Takuma Aoki Challenge Story (3)

アジア・クロスカントリーラリーを日本人最上位でフィニッシュした青木拓磨選手。約2,000kmを走破して疲れた身体を癒す間もなく、フィニッシュの数時間後にはマレーシアへと移動。
この週末にセパン・サーキットで開催されたヨコハマタイヤのワンメイクで行われるGT ASIAに出場すると、レース1ではクラス準優勝を獲得。そしてレース2では堂々の今季3勝目を飾った。


ラリーからレースへ – 共にラリーを戦った仲間にも助けられて

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アジア・クロスカントリーラリーがフィニッシュしたのは8月15日の金曜日。既にこの時、マレーシアのセパン・サーキットではGT ASIAのレースウィークに入っており、金曜日には練習走行が行われていた。
ラリーに続いて、このGT ASIAへと参戦する青木拓磨選手。レースの話をお聞きする前に、この転戦にあたっての隠れたエピソードを、ひとつ教えてくれた。

「当初からGT ASIAの練習走行には参加できないと諦めていたのですが、それよりもカンボジアからマレーシアへの移動を無事に出来るのかが問題でした。金曜日の午前中はラリーを走り、カンボジアで14時30分くらいに表彰式やセレモニアルフィニッシュが終了しました。そして、マレーシアに移動するには15時30分ころに出発する飛行機に乗る必要があったのですが、空港まで10kmほどの道のりながら、プノンペン市内が激しく混雑していて間に合わない恐れもあったのです」

GT ASIAのフリー走行に参加するのは任意だが、その後の参加受付やドライバーズブリーフィング、そして土曜日の公式予選には自ら出走しなければ決勝レースには出場できない。
万が一にも飛行機に乗り遅れてしまうとレース参戦が叶わないピンチであったが、ここで思わぬ“助け船”が出されたのだ。

「飛行機に間に合わないかもしれないと困っていたら、ラリーに出場していた地元カンボジアの富豪が、『俺が何とかしてやる』と言ってくれました。言われるがままにパスポートなどの書類を写真に撮ってメールで送ってから空港に行ってみると、もうチェックインなどの手続きが全て完了していたんです。空港に着いたら、そのまま機内直行(笑)
『さすがは富豪だ!!』と驚いたり感心したりでしたが、おかげで無事に予定通りにマレーシアへと移動することが出来ました」



ラリーの経験が活きたGT ASIA – 初コース、ぶっつけ本番の予選は豪雨

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GT ASIAはランボルギーニ・ガヤルドで出場する青木選手。セパン・サーキットは初めて走るコースであったが、練習無しのぶっつけ本番で公式予選へと臨む運びになった。

「ガヤルドはこれまでにも乗っているので基本的な性格は理解していますから、特に不安はありませんでした。セパン・サーキットは中高速なレイアウト、初めてのコースですが攻めていくには経験値が必要です。どこまで攻められるのか、それを予選で確認しようと思ったのですが……、予選は豪雨でヘビーウェットでした」

マシンこそ既に慣れているものの、初めてのコースで初走行がヘビーウェットのコンディションというのは、どんなドライバーにとっても厳しい条件だ。しかしアジア・クロスカントリーラリーから転戦してきた青木選手にとっては、ラリーの経験も活かされる展開となる。

「ついさっきまで戦っていたラリーは、事前に練習することなど叶わない競技ですからね。その経験が活きたこともあるのか、ぶっつけ本番の豪雨の予選で4番手を獲得することが出来ました」



開幕戦以来の優勝を飾る – 総合力で掴んだ勝利

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予選4番手から迎えた第1レース。スタートを担当する青木選手は、オープニングから快調なラップを刻み、安定した走りでファーストスティントを走りきった。

「ぶっつけ本番の予選で4番手だったこともあって、『これなら、行けるじゃん』と思ったわけですよ(笑)。
セパンは1コーナーが右で、次が左コーナー。だからスタートしてアウト側から1コーナーをクリアして、今度はイン側のポジションで2コーナーにアプローチ出来るんです。これを実践したらトップに立ちました。
そうなると自分の前にはGT3クラスのマシンしかいないので、GT3はどうやって走るのだろうかとついていったら、8コーナーあたりでパワーの違いからどんどん離されて。GT3との間隔が離れると、初めてのコースということもあって、ちょっと走らせ方がピンと来ないところもあり、途中で少しタイムが伸び悩んだんです。すると後ろからポルシェが迫って来たのですが、これが勝手にどこかに行ってしまって『ラッキー!!』という展開に。
30分ほど走ってトップでピットイン、ところがドライバー交代は完璧だったのですが、ちょっと手違いがあって20秒くらいタイムロスしてしまい2番手になってしまいました。コンビを組んでいる浦田健選手が追い上げてくれましたが、惜しくも届かず2位でチェッカーを受けました。ちょっと勿体ないレースではあったのですが、開幕戦以来の表彰台なので『もう一回、ここに立てて良かったな』という思いでしたね」

第1レースは準優勝という結果を残した青木選手。そして第2レースでは、持てるパフォーマンスをチームの総合力で遺憾なく発揮することになる。

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「結果から言えば第2レースは開幕戦以来となる優勝を飾ることが出来ました。
今回はランボルギーニ社から2人のエンジニアが来てくれたのですが、第1レース終了後にフィーリングを全て伝えたら、第2レースでは全てがアジャストされて2秒早くなったのです。これは大きな勝因ですね。
初めてのサーキットをいきなり走るというのは、自分の経験値から対応出来る部分もありますが、タイムを詰めていくにはタイヤが摩耗してきたときの安定のさせ方とかが難しい。そういう部分はエンジニアとしっかりタッグを組んで、マシンを仕上げておく必要があるんです。
ドライバーは感性で走れるけれど、レースでは感性を安定に変えてやる必要がある。例え一発のタイムが良かったとしても、ラップタイムに波があっては意味がありません。コンスタントに速くなければレースには勝てませんから、そこはメカニックやエンジニアの存在が重要になってきますよね」