アイスガード 7の注目技術! スタッドレスタイヤの新常識「エッジ効果」って何?

暑さの峠は越えたようで、そろそろ冬のタイヤを考え始めるころでしょうか。
昨年発売した「iceGUARD 7(アイスガード セブン)」。今回は特長のひとつであるエッジ効果について深掘りしてみました。
2022.09.16

スタッドレスタイヤの「これまでの常識」

横浜ゴムがスタッドレスタイヤを作り始めて37年、アイスガードシリーズが登場してから20年が経ちました。
長いスタッドレスタイヤ開発の歴史のなかで、今では当たり前になった技術や考え方がいくつも存在しています。いっぽうで長年「常識」とされてきたことが覆されることもあります。その一つが「氷上性能」と「雪上性能」は相反する関係にあるというものでした。

氷上性能を上げると雪上性能下がる!? 相反関係にある氷と雪

「氷上の性能を引き上げると雪上の性能が落ちる。その逆もまた同様で、両者は相反関係にある」とされてきました。これはスタッドレスタイヤの開発に携わる関係者の間では当たり前のことだったようです。
氷上でタイヤが滑る原因の多くは水です。
まず氷の表面にある目に見える水をサイプ(細かい切れ込み)で除去します。そしてゴムが氷に触れると、タイヤの摩擦によって氷との間にマイクロレベルの水が発生します。その水をゴムの吸水力によって素早く除去し、しっかりと氷に密着させることがポイントとなります。そのためにゴム自体の吸水性を高める吸水バルーン、吸水ゲルや、柔軟性を高めるシリカなどの素材や配合の技術が磨かれました。つまりゴムを面で氷に接地させるという方向性です。

対して雪上では、雪にゴムを食い込ませることでグリップが生まれます。雪を引っ掻く能力を高めるために、トレッドパターンのデザインを工夫して、溝やサイプを多くしつつ、力が加わったときに倒れ込まないように支え合う構造にしています。つまり極端に言えば多くの点で接地させるという考え方です。

密着させたい氷に対して、引っ掻きたい雪。このようにしてどちらの性能も両立させることは、それぞれのちょうどいい頃合いを見つける作業でもあったのです。

注目したのはエッジ効果

さまざまな技術を積み上げることで進化を続けているアイスガードシリーズですが、今回はその技術の中から「エッジ効果」について掘り下げてみようと思います。あまり耳馴染みのない言葉ですが、今回のアイスガード 7では、このエッジ効果がトレッドパターンの開発において重要な要素のひとつとなりました。

氷上性能と雪上性能を両立するにはどうすれば良いのか。開発陣が辿り着いたのは「エッジ量の適値を見出そう」というものでした。

そもそもエッジ効果とは?

そもそもエッジ効果とはどのようなものなのでしょうか?
スキーを連想してみてください。スキーは雪の上を滑っていくスポーツですが、方向を変えるときにはスキー板の両側にあるエッジを使います。雪面にエッジを食い込ませるようにして滑走する力の方向を変えることで、ターンを行います。この雪面を捉える感覚と、エッジ効果は似ています。

   
スキーで滑走する雪面はもちろんきれいに整備された圧雪だけではありません。カリカリに凍ったアイスバーンもあれば、グズグズに崩れたシャーベット状の雪もあります。目まぐるしく変化するこれらの雪面を意図した通りに滑るには、雪面に対するエッジのコントロールが重要です。

溝、サイプ、トレッドのそれぞれにエッジ効果がある

冬期の道路に話を戻しましょう。
一般的な公道では路面状況は常に変化し、圧雪や轍、アイスバーンやミラーバーン、シャーベットと、同じ条件の路面が続くことはありません。この状況は、スキーが滑走する状況とそっくりです。では、冬期の道路を走るスタッドレスタイヤにおいてエッジ効果が現れる場所はどこを指すのでしょうか。

溝のエッジ量の増加

まず挙げられるのがタイヤに施された溝です。トレッドにはタイヤの回転方向に走る縦溝と、それに交わるようにタイヤの幅方向に走る横溝があります。溝によって排水や排雪を効率よく行い、ゴムを氷の表面に密着させるためにさまざまなデザインが施されています。
これらの溝の角が、氷や雪を引っ掻くエッジ効果を生み出します。ただし、エッジを増やそうとして溝を入れ過ぎると、スタッドレスの柔らかいゴムではトレッドブロックが倒れこみ、接地が失われて氷上性能が低下してしまうため、エッジ量には適値が存在します。その最適なエッジ量を付与したのがアイスガード7のIG70パターンとなります。IG70(アイスガード7)では、左右非対称パターンを採用して、タイヤのIN側は傾斜の異なる横溝「マルチダイアゴナルグルーブ」を、OUT側にはジグザグの縦溝「トリプルライトニンググルーブ」を配置しました。これによりエッジ量はIG60(アイスガード6)から+33%も向上、アイスガード史上最大のエッジ量を達成しています。

サイプのエッジ量の増加

溝よりも細かい切れ目であるサイプのフチ(角)も、氷や雪を引っ掻くエッジ効果を発生させます。そして、サイプにもエッジ量を増加させるデザインが取り入れられています。トレッド全面に施されたのは、「クワトロピラミッド グロウンサイプ」です。ブロック剛性を高めることで、初期の氷上性能を引き上げることができる上に、新品のときよりもタイヤが50%摩耗した時点でサイプが最も太くなるように設計されているので、エッジ効果が永く持続します。つまり性能をずっと保つことができるというわけです。

2種類のマイクログルーブ

加速時や制動時は前後方向、コーナリング時には横方向に、トレッド面には力が加わります。スタッドレスタイヤを装着した直後からそれぞれの方向でエッジ効果を引き出すために生まれたのが「ダブルエッジマイクログルーブ」です。ブロックの中央部分ではサイプの傾斜方向と交差させるようにして、横方向のエッジ効果を引き出し、ブロックの角部分ではサイプの傾斜と同じ方向に配置して、水膜を効率よく排出することに成功しています。

マイクロレベルで効くエッジ効果

ゴムが接地した瞬間に、路面に刺さるように作用するのが「マイクロエッジスティック」です。水膜を吸水した後にマイクロレベルでゴムが氷の表面を引っ掻きます。これもまたエッジ効果のひとつです。

オールシーズンタイヤ「ブルーアース-4S AW21」の技術

2019年に国内デビューしたオールシーズンタイヤ「ブルーアース-4S AW21」は、アイスガード 6からヒントを得て、トレッドパターンの開発を行ったタイヤです。オールシーズンタイヤはあくまでも「雪も走れるサマータイヤ」であり、スタッドレスタイヤではないのでゴム自体は硬めです。このゴムはドライ路面を走行するときは非常に有効で、一般的なサマータイヤに迫る性能を持っています。また、V字ダイバージェントグルーブとクロスグルーブが施されたトレッドによって雪を引っ掻くことができるので、圧雪路でもしっかりと走ることができます。
この2つの溝が生み出しているのがエッジ効果です。ブルーアース-4S AW21でさらなる知見を得たことで、アイスガード7はエッジ効果の働き方やエッジ量の最適値を導き出すことができたといっても過言ではないでしょう。

BluEarth-4S AW21 製品ページ

仮説を裏付ける氷盤路の冷媒技術

北海道旭川市にある横浜ゴムのテストコース「北海道タイヤテストセンター(Tire Test Center of Hokkaido=TTCH)」には、新たに冷媒装置を使った氷盤路が導入されました。冷媒装置とは文字通り温度を下げるためのもので、任意に設定した氷の温度を保つことができるというものです。屋内とはいえ外気温に左右されてきた氷盤路の路面温度を冷媒によって制御することで、データが揃い、実験の精度がより高まりました。

複数のテストでエッジ効果を確認

開発段階ではさまざまなトレッドパターンを製作しています。その中から、パターンによってエッジ効果の差が明確に出たのが次のテストです。
①IG70 (アイスガード7)
②IG60 (アイスガード6)
③スリック(トレッドの溝なし)+アイスガード7のゴム

②のIG60をベンチマークとして制動指数を100としたときに、当初の予想では、氷温が極低温時(-10℃)では氷表面が乾いているため、接地面積がもっとも大きい③のスリックが性能を発揮し、続いて①のIG70、そして②のIG60の順と予想していました。ところが実際にテストを行ったところ、制動指数は高い順に①>②>③となったのです。
この順番は氷温を-1℃まで上昇させても変わらず、各タイヤの性能差はさらに大きくなっていくという結果になりました。

上から
①IG70 (アイスガード7)
②IG60 (アイスガード6)
③スリック(トレッドの溝なし)+アイスガード7のゴム

このことから、氷表面が乾いている極低温時でもエッジ効果は制動性能に貢献しており、水膜が発生する温度へ上昇させるにつれてその貢献度が高まるということが判明したことになります。IG60に対してIG70のエッジ量は33%増加しています。つまり、エッジ効果は雪面でのグリップを高めるだけではなく、氷上でのグリップも向上させるというわけです。

エッジ効果が「ちゃんと曲がる」「ちゃんと止まる」に貢献

今回は、アイスガード7に詰め込まれたさまざまな技術のなから、氷と雪の両方に大きな影響を及ぼす「エッジ効果」について注目してみました。マイクロからマクロまで、すべてのレベルでエッジ効果に着目することで、本来であれば相反する関係であった「氷」と「雪」の両方に効果的な性能を引き出すことに成功したのが、このIG70パターンです。
「ちゃんと曲がる」そして「ちゃんと止まる」ことで、冬季のドライブを安全で快適なものへと変えるスタッドレスタイヤ「アイスガード 7」を愛車の足もとにおすすめします。

この記事を書いたライター

横浜ゴム Hello, world 編集チーム

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