【全日本ラリー選手権 第7戦 / 北海道ニセコ町】
JRC Round 7
開催日 | 2021年7月2日-4日 |
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開催場所 | 北海道ニセコ町 近郊 |
天候 | Leg1) 晴れ Leg2) 晴れ |
路面 | Leg1) ドライ Leg2) ドライ グラベル(未舗装路面) |
総走行距離 | 395.48km |
SS合計距離 | 108.84km (12SS) |
得点係数 | 1.5 (未舗装路100km以上) |
参加台数 | 48台(オープンクラス含) (ヨコハマタイヤ装着車 12台) |
2021年の全日本ラリー選手権はグラベル(未舗装路)三連戦に入り、皮切りとなる「2021 ARKラリー・カムイ」が北海道ニセコ町をホストタウンに開催された。昨年はコロナ禍の影響で開催が見送られたため二年ぶりとなる本大会は、今シーズンの全日本ラリー選手権では初めて有観客試合として事前申し込み制による人数限定でギャラリーステージも設けられた。
大会は前回同様にウィンターリゾートとして世界的に知られるニセコアンヌプリを拠点とし、北海道有数の米どころとして名高い蘭越町に主な戦いのステージを設定。土日の二日間で12本のSS(スペシャルステージ)、合計距離108.84kmで競われた。
7月2日(金)に下見走行となるレッキが行われたが終日灰色の雲に上空は覆われ、蝦夷富士という愛称で親しまれている羊蹄山は姿を見せず。レッキ中も小雨が残ったが、二年前と同じ道で時期も同じながら草木が成長した状態で視覚的な道幅が狭く感じられた。さらに轍の間にも草があり、走行ラインが狭くスリッパリーであるという印象を語る選手も多かった。
3日(土)には予報通りに天候が回復、蘭越町は最高気温が25.8℃の夏日となり眩しい日射しが暑さを感じさせた。そんな中で競技がスタート、シュコダ・ファビアR5とトヨタ・GRヤリスの登場で勢力図に変化が生まれている今シーズンだがグラベルラリーの実力は未知数だけにオープニングのSS1「NEW SUN-RISE 1 (3.69km)」に注目が集まる。このステージはスバル・WRX STIがトップ2を占め、新井敏弘選手/田中直哉選手組は0.5秒の僅差でセカンドベストを奪い上々の滑り出しを見せた。新井選手組は続くSS2「KNOLL 1 (7.73km)」でステージベストを奪取、SS3「ORCHID Short 1 (11.91km)」で連続ベストをマークするとトップへと浮上してセクション1を終了した。
このままLEG1後半のセクション2でリードを拡大することに期待が高まったが、インタークーラーの冷却水が出なくなってしまい、熱の影響で大幅なパワーダウンを強いられてしまう。新井選手らしい豪快な走りが封印されてしまい、ポジションをトップから6.4秒差の3番手にドロップしてLEG2での逆転を期する立場で初日を終了した。
4日(日)のLEG2も青空に恵まれ、2本目のSS8「STREAM 1 (10.48km)」でステージベストを奪って2番手に浮上した新井選手組。SS9の「SCHUNK 1 (15.23km)」は大会最長のステージ、その1回目でもベストを刻むと再びトップに躍進するが2番手のGRヤリスとの差は僅か0.3秒。
勝負は最終セクションに入り、SS10「MAGNOLIA Reverse 2 (5.38km)」は2番手のGRヤリスと同秒ベスト、熾烈な一騎討ちはますます熱を帯びていく。SS11「STREAM 2」はライバルが0.8秒先行して新井選手組は2番手となり、残す最終ステージのSS12「SCHUNK 2」で勝負を決する展開に。1回目はベストを刻んでいる新井選手組、掛け値無しのフルアタック、SS9より21秒早いタイムを刻んだが惜しくも逆転は成らず。108.84kmを走って、人間のまばたき1回分程度という0.7秒の超僅差で準優勝、勝利には僅かに届かなかったもののここまでの悪い流れを断ち切って次の横手ラリーに期待を高める結果となった。
同じJN-1クラスでは、柳澤宏至選手/保井隆宏選手組(ファビアR5)は、LEG2のオープニングステージでオーバースピードから無念のコースオフ。奴田原文雄選手/東駿吾選手組(GRヤリス)はLEG1でミッショントラブルから戦線を離脱すると、交換作業を行って再出走したLEG2でもミッションが不調をきたして走行を断念した。
JN-3クラスでは大竹直生選手/藤田めぐみ選手組(86)が、LEG1ではやや我慢の走りとなるもセッティングを細かく見直してライバルに食らいついて行った。LEG1を終えてのタイム差は23.7秒の2番手、しかし本大会はLEG1のSS合計距離が46.66kmに対してLEG2は62.18kmと二日目の方が長く、逆転を期してSS7に臨んでいく。
そのSS7、そしてSS9とベストを奪って差を12.2秒にまで縮め、計算上は残り3本を1kmあたり0.4秒ライバルより速く走れば逆転という状況に。しかしSS9を終えてミッショントラブルが発生、1速と2速が使えない状態で中間サービスへ戻ってきた。万事休すかと思われたがチームはミッション交換を敢行、20分という規定時間の中でメカニック陣が見事に作業を完遂し、ペナルティ無しで大竹選手組を最終セクションへ送り出した。
メカニック陣の奮闘に応えて大竹選手組は最終セクションを好走、一方のライバルはプレッシャーも感じたからかSS10で戦線から消えて大竹選手組がトップへ浮上。大竹選手組はSS10からの最終セクションで3連続ステージベストを刻んでフィニッシュ、大竹選手はグラベルの全日本選手権で初優勝となる2勝目を飾ることに成功した。
また、山口清司選手(86)は久しぶりに山本磨美選手とのコンビで参戦。こちらは電装系のトラブルを抱えた状態で戦いを強いられたが、粘りの走りでマシンをフィニッシュまで運んで準優勝を獲得した。
JN-4クラスでは須藤浩志選手/新井正和選手組(スイフト)が、こちらもベテランらしい粘りの戦いを披露。セットアップに苦しみながらもリタイア続出のサバイバルラリーを戦いぬき、終盤にはベストなセットアップに仕立ててSS10とSS12でステージベストを奪取。次につながる準優勝を獲得、大いに収穫のある一戦となった。
選手権外のオープンクラスで注目を集めたのは、全日本ラリー選手権には初参加となるトヨタ・ハイラックスを駆る平塚忠博選手/鈴木裕選手組。全日本ダートトライアル選手権ではお馴染みになりつつある存在だが、ラリーでもその実力を遺憾なく見せつけた。
他車と比べて大柄で重いハイラックスだが、全48台の中で総合30番手相当のステージタイムを刻んで、走りを支えるヨコハマタイヤのGEOLANDAR A/Tのパフォーマンスも見せつける。貫祿の走りでフィニッシュ、OPEN-XCクラス優勝で日本のラリー史に新たな1ページを刻むリザルトを残した。
【今回の成績 : JN-1クラス 準優勝】
LEG2は走り負けました……。自分はひとつもミスしていませんが、あんな走り方をしていたら普通は最後まで持たないですよ(苦笑)。108.84kmを走って差は僅か0.7秒、悔しさではなくて変な清々しさありますね。LEG1ではマイナートラブルがありましたが、結果的には最後に振り出しに戻ってやり合って負けたのでトラブルについて「タラ、レバ」を言うつもりは無いんです。それよりもGRヤリスのポテンシャルの進化は正直に驚異で、次の横手までに策を考えなければなりません。マシンは熟成の域にあるので、あとは人間が痩せて軽量化するしか無いかも……。でも、自分が10kg痩せたら体脂肪率が2%くらいになるので、それは現実的では無いんですよね(笑)。
【今回の成績 : JN-3クラス 優勝】
LEG1で20秒ほどの差がついて厳しかったですが、セッティングを変えて臨んだLEG2のオープニングから良い感じで走ることが出来ました。しかし、SS9をフィニッシュして止まって、再スタートしようとしたらギアが入らなくなってしまって。20分の中間サービス、時間内で交換作業をしてくれたメカニックのみなさんには感謝しかないですね。そして最終セクションでリタイアしたライバルが視界に入ってきたのですが、もうパニックになりました。自分はちゃんとフィニッシュまで帰られるのだろうか、と思ったんです。無事に帰られて2勝目、今回のイメージのままで横手に臨もうと思いますが、前回は勝った次の大会でクラッシュしてしまったので、しっかり完走することを第一に頑張ります。
【今回の成績 : JN-3クラス 準優勝】
LEG1の途中からセンサーのトラブルでエンジンの吹けが良くない状態でしたが、低回転が吹けなくて高回転まで回せばなんとかなるという感じで、グラベルで美味しいところが使えませんでした。残りのグラベルラリー2戦はスキップするので、その間にしっかり原因を探って修復しようと思っています。2年ぶりのカムイ、自分は去年全くグラベルを走っていないので2年のギャップは大きかった面もあります。コ・ドライバーの山本磨美選手とは3年ぶりに組みましたが、とても成長したと感じました。全体的に余裕が出来ているし、人脈が出来ているので有益な情報をいろいろ持ってきてくれて、安心して走ることが出来ました。
【今回の成績 : JN-4クラス 準優勝】
いろいろ自分と格闘した一戦でした。サスペンションを替えてきたのですがマシンがテールハッピーな状態で、それを解決すべくいろいろやったのですが、ちょっと泥沼に陥ってしまって。それでもなんとかあわせ込んで、LEG2の終盤でちょっと大きくセットアップを変えたら良くなってくれてステージベストを2つ獲得することにつながりました。最初のうちは苦しくて「こんな状態だったら、残りのグラベルラリーには行かない」なんて思いましたが、上手くまとまったので次への手応えを感じられたのは収穫でした。最後まで道の上に残って距離をいっぱい走って、いろいろな発見もあったので良い一戦になりました。
【今回の成績 : OPEN-XCクラス 優勝】
ラリーではオフィシャルのスイーパーとして走ったことは何度もありますが、やはり競技に参加する選手として走らせると面白いですよね。タフなラリーでしたが、ぶつからなければマシンは頑丈なので絶対に壊れないですし。ドアミラーが走行中に草にあたったのですが、割れたらヤバイと思ってその先はミラーを畳んでステージ内を走っていました(笑)。走らせ方としてはリアを絶妙なドリフトアングルで曲げれば、車体は大柄ですが道幅は足りているんです。フロントよりもリアがちょっと外側を通っているかな、くらいの感覚ですね。あと突っ込みすぎは絶対にNG、重さはあるのでブレーキや姿勢制御の特徴を掴んで走らせるのがコツでしょうか。
2日ともに好天に恵まれた「2021 ARKラリー・カムイ」だが、オープンクラスを含めて48台が出走した中で25台がフィニッシュ、完走率は52%というサバイバルな一戦となった。ステージは北海道らしいハイスピードな箇所も多いが、路面の表面は乾いたものの掘れると金曜日までの雨によりスリッパリーな部分が顔を出していたところもあったようで、ステージの中には“罠”が多く待ち受けているような状態だった。
そんな中でJN-1クラスは新井選手組が最終ステージまでフルアタックの応酬をライバルと繰り広げたが、世界を戦ってきた新井選手が見せた渾身の走りを「ADVAN A053」が最後まで支えた一戦だった。