
別れは、突然やって来る…
いつも計画性がなく、行き当たりばったりの人間だからかもしれないけれど。
たとえば、愛車との別れ…
2008年式のトヨタ・プロボックス。2020年に走行距離7万キロで手に入れてから、走りに走ってオドメーターの数字は14万キロになった。3年間、不具合はなにひとつなく、マメなオイル交換だけで、エンジンは今でも絶好調。
もとが商用車だから、タフさと使い勝手のよさは折り紙付き。過度な性能や機能、無駄な装飾がないシンプルで質実なところも潔い。なによりも気に入っていたのは5速MTであること。とにかく長距離を走るのが楽しいものだから、気がつけば3年で7万キロ…。
当初は今年6月の車検を通して、もう2年は乗ろうと思っていたのだけど、いろんな要因が重なって、このタイミングで手放すことにした。思いがけない展開… 別れは、いつも突然なのである。
付き合い始めるのに理由はいらない。だけど、別れる時にはいろんな理由を考える。それはきっと、別れを正当化するため。仕方がないのだ、と自分を納得させたくて。
エンジンに不具合はないけれど、サスペンションの調整は必要みたいだ…
最近、クラッチのつながり方が、どうも怪しい…
旧式のカーナビが、たまにあらぬ方向を指し示すようになってきた…
今後もさらに快適に乗り続けるには、どうやら車検代だけでは済まない諸々の出費を要することになりそうだ。ならば、このタイミングで手放そう。仕方ないじゃないか…。
ひとたび「クルマ買い替えモード」に突入してしまったクルマ馬鹿は、もう止まらない。すり減ったタイヤで雨の中を走るようなもので。もはや、新調するほかないのである。

思い返せば、こいつとはまさにコロナ禍の真っ只中を駆け抜けてきたことになる。ウイルスの感染拡大という事態に直面して、社会との密を避けたぶん、クルマと過ごす時間は濃密なものとなった。
納車時に交換した本革のステアリングは、ずいぶん表皮が傷んでしまった。たった3年なのに、と思うけど違うのだ。ステアリングのキズは、僕らが7万キロという“時”を共に過ごしてきた証しなのである。
嬉しい時、淋しい時、途方にくれた時、希望にみなぎる時…
7万キロの道のりと同時に“時”を巻き取りながら、僕らは今日まで走ってきた。走り続ければ日は沈み、やがてまた昇る。道は、未来へも続いている。タイヤは、時空の糸巻きみたいなものかもしれませんね。
3年間、短い間ではあったけど、たくさんの楽しい思い出をありがとう! なんて、まるで中学生の卒業文集みたいだな。
6月には、新しい相棒がやって来る。その出会いについては、またの機会に。突然の別れの先には、必然の出会いが待っているのであります。
今は、プロボックスとの最後のドライビングを慈しむように味わっている。手放すとなった途端にクルマの調子が悪くなるのは、よくある話で(過去に何度も経験済み)。
だから慎重に、やさしく運転しているのに、気がつけばカーナビがあらぬ方向を指し示している。
きっと、プロボックスは知っているのだ。自分の役割が終わろうとしていることを。
そして、伝えてくれているのだろう。
これから先の道を誤らぬように、と。
ありがとね。
この記事を書いたライター

自他ともに認めるクルマ馬鹿であり、「座右の銘は、
現在の愛車は手に入れたばかりのジムニーシエラと、