KPI
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項目
生産拠点における周辺地域生態系の生物多様性保全実施率
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2017年度実績
(連結)50%
(国内10拠点、海外7拠点) -
2018年度実績
(連結)58%
(国内10拠点、海外9拠点)
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項目
該当地域で生物多様性に及ぼす影響
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2017年度実績
ヨコハマタイヤリトレッド(YTRH)
ウトナイ湖の近隣 -
2018年度実績
ヨコハマタイヤリトレッド(YTRH)
ウトナイ湖の近隣
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項目
保護または復元されている生息地
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2017年度実績
長野県豊丘村の里山保全および神奈川県平塚市土屋地区での里山保全、三重県伊勢市大湊海岸でのアカウミガメ産卵地の保全、バージニア工場でのルリツグミ繁殖地の保全
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2018年度実績
長野県豊丘村の里山保全および神奈川県平塚市土屋地区での里山保全、三重県伊勢市大湊海岸でのアカウミガメ産卵地の保全、バージニア工場でのルリツグミ繁殖地の保全
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項目
IUCNレッドリストおよび国内保全種リスト対象の生物総数
<絶滅危惧種区分>
・絶滅危惧IA類(CR)
・絶滅危惧IB類(EN
・絶滅危惧Ⅱ類(VU)
・準絶滅危惧(NT)
・軽度懸念 -
2017年度実績
排水先河川
CR+EN:シャジクモ類の1種
VU:メダカ(各河川)、アカザ(天竜川)の2種
NT:コオイムシ(園部川)、カジカ大卵型(黒田川)、トノサマガエル(天竜川)の3種
工場敷地内および里山
VU:キンランの1種
NT:オオムラサキ、マツバラン、アカハライモリの3種
軽度懸念:ケリの1種 -
2018年度実績
排水先河川
CR+EN:シャジクモ類、ニホンウナギ(金目川、桧尻川)の2種
VU:メダカ(各河川)、アカザ(天竜川)の2種
NT:カワヂシャ(金目川)、コオイムシ(園部川)、カジカ大卵型(黒田川)、トノサマガエル(天竜川)、ニホンイシガメ(御殿川)の5種
工場敷地内および里山
VU:キンランの1種
NT:オオムラサキ、マツバラン、エビネ、アカハライモリの4種
軽度懸念:ケリの1種
流下先の海岸
EN: アカウミガメ(大湊海岸)の1種
責任部門
各拠点
考え方・目標
なぜ「生物多様性」が重要取り組み項目なのか
理由と背景の解説
当社は天然ゴムをはじめとする自然資本(自然の恵み)に依存して事業を営んでいます。また、多くの生産工場では、装置を冷却するために大量の水を利用し、熱・二酸化炭素を放出しています。このような事業活動によって生じる自然環境への負荷が、現在地球規模で進んでいる生物多様性の喪失と決して無関係ではないと認識しています。この自然の恵みを与えてくれる多様な生命のつながり(=生物多様性)の保全と持続可能な自然資本の利用に取り組み、未来の世代に伝えていくことが、われわれの責務であると考えています。
生物多様性ガイドライン
基本方針
私たちは、自然が生み出す恵みに依存して事業を営んでいます。この恵みを支える「多様な生命のつながり=生物多様性」が、地球規模で急速に失われていることを認識し、事業活動を通じて生物多様性の保全と生物資源の持続可能な利用に取り組むことで、豊かな自然を未来の世代につなぎます。
行動指針
- 経営課題としての認識
横浜ゴムは、生物資源を直接利用し、また生物多様性に影響を与える事業活動を行っていることから、自然の恵みの重要性と危機を認識し、長期的な視点で生物多様性の保全に取り組みます。 - 社員の全員参加
自然の恵みに対する社員の意識を高め、すべての社員が業務や地域社会で生物多様性保全に貢献します。 - 生物多様性への影響の把握と低減
事業活動が生物多様性に及ぼす影響を把握し、その影響を回避または最小化することに取り組みます。 - サプライチェーンを通じた生物多様性保全
生物多様性保全は、資源の採取段階における配慮が重要であることを踏まえ、サプライチェーンにおける関係者との連携を通じて、資源採取地の生物多様性保全に貢献します。 - 生物資源の持続可能な利用
生物多様性の保全に関わる知見を収集し、技術開発、設計・生産プロセスの革新や、バリューチェーンにおける生物多様性保全への取り組み等を通じて、生物資源の持続可能な利用に取り組みます。 - 情報の共有とコミュニケーション
生物多様性保全に関する情報や社会要請の把握に努め、自らの活動成果を積極的に開示し、顧客や地域社会、NGOや行政など、ステークホルダーとの対話と連携を推進します。
目指す姿(達成像)/目標
「生物多様性の保全」については、事業活動が自然環境や生態系に与える影響を評価し、その影響がより良いものになるように保全活動を行っています。また、自然と共生し、環境マインドを持った従業員の育成を目指しています。そのために事業活動および社会活動を通じて活動を推進していきます。
「YOKOHAMA千年の杜」活動では目標としていた国内外の生産拠点および関連部門の敷地内に50万本の苗木を植えることを2017年9月に達成しました。今後、生産拠点および関連部門敷地内の植樹と地域への苗木提供をあわせ累計130万本を2030年までに達成することを目標にしています。
横浜ゴムの環境活動の方針
目指す姿に向けた施策
事業所のある場所は地理的、歴史的、文化的に異なる立地に位置しています。そこに生存する生き物も異なることから、事業所ごとの状況把握と課題設定が必要と考え、当社の生物多様性保全活動はステップ展開を行っています。事業所を取り巻く水域・緑地・自然保護区や住居・工場など、周辺環境を大まかに把握した後に調査した事業所のある周辺地域で、事業活動の影響のある河川などで水質の調査や出現生物のモニタリングを行い、評価対象生物を設定します。モニタリングを、年間を通して継続することにより事業活動の影響を評価し、保全する生物の対象を決定して保全活動を行い、結果を公表しています。
水質の調査として水温・電気伝導度・pHなど、生物のモニタリングとしては野鳥観察、植生調査、水生生物や昆虫の観察を行っています。
拠点 | 場所 | 水質※ | 水生生物 | 植生 | 野鳥 | 昆虫 | その他 | |
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国 内 |
三重工場 | 構内 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |
構外 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | アカウミガメ | ||
三島工場 | 構外 | ○ | ○ | ○ | ||||
新城工場 | 構内 | ○ | ○ | ○ | ||||
構外 | ○ | ○ | 両生類 | |||||
尾道工場 | 構内 | ○ | ○ | ○ | ||||
構外 | ○ | ○ | ○ | ○ | ||||
平塚製造所 | 構内 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
構外 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |||
茨城工場 | 構内 | ○ | ○ | ○ | ||||
構外 | ○ | ○ | ○ | ○ | ||||
長野工場 | 構外 | ○ | ○ | ○ | ○ | |||
ヨコハマタイヤリトレッド・北海道 | 構外 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
ヨコハマタイヤリトレッド・名古屋 | 構内 | ○ | ビオトープ | |||||
ヨコハマタイヤリトレッド・尾道 | 構外 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||
ヨコハマモールド | 構外 | ○ | ○ | ○ | ○ | |||
海 外 |
YTMT(タイ) | 構内 | ○ | ○ | ○ | |||
YTRC(タイ) | 構内 | ○ | ○ | ○ | ||||
CHZY(中国) | 構内 | ○ | ○ | ○ | ||||
構外 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |||
CSZY(中国) | 構内 | ○ | ○ | ○ | ||||
YTPI(フィリピン) | 構内 | ○ | ○ | ○ | ||||
構外 | ○ | 流域保全 | ||||||
YTMV(アメリカ) | 構内 | ○ | ○ | 哺乳類 | ||||
構外 | ○ | ○ | ○ | |||||
YRPZ(ロシア) | 構内 | マツの木の生育 | ||||||
Y-CH(中国) | 構外 | 老君山プロジェクト | ||||||
YTVI(ベトナム) | 構外 | ○ |
YOKOHAMA千年の杜
2018年末までの植樹本数は累計56万1千本に達しました。 また植樹本数に苗提供をあわせた本数は94万本に達しました。2030年までに130万本を達成するという目標に対して72%の達成率となりました。森の成長と環境の変化を評価するために、成長量の調査(樹高、胸高直径の測定)と工場敷地内に出現する野鳥の調査を行っています。苗木の成長量の調査から千年の杜の二酸化炭素の固定量を算出しており、千年の杜の二酸化炭素固定量が一般的な広葉樹林よりも多いことが分かっています。これは、多種類の樹種を混植・密植することの効果であると考えています。
平塚製造所での野鳥調査では、これまでに工場敷地内で57種類の野鳥が観察されています。植樹3年目からは、森林を好むアカハラが見られるようになりました。これは、野鳥にとって千年の杜が本来の森として機能していると考えられます。また、センダイムシクイや水辺で見られるオオヨシキリが観察されており、野鳥が生息域を移動する途中で寄る中継地点として千年の杜が機能しているのではないかと考えられます。
2018年度の活動レビュー
天然ゴムを持続可能な資源とするための調達方針を発表
横浜ゴムは、天然ゴムを持続可能な資源にするために2018年10月に「持続可能な天然ゴム調達方針」を発表。また、国際的なプラットフォームであるGPSNR(Global Platform for Sustainable Natural Rubber)に参画し、活動を開始しました。
地域コミュニケーション
平塚製造所での10回目となる施設公開イベント「ThinkEcoひらつか2018」にて、昨年に引き続き第5回生物多様性パネルディスカッションを開催しました。「平塚の水辺のために何ができるか~地域連携による川の生物多様性保全~」をテーマに従業員、地域住民、環境NPO等をはじめ、多くのステークホルダー(約40名)の方に参加いただき、横浜ゴムの生物多様性に関する成果報告と今後の活動への指針の共有化が図られ、また2018年度から開始した平塚市の生物多様性アクションプラン策定のための取り組みについて活発な討論が行われました。平塚の豊かな自然を守って行くためには地域に関わる方が関心を持って連携していくことが重要であることを参加者全員で確認しました。
従業員教育
生物多様性保全に事業を通して取り組み、従業員全員が生物多様性の恵みを意識して行動するために人材育成を通して従業員への浸透を図っています。若手従業員を対象とした「テクノカレッジ」の1コースとして生物多様性を取り上げ、座学、モニタリング体験及びワークショップを通して理解を深めています。
事例紹介
平塚製造所
平塚製造所は複数の事業部・部門の集合体であることから、従業員教育の場として金目川の下流域で生物多様性活動を行っています。
金目川ではセッカ、カワセミ、オオヨシキリ、モズなどの鳥類、ニホンウナギ、シマヨシノボリ、ボウズハゼなど回遊性の魚類が見られることから河川と海とが健全な状態でつながっていることが示されました。一方、植生調査ではオオブタクサやアレチウリなどの外来種が多く見られたことから保全活動として特定の外来種の除去を行うことにしました。昨年までに累計で約260名の従業員が参加して、約1.9トンの外来種を除去しました。
毎年3月には金目川水系流域ネットワークの呼びかけに賛同して、地域の自治体や団体とともに河川清掃を行っています。
また平塚市土屋地区の駒が滝近くの休耕地をお借りして谷戸田に手づくりのビオトープを創設や、谷戸の周りの放置されたスギ林を再生するなどの活動を2015年より開始しました。その結果、キンランやギンラン、エビネやシュンランなどが確認できるようになりました。
さらに、2017年5月には事業所敷地内に手作りのトンボ池を設置し、この池に集まるトンボやチョウ、カエルなどを観察して生き物のつながりを身近に感じられる活動を開始しました。
こうした生物多様性活動や2007年に事業所の周囲に植樹した千年の杜の成長に伴う継続的なCO₂吸収固定量調査などが評価され、2017年3月に生物多様性に配慮した工場として「いきもの共生事業所認証®(ABINC認証)」を取得しました。
平塚市が主催するひらつか環境フェアーや、環境団体が主催する生物多様性フォーラムにも参加し、平塚製造所の生物多様性活動を地域に紹介しています。
平塚市が推進する生物多様性への取組み「ひらつか生物多様性推進協議会」に参画し、平塚の生態系保全についても活動の場を広げています。
三重工場
3つのチームで以下のとおり、生物多様性保全活動を継続しています。
- ブラックチーム:工場排水先河川(桧尻川・ほとす川)での水質調査とメダカなどの水生生物調査
- ノッポチーム:流下先の海岸(大湊海岸)での外来種抜根と在来植物の株数の測定、アカウミガメの産卵調査の実施
- チビッコチーム:工場の雨水調整池でのビオトープづくり、水質調査と生物調査の実施、とんぼ、水生生物調査、水質測定
地域の大湊小学校にて出前授業を行いました。大湊小学校の子ども達とは、大湊海岸の生き物について学び、一緒に外来種の抜根を行いました。2018年度は伊勢市内 小学校5校を対象に植樹体験とビオトープで生物多様性保全活動の出前授業を行いました。全体活動として、自治会や行政と共に年5回の清掃活動を行いました。また、自治会や行政に生物多様性保全活動報告会を年2回開催し、意見交換を行っています。
三島工場
工場排水の流出先である御殿川での水質調査および生物調査をどぜう・すっぽん・うなぎの3つのチームで継続して実施しました。
御殿川ではハグロトンボやコヤマトンボのヤゴ、オイカワやカワムツなどの魚類、クサガメなどのは虫類、カワセミなどの鳥類など多様な生き物が暮らしていることが確認されています。一方、河川に投棄されるゴミが多く、御殿川を美しく保つために少しでも貢献していきたいとモニタリングの後に河川清掃を行っています。
しかし、2016年末の河川浚渫により川の中の植生が一掃され、川の多様性がなくなってしまいました。そのため、2019年5月に静岡県沼津土木事務所、三島市および三島工場の3者による「リバーフレンドシップ」の同意書に調印し、御殿川での植生の再生と水生生物の住みやすい環境の整備に取り掛かりました。
新城工場
工場排水の流出先である野田川、黒田川での水質および水生生物の調査を実施。工場内では休止していたビオトープを復元して、工場排水でもトンボのヤゴが住める、生き物の生息に悪影響を与えていないことを実証しようとしています。
四谷千枚田では休耕田にビオトープを作り、維持しています。ビオトープではサワガニやトノサマガエル、モリアオガエル、アカハライモリなどの生息が確認されています。
また、10月13日に新城設楽生態系ネットワーク協議会主催の第4回「あいち生物多様性戦略2020」の植樹会に参加し、針葉樹を伐採した山に多様な動物の餌場となる様に実のなる広葉樹600本(新城工場提供)を一般参加者と植樹しました。
尾道工場
尾道工場では藤井川の西藤親水公園での水質調査と水生生物・鳥類・植生の調査および工場内での野鳥観察および昆虫観察を行っています。
藤井川での水生生物調査では、モンカゲロウ、ニホンカワトンボ、ヤマサナエなどの水生昆虫、タモロコやドンコ、シマヨシノボリなどの魚類、モクズガニやスジエビなどの甲殻類が観察されました。
工場敷地内では、千年の杜の成長による森の形成や、藪、草地、雨水による池と湿地形成により生き物のためのさまざまな環境がモザイク状に提供されており、トンボ類、チョウ類、コオロギ類、キリギリス類の生息環境となっていることが示された。またヒバリの営巣、モズやジョウビタキの縄張り形成、ウグイスの越冬などに工場敷地が寄与していることが示されました。
6月9日に開催された第42回藤井川の夕べでは、工場での生物多様性活動の紹介と千年の杜の苗木150本の配布を行いました。
また、2017年にいきもの共生事業所認定®(ABINC認証)の申請を行い、2018年1月に認証を受けました。
長野工場
長野工場は、他工場に比べて自然度の高い地域に位置する工場です。雨水以外の排水がほとんどなく、横浜ゴムの他の工場と比べて環境影響度の低い工場であると考えています。
長野工場の位置する天竜川とその支流である大島川の合流地点付近および寺沢川の親水公園での水生生物調査では長野県の準絶滅危惧種のアカザや絶滅危惧I類のシャジクモが見つかりました。
長野県が進める「森林(もり)の里親促進事業」に基づき豊丘村の村有林の整備で協力する「森林の里親契約」を豊丘村と結び、保全活動を行っています。
茨城工場
茨城工場では工場排水の排水先である園部川での水質、植生、水生生物および鳥類の調査を行っています。園部川は農業用水として利用されていることから排水の水質について十分に注意を払っています。工場排水の放出口から出た水は、園部川の元の水に比べて電気伝導度が低く、透視度が上がっていることから、工場排水は十分な管理ができていると考えています。また工場事務所玄関に水槽を設置し、工場排水を利用して園部川で捕獲した魚を育てています。水生生物調査では、茨城県の準絶滅危惧種のコオイムシが確認されています。
園部川の土手に繁茂していたオオブタクサ、セイタカアワダチソウ、アレチウリをモニタリングの際に除去してきました。その成果か、これら3種の外来種の被植率が低下してきました。
2015年から工場の鳥類調査を開始しました。園部川での観察結果との比較により環境の違いを考察することで、これまで以上に周りの生き物に対して親しみが持てるようになりました。
これらの活動は日本野鳥の会茨城県さま、小美玉生物の会さまにご指導いただいています。小美玉生物の会のホームページで茨城工場での生物多様性保全活動の様子をご紹介いただいています。
上記の活動が認められ、昨年10月につくば国際会議場で開催された世界湖沼会議(いばらき霞ヶ浦2018)のポスターセッションに出展しました。
ヨコハマタイヤリトレッド (株)北海道事業所(YTRH)
(公財)日本野鳥の会が、日本で最初にサンクチュアリを開設した渡り鳥の集団飛来地として国際的にも有名な「ウトナイ湖」に隣接しているのがYTRHであり、このような貴重な環境下にある工場は横浜ゴムグループでは唯一YTRHだけです。
この貴重な場所を保全するため、2017年からウトナイ湖の保全活動として4~11月まで清掃活動を行い、夏には外来植物駆除活動を実施しています。
2018年の外来植物駆除については、1人当たりの抜き取り本数がウトナイ湖過去最高記録となりました(7770本→555本/人)。
これからもヨコハマタイヤリトレッドの従業員の他、家族や関連会社の方や日本野鳥の会と共に有意義な活動を続けていきます。
ヨコハマタイヤ・マニュファクチャリング・タイランド(YTMT)
タイのタイヤ工場であるYTMTは、工業団地内に立地しています。日本の工場と異なり、工業団地が取水および排水を一括管理していることから、工場単独での取水・排水域への影響は確認できていません。そこで、敷地内の緑地(千年の杜やビオトープ)を評価するための鳥類、昆虫類のモニタリングを実施しています。工場敷地内で豊かな生息環境を再生するために湿地型および池沼型の2種類のビオトープを作成しています。また水面と地面との生き物のつながりを保つための植栽にも工夫を加えています。地域の生物の生息域を確保するとともにこの活動を通じて、従業員の環境教育も行っています。
また、世界自然遺産のカオヤイ国立公園に生息する野生動物保護を目的とした塩土作りも行っています。
Y.T.ラバー(YTRC)
YTRCは、タイのスラタニ県にある横浜ゴムグループで唯一の天然ゴムの加工工場です。天然ゴムの加工工程では大量の水を利用しますが、100%リサイクルすることで水資源の有効活用に努めています。また、工程の設備が停止すると自動的にバルブが閉じモーターの回転数を制御する事で取水量を低減させる仕組みを4月から導入し約30%削減する事ができました。使用する水の量を減らすことで沈殿槽での不純物の分離が進み浄化池での分解が進むことが期待されます。今後、水質改善の効果を確認して行きます。
敷地内の遊水地で水生生物(魚類)と水質のモニタリングを2014年11月から月1回の頻度で行っています。遊水池は隣接するタッピー川と雨期の増水期につながり、同種の魚類が生息していることが分かりました。また、遊水池内の異なる地形が生息環境の異なる魚類が共存できる環境を提供していることが観察により明らかとなりました。現在遊水池には18種類の魚類が繁殖していることが確認され、鳥類も21種類が確認されています。タッピー川の魚類の種の保存、遺伝子の保存に寄与することが分かったため、今後は遊水池の水質をよりタッピー川に近づけられるように水質の動向を注視していきます。
杭州横浜輪胎有限公司(CHZY)
CHZYは中国 杭州市内の工業団地に立地しています。工業団地内は緑地帯が確保されているものの構成樹種が少なく、多様性は豊かではありません。そのためCHZYの千年の杜が森林性の生物に対する生息地になるのではとの観点から千年の杜の評価とそこに住む生き物の調査を行っています。
また、工場近くを流れる銭塔江には多くの水路がつながっていますが生活排水の流入等により水質の悪化が懸念されています。このうちの1つの水路を水質改善のモデルケースとして杭州師範大学や行政と共に生物多様性保全活動を実施しています。
ヨコハマタイヤ・フィリピン(YTPI)
YTPIはフィリピン共和国パンパンガ州クラーク特別経済区内に位置しているため、周りにはまとまった森林がありません。YTPIでは工場敷地の内外で木を植え育てることで地域の野鳥、昆虫、蝶および特定の爬虫類の生息場所を提供することによって生物多様性保全に寄与しています。これらの生き物と植物の成長を観察し、生き物と従業員の安全性と快適性が共存できるようにしています。
さらに、YTPIは森林と生物多様性の保全に関する従業員の意識を高めるための教育資料を作成し、説明会を開催しています。近隣の生態系の改善を促進するために地域のコミュニティへの苗木の提供、工場外での植樹活動の開催や従業員の参加も行われています。
YTPIが隣接しているアンヘレス市は独立行政法人 国際協力機構(JICA)が指摘した「集中的な消費による水利用が危機的な都市化地域」のうちの1地域とされ、環境NGOのグリーンピースの報告では水不足のレベルは「危機的」と評価されています。アンヘレス市では2025年にも水不足に陥る危険性があるとされています。そのため、アンヘレス市のEdgardo Pamintuan市長の呼びかけにより、市の流域を復活させるため水源域のSapang Batoに100万本の木を植える活動が立ち上がりました。YTPIはこの活動に賛同し、この地域での植樹活動に参加しています。
Yokohama Tire Manufacturing Virginia(YTMV)
YTMVはアメリカ合衆国の東部、バージニア州のアパラチア山脈の麓、日本同様の四季を感じられる自然豊かな場所に位置します。工場の敷地に植えた千年の杜の成長に伴い数多くの野生動物や野鳥が生息しています。隣接した雨水排出先のロアノーク川にも多くの水生生物が繁殖しています。これらの自然環境の保全と生産活動を両立させていく活動を行っています。
2015年からEastern Bluebird(和名:ルリツグミ)の繁殖保護のための巣箱を設置し全従業員でヒナの生育を見守っています。また、定期的なロアノーク川の底生生物の調査を行っています。
蘇州優科豪馬輪胎有限公司(CSZY)
中国蘇州市の化学工業地区にある蘇州優科豪馬輪胎有限公司(CSZY)では、2016年12月から新区環境保護協会、滸関鎮の小学校と合同で生物多様性活動をスタートしました。これまでに3回、工場敷地内で生き物の調査活動を行っています。生物多様性の調査活動は、工場敷地内の生物環境の状況を把握できるほか、工場での事業活動を進めながら地域の生態系を保全し、地域社会との調和にも役立てることができます。
これまでの活動では、スズメ、シラサギなどの鳥類、ナンキンハゼ、ハナカイドウ、イボタノキ、タンポポ、アサガオ、ヒナギクなどの植物、ミツバチ、蝶などの昆虫、ミミズなどを観察しました。その中で木の種を拾い、千年の杜活動のための苗として育てる活動も行っています。
2018年12月16日に行った3回目の生物多様性調査活動は、敬恩実験小学校の学生、家族および教師を招待し、共同で実施。活動開始前に参加者に生物多様性調査の意味を説明してから、グループに分かれて工場敷地内の千年の杜エリアで確認できた生き物を観察しました。生き物の観察だけでなく、千年の杜の成長状況を知ることができた今回の調査活動。千年の杜の成長が地域の生態系に良い影響を与えていることの理解を深める良い機会となりました。
LLC Yokohama R.P.Z.(YRPZ)
2017年からボロネジ州立林業大学とともにマツの1種(Pinus Sylvestrys L.)を工場敷地内に植樹する共同研究を開始しました。この活動は工業地帯でマツの木がどのように成長するかを研究することとYRPZの生物多様性を復元することを目的としています。また、この活動は生物多様性研究活動として正式に評価されています。 YRPZとボロネジ州立林業大学の林業科学者は、樹木の生存率、樹木の生長に最適な条件などを研究しています。また、地元の学校の子どもたちを招き、YRPZが栽培したオークの苗を植樹しています。
課題と今後の改善策
これまでは、横浜ゴムグループの事業活動の影響を受ける地域に生息する生物種の把握を中心に活動してきました。今後は海外拠点への展開と、各事業の地域の生物多様性保全の維持・改善を行い、持続的な操業につなげていきます。
生物多様性は一般の人にとってはまだなじみのない概念であるため、モニタリング活動や保全活動への参加によって、従業員に生物多様性保全の大切さへの理解を深めていくことと、地域への情報発信を積極的に行うことによって当社の取り組みを理解していただく活動を進めていきます。