会長対談

  • 写真左より

    横浜ゴム 南雲 忠信
    代表取締役会長
    有識者 竹中 ナミ氏
    社会福祉法人プロップ・ステーション 理事長

すべての人が力を発揮できるよりよい会社、よりよい社会へ

代表取締役会長南雲忠信と以前から親交のある竹中ナミ氏は、ITを駆使して障がい者の自立と社会参画、就労の促進や雇用の創出を目的に活動する社会福祉法人プロップ・ステーション理事長。「人材の能力を発揮させるのが私たちの役割」という共通認識のもと、二人が考える企業や社会での人材の生かし方についての対談です。

不可能が可能になるきっかけ

竹中:私たちの活動は働くことができないと思われていた重い障がいを持つ人の力を引き出して、IT技術を使ってベッドの上でも働けるようにすることです。福祉の分野ですが、ビジネスや行政分野の方が関心を持ってくださっています。企業の皆さまに私たちの活動をどこまで理解していただけるかが重要だと思っていますが、南雲会長のような影響力のある方が関心を持ってくださって、とても嬉しく思っています。

南雲:ちょうど安倍総理が一億総活躍社会を推進しようとしています。これまで働けなかった人も、きちんと働いて活躍できる社会を目指すということですね。

竹中:障がい者の働き方をどうとらえるかは、日本が一億総活躍社会になれるかどうか、試金石のように捉えています。

南雲:竹中さんから最初にお話を聞いた時、この活動はコンピュータがあるからこそだと聞いて、とても驚いたんですよ。

竹中:私たちが活動を始めた25年前は、ちょうどコンピュータが一般に普及しはじめた頃なんです。

南雲:ちょうどバブルが弾けた時期ですね?

竹中:そうです。日本経済がどん底に落ちたので、今のうちに勉強しておこう、みんなでコンピュータが使えるようになっておこうと、介護を受けている人自身が提案したんです。「コンピュータでつながれば、ベッドの上でも仕事ができます」と。情報通信の発展とともに歩いてきた25年間でした。おかげさまで仕事でクレームをいただいたことはありません。

南雲:障がい者はかわいそうとか、助けてあげなければいけないとか思われがちだけれども、すごい能力を持った人、障がいがあることで逆に創意工夫を発揮する人が沢山いる。

竹中:必要に迫られると人は必ず行動します。彼らが「コンピュータがあったら働けます、やりたいです」と言うのを聞いた瞬すべての人が力を発揮できるよりよい会社、よりよい社会へ間に、この人たちがコンピュータを使える状況を作ったら絶対うまくいくと確信しました。

南雲:まだまだ障がい者ができることに対する企業側の理解が足りないんでしょうね。

竹中:知られていないんです。だって、ベッドで寝たきりの人が働けるって、普通思わないですよ。まして、障がい者雇用率の対象にもならないので、企業にとってはまったく無縁の世界。知らなくて当然ですし、私たちの知っていただく努力がまだまだ足りないということでもあると思っています。でも、最近、政府の一億総活躍社会を目指す動きもあって、知っていただける機会が増えてきたと感じています。

南雲:プロップ・ステーションに仕事を頼んでも障がい者雇用率にカウントされるわけではないんですよね。逆に政府が制度を変えたら、企業側ももっと認知が広がるでしょうね。

竹中:障がい者雇用率は、採用ありきなんですよね。ベッドで寝たきりの人や、トイレに行くにも介護が必要な人を雇用するのは実際は難しい。そうであれば他の方法で働けるようにすればいいじゃないかと思います。企業は障がい者雇用率を達成できて、障がい者は経済的に自立しながらやり甲斐を感じて働き、さらに納税もできたら損する人はいないと思うんですよ。政治の決断なんだろうと思いますが、私たちが言うよりも、企業が声をあげてくださった方がインパクトが大きい。

「人材の力を生かすこと」。それは企業のみならず、社会全体としても同じ

竹中:南雲会長とお会いしてすごく共鳴できたのは、私たちがやっている活動と、横浜ゴムの従業員の皆さん一人ひとりの力を十分に発揮していただくということも、実は同じなんだと言ってくださったことです。人の力を眠らせるのはもったいない。社会全体にとっても重要だとおっしゃる。横浜ゴムの発展のヒミツもそこにあるのではと思います。

南雲:障がい者に限らず、人は持っている力や能力を必ずしも100%出し切れていないのではないかと思うんですよ。能力を発揮してもらうためにはどうしたらいいかを考えるのが、我々経営陣の仕事だと思います。社会全体で見ても同じで、みんなが能力を出し切れる社会にならないといけない。要は自己実現とか、満足とか、モチベーションをいかに高めるか。集団や組織の中でいかに存在感を示せるかが大事。逆にきちんと存在感を認められる集団、組織でなければいけないと思います。

竹中:働くということは、単にお金を稼ぐ、ということではなくて、自分が必要とされているかどうかということなんですよね。必要とされていると感じると、それに応えようとしてエネルギーはものすごく大きくなる。大きな組織でも小さな組織でもこれは一緒ですね。

多様な人材を受け入れる会社、社会へ

南雲:障がいのある方が在宅で仕事をしている、という状況は、その会社の従業員にとっても誇りになるし、刺激にもなるでしょうね。

竹中:従業員の方の働き方を考えるきっかけにもなると思いますし、社内の変化もあるだろうと思います。障がい者だけの問題ではなくて、女性の働き方もそうですし、グローバル化の中で宗教や国籍が違う人と働く場面も増えていくでしょう。

南雲:いろんな個性を持つ人たちがお互いに尊重しあって一緒に働いていく。横浜ゴムはそういう会社であってほしいと思います。逆に会社がそうでなければ、多様な人材を受け入れられない。竹中さんのおっしゃる通り、障がい者の問題だけではなくて、社員一人ひとりがもっといろんなことに挑戦していかなければ、20年後、30年後、自分が思い描いている理想の姿にはなれないだろうと思います。これから、竹中さんに講演してもらい、気づきを与えるような機会をつくっていきたいと思っているんですよ。

竹中:今回、せっかくこういう機会をいただいたので、社員の皆さんのモチベーションが上がる結果になると私も嬉しいですね。御社は来年100周年ですね。重みある歴史だと思います。その先に続く20年後、30年後に、この日の対談が出発点となり横浜ゴムのお役に立ち、こんな風に花開いたねと、現場の方も含めて、横浜ゴムの従業員の皆さんに思っていただけるようになればいいなと思います。

南雲:次の100年に向けて、いま不可能なことを変えていけるように、お互いに協力してよい社会、よい会社にしていきたいですね。

竹中 ナミ氏 プロフィール

重症心身障がいの長女が生まれたのを機に独学で障がい児医療・福祉・教育を学ぶ。1991年、草の根グループ、プロップ・ステーションを発足。1998年厚生省認可の社会福祉法人格を取得し、理事長に就任。障がい者の可能性に着目し、自立と社会参画、就労促進の支援に取り組んでいる。