SPECIAL REPORT PORSCHE × ADVAN Sport 今井優杏 インプレッション SPECIAL REPORT PORSCHE × ADVAN Sport 今井優杏 インプレッション

運転席と助⼿席の間には、深〜いミゾがある

ポルシェ 718 ボクスターS

高性能なスポーツカーを選ぶときに注意しなくてはいけないことが、実は一つだけある。ご存知だろうか?
それは『このテのクルマの運転席と助手席の間には、ときにマリワナ海溝よりも深〜いミゾがある』ってこと!
いや、なにも物理的な距離、いわゆる“カップルディスタンス”のことを言っているんじゃない。ズバリ、ハンドルを握るアナタと、助手席に乗せた大事な人との、“乗り心地の感じ方の差”についてのお話しをしたいのだ。
今回、そのミゾを埋めつつ、さらにインチアップまで叶えてしまうという、メチャクチャ欲張りな試乗を経験したのでレポートしたい。
試乗車はミッドシップスポーツカーの雄、ポルシェ 718ボクスターS。装着するのはスポーティーなイメージの強いアドバンスポーツV105(F:235/35ZR20 R:265/35ZR20)と、KWの人気車高調、KW バージョン3だ。
試乗シーンは急峻な勾配を持つワインディング・ロード。路面の荒れや塗装の剥がれも随所にある、ハードなコースである。
なお、空気圧はフロント220kPa、リア250kPaに合わせてもらったのだが、コレが718ボクスターSにベストマッチだったから参考にして欲しい。

さて、先に結論から言うと、20インチでこの乗り心地を実現は本当にスゴイ、と新鮮に驚いた。
718ボクスターSの純正タイヤはF:235/40ZR19 R:265/40ZR19。今回の試乗車は20インチだから、インチアップをしてなお“ツルシ”の乗り心地はまったく損なわれていないのだ。それどころか、いや、ぶっちゃけ私コッチのほうが好みかもしれない…。
だってKW バージョン3で車高をマイナス3センチ下げ、なかなかに攻めた見た目も手に入れつつのこの仕上がりなのだから!

『深い溝』の正体

今井優杏氏

好印象を受けた点を率直に述べよう。
今回のようにブラインドの続くタイトなコーナーを擁するワインディングはわりと日本中にありがちなシーンだと思うし、“アドバン”と名前が入るタイヤを選ぶ、アナタのようなクルマ好きの諸兄にも親和性が高いはずだ。そんなシーンでアドバンスポーツV105は、かなりイケてる相棒になってくれると思う。

まず、シャープなキレ味のコーナリングだ。
コーナーの頂点でぐにゅっとヨレたりしない、キリッとクリアな接地感が気持ちいい。シャープでキレのいいライントレースのさせ方は、アドバンネオバにも通じる、ヨコハマタイヤらしい個性だと感じる。
718ボクスターSはもとより前後バランスが良く、クイクイと鼻先を右へ左へと振り回すような、スポーツドライビング向けのクルマだ。そんなややもすればヤンチャな横顔をしっかり受け止め、キャラに合った元気な走りをしっかりとサポートしている、そんなイメージだ。

そして、制動。これも、キレのいいコーナリングからは想像出来ないほどに“キュッと停まる実感”を、きちんとハンドルを通じて伝えてくれる。ポルシェのブレーキはとても技術の高い高性能なものだが、そのペダル操作に対してズルズルと引きずるような不快感がなく、使用感が高い。
この日は快晴の中の試乗となったが、実はウエットにも相当の自信があるのだそう。ズバリ、ウエットのグレードは「a」。これはライバルに対して大きなアドバンテージになるはずだ。だってこういう太いタイヤのスポーツカーを選んだときに、一番怖い思いをするのは雨の日に決まっているからだ。

さらに、これは女子目線で言いたいのだけど、優れた静粛性の高さには是非、厚めに触れておきたい。
何故ならばこれこそが、冒頭に述べた『深い溝』の正体だからだ。

とてもバランスの高いタイヤ

私は自動車ジャーナリストというお仕事をしているから、運転席で車内時間のほとんどを過ごすことが多い。だけどたまには助手席に乗ることももちろんあって、それはそれで貴重な評価の機会になっている。それで常々感じてきたのは、ドライバーにとって最高のハンドリングカーは、必ずしも最高のパッセンジャーカーと言えるわけではない、ということ。
そのカラクリは実に単純だ。
『ドライバーのほうが自動車に触れている面積が大きい』モノを『運転している』から。

ドライバーはシートに頭、背中、腿裏までを預け、さらにハンドルを握っている。両足はペダル、もしくはフットレストに置かれて、末端の定位置がきちんと用意されているのが高性能なスポーツカーというものだ(残念ながらフットレストが欠けているファミリーカーは未だに存在するけれど)。
しかし、どれだけの高級車であっても、助手席はそうではない。ヘッドレストを含むシートと、シートベルト。それ以外は実に宙ぶらりんの状態だ。

さらにそんなクルマに、速度を持たせてみよう。ドライバーはアクセルペダルを踏み、ハンドルを左右に切ってブレーキペダルを使い、クルマを操作する。
このとき、それぞれの反応がよりドライバーの意思に素早く(もしくは意思以上にカゲキに)呼応するかどうか、これが良きスポーツカーとしてのひとつの評価基準になるのだけど、この“レスポンス”やコーナリングスピードというものを追求すると、どうしてもダンパー含む足回りはカタく締め上げたほうが絶対的に車速は高く、運転も楽しくなってしまう。

もうお解りですね、こういうクルマって、助手席の人はとってもしんどいのだ。ドライバーはクルマとの接点が多いので、加減速やGに対してのブレはハンドルやシート、ペダルで驚くほどきっちりと固定されているから、本人は助手席の不自由さに気づくことがあまりない(のか気づかないふりをしているのか)。
なので、ご主人「スポーツカー欲しい!」奥様「いやだ乗り心地悪いもん」という、家庭内の無為な争いにも繋がってしまうと思うのだ。

しかし、アドバンスポーツV105とKW Version3ならもしかしたら、合格点が出てしまうかもしれない。繰り返すが、試乗シーンは結構な悪路。しかもボクスターSはキャンバストップを持つオープンカーだ。

NVHというのは、自動車業界でいうところの騒音・振動・ハーシュネス(Noise、Vibration、Harshness)を表す略語である。私は国内外問わず、様々なクルマの試乗会に参加して各自動車及びサプライヤーに取材を重ねているけれど、このNVHという分野においては実は、日本をはじめとするアジアほど気を使っている国は他にない。
欧米諸国でもコンフォートな高級車の開発には、むろんNVHは重視される点ではあるけれど、ことスポーツカーに関してはハイパワーを受け止めるストッピング性能やハイスピードでの操縦安定性が第一で、相反するNVHの優先順位は低くなりがちというのが実情なのだ。
そしてそのNVHという評価点には、路面と直接触れ合う唯一のパーツ、タイヤが最も大きなカギを握る。

ノーマルのボクスターSの試乗と比較して今回のアドバンスポーツV105装着モデルに感激したのは、そういう欧州純正との比較があってのことも大きいが、日本で乗るなら日本の顧客の嗜好性を理解した国内タイヤメーカーのタイヤを選ぶ、という選択肢も充分にユーザーメリットが有るなと、シミジミ静かな車内で考えを馳せたのであった。
いやはや、参りました。一言で言うなら、“走りも静粛性も全方位に守備範囲の広い、とてもバランスの高いタイヤ”。忘れちゃいけないタイヤの良さを引き出すKW Version3とのマリアージュもベストマッチで最高に痛快だった。
タイヤひとつでクルマが変わる、それはスポーツカーでも言えることだ。是非ご自身で体感して欲しい。

今井優杏  Yuki Imai

今井優杏氏

今井優杏

AJAJ日本自動車ジャーナリスト協会 会員
自動車ジャーナリスト / モータースポーツMC
雑誌やWEBへの随筆のみならず、モータースポーツ関連のイベントでMCなど幅広く活躍。
日本カーオブザイヤー選考員。
様々な車両のインプレッションを紹介する自身のYoutubeチャンネルも開設。
https://www.youtube.com/channel/UCC0EDAN3QKCw5lP3ZjXFKTQ

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