Groover’s Voice vol.3 小林香織 サックスの演奏とクルマの運転、どこか似てるんです。

小林香織(サックス奏者)

クルマを愛し、音楽を愛する人々にお話を伺う「Groover’s Voice」。今回お話を伺うのはサックスプレイヤーとして日本のみならずアジアでも人気の高い小林香織さん。小林さんとクルマの意外な接点とは?
聞き手/河西啓介(Sound Groover編集長)
写真/三浦孝明
2019.11.05

進路に悩み、選んだサックスの道

―― 小林香織さんのお父さまは、モータースポーツのフォトグラファーとして有名な小林稔さんですよね。やはり子どもの頃からクルマに親しまれていたのでしょうか?
「どこに行くのもクルマでしたし、サーキットに連れて行ってもらうこともありましたね。クルマの中ではいつも音楽がかかっていました。父の好きなロック、フォーク、ポップス、歌謡曲……。ジャズやクラシックがかかることはなかったですけど(笑)」

―― そしてお母さまはピアノの先生ということで……、まさに芸一家ですね。
「確かに子どもの頃から芸術的なことに親しむ機会はありました。でも音楽が身近にあり過ぎて、将来音楽を“仕事”にしたいとはまったく考えていませんでしたね」

―― 音楽との本格的な出会いはいつごろ?
「中学で吹奏楽部に入ったのがきっかけだと思います。でも楽器はサックスじゃなくてフルートだったんです。ちょうどそのころ歯の矯正をしていて、金管楽器は口に強く押し付けるのでダメだとドクターストップがかかって。とはいえ私はなんでも飽きっぽいタイプで、当時はフルートもそんなに熱心にはやらなかったんですけどね」

―― ご両親がフォトグラファーとピアノ教師ですし、てっきり子どもの頃から「芸能の道に進む」と決めていたのかと思いました。
「いえ、それがぜんぜん。じつはなりたいものとか、夢中になれるものがなくて、将来について悩んでたんです。ですが高校1年生の3学期、いよいよ進路を決めなきゃということになり、音楽は好きだったし、管楽器の経験もあったので、じゃあサックスをやってみようかなぁ……という感じでやり始めました」

―― もっと運命的な出会いがあったのかな、とか、勝手に想像してました(笑)。
「すみません(笑)。でも初めてサックスを吹いたとき、自分にぴたっとフィットする感覚があったのは確かです。これなら続けられるんじゃないか、そういう予感がありました。で、そこからはどんどんのめり込んで、高校卒業後は音大のジャズコースに進み、やがてプロになり……と」

“踊れるジャズ”があってもいい

―― 香織さんのアルバムを聴くと、とてもポップで、スピード感のある楽曲も多く、ドライブミュージックにピッタリだなと思います。
「嬉しいですね。子どもの頃からいつもクルマの中で音楽を聴いていたので、曲を作るときにもどこかで“クルマで聴く”ということを意識している気がします。サックスというと“ジャズ”というイメージが強くて、敷居が高いと思われがちなんですが、私はもっとポップで、“踊れる”ジャズがあってもいいんじゃないかと思うんです」

―― 2016年にリリースされた『MELODY』は、テイラー・スイフト、シカゴ、エアロスミス、エリック・クラプトンなど洋楽ロック&ポップスのカヴァーアルバムでしたよね。どれも知っている曲なので親しみやすく、サックスでのアレンジはとても新鮮でした。
「いつも、少しでも多くの人に私の音楽を聴いてもらいたい、サックスやジャズを身近に感じてほしいという気持ちがあります。洋楽のカヴァーもそのひとつなんです。デビュー以来いろんなトライをしてきましたが、じつは私にとってサックスを演奏したり曲をつくったりすることは、“音楽制作”というより“実験”に近いかもしれません(笑)。

―― 来年はデビュー15周年を迎えますね。
「はい。近ごろようやく、どんな音楽を演っていても“わたしはわたし”と思えるようになってきました。来年は1カ所でも多くライブを開催して、少しでも多くの方に“生”の音を聴いてもらいたいですね」

音楽もクルマも“ライブ”で楽しみたい

―― 先日は富士スピードウェイで行われたWEC(世界耐久選手権レース)でもライブステージを披露されましたね。サーキットでの演奏はいかがですか?
「昨年に続き2年連続でライブをさせていただきました。ステージも楽しいですがレース観戦も楽しみなんです。いろんなポイントを移動しながら、6時間のレースもぜんぜん飽きませんでしたね。マシンのエンジン音も最初は“うるさいな”と思ってたんですけど(笑)だんだんハマってしまって。これから電気自動車の時代が来ても、あの“音”だけは残してほしいです」

―― 音楽もデジタル化が進んでいるけど、やはり“生音”のよさがありますもんね。クルマも同じ。
「そうなんです!デジタルでなんでもできちゃう時代だからこそ、“ライブ”に価値があると思ってます。ごまかしが効かないですから。じつはクルマもオートマチックよりマニュアル車のほうが好きなんです。教習所でAT車を運転したとき“なんだ、ツマンナイ!”と思っちゃって(笑)。サックスという楽器もすごくアナログで、決められたとおりにキーを押さえるだけじゃダメ。吹き方を絶妙にコントロールすることでメロディーが奏でられるんです。それってマニュアル車の運転感覚に似てるなあ、と思います」

―― ところで香織さんは、どんなクルマが好きなんですか?
「背が低くて、幅が広くて、音がうるさいクルマです(笑)。それも父の仕事の影響かもしれません。でも最近はようやく落ち着いてきて、セダンやSUVとか、大人っぽいクルマもいいなと思うようになってきましたけど」

―― スポーツカーで思い切り走りたくなるような曲、夜の街をしっとりとドライブしたくなるような曲、これからもいろんなドライブミュージックを聴かせてください。今日はありがとうございました!

Profile

小林香織(こばやし・かおり)
1981年神奈川県生まれ。2005年アルバム『Solar』でデビュー。2012年タイの“The Most Beautiful Saxophonist in Asia”受賞。台湾でアルバム3作連続ジャズチャート1位を獲得。現在は国内外のライブハウスやジャズフェスティバルに出演するほか、さまざまなレコーディングに参加。
ホームページは、kaorikobayashi.com

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