

クルマの中で音楽を聴きますか?

「都内で乗るときはあまり聴かないですが、長距離走るときは聴きますよ。コンサートのときも、片道2、3時間の距離だったらクルマで行くので。いつも思うのですが、フロントウィンドウがスクリーンで、流れる景色が音楽と一緒になることでロードムービーになるんです」

さすが! ステキなたとえです。さしずめ『クルマの車窓から』ですね(笑)。

「(笑)。先日、雑誌の取材で最新の輸入車に乗ったのですが、オーディオの音がいいのに驚きました。室内に10数個のスピーカーを配して、デジタルで音場をつくりこんでるのだから、今どきのカーオーディオってすごいですよね」

ボーズ、JBL、バング&オルフセンなど、一流のオーディオメーカーと共同開発も進んでいますよね。

「もともとクルマの中ってリスニングルームとして優れているんです。空間として密閉されているし、リスニングのポジションも固定されているしね。僕も昔は、スタジオでレコーディングした音をカセットに入れて、駐車場に行って自分のクルマで聴き直していました。それでよければオッケーだと」

聴く人の“人生のBGM”であってほしい

このたびニューアルバム『hopeness』がリリースされました。この新譜はどのように制作されたのですか?

「コロナ禍でコンサートがなくなり、ほとんどの音楽活動ができなくなりました。このアルバムをつくることで、なんとか精神のバランスを保っていたという感じです。で、自分のスタジオでコツコツつくりはじめたら、それが楽しくて、1年も経ってしまいました」

通常はもっと早く完成するのですね?

「これまではホールで1日10曲録音、などということもありましたから。今回は自分のスタジオでつくりこんで、ゲストミュージシャンはリモートでレコーディングしました。時間はいくらでもあったので実験的なことができましたね」

タイトルの『hopeness』(希望)にはどんな意味が込められているのでしょう。

「やはりこのコロナ禍の、今の時代に向けたものです。自分の音楽は“祈り”に近いものだと思っていますし、聴いてくれる人の“人生のBGM”であってほしい。このアルバムを聴いて希望を見出してくれれば嬉しいですね」

ジャケット写真が素敵すぎます!

「僕が撮った写真です。2歳4ヶ月ぐらいの若い猫、うちの“マメ”です。今の僕の希望(笑)」

溝口 肇(Hajime Mizoguchi)
1960年生まれ。東京都出身。日本を代表するチェリスト/作曲家。『世界の車窓から』のテーマ曲をはじめ、数々のテレビ、映画、CMなどの音楽を手がける。2021年5月、最新アルバム『hopeness』をリリース。愛車は2013年式メルセデス・ベンツG550。

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