2017 VITA-01の世界 (1)

全国各地のサーキットを駆け回り、熱戦を演じているVITA-01。ユーモラスだったり、精悍だったりと個性的な顔つきのマシンたち、それこそがいま全国で人気を高めている本格レーシングマシンなのである。2017年に産声を上げたKYOJO-CUP(競争女子選手権)でも使われることで、あらためてスポットライトを浴びているこのVITA-01についてお伝えしていこう。


人気のVITA-01、その生い立ちと歩み

関谷正徳氏のプロデュースにより富士スピードウェイで発足し、大いに話題を集めている女性ドライバーによるプロレースシリーズがKYOJO-CUPこと、競争女子選手権。このシリーズが発足したことで、改めて注目の的となっているのが用いられるマシン“VITA-01”だ。

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KYOJO-CUPでクローズアップされたことで、初めてVITA-01なる存在を知ったという方も少なくないだろう。それもそのはず、今までSUPER GTやSUPER FORMULAのようなビッグレースと併せてレースが行われたことは一度もない。だが、鈴鹿クラブマンレースを始めとするローカルレースにおいては、ある意味で救世主ともなっており、全国のサーキットでレースができるばかりか、その生産台数は150台を超えているのだ!!

レースのスタートは2010年から。しかし、今でこそヴィータトロフィーやWEST VITAなど、そのものズバリのレース名称となっているが、当時はそれとはっきり分かる名称ではなかった。というよりも、今でも最初の舞台となった鈴鹿クラブマンレースでは、クラブマンスポーツと呼ばれている。何はともあれ、当初の名称はスーパーツーリング。もちろん全日本選手権として短い期間だが一時代を築いた、それとは異なる鈴鹿クラブマンレースに新設されたカテゴリーなのだが、ここにVITA-01誕生の理由や、そのルックスの意味が込められている。

VITA-01生みの親、ウエストレーシングカーズの神谷誠二郎会長は、こう語る。

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「鈴鹿もね、スポーツ走行していても、フォーミュラはすごく台数あるんだけれど、四輪の“4S”、ツーリングカーが少なくてね。今後どうするんだって心配になった。誰かがスーパーツーリングというカテゴリーを提案して規則はあったけれど、2年間参加台数ゼロ。シビックがどんどんなくなっていたから、そういうカテゴリーを作って補強しようとしていたのは分かるけれど、誰も参加しなかったら意味がないでしょう? ならば、そこに当てはまるような安いレーシングカーを作れば、穴埋めできるんじゃないかという話を、鈴鹿サーキットと岡山国際サーキットに提案したのです」

これがVITA-01、誕生のきっかけだ。だから、どこかで見たことのあるような、市販車風のルックスであるのは、そういった理由にもよる。というのも、当時はフォーミュラを含むレーシングカー層、そしてツーリングカー層は完全な住み分けができていたため、抵抗感をなくすための配慮だったのである。狙いは的中し、鈴鹿での初戦から、いきなり二桁の参加を集めることになる。1年遅れて北海道の十勝スピードウェイ、そして耐久レースの1クラスではあったが、岡山でもVITA-01が走れるようになり全国に広がっていく。一方、’12年から鈴鹿クラブマンレースでは、現在に至るクラブマンスポーツと名称が改称された。

’13年からは、その人気が関東にも飛び火して、ツインリンクもてぎと筑波サーキットではシリーズも設けられるようになり、やがて袖ヶ浦フォレストレースウェイや富士でも単発のイベントが開催されることに。つまり、今では東北のスポーツランドSUGOと九州のオートポリスを除く、全国の公認サーキットでVITA-01のレースが開催されている。自動車メーカーが主導したのではなく、JAF(日本自動車連盟)の選手権タイトルもかけられていないのに、これほど普及したレーシングカーが今までに存在しただろうか。

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VITA-01、最大の魅力はコストの安さ

ところで、そのVITA-01は現在、どのぐらい存在するのだろうか。これが実に、150台を超える数なのだ!! 一部、スズキのオートバイ「隼」のエンジンを積んだ車両が台湾で、また中国ではスクールカーとして使用されているように海を渡った車両もある。しかし、これだけレースが全国規模で行われているのだから、実のところ驚くべき数字ではないはずだ。どうして、ここまでの人気を誇るようになったかといえば、一番の理由は低コストでレースができるということだろう。

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まずイニシャルコストだが、286万円(税別)。大人気のナンバーつきワンメイクレースのベース車両価格とほぼ変わらないものの、VITA-01ならばタイヤとホイールを購入すれば即レース可能。ワンメイクレース車のような、さらなる改造は不要となる。むしろVITA-01は改造が許されておらず、ドライバーを含めた最低重量は600kgと軽いから、パーツの消耗も最小限で、タイヤを中には2レース以上使う選手も存在する。というわけで、自身でメンテナンスを行うことでレース参加費も含めた1レースごとのランニングコストを10数万円で抑え、なおかつ勝ってしまっている剛の者もいるほどだ。

参戦するドライバーのキャリアは、実にバラエティに富んでいる。当初はツーリングカーレースからの転向者で大半が占められていた(それもハイパワーな車両の経験者が多かった)が、徐々にフォーミュラからの転向者も増え始め、西ではフォーミュラエンジョイから、そして東ではSuper-FJからの卒業生が目立っている。

もちろん、VITA-01からレースを始めた者もいれば、ベテランもいるし、中には長らく活動を休止していたが、VITA-01で再開したというドライバーも少なくない。ただ、若干年齢層は高めのようで、ここからステップアップというより、むしろ長くレースを楽しみたいという志向のドライバーに、うってつけのカテゴリーに映っているからなのだろう。

女性ドライバーの参加だけは少なかったものの、今年から始まったKYOJO-CUPで解消されて完全に老若男女、幅広いドライバー層を受け入れることとなったVITA-01。次回は、そのより詳しい車両解説と、使用されるタイヤに関して紹介していこう。



次のページでは、VITA-01というマシンを徹底解剖していきます。