Takuma Aoki Challenge Story (1)

青木拓磨選手。小学3年生のときに初めてポケバイに乗り、翌年からレース活動を開始。順調にステップアップを果たして1990年にロードレースデビューを飾る。その翌年には2階級特進で国際A級ライセンスを受給、1995年にはメーカーワークスチームの一員となり2年後には世界選手権の最高峰クラスへの参戦を果たした。
1998年、テスト中のアクシデントで怪我を負ってしまったが、現在の青木選手は4輪に戦いの舞台を変えてモータースポーツへの挑戦は第二章の時間を過ごしている。クロスカントリーラリーとGT ASIA、今年はふたつのカテゴリーに挑戦する青木選手の横顔に迫る。


ターニングポイント – 一気に嵌まったパズル

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2007年に4輪へと転向して新たな挑戦を開始した青木選手が、継続して出場しているのが「アジア・クロスカントリー・ラリー (AXCR)」だ。2014年は8月9日にタイのパタヤをスタート、国境を超えて15日にカンボジアのプノンペンでフィニッシュする7日間、全行程で約2,200kmを走破するスケールの大きな一戦だ。この大会に青木選手は、いすゞMu-Xで出場。その走りを支えるタイヤは、ヨコハマタイヤのSUV用タイヤである「GEOLANDAR (ジオランダー)」を装着する。
まずは青木選手にとって、アジア・クロスカントリーという大会に寄せる思いからお聞きした。

「アジア・クロスカントリーとは僕にとって、怪我をしてもう一度モータースポーツに復帰したとき、最初に出場したイベントです。一番のターニングポイントになった大会と言えますよね」

そもそも、復帰に際してはライセンスを受けるにあたって複数の車両が同時にスタートして競い合う“レース”への参加を除外するという条件がついていた。ゆえに青木選手が復帰戦として選べるのは、一台ずつがスタートするラリーやスピード行事といったイベントに限られていたという背景がある。
その中でアジア・クロスカントリーに参戦する流れは、一気に加速したという。

「たまたま当時、三菱・トライトンのクロスカントリーマシンがあって、そのタイミングでライセンスが発給されて、さらにアジア・クロスカントリーの主催者からもウェルカムという連絡をいただけて。
本当にいろいろなパズルのピースが一気にはまった感じで、参戦する環境が整ったのが2007年のアジア・クロスカントリーでした」



青木選手の愛車選び – オフロードへの思い

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さらに意外な感じもするが、もともと青木選手はクロスカントリー系への興味も強かったという。

「僕が最初に買った車、大型の本格SUVである日産・サファリなんですよ。そのあとの車歴も4WDが多くて、スポーツカーも買ったことがありますが、圧倒的に4WDのほうが多かったですね。
最初の愛車になったサファリはガソリンエンジンのマニュアルミッション車で、それにM/Tタイヤを履かせてオフロードを走ったり、スキー場への往復で雪道を楽しんだりしていたんです」

当時は群馬県に住んでいた青木選手。群馬といえば日本においてはラリーの盛んな地域としても知られているが、まわりにオフロードを楽しめる環境が多くある土地柄を考えれば、クロスカントリーへの興味を抱いたのも自然なことなのかもしれない。

「実際に始めたモータースポーツはオンロードレースでしたが、心の中ではオフロードを走りたいという思いも強くて、いつかは出てみたいと思っていたんですよ。
結果的に二輪ではモータースポーツとしてやることはなくて、プライベートで楽しんでいるに留まっていましたが」



挑戦・第二章のはじまり – 驚きと新鮮な思い

2007年に初めて出場したアジア・クロスカントリー。およそ10年ぶりの復帰戦となったが、当時は何か不安などは無かったのだろうか。

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「不安はひとつも無かったですね。それよりもモータースポーツの競技にまた出られるということで、とにかく楽しみで仕方なかったことを覚えています。
タイという国には、実は二輪時代にも行ったことがありませんでした。いざ現地入りして走るコースを見ると、『こんなところを走るんだ!!』という驚きに尽きましたね。
また、それまでは100分の1秒や1000分の1秒を競う世界にいたわけですが、それがクロスカントリーラリーになると何分とか何十分という単位の差になるわけです。さらにミスコースというサーキットレースではあり得ないことが起きたりで、極端に言えば命懸けで削った1分という時間が一瞬のミスコースやスタックで帳消しになってしまうわけです。
それはそれで面白いと言えば面白いのですが、あまりにも自分がやって来たレースと全然違うことに驚きましたね」

ロードレースとクロスカントリーラリーというステージの違い。さらに青木選手は2輪と4輪のモータースポーツとしての違いにも、一人の選手としてそれぞれの大きな特徴を改めて感じたという。

「4輪は2輪と違って、操る人間が自分自身で出来ることの領域が少ないんだな、と改めて思いました。勝てる車に乗ると、上位入賞の確率が高くなると思うんですよ。
4輪レースの最高峰であるF1を見ていてもそうだと思うのですが、仮にトップドライバーと下位のドライバーがマシンを交換したらどうなるか。僕の予想ですが、たとえトップドライバーであっても、決して戦闘力が高いとは言えないマシンを駆って優勝するのは、かなり難しいと思うんです。
その点で2輪は、今のMoto GPはちょっと違うのですが、基本的にそれほどパフォーマンスの高くないバイクでも表彰台争いをしたり、時には優勝争いを演じることもあります。操っている人間の力で、バイクのパフォーマンス不足を補うことがかなり出来るんですよ」