2016 Slalom & Rally New Generation (6) =Rally=

ジムカーナやダートトライアルでPN車両部門が盛り上がりを見せてきたこともあり、ラリーにおいても改造範囲の狭い車両部門を設けて新規参入の促進を図ろうという動きが出てきたのは、自然な流れであると言えるだろう。特集企画の最終回となる今回は、全日本ラリー選手権におけるRPN車両の現状をお伝えする。


2014年に導入された、ラリーのRPN車両

ジムカーナとダートトライアルの全日本選手権においては、既にお伝えしてきたように2009年のシーズン途中からPN車両部門が設けられた。対してラリーでは2014年シーズンの開幕からRPN車両のクラスが設定された。これに伴い全日本ラリー選手権はそれまでの4クラス制から6クラス制に移行。JN4とJN2がRPN車両を対象としたクラスになり、さらに2016年から6クラス制はそのままにJN2とJN1をRPN車両のクラスとしている。

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改造範囲を制限して参戦コストを下げる、というテーマはRPN車両もPN車両と同じである。ただし走行距離の長いラリーゆえに、耐久性を確保するために若干RPN車両のほうが手を加えられる領域は広く設定されている。具体的にはサスペンションブッシュやファイナルギアの変更が当初から認められており、ブッシュ類は強化部品に交換することでランニングコストの低減が図られている。

一方で車両の年次規制がかけられているのは、PN車両部門と同様だ。ゆえに出場する車両は現行型、もしくはひとつ前のモデルなど新しい車両となり、これをエンジン排気量により2つのクラスに分類している。

[JN2クラス] エンジン排気量1,600cc超、2,000cc以下の2輪駆動のRPN
[JN1クラス] エンジン排気量1,600cc以下の2輪駆動のRPN、およびAE(気筒容積別区分無し)

JN2クラスは今シーズン第3戦まで、トヨタ・86とスバル・BRZのツーメイクス。一方でJN1はホンダ・フィット、マツダ・デミオ、日産・マーチ、スズキ・スイフト、スズキ・アルトワークスと多彩な顔ぶれが揃い、開幕からのターマック(舗装路)3連戦では常に10台近い台数が参加して賑わいを見せている。

なお、タイヤについてRPN車両は、他クラス同様に「接地面を1周する複数の縦溝縦溝を有し、縦溝はスリップサインが出るまで維持されていること」という規定に加え、「日本自動車タイヤ協会(JATMA)の定めるラベリング規格における転がり抵抗C以上、ウェットグリップd以上であること、または欧州のグレーディング規格における転がり抵抗F以上、ウェットグリップE以上」という条件を満たすものの使用が義務づけられている。



セッティングのシビアさを知りました – 小濱勇希 選手 (JN2 Class)

2015年からRPN車両のスバル・BRZを駆って、全日本選手権への挑戦を続けている小濱勇希選手。同年は3回の準優勝を獲得したが、惜しくも優勝は一歩届かず。しかし2016年、開幕戦の唐津で堂々の全日本初優勝を飾ると、クラス不成立となった第2戦をはさんで行われた第3戦の若狭も制して連勝、勢いに乗っている選手のひとりである。そんな小濱選手は、RPN車両で参戦するにあたって、予想していたクラスの特徴がまさに現実のものだったと振り返る。

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「それまではちょっと古い車種でラリーを続けていて、昨年からBRZに乗り換えました。ラリー歴は7年くらいになるでしょうか。それまでは改造範囲の広いクラスだったのですが、RPN車両に乗るということで『マシンの差がそんなに無いクラスだろう』と予想しました。改造範囲が限られているので、用意する車の違いこそあれ、イコールコンディションに近いところで勝負出来るクラスなのだろうと思っていました。実際に出場してみるとその通りで、マシンのポテンシャルは差がほとんどありませんでした」

イコールコンディションに近いというRPN/PN車両の特徴は、ラリーの舞台でも変わらないものだった。しかし、だからこその難しさと、勝つための絶対条件があると小濱選手は続ける。

「マシンのポテンシャルを如何に引き出すセッティングを出来るか、この差がものすごく大きいんです。だから2015年は、常に新しいことにトライした一年でした。自分自身がFR(後輪駆動)に乗ったのが初めてだったのですが、FF(前輪駆動)よりも車高や減衰を少し変えただけで劇的に動きが変わるんです。『車のセッティングって、こんなにシビアだったのか』ということをRPNで思い知らされましたね。だから、車は参戦を重ねる毎にどんどん進化していったんです。

2016年の開幕までに、さらに進化したマシン。そして開幕戦から連勝を飾り、シリーズランキングのトップを快走する姿には、周囲の期待も高まっているという。

「RPNは、マシンのポテンシャルを引き出すドライバーの腕とセットアップのシビアさが面白いですね。常にベストを探し続けることの楽しさがあります。さらに、ドライバーの腕勝負という面が強いこともみなさんご存じなので、勝つと反響が大きいんです。開幕から連勝してご期待に応えられているので、もちろん今シーズンはチャンピオンを狙っていきます!!」

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低いコストでドライバーの腕を磨ける – 番場 彬 選手 (JN1 Class)

市場では人気の高い軽自動車だが、モータースポーツの世界ではまだまだ少数派というのが実情だ。ワンメイクレースなどが展開されてはいるが、ラリーの全日本選手権ではなかなかお目にかかれない存在であった。しかし2016年、JN1クラスに最新のスズキ・アルトワークスをCUSCOジュニアラリーチームが投入。名門・CUSCOで仕立てられたマシンにはもちろん黄色いナンバープレートが付き、排気量660ccのターボエンジンを搭載する車体は軽自動車規格ゆえに他よりもひとまわり小さい。そんなマシンを駆る番場彬選手に、まずはアルトワークスのフィーリングをお聞きしてみよう。

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「改造範囲の狭いRPN車両で、さらに新しい車ということでパーツも限られるのですが、コーナーリングがスムーズでアクセルをしっかり踏み続けて曲がるタイプの車です。ブレーキも車そのものが軽いので、攻めていっても失敗が少なく、リスクも小さいんです。僕はこれまで、ランサー・エボリューションやプロトン・サトリアネオ、スズキ・スイフトなどでラリーに参戦していますが、アルトワークスはこれから流行りそうな予感がしています」

アルトワークスに対して、これからの伸び代も感じているという番場選手。一方で軽自動車ならではのハンデについても率直に教えてくれた。

「軽自動車であるがゆえに、どうしてもパワーの面でハンデがあることは否めません。特に上りのセクションで差をつけられてしまいますね。僕自身も軽自動車に乗ったことが無かったので、スペックを見て『パワーが全然無いな』と思っていましたが、その分は先に言ったようにコーナーリングであったり下りのセクションで取り返す走りが出来るんです。ターボそのものは今どきの味付けというか、低回転域からトルクを出してくれるので乗りやすいんですよ」

まだまだデビューしたばかりのニューマシンということで、開発を進めながらの参戦が続く2016年。番場選手は走る毎にアルトワークスの速さを引き出すドライビングとセッティングを見いだしているということだ。最後に番場選手には、RPN車両、特にJN1クラスの魅力をお聞きして締めくくろう。

「いろいろな車種でラリーを戦ってきましたが、JN1クラスに対して“一番下のクラス”というイメージは無いですね。むしろ車の限界点が決して高くないがゆえ、ドライバーの腕を磨くにはとても良いクラスです。同じRPN車両でもJN2のようなスピードは出ないのですが、そんな中ではコーナーリングでのドライビングを競い合うかたちになるので、JN1クラスは腕を磨きたいドライバーにお勧めです。さらにアルトワークスならタイヤ代そのものが安いですし、摩耗に厳しいと言われる唐津を僕たちは4本でまわせたのでコストが低い。これは何よりも嬉しいことですよね(笑)」

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新規参戦の促進が大きな目的であるPN/RPN車両部門。今ではベテランから若手まで幅広い選手層が集い、ドライビングスキルを切磋琢磨する場としても盛り上がりを見せている。今後ますますの発展が見込まれるPN/RPN車両部門、ヨコハマタイヤはそんなステージに挑戦する選手をこれからも支えていきます。