Super Taikyu Series 2015 (2)

スーパー耐久シリーズ、その大きな特徴のひとつが参戦車種とドライバーのラインナップがバラエティに富んでいるということは、前回ご紹介した通りだ。中でもドライバーについては、2015年はレース以外のカテゴリー出身の選手が顔を揃え、サーキットという舞台での活躍に注目が集まる。そんな顔ぶれの中から、まずは全日本ジムカーナ選手権で幾度もチャンピオンの栄冠を手中におさめてきた、柴田優作選手をご紹介しよう。


期が熟して決断したスーパー耐久へのシリーズ参戦

近年は全日本ジムカーナ選手権でロータス・エキシージを駆ってSA2クラスに参戦、N3クラス時代から6年連続でチャンピオンを獲得してきたトップドライバーが柴田優作選手。そんなジムカーナのスペシャリストが、2015年はスーパー耐久シリーズに活動の舞台を移した。その背景について、まずは柴田選手にお聞きした

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「1994年に第1回の十勝24時間レースに参戦するなど、これまでしばしばレース活動も行ってきました。今年はジムカーナをお休みしてレースに活動の軸足を移したのですが、これは決してジムカーナに飽きたとか、ジムカーナを究めたからなどという偉そうな話からでありません。僕自身、もっと自分の運転技術の幅を拡げたいとか、レベルアップしたいという貪欲な気持ちがあるからです。年齢的にもいい歳になったのですが、まだまだ運転が上手くなりたい。そういう意味で自分に足りないところをレースを通じて得られればいいな、と思ったのが大きな理由なのです」

柴田選手が駆るマシンはST3クラスのレクサスIS350。チームは名門・SARDであるが、この点については「レースをやるなら良い体制でやりたいと思っていましたが、期が熟したではないですが超一流のSARDに声を掛けていただいて、良い流れが出来ました」と柴田選手は語る。

PROFILE

柴田優作 選手 =Yusaku Shibata=

1974年、栃木県出身。

25歳でジムカーナを始め、1997年に全日本ジムカーナ選手権にデビュー。2003年に全日本初優勝を飾る。2006年からはロータス・エキシージを駆ってN3クラスに参戦、2009年にシーズン5勝を挙げて全日本チャンピオンに輝く。この年から3年連続でチャンピオンを獲得すると、2012年からは改造範囲の広いSA2クラスに移行。引き続きロータスを駆りクラス3連覇、N3時代から6年連続でチャンピオンに輝き圧倒的な強さを見せてきた。

栃木県日光市で「ARVOU」を営み、自ら競技車両の制作や一般車のチューニングも手がける。メディアへの出演やドライビングインストラクターなど、競技以外での活躍も幅広い。


ジムカーナとレース、その違いと共通項

ジムカーナという競技は、時間にしておよそ90秒ほどのコースを1台ずつ、2回走行してベストタイムを競い合う。つまり、走行時間そのものが短いだけでなく、他車と直接的にコース上でバトルを演じることはない。一方でスーパー耐久はポテンシャルも異なる40~50台のマシンが同じコース上を走り、決勝レースは全体で3時間から長いものでは8時間にも及ぶ。同じモータースポーツと言っても全く異なるふたつのカテゴリー、その違いと共通項についてお聞きした。

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「レースでも公式予選についてはジムカーナと同じような感覚で、これまで培ったものが活きています。タイヤの美味しいところの使い方や、一周のアタックラップに集中する方法などには自信もあります。ただ、ジムカーナでは90秒くらいの走りですが、これはサーキットでは一周出来ないほどの短さですよね(笑) ですから、ジムカーナのテンションを耐久レースの1スティント、時間にして1時間半近くも維持するのは無理なんです。そこはラップタイムを落とさないで精神状態にゆとりを持って走っているベテランレーシングドライバーならではのコツ、心拍数は下げた状態だけれどもラップタイムを落とさないという走らせ方が必要になってきます」

レースもジムカーナ同様に“速さ”がドライバーに求められるのは同じ。しかし耐久レースの場合は特に、しっかりチェッカーまでマシンを運ぶことも重要であり、戦略的には消耗品などのマネージメント能力も求められる。

「そうですね、開幕戦では2スティント、合計3時間くらい乗る予定だったのですが、ジムカーナではほとんど意識することの無かった燃費であったり、タイヤやブレーキの消耗、エンジンやトランスミッションのライフなどについても、自分のスティントからチェッカーまでレース全体の流れを考えて上手くマネージメントしなければなりません。その点、僕自身はジムカーナでも車を壊したことは無いですし、普段の仕事でメカニックとして車を常に触っているので、こういう経験もプラスになると思います」


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ジムカーナ仲間たちの応援が嬉しかった

柴田選手は前述の通り、近年はロータス・エキシージというピュアスポーツカーでジムカーナを戦ってきた。対してスーパー耐久でステアリングを握ることになったのはレクサスIS 350。同じクラスでもライバルとなる日産フェアレディZとは対照的に4ドアセダンボディをまとう。このマシンについての第一印象とは、どのようなものだったのだろうか。

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「レクサスISについての最初の正直な印象は『でかくて、重い』(笑) ジムカーナで使ってきたエキシージとは、見た目だけでもキャラクターが全く違いますよね。でも、車そのものの動きについてはSARDのエンジニアが優秀なので、僕が伝えたことをすぐにフィードバックしてくれています。ただ、耐久レースの難しいところは、1台の車を僕一人が走らせるわけではないということ。開幕戦は僕を含めた3人で戦いましたが、僕だけがいいところを狙ってもダメで、ステアリングを握るみんなが満足出来るような全体的な底上げが必要です。僕がAドライバーなので主体にはなってセットアップを進めますが、ある程度のかたちが決まったら他のドライバーにも確認してもらい、方向性が間違っていないかを確かめるようにしています」

開幕戦・もてぎの公式予選では、Aドライバー予選でクラス2番手のタイムを叩き出し、その実力を遺憾なく発揮した柴田選手。ライバルとなるドライバーたちからも、侮れない存在であるという言葉が聞かれた。そして5時間の決勝では2スティント目でトップとの20秒差を9秒差にまで短縮。さらに最終スティントでは3位で再びステアリングを握ると、1周あたり4~5秒ずつ差をつめるハイペースで追走し、残り5分で遂に先行車をとらえて逆転、準優勝でチェッカードフラッグを受けた。

「無事に開幕戦を2位で終えられましたが、やるからにはシリーズチャンピオンを目指していきます。なにより、僕がレースにフル参戦するという決断をしたことに対して、ジムカーナ仲間たちみんなが応援してくれていることが本当に嬉しい。生意気なことを言うようですが、ジムカーナがいいとか悪いとかではなくて、ドライバーとしての幅を拡げる意味でジムカーナからレースへの突破口を僕が開ければいいと思っているんです。ジムカーナをやっているみなさんには、時間や金銭的な余裕があればレースやサーキット走行をぜひ経験してほしいですね。最近ではサーキットコースを舞台にしたジムカーナも増えているので、ハイスピードでサーキットならではの路面における走らせ方の良い勉強になりますから」



スーパー耐久開幕戦の表彰台でも、全日本ジムカーナでの表彰台と同様に笑顔を見せてくれた柴田選手。ジムカーナではクラスをまたいで6年連続の王座を獲得してきたが、こんどはカテゴリーをまたいだ7年連続王座獲得へと期待が高まる存在である。


【第3回(4月24日掲載予定)につづく】