第三者意見

当意見は、本レポートの記載内容、および当社の各担当者へのヒアリングに基づいて執筆しています。

(株)日本政策投資銀行 設備投資研究所

エグゼクティブフェロー

竹ケ原 啓介氏

1989年日本開発銀行入行。フランクフルト首席駐在員、環境・CSR部長、執行役員等を経て現職。
環境省中央環境審議会臨時委員等公職多数。

CSRレポート2021の特徴を一言でいえば、新中計「YX2023」を中心に据えることにより、非財務情報開示の媒体としての体系化が大幅に進んだことです。この結果、貴グループのCSR活動のエッセンスを幅広い対象に示し、より深く知りたい読者をWeb上の詳細な情報に誘導する橋渡し役の機能は維持しつつ、今号は、単独でも貴グループの価値創造ストーリーのあらましを読み手に伝えるメッセージ性を備えるに至っています。この進化は、昨年評価させていただいた前号と対比することで、より明確になります。

最大の変更点は、新中計「YX2023」との一体化です。まず、社長メッセージで新中計の目指す方向性、とりわけ新たな価値創造に向けた「既存事業の深化と市場変化の探索」というコンセプトが明確に打ち出されます。続く頁では、この新中計の内容を5つの重要課題に展開しつつ、社会課題の解決を通じた成長シナリオと統合しています。前号ではサステナビリティ経営におけるリスクと機会の認識を一覧化する役割に留まっていたパートが、中計と一体化することで明確なストーリーを備えたことになります。これを端的に示すのが重要課題の配列変更です。事業に係る「製品を通して」を筆頭に配し、製品情報を取り込む形でボリュームも増やしています。CASE、MaaSに象徴される大変動に対応すべく、タイヤ消費財における高付加価値化とタイヤ生産財における新たな収益モデルを追求する戦略の打ち出しは、既存事業の深化と市場変化の探索、あるいは、攻めと守りの両立を志向する「創業守成」の理念を具体像として分かりやすく伝えてくれます。

次に目を引くのは、5つの重要課題に関する各ページの冒頭に「創出する価値」の項目が新設され、事業を通じて社会に提供している価値(アウトカム)を記述している点です。社会課題の解決と成長戦略の同期を要請するESG投資のロジックに対応し、事業と社会価値の統合が進んだ印象を与えるコンテンツといえ、昨年、検討をお願いした者として大変嬉しく感じました。

また、重要課題の各頁にSDGs貢献の項目が設けられ、関係者からのコメントを掲載した点も、ステークホルダーの視点を反映する工夫として高く評価出来ます。

事業と社会課題の統合は、重要課題の各内容からも確認出来ます。例えば、「地球環境のために」の項目では、前号は天然ゴムの持続可能な調達というリスク面にフォーカスしていましたが、今回は、カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミーという大きなコンセプトの下で、リスクと機会の両面が紹介されています。特に、再生可能原料の使用率を2030年に30%以上に引き上げるという定量目標を明記し、これに向けた具体策としてバイオマスからブタジエンを生成する新技術に言及するなど、イノベーションの側面に光を当てた点は大変印象的でした。

このように、ボリュームを大きく変えることなく、コミュニケーションツールとしての機能を大幅に引き上げたご努力に敬意を表したいと思います。その上で、今後の更なるレベルアップに向けた期待を幾つか申し上げます。

まずご検討いただきたいのが、中・長期目標(ビジョン)の開示です。価値創造シナリオが脱炭素社会への移行に向けた自動車産業の大変化を念頭に設定されていることや、「次の100年を見据えた」という記載に象徴されるように、貴グループの特徴である長期的な視点を考えれば、今ほど、具体的な長期目標やビジョンの提示が要請されるタイミングはないと思います。また、直近のパフォーマンスデータの自己評価の根拠としても、中期的な目標水準を提示することは重要でしょう。この点に関して、社長メッセージの中で言及されているTCFDのフレームワークを活用することは、今後進展が予想される非財務情報開示ルールのコンバージェンス(収れん)の方向性を考えても、有効だと思います。例えば、今回印象的だった「製品を通して」に含まれる多くの情報を、TCFDの枠組みを活かして、セグメント毎にリスクと機会に整理・開示すると、ビジネスモデルの長期持続可能性についてのメッセージ性がより強化されることが期待出来ます。

また、5つの重要テーマ相互の関係性についてもさらなる作り込みが期待されます。この5つは、事業(価値創造)を正面から捉えた「製品を通して」と、これを支える基盤ともいうべき4項目とに分けて考えることが出来ます。事業を支える要素として、環境、人、地域、ガバナンスを並べてみると、それぞれの項目で何を語るべきかが、自ずと浮かび上がってくるように思います。今号で改定された環境部分は、この観点からみて納得感のあるものでした。人的資本や(グローバルダイバーシティに力点を置いた)地域などについても、同様により射程を広げた記載が期待されます。

大きな飛躍を遂げただけに要求水準も上がってしまいますが、読者の理解を一層深めるために、さらなる進化を期待しております。

(株)アパショナータ

代表&コンサルタント

パク・スックチャ氏(Sook Ja Park)

アパショナータ:ワークライフバランスとダイバーシティを推進するために2000年に設立。
無意識の偏見・ダイバーシティ(多様性)・テレワーク(在宅勤務)などの対応を通じ、多くの企業の人材活用や意識改革を支援している。

「ダイバーシティ推進タスク」は発足から4年が経ち、その間、基本方針の『多様な働き方を認め合い、長く働きやすい会社を目指す』をベースに、さまざまな活動に取り組みながらレベルアップを図り、大きく前進しています。

2016年のスタート時に実施したことは、ESサーベイや全女性社員、介護社員、管理職へのヒアリング。社員の生の声を聴き現状と課題を把握し、それに沿った制度を労使が協力し合い整備しました。フレックスタイムコアタイムの撤廃、時間単位の有給休暇取得、時差出勤の利用範囲の拡大や育児・介護相談窓口の設置等、社員のニーズを基に長く働きやすい制度を拡充し、多様化する従業員のニーズに対応。そうすることにより、多様な価値観を受け入れる風土を構築しています。施策は女性・育児・介護者向けだけでなく、障がい者・LGBTQと幅を広げ、男性も含めて推進し、誰もがお互いを認め合い、尊重し、活躍できる風土を作り、生産性向上と新しい価値の創造を支援しています。

多様な人材が活躍できるよう、「働きやすさの拡充」の次として着手し始めたのが「働きがいの整備」です。個人のキャリア意識の醸成と、管理職のダイバーシティマネジメントの強化に力を注ぎ、個人の価値観を尊重したうえで、共通の目標の達成を目指します。女性活躍については、定着のみならず、スキルアップや管理職比率の上昇も目標に入れ、女性社員のモチベーションを高めています。

通常の両立支援に加え、多くのセミナーを開催しました。キャリア形成支援施策、女性向けプチMBAコース、管理職への部下育成等、コロナ禍で対面研修ができない中、迅速にオンラインセミナーに移行して実施。女性のキャリア意欲と管理職の部下育成意識の向上につながっています。

コロナ禍では在宅勤務の利用が加速し、新しい働き方が浸透したため、在宅勤務アンケートを実施し、メリットと課題を整理しました。大半の意見は「対応できなかった業務は無い」こと。メリットとしては、通勤・移動時間の削減、家族との時間増加、業務への集中力の向上や業務の生産性向上が挙げられました。

一方、課題として挙げられたのは、コミュニケーションの支障、在宅時の環境・ネット設備、そして外部顧客対応。特にコミュニケーションの取り方に関する問題が浮き彫りになりました。対面で会えない状況でも、様々なやり方を活用してコミュニケーションの充実を図ることが望まれます。環境面では、就労に適さない自宅(狭さ、同居家族)やネットワークの整備を整えていくことが、仕事の効果効率を低下させないために不可欠です。また在宅勤務の回数が多いほど、マネジメントが難しくなるが、週1~2回程度は問題がないことが分かったことは、コロナ収束後での実施の参考になるでしょう。 マネジメント上の大きな課題は「ハラスメント」です。近年、多くの企業でも、最大の問題の1つとなっています。法改正により義務化されたハラスメント防止対策に対応すべく、パワハラとSOGIハラ※1について、禁止条項の新規追加を行い、就業規則を整備しました。また、ハラスメントに対する賞罰規則や見て見ぬふりをしたことによる管理責任が発生することがあることも周知させていることを評価します。なかなか減らないハラスメントに対して、管理者の意識向上と防止活動はこれからも求められます。今後も激変し続ける社会・ビジネス環境に柔軟に対応し、多様な人材が健康的に活躍できるよう支えていくことを期待します。

  • 1 SOGIハラ:Sexual Orientation(性的指向) とGender Identity(性自認)の略で、そのことで差別やいじめなどの嫌がらせ、社会生活上の不利益を被ること。

第三者意見を受けて

当社グループの取り組みを、しっかりと見ていただいたことに感謝を申し上げます。ご意見を受けて、改善につなげてまいります。我々が事業を行う国と地域において、従業員および取引先さまへ、自然災害や新型コロナウイルス感染症などに対する、安全と健康を守るための情報提供、そして働き方の見直しと相互コミュニケーションを継続してまいります。
今回、社長メッセージにある中期経営計画「YX2023」において、新たな価値創造に向けた「深化と探索」とESG経営を一体で推進することにより、従業員一人一人がCSRスローガン「未来への思いやり」の実現を目指しています。モビリティ社会の大変革やカーボンニュートラルなどを受け、事業を支える取り組みにおいても社会課題の解決につながる中長期目標やビジョンを、ステークホルダーの皆さまにご提示できるよう進めていきたいと考えています。
先に述べた安心・安全な職場づくりに加えて、グローバルダイバーシティとして、多様な人材がお互いに認め合い、長く働き続けられる会社を目指してまいります。

取締役常務執行役員・CSR本部長 松尾 剛太