トップメッセージ

代表取締役社長 山石 昌孝

安全、品質、コンプライアンスを大前提に、改善を継続

2020年に発生した新型コロナウイルス感染症の影響により、自動車メーカーの生産が急速に落ち込むなど、当社グループを取り巻く環境は大変厳しいものとなりました。そうした中でも一切手を緩めることなく、我々は「安全」「品質」「コンプライアンス」に関するさまざまな改善を進めてきました。
安全については、2017年に発生したフィリピンでの火災事故を教訓に「もう二度と重大事故を起こさない」という決意のもと、安全を最優先した事業運営に取り組んできました。すべての従業員が安心して働ける職場をつくるために、リスクアセスメント活動を促進するための積極的な投資を行うとともに、一人ひとりが常に安全に心がけて作業を行うよう現場における教育を徹底しています。
メーカーにとって屋台骨となる品質の面では、QCD(Quality, Cost, Delivery)の考え方を基本に、常にお客さまのことを意識し、決してお客さまに迷惑を掛けないという姿勢を貫くことが大事だと考えています。
コンプライアンスについては、一人ひとりの行動が会社にとって大きな影響を及ぼすということを社内に発信し続けることで、意識改革の徹底を図っています。
まさに経営は継続です。安全、品質、コンプライアンスを大前提に日々改善を進めることで、目標に向けて最後の最後まで結果にこだわりを持って経営に当たっていきたいと考えています。

市場変化の中でも成長と収益が見込める体質へ

2021年3月に発表した3か年の中期経営計画 「Yokohama Transformation 2023(YX2023)」は、我々が強みとする既存事業の「深化」と、100年に一度の大変革期である市場変化の取り込み、つまり「探索」を同時に推進するものです。また、30年間にわたり横浜ゴムの中で培ってきた私の知見や経験を練り込み、さまざまな意見に耳を傾けながら、私自身の言葉で表現したものでもあります。
世界のタイヤ市場に目を向けますと、約20兆円の市場規模の中で、乗用車用タイヤなどの「消費財」とトラック・バス用や農業機械用タイヤなどの「生産財」の割合はおおよそ半々となっています。今後、CASEやMaaS、DXといった動きが加速するにつれ、個人所有の車が減少し、人や物の移動を支えるインフラ車両の増加が予想されます。そうした市場環境の中で、当社グループのタイヤ事業における売上構成比は、消費財が2、生産財が1という偏った構成になっています。お客様の中心が個人から法人にシフトし、消費財タイヤの生産財化が進む中で、当社グループは、タイヤ消費財の「深化」とタイヤ生産財の「探索」という2つのアプローチによる戦略を推進してまいります。
タイヤ消費財では、高付加価値品比率最大化を目標に、ウルトラハイパフォーマンスタイヤ「ADVAN」、SUV・ピックアップトラック用タイヤ「GEOLANDAR」、ウィンタータイヤの3つのカテゴリーに注力していきます。ADVAN、GEOLANDARの新車装着の拡大、補修市場でのリターン販売強化、ウィンタータイヤを含む商品のサイズラインアップ拡充、各地域に合致した販売施策を強化することで、これらの販売本数構成比率を現在の40%から50%以上に引き上げ、利益の拡大を目指します。
タイヤ生産財においては、コスト、サービス、DX、商品ラインアップの拡充をテーマに市場変化を「探索」していきます。特に、食料の増産や物流の拡大によって安定的に高い収益が期待できるOHT(オフハイウェイタイヤ)に注力し、この分野で利益をあげていきたいと考えています。
YX2023の初年度である2021年度は、ADVAN、GEOLANDARのプレミアムカーへの新車装着、乗用車用、VAN用、トラック・バス用ウィンタータイヤの国内・欧州を中心とした投入など、タイヤ消費財において一定の成果をあげたことなどから過去最高の売上・利益を達成することができました。一方、タイヤ生産財では、スウェーデンの農業機械用・産業車両用タイヤメーカーであるTrelleborg Wheel Systems Holding ABの株式売買契約の締結に漕ぎ付けました。この買収によって、当社グループがこれまで強みとしてきた日本、北米、アジアに欧州を加えた世界の主要市場をカバーするネットワークを構築し、OHT事業におけるグローバルな足がかりをつくることができたと考えています。
また、MB(マルチプル・ビジネス)事業については、ハマタイト事業の譲渡による再構築のほか、ホース配管事業では中国工場の生産能力を3倍に増強する設備投資を進め、工業資材事業ではマリンホースの生産拠点を平塚・インドネシアに集約し、リソース集中による強化・拡大を図りました。
2022年度に入ってからも、タイヤ消費財においては、プレミアムカーへの新車装着の拡大、モータースポーツ活動におけるADVANレーシングタイヤの供給、ADVANブランドの販売強化など、高付加価値商品比率の最大化に継続して取り組んでいます。
タイヤ生産財では、かねてよりT.M.S(タイヤマネジメントシステム)による輸送ビジネスのサポートと、乗用車向けTPRSの実証実験によるビジネスモデルの検証を進めてまいりました。今後はこれらの取り組みで得たデータを収集・分析し、サービスの拡充を図ります。また、センサータイヤの製品開発を進めるとともに、タイヤサービスを必要とするお客様向けのサービス体制を強化していきます。
MB事業においては、ホース配管事業では、中国に続き茨城工場の生産能力増強へ向けた投資を行い、北米の自動車用ホース配管の生産体制再編に取り組みます。工業資材事業では、コンベヤベルトの増産投資による国内シェア最大化を図り、その一方で航空部品事業と工業資材事業の事業統合を行い、構造改革を加速します。
YX2023の戦略的な施策によって、市場変化の中でも成長と収益が見込める体質への方向性が見えてきたと感じています。企業として何より求められるのは増収増益であり、収益を伴う持続的な成長です。タイヤ事業は適切なポートフォリオで他社よりも成長できる形が整ってきました。タイヤ以外の事業についても選択と集中でしっかりと成長できる体制をつくっていきます。これらの総仕上げとして、2023年までの1年半は、将来に向けた成長軌道に乗せていくことが私の責務であると考えています。

グローバルな競争に勝ち抜いていくために

事業戦略の強化とともに、経営基盤の強化として「人事戦略」に取り組んでいます。人事制度を改革し、ジョブ型の管理職層の業績連動報酬比率を拡大するとともに、有能な若手人材の管理職への早期登用などを進めていきます。特に、海外での売上高が6割を占める当社グループでは、グローバルな競争に勝ち抜いていくために、会社を背負って立つ経営人材の確保と育成が不可欠であると考えています。現在、グループ従業員約3万3,000人のうち部長職は100人程ですが、まずはこれらの人たちを将来の経営者として育成していきます。グローバルな競争力強化のためには、彼らに地域統括責任者として経営管理を任せ、現地の言葉や文化に精通したローカルの人材が事業運営を行うというガバナンスの効いた組織体制が必要であると感じています。すでに、Yokohama EuropeやインドのYOHT(Yokohama Off-Highway Tires)、中国では、ローカルのエスタブリッシュ人材を執行責任者として起用しています。

また、大きな環境変化に機動的に対応できる強い組織作りを目指し、2023年3月をめどに新橋本社と平塚製造所の統合を計画しています。企画、生産、販売、技術、物流の拠点を統一し、よりスピーディな意思決定を実現するとともに、両所の中継地点となる品川に販売部門などの機能を置いたサテライトオフィスをつくり、リモートワークや在宅・フレックス勤務の拡充なども併せ、従業員の働き方改革を継続して推進します。場所・時間を問わない働き方を通じて、ワークライフバランスの改善、出産・子育て世代の女性の活躍およびキャリア形成の実現、介護や育児・配偶者転勤に伴う離職の解消などを進めていきます。

ESG経営を通じて、未来に対する責任を持つ

当社では「未来への思いやり」をスローガンに掲げ、「ESG経営」に取り組んでいます。未来への思いやりとは、未来に対する責任を持つということでもあります。持続可能な成長を実現するには、利益の出る事業モデルをしっかりとつくり上げ、その上でESGの実現に取り組まなければなりません。「攻め」と「守り」の両利きの経営こそが「創業守成」であり、YX2023で目指す深化と探索であると考えています。私は、将来の事業の方向性を見据え、現在の計画を着実に遂行し、ESG経営を通じて地域そして社会課題の解決に貢献することが当社の使命であると認識しています。我々全員が、その考え方を仕事に落とし込み活動するとともに、組織知として蓄積することで、ESG経営を実現できるものと確信しています。
100年の歴史を持つ横浜ゴムを預かる我々のミッションは、次の100年も勝ち残れる会社として引き継いでいくことです。YX2023では、横浜ゴムの次の100年を見据えた新たな価値創造に取り組むことも重要なテーマとしており、顧客価値にとどまらず、すべてのステークホルダーの価値を生み出す仕組みづくりに挑戦していきます。ステークホルダーの皆さまには、当社グループのこうした活動をご理解いただき、ぜひ、今後の成長にご期待いただきたいと思います。