Toshi Arai × Hiroki Arai (3)

2014年夏のオーストリア武者修行、そしてRALLY HOKKAIDOで自らの人生における優先順位の1位がラリーになったという新井大輝選手。そんな息子を父親でありラリーの大先輩である新井敏弘選手が見る眼は、ますます厳しさを増していく。“親の七光り”と受け止められがちな二世ドライバー、しかし少なくとも新井親子について言えば、そこに甘やかすという要素は微塵も感じられない。


ラリードライバーに求められるもの – 新井敏弘 選手

2014年は、全日本選手権の終盤3戦に親子揃ってのエントリーとなった。しかし一年を締めくくる最終戦の新城ラリー、敏弘選手は準優勝を飾ったが大輝選手はDay1で側溝に落輪させて足回りを壊してのデイ離脱となった。

[Photo]

新井大輝選手「あの時は、本気で怒られました……」

新井敏弘選手「あれは、周りに人がいたから怒鳴っただけで済んだけれど、誰もいなかったら大輝をボコボコにしていたね」

Day1を終えてサービスパークにリタイアした大輝選手が戻ってくると、チームのテントには張りつめた空気が漂った。そしてリタイアした大輝選手に対して、敏弘選手から“特大のカミナリ”が落とされたのである。

敏弘選手「自己満足で走るのなら、趣味として自分のお金で責任を全部背負って、車もタイヤもメカニックも、全部を用意してやればいいんです。でも、余程のお金持ちでなければそんなことは出来ません。自分がしっかり走って、助けてくれた人たちに成績で恩返ししなければいけないんです。あくまでも私の主観ですが、日本のラリーは『自分がお金を出しているんだから、好きにやっていいんだ』という意識が強いように思えます。でも、それはあくまでもプライベーターの理論。競技で車を壊して現場で直すというのはネガティブなことなので、絶対に避けなければいけません」

敏弘選手は、自らの経験も交えてラリーでドライバーに求められる大切なことを語る。

敏弘選手「自分も海外で痛感したのですが、メカニックに認められなければ速い車を用意してもらえません。彼らは車を自分の子供のように作り、育てているんです。それを簡単に壊されて、いい気持ちがするわけないんですよ。だから車を大切にフィニッシュまで運んで成績を出すことが、ドライバーには求められるんです。それを続けるとメカニックの態度も変わってきて、『こいつのために、やってやろう』となるんです。そういう私が海外で感じてきたこと、それを大輝が感じるのに時間をかけないためにも、私が強く言い続けているんです」

親子だからこそ、人一倍厳しくなる父と、最初は反抗もしていたもののラリーの大先輩として父への尊敬の思いも垣間見せる息子。新城で落ちた“特大のカミナリ”は、大輝選手をまたひとつ成長させたことに間違いないだろう。



経験値の無さを感じています – 新井大輝 選手

年が変わって2015年、敏弘選手は全日本本格復帰2シーズン目。開幕戦からVAB型のスバル・WRX STIを投入してチャンピオン争いを演じ、RALLY HOKKAIDOで2戦を残してタイトルを確定した。一方の大輝選手は開幕から5戦にGRB型のスバル・WRX STIで引き続き参戦したが、第2戦の久万高原と第3戦の若狭をともにクラッシュからリタイアとなってしまう。

[Photo]

大輝選手「2戦続けて病院送りになって、メカニックに会わせる顔がありませんでした。でも、第4戦の洞爺で親父に続いて2位でフィニッシュして『どやっ!!』って(笑)」

第4戦の洞爺では、Day2でステージベストも叩き出しポジションをアップ、親子でワン・ツー・フィニッシュを飾った。

敏弘選手「2015年は、間抜けなリタイアもして『こいつはバカだな』と(笑)。洞爺はワン・ツーになりましたが、二日目はそこそこ速かったけれど、そこには『若さゆえの速さ』もある。そこを本人が自覚していなければダメでしょうね。私より速いタイムのステージもありましたが、こっちはシリーズを戦っているし、新車を壊してはいけないという背景もあった。だからトップに立っていたから無理する必要が無かったし、そこで大輝と勝負しようとは思わなかった。一方で大輝は全開でいくだけなんだから、そこでどうのこうの言っているうちは『まだまだ、大輝もガキだな』と(笑)」

2015年、GAZOO Racingがラリードライバー育成プログラムをスタート。大輝選手はその対象に選ばれ、年の後半はフィンランドでのプログラムに参加するため日本と北欧を往復しながら大学にも通うという忙しい日々を送ることになる。

大輝選手「トミ・マキネンさんのところでプログラムを受講していますが、違和感は全くありません。プレッシャーも無くて、とにかく海外を走れることが楽しいんです。英会話も不自由しないのでメカニックとも対等に話せますし、わからないことは先生たちに直接教えてもらえますし」

敏弘選手「フィンランドでの車載映像も見たけれど、まだまだだね(笑)。完走ペースでも、しっかり車を動かせるようにならなければ。『まだ完走ペースだから、車を動かさない』と大輝は言うけれど、例え完走ペースでも車をしっかり動かす努力や自信が必要なんですよ」

大輝選手「先生であるヤルモ・レイティネンさんにも、『もっとアグレッシブに運転してみろ』と言われました。でも、車を壊してしまうことが怖いんです。フィンランドでは、経験値の無さを身に沁みて感じることが多いですね。わからないコーナー、どのペースがベストな路面なのか、本当にわからないことだらけです」

育成プログラムでは、フィンランドやラトビアの国内選手権にも参戦した大輝選手。大きなクラッシュを喫したこともあったが、一方で「トゥルク・ラリー」と「ラリー・ラトビア」ではともに3位表彰台を獲得するなどの活躍を見せた。

[Photo]

[Photo]

[Photo]

[Photo]