2016 Slalom & Rally New Generation (2) =Gymkhana 1=

ジムカーナとダートトライアルで盛り上がりを見せ、いまや台数的にも一大勢力となっているPN車両部門。入門クラスという位置づけにとらえられることも多いが、一方で次々に有力選手も移籍を果たし、上位争いはより改造範囲の広い車両部門と何ら変わらないシビアな勝負の世界となっている。このページでは全日本ジムカーナ選手権のPN車両部門についての現状と、2016年から参戦を開始した選手をご紹介していこう。


2016年の全日本ジムカーナ選手権・PN車両部門

2009年のシーズン途中に発足した全日本ジムカーナ選手権のPN車両部門も、8年目のシーズンを迎えている。同年の第6戦ではPN3クラスのみが初めて全日本選手権としてクラス成立したが、この時の参加台数は5台。これが2016年の開幕戦ではPN1からPN4までの4クラスに57台が参戦、全体比でも約42%を占めるまでに成長している。

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あらためてPN車両部門のクラス区分について整理すると、JAF(日本自動車連盟)の定める車両規則に適合したものを対象として、次の4つのクラスに分類されている。

[PN1クラス] エンジン排気量1,600cc以下の2輪駆動(FF、FR)
[PN2クラス] エンジン排気量1,600ccを超える2輪駆動(FF、FR)
[PN3クラス] エンジン排気量1,600ccを超える2輪駆動(FF、FR)で、FIA/JAF公認発行年またはJAF登録年が2012年1月1日以降の車両
[PN4クラス] PN1からPN3までに該当しない車両

PN1とPN2はエンジン排気量区分の違いのみ。PN1はスズキ・スイフトが中心となってきたが、2016年からは4代目となるマツダ・ロードスターが注目を集めるニューカマーだ。一方でPN2はホンダ・シビックと日産・フェアレディZの一騎討ち状態といえる。そしてPN3は対象車両がより新しいものに制限されており、事実上はトヨタ・86とスバル・BRZのツーメイクス状態だった。しかし2016年、プジョー・208が新たに参戦をスタートした。PN4はスバル・WRX STIと三菱・ランサーエボリューションが主役であるが、PN1とPN2はともにFF(フロントエンジン・フロントドライブ)またはFR(フロントエンジン・リアドライブ)に限られているため、MR(ミッドシップエンジン・リアドライブ)の車両がこのクラスに顔を見せることとなった。



ジムカーナの原点に帰った感じです – 斉藤邦夫 選手 (PN1 Class)

長くホンダ・シビックで戦ってきた斉藤邦夫選手は、2016年の開幕戦から最新型のマツダ・ロードスターを投入してPN1クラスへと移籍した。FF(前輪駆動)で改造範囲の広いSA1クラスから、FR(後輪駆動)で改造範囲の狭いPN1クラスへの移籍は、ご本人も「結構、劇的な変化ですよね。共通点はタイヤが4本ついていることくらいでしょうか(笑)」と語るほどに変化も大きい。

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“20年選手”だったEK9型シビックを駆ってきた斉藤選手は、現行車で戦いたいという思いを数年にわたって抱き続けてきたという。周りの環境も整い、いよいよPN車両への移籍を決めたわけだが、マツダ・ロードスターを選んだ理由については、次のように教えてくれた。

「現行型のロードスターが出て、まずは競技で使えるかは別にして自分が普段乗りする車として買ったんです。自分自身もお客さんの車などで歴代のモデルに乗る機会はあったのですが、ロードスターはマジメに作っている車。マツダにとってもRX-7とロードスターは特別な存在なのでしょう、理に適った作り方で時間もお金もかけて開発されているという印象は、初代から一貫していますね」

実際に乗ってみて、ロードスターという車の素性に改めて惚れ込んだという斉藤選手。そこで全日本選手権への投入を決意するが、改造範囲の狭いPN部門での戦闘力についてどのように見込みを立てたのだろうか。

「足回り、タイヤ、ブレーキ、シートくらいしか自由度がPN車両には認められていません。でも、ロードスターは素性が良いので普通にパーツをつければ性能を出せるんです。変なクセも無いので、車を触るほうとしても楽ですね。あとは味付けをどう好みにしていくかですが、開幕戦の時点ではダンパーは初期ロットのままで、何の仕様変更もオーバーホールもしていません。それでも何も問題ありませんが、欲を言えばもう少し減衰をいじりたいな、というくらいですね」

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ロードスターのデビュー戦となった岡山国際サーキットでの開幕戦では、見事に3位表彰台を獲得した斉藤選手。しかし、それまでのSA1クラスからPN1クラスに移籍したことで、何か現場で苦労したり違和感を覚えたことは無いのだろうか。

「自分がジムカーナを始めたころはA1クラスに出場しており、改造範囲はいまのPNと同じようなものでした。N1クラスでヴィッツを走らせたこともあるので、車両の改造範囲が狭いことには慣れています。早いゼッケン順も経験してきているので、特に困りません。私は他人の走りを見てどうこうするのではなく、慣熟歩行で走らせ方をすべて決めてしまうんです。だから歩行終了からそれほど時間を置かずにスタート出来るゼッケン順は、むしろいいですよ。30年ほどのジムカーナ人生で、原点に帰ったような感じですね」

SA1クラスではADVAN A050を武器に戦ってきた斉藤選手。タイヤ規定の異なるPN1クラスではADVAN NEOVA AD08Rを装着して開幕戦に臨んだが、タイヤの違いによって戦い方に変化は生じているのだろうか。

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「駆動方式が変わったことにより、走らせ方をアジャストする必要がまずあります。その上でタイヤが変わったことも運転を変える要素にはなりますね。いままでの経験値をベースに、この車とタイヤに合ったドライビングを見つけていかなければなりません。でも、タイヤについて言えば空気が入っていてゴムで出来ている限りは、どれも一緒だと思うんです。そのタイヤの一番いいところを見いだすことがドライバーには求められるわけです。自分に道具を合わせるのではなく、道具に自分を合わせて、そのグリップの上限を引き出してやることが仕事なのですから」

最後に斉藤選手に、PN部門の魅力と2016年の抱負をお聞きしよう。

「PNを格下、という見方をする人もいますよね。でも私は、クラスや車種が変わっても全く気になりません。ハイパワー車でもコンパクトカーでも、それどころか軽トラックから農機まで何でも乗りますよ(笑) ひとつひとつのクラスが、それぞれの世界を持っているのが全日本ジムカーナ選手権。それぞれのクラスで勝った選手は、均等に偉いと思います。そんな中で今年は勉強の年になりますが、狙えるときにはしっかり優勝や入賞を狙って行きますよ!!」